2009年4月1日水曜日

米軍はイラクから撤退しない


 米軍はイラクから撤退しない

 日本の新聞各紙、マスコミは、今年9月末までのイラク駐留米軍1万2000人の撤退問題に関連し、これが2011年末までの「完全撤退」に向けた「第一弾」であると報道している(「資料ブログ」を参照)

 しかし、米軍がイラクから「完全撤退」しないであろうことは、米国では周知の事実である。日本のマスコミは米軍のイラクからの撤退問題に関して、どのような議論が米国国内でなされているかを独自に調査・分析し、もっと事実に即した記事を書いてほしいものである。
(上の地図はイラクとアフガニスタを中心に、中東から中央アジアに広がる米国(および有志連合)の対テロ戦争地図。globalresearch.caより。) 

 この問題についてネット上で公開された二つの文章を紹介しておこう。
 その一つは、二月末にAlternetに掲載された、Jeremy Scahill"All Troops Out By 2011? Not So Fast; Why Obama's Iraq Speech Deserves a Second Look"、もう一つは、Institute for Policy Studies に掲載されたPhyllis Bennis"Obama to Announce Iraq Troop Withdrawal"である。

 これら二つの論考を要約すると、だいたい次のようになる。
 「たしかに、オバマは選挙前からイラクからの米軍撤退を公約にしてきたし、先日のノース・キャロライナにおける演説でも、一見したところでは、同じことを言っているように思える。しかし、実はオバマの演説にはブッシュがやったようなレトリック上のトリックがあり、そう簡単には事は運ばない。事実は、無期限駐留の可能性さえあることを示している」・・・。

 その証拠の一つとして、ある米軍の指揮官がNBCのペンタゴン付記者に「かなりの数の米軍が今後十五年から二〇年にわたりイラクに駐留することになるだろう」と語ったことが紹介されている。

 米国は米軍の完全撤退をイラク政府とすでに合意している。そのための協定も結ばれたというのに、米国が協定に違反することが許されるのか、という疑問がわいてくる。
 しかし、ぼくらは米国という国が、国際法に違反しようが国際的な非難を受けようが、自国の「国益」と「安全保障」戦略、対テロ戦争のためなら何だってやる、できる国だということを知っている。ブッシュがオバマに変わったところで、そういう米国という国の性質が変わるわけではない。ブッシュ政権の時代が「生ける悪夢」の時代であったことが確かだとしても、ぼくらはオバマ政権に対する根拠なき、過剰な幻想を払拭し、これからオバマと米軍がイラクとアフガニスタン、そしてソマリアや「アフリカの角」で何をするかを慎重にモニターする必要がある。

 問題になっているのは、大統領就任後のオバマの主張が微妙に変質してきていることだ。イラクからの米軍撤退問題に関していえば、注意すべき二つの表現がある。
 その一つは、"conditions on the ground"、もう一つは、"upon request by the government of Iraq"である。つまり、全面撤退の協定を結びはしたが、イラクの「治安」状況が今後どのように改善されるか、その「条件」次第によって、「イラク政府からの要請」があるなら二〇一二年以降も継続駐留する、ということである。
 間違いなく、現実はそうなるだろう。そうならないためにこそ、声をもっと上げなければならない・・・。二人の著者は米国国内と世界に向けて、そう呼びかけているのである。

 Democracy Now!というネットメディアでも、同じことが報じられている。三月二六日付けのニュース、、「オバマの誓約に反し、イラクの米軍戦闘部隊は残留する」を見てほしい。関連サイトとしては、Inter Press Serviceのこちらがある。

 要するに、米軍はイラクから撤退しない。100%撤退しない。これは確実である。
 ただし、駐留の継続にあたり、その呼び方が変わる。"combat brigades"(戦闘部隊)ではなく、 "Brigades Enhanced for Stability Operations" (BESO)、イラクの「安定化作戦のために高度化された部隊」とでもいったものに。

 この部隊が「移行部隊」と呼ばれ、当初の撤退期限、来年の八月以降も無期限にイラクに残留することになる。米軍は、「期限がいつになるか未定の最終的撤退」に向けた過程を「移行期」と呼んでいるのである。
 「移行部隊」数は、少なくとも三万五千から五万人規模!といわれている。米軍のイラク司令部は、「移行司令部」と名前を変え、"advisory and assistance brigades"(助言・支援部隊)も上のBESOとは別に残留する。イラク政府軍と警察の反政府武装勢力との内戦を「助言・支援」する部隊として。
 ニューヨーク・タイムズが報じたところによると、米軍関係者の中には二〇一一年以降もイラクに七万人規模の米軍が駐留する可能性もあると発言した者もいるという。

 大統領が選挙期間中に何を公約しようが、就任後にどのような発言をしようが、関係ない。少なくとも、米軍に関していえば。これが「民主主義」国家、「文民統制」が取れた国家だといえるのだろうか?

 ソマリア、イラク、パキスタンにアフガニスタン。
 永遠の米軍基地と米軍駐留とともに、対テロ戦争も永遠に続く気配をますます濃くしている。