2011年5月24日火曜日

原発建設/災害における自治体の〈責任〉を考える

原発建設/災害における自治体の〈責任〉を考える

 昨日(5/23)、福島第1原発事故で、学校の屋外活動を制限する放射線量を年間20ミリシーベルトとした文科省の「基準」撤回を求める行動があった。福島県内の父母ら約650人が参加した。
 撤回要請に対し、同省科学技術・学術政策局の渡辺格(いたる)次長は「最終的には1ミリシーベルトを目指して努力する」としたが、撤回の意思はないことを改めて示したという。

 文科省の「基準」は国際放射線防護委員会(ICRP)が原子力事故の収束段階で適用すべきとして勧告した「年間許容量1~20ミリシーベルト」を根拠にしたものだが、この問題をめぐっては内閣参与だった小佐古敏荘・東大教授(放射線安全学)が「大人と子どもの基準が同じなのは納得できない」と反発し、「涙の記者会見」を行い、辞任したことは記憶に新しい。政治家や官僚はよく「専門家の意見を聞いて・・・」と言うが、自分たちに都合の悪い「専門家」の助言は決して受け入れない。小佐古教授辞任劇はその典型的なケースである。小佐古教授は脱原発派でも何でもなかったのだから。

 しかし問題は、教授が言うように「大人と子どもの基準が同じ」ことにあるのではない。この論理では「大人の基準は問題なし」となりかねないからである。問題の核心にあるのは、国・文科省が、事態収拾の長期化とそれに伴う国の行財政責任・負担の増大化を見越し、少しでも責任と負担を軽減するために人間の被曝「許容量(?)」をご都合主義的に設定・「緩和」する、そういう姿勢、そういう発想そのものの中にあるのである。
 その意味で言えば、「基準」撤回を求めることは、原発推進/脱原発の政治的立場とは、まったく無関係の性格のことである。むしろ原発推進派こそ、地に落ちた原発推進運動の信頼性を回復するためにも、率先して国に「基準」撤回を求めるべきではないか。原発推進論者には、人間が「放射能汚染から自由に生きる権利」と原発が両立することを立証する責任があるのだから。

 以下、考えてみたいのは「基準」撤回とも関係するが、原発建設/災害における自治体の責任問題である。

自治体の〈責任〉
 原発事故が起こったときに、その最大の被害を受ける自治体(道府県・市町村)が地域住民に対して負うべき責任とは何だろう? 例えば、福島県でも静岡県でもよいが、あるいは双葉町や大熊町でも御前崎市でもどこでもよいが、原発誘致が決定して以降、自治体は自治体としての原発建設/「安全・安心」/災害をめぐる地元住民に対する「行政責任」・「説明責任」を果たしてきたと言えるだろうか?

 福島県(庁)も双葉・大熊町その他の自治体も、「国策・民営」の原子力行政の被害者である。これは間違いない。しかし同時に、法的に言えば、福島県と地元市町村(特に福島県)が福島第一・第二原発建設を容認しなければ、福島に東電の原発は作られることはなかった。原発建設は確かに「国策」ではあるが、自治体が受け入れを拒否し、建設認可を出さなければ民間企業としての東電が強制的に建設することはできないのである。その意味で自治体は、実は「国策」としての原発に対する強力かつ最終的な「権力」と「権限」を持っている。このことは「事故」以降、あまり論じられることがなかった点ではないだろうか。

 逆に言えば、だからこそ自治体に対する国と電力企業からの受け入れに向けた「工作」が展開されることになり、ここに「原発利権」が生まれる根拠もある。「組織暴力」=暴力団が地元の買収・恫喝に向け、暗躍するという闇の世界の「事件」の数々も私たちは知っている。
 道県レベル、市町村レベルに、さまざまな名目での国と電力企業からの「交付金」や「地元振興」をうたったカネが流れてきた。原発を通じて雇用も生まれ、地元経済は「活性化」する。いつの間にか地元は「原発漬け」「原発中毒」になり、原発なくしては地元経済が成り立たなくなるまで原発への依存構造を深めてしまう。住民が気づいたときには、もう「手遅れ」になっている・・・。

 なぜこんなことを書くのかというと、理由は二つある。
 一つは、つくづく今回の事故=人災で思ったのだが、どんなに国と原発産業からのカネが自治体に流れ、雇用を生み出したとしても、原発がメルトダウンを起こしてしまえば、すべては「チャラ」、いや巨大なマイナスになってしまう。もう少し突っ込んで言えば、私たちはこれまで福島県や地元市町村の首長が、「国と東電の安全神話を信じて受け入れ、裏切られた」とくり返すのを何度も聞いてきたが、そんな言葉で最終的に建設を認可し、東電が言う「安全対策」を認めてきた自治体の責任は免罪されて良いのか、という問題が残りはしないか。自治体の原発建設/災害における(地元住民、また放射能汚染の被害者に対する)責任とは何なのか?

 停止中原発の再稼働・新規建設・建設作業再開問題が全国各地で浮上する中、この問題は今一度検討され、広く議論されるべきだと思うのだが、どうだろう。 

(つづく)

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原発推進政策に批判相次ぐ 参院委で小出京大助教ら
 東京電力福島第1原発事故を受け、参院行政監視委員会は23日、小出裕章・京都大原子炉実験所助教や、石橋克彦・神戸大名誉教授(地震学)ら4人を参考人として招き、原子力行政について討議した。参考人からは「破局的事故の可能性を無視してきた」(小出氏)など、これまでの原発推進政策を批判する意見が相次いだ。
 小出氏は、今回の事故対応で「政府は一貫して事故を過小評価し、楽観的な見通しで行動した」とし、放射性物質の拡散予測など情報公開の遅れも批判。また、国が「核燃料サイクル」の柱と位置付けてきた高速増殖炉の例を挙げ、当初1980年代とされた実用化のめどが立たないのに、関係機関の間で責任の所在が明確でないとした。
 石橋氏は、地球の全地震の約10%が日本に集中しており、「原発建設に適さない場所である」と強調。原子力安全委員会と経済産業省原子力安全・保安院が「原発擁護機関になっている」とし、安全性の審査が骨抜きになっていると指摘した。
 ソフトバンクの孫正義社長は、太陽光など再生可能エネルギーの活用を提言。元原子力プラント設計技術者の後藤政志・芝浦工大非常勤講師も「完璧な事故対策の模索より、新たな分野へのエネルギーシフトの方が容易」と、脱原発を訴えた。【共同】

浜岡原発、永久廃止を=参院で地震学者の石橋氏
 地震学者の石橋克彦神戸大名誉教授は23日、参院行政監視委員会で参考人として意見陳述し、全面停止した中部電力浜岡原発について「東海地震による大きな揺れ、大きな地震の続発、地盤の隆起変形などすべてが恐ろしく、津波対策をすれば大丈夫というものではない」と述べ、永久に閉鎖すべきだとの考えを表明した。
 かねて地震と原発事故が複合した「原発震災」が起きると警鐘を鳴らしてきた石橋氏は、浜岡以外の原発についても第三者機関を早急に設置してリスクを評価し、危険なものから順次閉鎖するよう求めた。また、地震という観点から浜岡の次に危険な地域として、14の原発が林立する若狭湾一帯を挙げた。 同委員会には、石橋氏や京大原子炉実験所の小出裕章助教ら4人が参考人として出席した。(時事)

風評被害の賠償、福島周辺都県も 文科省審査会
 東京電力福島第1、第2原発事故による損害の賠償範囲を決める文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(会長、能見善久学習院大教授)は23日、第2次指針で示す風評被害の賠償地域について、福島県か出荷制限区域を含む県、その周辺都県のいずれかに限定する方針を示した。能見会長は、31日に開く次回会合で2次指針を決定する見通しを示した。
 この日の第5回会合では、農林水産業に関しては、風評被害の賠償を認める地域として、福島県か出荷制限区域を含む県、その周辺都県が選択肢に挙げられた。また、観光業や建設業などについても、福島県かその周辺都県が候補とされた。「周辺都県」の範囲は今後検討されるが、「日本全国というのは指針になじまない」(事務局)として対象地域を限定する見通し。
 農林水産業や観光業では、風評被害が広い範囲で報告されている。審査会にも、外国政府が日本への渡航に対する注意喚起をしたため外国人観光客が減り、「休業を余儀なくされたホテルが出ている」(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)などの訴えがあった。【毎日・藤野基文、西川拓】

「地震損傷なし」 手動停止、結論持ち越し
 東京電力は23日、東日本大震災をもたらした地震発生直後の福島第1原発の初期データを調べた結果、「地震による主要機器の損傷はなかった」とする分析結果をまとめた。経済産業省原子力安全・保安院への報告は同日が期限。一方、1号機原子炉の非常用冷却装置が津波到達前に手動で停止され、炉心溶融を早めた可能性が指摘されている問題などについて、東電は「引き続き検証する」とし、結論を持ち越した。
 東電は、16日に公表した初期データを、保安院の指示に基づいて分析した。東電によると、地震発生から津波で浸水し全電源が喪失するまでに記録された原子炉の水位や圧力などを調べたところ、主要機器の損傷はなく、「地震で冷却水喪失という問題は発生していない」と判断した。だが「データに表れない程度の水漏れは全くないとは言い切れない」とし、主要機器以外の細管などが破断した可能性については否定しなかった。
 データについては保安院も独自に分析を進めている。西山英彦審議官は「保安院の分析結果も含め、分かったところから示したい」と話した。 東電は第1原発で原子炉などの冷却機能を失い大量の放射性物質が漏れた事故について、「想定外の津波が原因」と説明している。【毎日・酒造唯、中西拓司、江口一】
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 東電は事故責任=賠償負担額を抑えるため、耐震設計ミス・不備を排除する「分析結果」をまとめた。東電と保安院以外の第三者機関による徹底的な分析が必要である。
⇒「原発耐震偽装(中越沖地震-柏崎刈羽・浜岡-東海地震)」(福島老朽原発を考える会(ふくろうの会))

国連機関が放射線影響調査実施 今夏から
 国連原子放射線影響科学委員会(UNSCEAR、事務局ウィーン)は23日、福島第1原発事故で発生した放射線による影響調査を始めることを決めた。来年5月までに予備調査結果を発表し、13年の国連総会への報告書提出を目指す。 23日始まった同委員会の年次総会には日本からも専門家が出席、事故の概要や政府の対応などを報告した。委員会は今後、具体的な必要データや測定のあり方などを検討し、今夏から調査に入る。
 バイス議長は同日の記者会見で「これまでのところ(現地住民の)健康に影響があるとは思えない(???)」と述べた。 同委員会は21カ国の科学者らで構成。放射線の身体的、遺伝的影響に関する情報を収集、報告している。チェルノブイリ原発事故(86年)の影響調査も行い、これまで3回報告書を出している。

柿沢氏追及「情報隠しの人事」=経産相は否定-溶融認めた担当交代
 みんなの党の柿沢未途氏は23日の衆院復興特別委員会で、震災発生直後の記者会見で福島第1原発1号機でのメルトダウン(全炉心溶融)の可能性を認めた経済産業省原子力安全・保安院の中村幸一郎審議官が会見担当から外れたことを取り上げ、「この人事で本当の情報が隠されたのではないか」と、事実を隠蔽(いんぺい)した疑いを追及した。
 中村氏が震災翌日の3月12日の会見で「炉心溶融の可能性が高い」と発言した直後、保安院は会見担当を交代。以降、保安院は燃料棒の部分損傷は認めたが、メルトダウンに否定的な見解を示し続けていた。しかし、東京電力は事故発生から2カ月以上たった今月15日、地震発生から16時間後にメルトダウンしていたと発表。中村氏の説明が正しく、結果的に保安院は、真実をいち早く語った担当者を交代させた。 追及を受けた枝野幸男官房長官は「私の記者会見でも、炉心溶融は十分可能性があると言っている。可能性があるということで更迭されたなら、私が更迭されないとおかしい」と隠蔽を否定。中村氏の上司に当たる海江田万里経済産業相も「正しいことを正しく伝えた人を更迭などと毛頭考えてない」と語った。(時事)

関電と大ガス、5月分値上げ
 関西電力と大阪ガスは30日、5月分の電気料金、ガス料金をそれぞれ値上げすると発表した。

東電CDSが過去最高に上昇、経営不安消えずリスク回避
 23日のクレジット市場で、東京電力のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は850ベーシスポイント(bp)で取引が成立し、3月28日に付けた過去最高(450bp)を上回った。直近の出合いは、枝野幸男官房長官が金融機関に東電向け融資の債権放棄を促す発言をした5月13日の330bp。
 東京電力は20日、2011年3月期連結当期損益が1兆2473億円の赤字になったと発表。金融機関を除く日本企業で史上最大の赤字を出した。決算数値は想定の範囲との見方が出ているが、賠償支払い額に見通しが立たないことに加えて、賠償枠組みの実現性に懐疑的な見方が浮上し、リスクを回避する動きが先行した。 ある国内金融機関のクレジット担当者は「政治の不安定で賠償枠組みに関する法案が今国会で成立するのか不透明。法案が成立しなければ、今後の資金繰りにも重大な支障が出てくる可能性もある」との指摘している。 CDS市場では、東京電力のほか、中部電力3年が70bp、関西電力3年が65bpと、原発問題に揺れる電力セクターにワイド化圧力がかかっている。(ロイター)