対テロ戦争と自衛隊のアフガニスタン「派遣」--民主党のアフガン政策を批判する
11/21/2010 更新
11月18日、リスボン(ポルトガル)で行われたNATOサミットに対し、アフガニスタンからのNATO軍の即時撤退を求めて「ダイ・イン」を行う人々(PressTVのPeace activists stage anti-NATO protestより)。 ポルトガル政府は総計42名を逮捕。ロイターのAlertNetは、厳戒態勢の中、約1万人が抗議行動に参加したと報道。。なお、抗議行動のビデオ・クリップはindymedia.portugalで観ることができる。
リスボンでの行動に呼応する形で、各地でオバマ政権のアフガン政策を批判し、米軍・NATO軍の即時撤退を要求する抗議行動が波状的に展開された。一例を挙げると、イギリスのロンドンでは、11月29日、リスボンと同じく1万人にのぼる人々がハイド・パークに集い、トラファルガー・スクウェアまでデモ行進をした。
一方、オバマ政権はアフガニスタンにおける無人爆撃機による空爆を激化させ(空爆は今年、すでに1000回を超えている)、初の戦車部隊の投入を決定した。
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読売新聞(11/5付)によると、菅政権は11月5日、「自衛隊の医官と看護官ら約10人を年内にもアフガニスタンに派遣する検討を始めた」という。「米国の要請に応えたアフガン復興の人的支援策の一環として、現地の医療機関で教育訓練の講師として活動させる方針だ。自衛官のアフガン派遣は、駐在武官を除けば初めてとなる」。
自衛隊のアフガン「派遣」問題は、7月の参院選挙後、にわかにその具体化に向けた動きが活発化した。読売新聞は、「今回の派遣は急ぐ必要があるため、法改正や新法制定は行わず、防衛省設置法で自衛官の任務と定める「教育訓練」として実施する方向だ。憲法違反とされる「武力行使との一体化」という批判を避けるため、アフガンに展開している国際治安支援部隊(ISAF)とは別個に活動する」と報じているが(2010年11月6日付)、「駐在武官を除けば初めてとなる」自衛隊のアフガン「派遣」をめぐる、こうした政策決定に向けたやり方のどこに問題があるのかについては何も報道しない。
読売新聞の記事を読むだけでも、菅政権、というよりは外務・防衛官僚による今回の自衛隊のアフガン「派遣」の方針決定が、いかに問題が多い決定であるかがうかがえる。
まず第一に、「現地の医療機関で教育訓練の講師」をするのに、なぜ自衛隊の「医官と看護官」が「派遣」されねばならないのか。何も理由がわからない。
「アフガン復興の人的支援策」とは、自衛隊の、自衛隊による「策」のことなのか。「民間」の医師や看護士を派遣できないのは、アフガニスタンの現地情勢が「安全」ではないからだろうか。それなら、そんな「安全」ではない国に、「「医官と看護官」であれなぜ血税を使って自衛隊を「派遣」するのか。それは武装した自衛隊を次に派兵するための「先遣隊」なのか?
野党はこれらについて国会でしっかり追及すべきであるし、ジャーナリズムもその内容を報道すべきである。
第二に、なぜ「米国の要請を受けて」この方針決定がなされねばならないのか。これはブッシュが始めた対テロ戦争と一体化する自公政権の安保・外交政策を「日本としての主体性なき、対米追随路線」と口をきわめて批判し、それからの転換を公言してきた民主党自身の従来の主張を自ら裏切るものではないのか。
「現地の医療機関」の運営主体は、アフガニスタン政府であるはずだ。だとしたら、日本の対アフガン支援は米国(米軍)の要請ではなく、アフガニスタン政府、あるいはアフガニスタンで医療活動を展開する国連ミッションからの「要請」を受け、その内容を公表してから検討に入るべきである。日米同盟と日米安保との関係を基軸に、日本のアフガン支援の内容を決定する、ということ自体が本末転倒しているのである。
弟三に、「今回の派遣は急ぐ必要があるため、法改正や新法制定は行わず、防衛省設置法で自衛官の任務と定める「教育訓練」として実施する」というのは、まったくの欺瞞であり、詭弁である。
「駐在武官を除けば初めてとなる」自衛隊のアフガン「派遣」を「急ぐ必要」なんてあろうはずがないし、むしろ急いではならないのである。「防衛省設置法で自衛官の任務と定める「教育訓練」として実施する」ことが許されるのであれば、たとえ他国の軍隊や多国籍軍が武力行使をしている国や地域であっても、自衛隊はどこにでも「派遣」できることになるではないか。
さらに言えば、もしもそのような「措置」が「法改正や新法制定」を行わずして実行できるのであれば、いったい「憲法九条二項を改廃せよ」「憲法九条を守れ」といった改憲や護憲を言い争うことの意味は、どこにあるのというのだろう。
第四に、読売新聞は、今回の方針決定が「憲法違反とされる「武力行使との一体化」という批判を避けるため、アフガンに展開している国際治安支援部隊(ISAF)とは別個に活動する」と、あたかも自衛隊が国際治安支援軍(ISAF)とは「別個に活動する」、だから「憲法違反」ではないかのように報じているが、これもまったくの欺瞞であり、詭弁である。
まず私たちは、ISAFを国際治安支援「部隊」と翻訳する欺瞞自体を改め、これを「治安維持」のみならずタリバーンを始めとした武装勢力との戦闘行為を行い、多数の一般市民の虐殺を行ってきたNATO軍を中軸とした「国際対テロ戦争支援軍」であることを確認する必要がある。そして、ISAFの主要任務とされる「地域復興チーム」(PRT)の「治安維持」活動を主に担っているのが米軍であることを次に確認しておかねばならないだろう。
つまり、菅政権と外務・防衛官僚は、アフガニスタンに地上「派遣」される自衛隊が、米軍やISAFの直接的な指揮下に入らないことをもって他国の軍隊の武力行使と「一体化」しない口実としているが、自衛隊が米軍やNATO軍の作戦展開と連携・調整しながら活動展開することは明白であり、直接的に武力行使と「一体化」しない→合憲という解釈そのものが欺瞞であり、詭弁だということである。
今回の方針決定は、普天間問題の「解決」を引き延ばさざるをえなくなり、その結果、オバマとの新たな日米共同宣言を発表することができなくなった菅政権が、その代替として日本の「対米協力」をアピールするために打ち出した、熟慮のかけらもみられない、きわめて拙速な愚策だと言わねばならない。これにストップをかける運動と議論を巻き起こすことが求められている。