2011年7月2日土曜日

原子力安全協定は市民の「安全・安心」を保証しない

原子力安全協定は市民の「安全・安心」を保証しない


 原発立地自治体が、停止中原発の再稼働承認を前に、「原子力安全協定」を結べという要求を電力会社に対して行っている。
 「原発安全協定:37自治体が要請 10キロ圏外にも危機感」(毎日)によると、北海道から九州まで、「少なくとも2府県を含む37自治体が電力会社に要請」したという。その背景には、国が「原発から10キロ圏内しか防災対策を想定していな」いという現実がある。EPZ(防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲)内の自治体では「避難訓練や被ばくに対応できる医療拠点の整備などの防災対策が実施されるが、安全協定も事実上EPZ内に限定されていたのが実情」だ。

 けれども、「今回の事故では50キロ近く離れた地域も避難対象になった」。だから、自治体は「国の対策見直しを待たず、自治体独自で安全確保」を図ろうとしている、ということらしい。
 静岡県藤枝市の北村正平市長。「10キロ圏内の自治体と比べ、今まで情報がなく、『安全』としか知らされていなかった。EPZの拡大をお願いしたい」。
 新潟県上越市の村山秀幸市長。「市民の意識が非常に高い。EPZの外だと当事者ではない。我々も隣接してるのだから窓口をどこかに開けておかないと」・・・。

 一見、この自治体の動きは、具体的措置を何も取ろうとしない国の行政的不作為に対し、業を煮やした自治体が市民の「安全確保」のために、「独自」の動きを開始した、と受け止めがちになる。しかし、果たして原子力安全協定は、「第二の3・11」的原発大災害に際し、私たち市民の「安全・安心」を本当に守るのか? 

 守らない。これが私の結論である。その理由をこれから述べる。がその前に、まずは上の記事から、自治体と電力会社の動きを整理しておこう。

〈原子力安全協定締結を要請している自治体〉 
北海道- 泊原発を巡り札幌市の上田文雄市長が必要性を主張。
静岡県- 浜岡原発を巡り藤枝、焼津、袋井、磐田の4市
新潟県- 柏崎刈羽原発で上越市
愛媛県- 伊方原発で八幡浜市
石川県- 志賀原発で七尾市、羽咋市、中能登町
福井県- 2府5県で構成する関西広域連合のほか、福井県内の小浜市、若狭、越前、南越前各町の1市3町で作る協議会も表明。
佐賀県- 玄海原発を巡り福岡県は締結検討の方針。

〈原発立地道県以外の動き〉
京都府- 府内全26市町村と連名で、隣接する福井県内に原発がある関西電力に要望書を提出。
鳥取県- 島根原発(松江市)から20~30キロ圏内に入る米子市と境港市を対象に含めて中国電力に要請。

〈電力会社の反応〉
 「安全協定の拡大は、防災対策に絡んだ原発維持のコスト増加につながりかねず、電力会社は一様に慎重な姿勢を示している」
関西電力- 「国による原子力の安全性の検討や防災計画の見直しなどの動きを見ながら検討したい」
中部電力- 「国の原子力の安全性に対する議論や、EPZ見直し議論などを踏まえ検討していく」
九州電力- 「当社の一存では立地自治体以外の自治体を含めるかどうかについて決められない

 ところで。関西が関電と「原子力安全協定」を結ぼうとしているというのに、東京都や関東の自治体は、なぜ東電と協定を結ぼうとしないのか? 

◇原子力安全協定◇
 原発など原子力施設の立地、周辺自治体などが住民の安全確保を目的に電力会社などと結ぶ協定。原子力の規制権限は国に一元化されており、協定に法的権限はないが、新増設や改造工事などに対する首長の事前了解や、立ち入り調査ができると規定している。高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)のナトリウム漏れ火災事故(95年12月)では、福井県が現場ビデオの改ざんを発見するなど、安全性の向上につながった。
 一方、新増設や再稼働など重要な判断が実質的に立地自治体に委ねられ、地域振興策を国や電力会社から引き出す手段に使われるケースもある。(毎日)
 ↓
 「実質的に」というのは、「法的に」ではないということ。


 〈原発再稼働における、最低限度の市民の「安全・安心」とは何か〉
 原子力安全協定が市民の「安全・安心」を保証しないのは、現在、佐賀県庁が遅くとも8月末の策定に向け検討を進めている「広域的避難計画」をみればよくわかる。そのフレコミは、たとえば京都府なども検討している、「20キロ圏内・避難対象区域」「20~30キロ圏内・屋内退避/自主避難区域」とし、現行の「避難計画」よりも対象地域を「広域」にする、というところにある。しかし、これで何か地元住民の「安全・安心」は担保されるだろうか?

 今、避難区域の距離の問題は置くとして、何としても現行の制度から撤廃しなければならないのは「屋内退避」と「自主避難」の制度である。今回の福島第一の大災害で明らかになったように、これらの制度は、ただ地元・周辺住民の精神的・肉体的ストレスを高め、さらには経済的負担を強いるだけであり、何の気休めにも助けにもならない。

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問題の整理
 「3・11」以降、「自主避難」や「屋内避難」を奨励(勧奨?)する国の姿勢を批判し、原災法や原賠法の抜本的見直し→改正を私が主張してきたのは、脱原発派の主張が、ともすればすべての原発の即時停止→廃炉論に傾斜しがちになっている、と考えてきたからだ。

 今現在、日本では不安全な原発が稼働している。そして不安全なまま、各地の原発の再稼働がもくろまれている。しかし電力会社や国は、そのことを認めようとしない。さらに自治体も、そのことを前提にして、いかに市民の「安全・安心」を保証するか、という発想に立った対策を構想しようとしない。である以上、私たち自身がそれを考え、国・電力会社・自治体に突きつける以外に方法はない。

 よく考えてみて欲しいのだが、佐賀県は、玄海原発の再稼働承認の後に県としての「安全対策」をまとめると言っているが、こんな無茶苦茶なことがあるだろうか? にもかかわらず、「専門家」やマスコミからも、それが無茶苦茶だという議論は出てこない。これが再稼働を巡る日本の現実なのだ。まさに、無茶苦茶である。

 私たちは、「3・11」が10年前、20年前に起こっていたなら、今回よりひどい大惨劇を招いていたことに想像力を馳せる努力を怠り、「ここ当面」は「第二の3・11」は起こらないという絶望的な楽観主義に浸りながら、国・電力会社・メディアが一体となった「節電ナショナリズム」にからめとられようとしている。
 「3・11」から丸4ヶ月目になろうとするなか、もう一度、それぞれが問題点を整理すべきときを迎えている、と言えるのかもしれない。  

 「原発の「安全基準」と市民の「安心基準」」の中で、以下のように書いた。
 「東日本大震災レベルの地震や津波を想定した諸対策は、実は「3・11」以前から取っておかねばならなかった対策なのであって、それをしていなかった電力会社が新たに対応策を講じることは当然のことだ。問題は、「第二の3・11」に国・各電力会社・自治体が対応できるか否かにあり、それができなければ、残るすべての原発は「安全基準」を満たしていないことになる。

 起こってしまった事態を前提に、次の安全基準や安全対策を策定する。何事もこれが基本であり、原則である。災害が起こるたびに、人工構築物の安全基準と国・自治体の防災対策が見直され、それらの改善が図られてきたが、今回もその例外であってはならない。「レベル7」の事態を起こしてしまった国の原発は、「レベル1」から「福島第一原発的レベル7」すべてのレベルに対応する安全・防災対策が策定されるべきであり、それができなければ、もうこの国で原発を稼働させてはならないのである。これが市民の「安心」を保証する最低限度の基準である」

⇒「玄海と川内が危ない!」へつづく
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敦賀原発1号のみベント未設置 原電、福島事故受け整備へ
 沸騰水型原発の事故時、放射性物質を含む原子炉格納容器内の蒸気を外部に排出し容器の圧力を下げる「耐圧強化ベント」の設備が、国内では日本原子力発電(原電)の敦賀1号機(福井県)だけには設置されていないことが3日、分かった。
 日本に沸騰水型炉は改良型を含め30基ある。敦賀1号機以外で、運転段階の原発は2000年前後に、その後新設された炉にも随時設置されたが、原電は「格納容器の圧力が上がって破損する確率は小さく、優先度が低い(???)」として見送っていた。福島第1原発事故ではベントが必要になり、原電は4月半ば、実施中の定期検査で敦賀1号機に設置することを決め公表、福井県などにも連絡した。
 原電によると、設計を超える過酷事故対策として格納容器が壊れる事故の要因を分析すると、蒸気による圧力上昇が原因となる確率は約1%と低いことが判明。敦賀1号機には格納容器を冷やす専用の系統が二つあることなどが理由という。このため「原子炉を停止できない場合の対策など、確率が高いものを優先した」としている。
 ベントは、過酷事故の対策の一つだが法的な設置義務はない。ただ敦賀1号機と型式が同じ福島第1原発1号機も、この確率は約1%。原電は今回の事故を受け「想定外の事態が起きた」として、設置することにした。 原電は02年に、敦賀1号機の運転を10年に終了し、廃炉にすると表明。その後運転期間を16年までに延長したが「廃炉を理由にベント設備を付けなかったわけではない」としている。(福井新聞
⇒「もんじゅ接合部に変形やすき間 炉内中継装置、分解点検へ」(7/1 福井新聞)

九州電力眞部社長、4日に佐賀・玄海町長と会談へ
 九州電力の眞部利應(まなべ・としお)社長が、玄海原子力発電所の地元である佐賀県玄海町の岸本英雄町長と4日に同町内で会談する方向で最終調整入りしたことが2日、分かった。岸本町長はその場で、運転再開が延期されている玄海原発2、3号機の再稼働を了承するとみられる。 岸本町長は先月29日に、同町を訪れた海江田万里経済産業相に対し、再稼働に前向きな姿勢を示した。九電側にも同様の意向を示すことで、再起動へ弾みを付けたい考えだ。岸本町長も2日、取材に対し、運転再開容認を九電に伝える方向で日程調整を進めていることを明らかにした。
 眞部社長は4日、同町と隣接する唐津市も訪れ、坂井俊之市長とも会談する予定だ。ただ、古川康・佐賀県知事との会談についてはめどが立っていない。【毎日・太田圭介】

玄海原発・再稼働めぐり激しい応酬 県議会特別委
経産相来県後、初めての玄海原発再稼働問題の論議の場となった1日の県議会特別委員会。古川康知事は「大臣の言葉で疑問点はクリアできた」と運転再開に前向きな姿勢を重ねて示したが、議員は「安全対策は不十分」と追及。県幹部が答弁に詰まる場面もあり、慎重姿勢から再稼働へじわりと動く知事を前に、激しいやり取りが続いた。  これまで県は、国に安全性をただす立場だったが、「安全性を理解」したことで一転、議会の疑問に答え、理解を求める立場に変わった
 質問に立った議員は緊急安全対策で想定した緊急時の冷却について、タービン動補助給水が故障した場合、核燃料を冷やす手段がなくなる点を問題視した。 

 県幹部は「九州電力は信頼性が高いシステムと説明している」と答えたのに対し、「福島の教訓は多重防護だったはず。電源車を1年後に配備する予定(!!!)なら、それを待ってからでも遅くない」と迫った。執行部は答えに詰まり、「保安院に再確認する」と苦しい答弁でその場をしのいだ。 事前に通告していた玄海原発の使用済み燃料の量についても答えられず、知事が委員長に休憩を求め、九電に確認を急ぐ場面も。たじろぐ執行部の様子に、詰め掛けた約100人の傍聴人からも不満の声が上がった。 千葉県柏市から佐賀市に子ども2人と転入した主婦藤澤佳代子さん(44)は「知事の判断条件に、なぜ『県民』が入っていないのか。県は自分たちが安全性について説明できないのに、再稼働ありきで進めている姿に疑問を感じた」と語った。
 古川知事が緊急安全対策に理解を示した今、再稼働容認への最後の大きなハードルは県議会の理解。ただ、今回は賛否を問うような議案はない
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(だからこそ、再稼働賛否をめぐる、福岡・長崎両県を含めた「半径50キロ」程度(かそれ以上)の自治体を包摂する「広域的住民投票制度」の導入が必要なのだ。
 たとえば、札幌市民が泊再稼働の、津軽海峡を越えた函館市民が大間建設再開の、また佐世保市民が玄海再稼働の意思決定権を獲得し、国・自治体・電力会社の説明責任を厳しく追及できる「仕組み」の構築なくして、市民にとっての原発の「安全・安心」など、何も保証されないからである。)

 11日に再び特別委員会が開かれる予定だが、古川知事は「議論は深まっていると思うが、こうなれば理解を得られたというものはない。最後は総合的に判断するとしか言えない」と言葉を濁した。(佐賀新聞)
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 その佐賀県知事は、「首相の来県が再稼動判断の重要な要素(???)。一定の答え(???)を得た上で判断したい」と述べたという。判断時期は8日の県民説明会や11日開催予定の同特別委員会を経て、「7月中旬が一つの節目になる」としている。 古川知事。「ぜひ首相に来ていただき、エネルギーや再稼動の見解を語ってほしい。来県が第一だが、上京しての面会も含めて協議を進めたい」。

 古川知事は、これ以上何を菅首相と「協議」するのだろう? 首相と「協議」して何か再稼働の「安全・安心」をめぐる新たな情報が得られるのだろうか? 霞が関に頼ることなく、自分で決断できない官僚出身の首長の優柔不断さを、この人は最悪の形で体現しているとは言えないか。
 一方、知事は「最終的判断」にあたり、立地町の玄海町だけでなく「唐津市の意向も聞く必要がある」としたが、「松浦市や糸島市など他の周辺自治体については否定的な考えを示した」という。なぜなのか? 知事は松浦・糸島両市の市民に、その根拠を明確に説明する責任がある。

福島原発5号機ホースで海水噴出 原子炉冷却を停止
 東京電力は3日、福島第1原発5号機の原子炉を冷却している残留熱除去系で、海水が流れる仮設のホースの亀裂から海水が噴き出しているのが見つかったと発表した。東電は、ホース交換のため、原子炉の冷却機能を停止した。 海水が漏れたのは直径20センチのポリ塩化ビニール製のホースで、U字形に曲がった部分。3日午前、パトロール中の作業員が発見。長さ約30センチ、幅約7センチの亀裂から海水が噴出していた。 原子炉の温度は同日午前8時で43・1度で、沸騰する100度に到達するまで約22時間の余裕があるという。東電は交換作業に数時間かかるとしている。(共同)
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⇒「原発再稼働における自治体の責任を問う
⇒「脱原発派の試練
⇒「原発の「安全基準」と市民の「安心基準」(2)
⇒「原発建設/災害における自治体の〈責任〉を考える
⇒「脱原発への道筋: 原発の「安全性向上」論に回収されないために」を始めとする「脱原発への道筋」シリーズ