モンゴルに「国際的核処分場」を建設する?
10/15/2011
「建設しない」、ということになった。少なくとも、当分の間は。
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・核処分場:モンゴル政府、計画を断念 反対高まり、日本に伝達
モンゴル政府は、日米両国とともに進めてきたモンゴルに原子力発電所の使用済み核燃料の一時保管・処分場を建設する計画を断念することを決め、9月下旬に日本政府など関係者に伝えたことが14日、わかった。モンゴル国内で反対運動が高まり、計画継続は不可能と判断したとみられる。同様の計画は、02年にオーストラリアでも世論の反発で失敗に終わっており、改めて国際的な処分場建設の難しさが浮き彫りになった。
計画は昨年9月、米エネルギー省のポネマン副長官がモンゴルを訪問したのを機に交渉がスタート。日本の経済産業省も参加し今年2月、ワシントンで初の3カ国協議を実施した。また、モンゴルからの核燃料調達を目指すアラブ首長国連邦(UAE)も加わり、7月初旬には、ポネマン副長官が、海江田万里経産相(当時)宛てに、政府間覚書(MOU)案を送付し年内締結を目指していた。
3カ国の秘密交渉は、毎日新聞が5月に報道したが、モンゴル政府は公式には交渉の存在自体を否定してきた。報道後、モンゴル国内で市民が反発を強め、計画撤回と情報公開を求めてきた。
これらの状況を受け、モンゴルのエルベグドルジ大統領は9月21日の国連総会演説で「モンゴルに核廃棄物処分場を建設することは絶対に受け入れられない」と表明、ウィーン国連代表部のエンクサイハン大使も国際原子力機関(IAEA)総会で「他国の核廃棄物を受け入れる考えも処分場を建設する考えもない」と演説した。
エルベグドルジ大統領は9月13日、モンゴルに核廃棄物を貯蔵する問題で、外国政府やIAEAなどの国際機関と交渉することを禁じる大統領令を発令。2月3~4日に、ワシントンで日米両国との協議にモンゴル代表として出席した外務省のオンダラー大使などを更迭した。
一方、日本政府は、福島第1原発事故を受け、事故処理に忙殺されたほか世論の反発もあり、交渉継続は難しいとの考えを米エネルギー省に伝えていた。
IAEAの調査によると、モンゴルは推定140万トンの豊富なウラン資源がある。モンゴル政府は、ウラン資源を有効に活用するため、ウランを核燃料に加工し海外に輸出する案を検討、その際、使用済み核燃料を供給先から引き取る「核燃料リース契約」を導入する考えを模索していた。米エネルギー省は、その構想を発展させ、各国の使用済み核燃料をモンゴルに集め一時貯蔵・最終処分する案を提示、日本政府とともに交渉を進めていた。【毎日・パリ会川晴之】
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1992年に、「非核国家宣言」(非核地帯化)を発したモンゴルを、世界の核軍事大国と日本がこぞって「核のゴミの掃き溜め国」にしようとしている。
世界第三位、150万トンとも言われているモンゴルに眠るウラン鉱山の採掘→資源収奪とその争奪戦をくり広げながら、「使用済み核燃料などの国際的な貯蔵・処分場」をモンゴルに建設しようというのだ。
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・モンゴルに国際的核処分場建設を 東芝が米高官に書簡
米原子力大手ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)を子会社に持つ東芝の佐々木則夫社長が5月中旬、米政府高官に書簡を送り、使用済み核燃料などの国際的な貯蔵・処分場をモンゴルに建設する計画を盛り込んだ新構想を推進するよう要請、水面下で対米工作を進めていることが(7月)1日、分かった。
モンゴルでの核処分場計画は、新興国への原発輸出をにらみ、モンゴルで加工したウラン燃料の供給と使用後の処理を担う「包括的燃料サービス(CFS)」構想の一環。米国とモンゴルが主導し、日本にも参加を呼び掛けた。経済産業省が後押ししてきたが、外務省が慎重姿勢を示すなど政府内に異論もある。
・使用済み核燃料をモンゴルに貯蔵 日米との合意原案判明
モンゴル産のウラン燃料を原発導入国に輸出し、使用済み核燃料はモンゴルが引き取る「包括的燃料サービス(CFS)」構想の実現に向けた日本、米国、モンゴル3カ国政府の合意文書の原案が(7月)18日明らかになった。モンゴル国内に「使用済み燃料の貯蔵施設」を造る方針を明記し、そのために国際原子力機関(IAEA)が技術協力をする可能性にも触れている。
モンゴルを舞台としたCFS構想が実現すれば、核燃料の供給と、使用済み燃料の処分を一貫して担う初の国際的枠組みとなる。福島第1原発事故を受け、当面は構想の実現は難しいとみられるが、民間企業も含め後押しする動きが依然ある。(共同)
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⇒「世界の原発メーカー、提携の構図」(Asahi Globe)
もともとこの計画は、「原子力ルネッサンス」を打ち出したブッシュ政権時の2003年、米国のネバダ州に建設する方針が、アメリカ先住民族をはじめとする建設阻止のたたかいよって頓挫したことを発端にしている。2007年、米国政府は計画を断念、以降、候補地を探していたわけである。
(「原子力ルネッサンス」を含む、ブッシュ政権の「新エネルギー」政策については、私も編集に携わった『グローバル時代の先住民族--「先住民族の10年」とは何だったか」(2004、法律文化社)の収録論文、「対テロ戦争と先住民族」を参照してほしい)。
ここで特筆すべきは、モンゴルはレアメタルやウランなどの鉱物資源をグローバル原子力複合体によって収奪されるばかりでなく、原発建設をも受け入れさせらようとしていることである。すでに、モンゴル政府は2021年に原発を建設すると公表しているし、その背後にはアレバやロシアの原子力産業からの強力なプッシュがある。
つまり、「国際的核処分場建設」問題を、ただ単に日米(東芝+WH)の原子力産業の戦略と捉えることは誤っている、ということである。
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・グローバルな核燃料供給に関するセミナーの概要(外務省)
・AREVA AND MITSUBISHI CORPORATION SIGN AN AGREEMENT IN URANIUM EXPLORATION (December 21, 2009)
・モンゴルにおけるウラン資源探鉱開発プロジェクトへの参画(三菱商事)
三菱商事は、アレバ社(本社:フランスパリ市)がモンゴルのドルノゴビ県およびスフバートル県で推進中のウラン資源探鉱開発プロジェクトへの参画につき、同社と合意しました。
既知資源量においては世界第15位、未確認資源を含めると世界最大の資源ポテンシャルを有するとされるモンゴルにおいて、アレバ社は10年以上前から探査活動を進めており、現在はドルノゴビ県およびスフバートル県に合計14,000km2超、36鉱区の探鉱ライセンスを有しています。当社は、アレバ社が支出した過去の探鉱費用と今後の探鉱及び事前調査費用を按分負担することにより本プロジェクトに参画し、権益を保有するアレバの完全子会社であるアレバ・モンゴル社の株式の34%を将来時点において取得する権利を保有することになります。
近年、ドルノゴビ県の鉱区において高いポテンシャルが期待される鉱床が発見されており、今後はアレバ・モンゴル社と当社が協力して、更なる探鉱・調査活動を推進します。アレバ社はフランスに本社を置き、ウランの採掘、精錬・加工から原子力プラント部門、再処理部門までを有する総合原子力企業であります。
温暖化ガスの排出レベルが低い原子力発電は、環境負荷の小さいエネルギー源として再評価されております。本プロジェクトは、原子力発電の燃料であるウラン精鉱の将来的な安定供給への貢献を目指すものであり、地球温暖化防止にも貢献するものであります。当社は、ウラン資源探鉱・開発分野においてカナダと豪州でも探鉱プロジェクトを推進しており、本プロジェクトはこれに続く案件となります。
・「日本・モンゴル共同声明」
「双方は、両国間の協力のメカニズムを一層明確かつ優れたものとすることが適切であると認識し、両国の関係省庁間で開始された対話を拡大・強化することにつき意見の一致をみた。また、双方は、両国間の貿易及び投資の拡大の可能性を高める環境整備が極めて重要であるとの認識につき一致をみ、行動計画に示された協議のメカニズムを通じて、双方が協力して積極的に作業を行うこととした。
モンゴル側は、日本国の大企業がモンゴル国の鉱物資源開発分野に対する投資につき関心を有していることに対し歓迎の意を表明するとともに、2006年に改正されたモンゴル国国内法(鉱物資源法及び税法)の施行と関連する法的関係や開発計画方針等の調整を終えた後に、日本側企業との間で協議が開始されるよう支援すると表明した。
・「今後10年間の日本・モンゴル基本行動計画」 (2007年2月26日)
「3.政府間経済協力及び官民間経済交流
(C)官民間経済交流(モンゴル国の鉱物資源開発)」
「モンゴル国の豊富な地下資源の開発は、モンゴル国経済のみならず、地域及び国際経済の発展にとって歓迎すべきことであり、資源国の利益に配慮しながらも、まずは開発参加に関心を有する企業の投資意欲を高めるような環境整備が重要である」。
今後の行動
「日本側は、日本国経済産業省とモンゴル国産業・通商省との間で2006年に設置された鉱物資源開発ワーキング・グループを基幹とし、モンゴル国の地下資源開発に関心を有する企業の参加を得つつ、適切なメカニズムを構築し、モンゴル国の鉱物資源の総合的開発に関する議論を開始する」。
〈関連記事〉
・「原子力協定:暗礁に 与野党対立、国会承認進まず 4カ国への原発輸出厳しく」(毎日)
◇原子力協定
2国間で原子力関連の資機材や技術を移転するのに際し、平和目的への限定や国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れ、第三国への移転規制などを定めた取り決め。日本は唯一の被爆国として核不拡散を重視しており、軍事転用を防ぐのが目的で、米英仏中など7カ国・1国際機関と協定を締結している。日本企業が原発を輸出するのに必要となる。
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しかし、「原子力供給グループ」による軍事転用は防げない。ここに戦後日本の「原子力の平和利用」論の欺瞞と「平和のための原子力研究」の虚構性の根拠がある。
・「NSG:原子力供給国、核技術移転禁止 インドは猛反発」(毎日)
◇「原子力供給国グループ」(NSG)とは、「74年のインドの核実験を受け、核技術の輸出を規制するために作られた組織。08年、当時のブッシュ米政権の働きかけで、NSGはインドへの核技術移転を例外的に認めた。オバマ政権は昨年、インドのNSGへの「完全加盟」を提案、仏、露も同調。
◇ しかし、採択内容は、インドのような核拡散防止条約(NPT)非加盟国への濃縮・再処理技術移転を規制するもの。インド政府筋は「NSGは、インドを例外扱いにした08年のメッセージを殺してしまう」と不快感を隠さなかった。
◇核技術独占狙う先進国
ウラン濃縮は核燃料製造で、再処理は再び核燃料に使うためプルトニウムやウランを回収する上で、それぞれ不可欠な技術であり、核兵器開発だけでなく、商用核燃料サイクル上も欠かせない。
原発1基の運転開始時には約700トン、運転開始後は毎年250トンの核燃料が必要で、原発導入の動きが加速化すれば、濃縮ビジネスは成長ビジネスとなる。豊富なウラン資源を持つカナダなどがウラン濃縮を、韓国が再処理施設の建設を見据えたが、米政権は核不拡散の観点から、実施を認めない政策を続けた。
◇ 輸入国が技術を習得できない「ブラックボックス」化は、「持てる国」が「持たざる国」を技術支配する構図の維持を狙う。NSG交渉筋は「東西冷戦時代のココム(対共産圏輸出調整委員会)の規制と同じで、輸出管理制度は、持てる国の優位性を保つ制度だ」と言った。
〈「六ヶ所村」とモンゴル〉
⇒「核サイクル "原子力が支える村"...六ヶ所村の真実」(ドキュメンタリー宣言)
⇒「再処理マンガ「六ヶ所事始~六ヶ所村再処理工場が出来るまで~」(A SEED JAPAN(www.aseed.org)制作の「六ヶ所事始」という漫画を、SFJが動画 に)
「批評する工房のパレット」内の関連記事
⇒「〈脱原発-核兵器International Peoples' Network〉を」
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