2010年12月2日木曜日

世界の学生運動、日本の大学の今

世界の学生運動、日本の大学の今

 公教育と大学の「民営化」に抵抗する学生運動が2008年以降、世界的な高揚をみせている。
 右の写真は、大学における歴史教育と社会科学系カリキュラムの廃止に反対するチリの学生運動。
⇒International Student Movement
⇒学費値上げに反対するフィリピンの学生運動(24oras: Students storm Senate over SUC budget cuts/GMAnews)
⇒ブラジルの学生運動(Congresso da ANEL)

 一方、この11月、二派に及ぶ全国街頭行動を展開したイギリスの学生運動は、12月4,5日の週末から、さらにクリスマスに向けた行動を計画している。
 写真はオックスフォード大学のラッドクリフ・カメラ図書館を占拠した学生たち。
⇒Oxford Free School 30.11.10
⇒Action map for Saturday 4th December
⇒Student Protest Against Education Cuts Manchester 30-11-2010 Compilation (下に書いたNational Walkout Against Fees and Cutsのマンチェスターにおける行動)
⇒大学を占拠したノッチンガム大学の学生たちの運動

 2008年の、いわゆる「リーマン・ショック」以降の世界的な学生運動の高揚は、欧米のみならず、中南米やロシア、ウクライナ、バングラデシュ、フィリピンetc.,などにも広がってきた、まさにグローバルな現象である。日本だけが「鎖国」状態になっている観がある。そのせいかどうかは分からないが、日本ではほとんど論じられていないイシューである。「批評する工房のパレット」の読者に、ぜひこの情報を広めていただくよう呼びかけたい。

 とりわけ注目に値するのは、イギリスにおける今回の行動において、1960年代以来の学生による大学の占拠→「自主管理」→「自由大学」が、例え萌芽的形態においてであれ、登場したことである。1960年代の世界的な学生運動が、ベトナム反戦運動の高揚と一体のものとしてあった「知の叛乱」であったとすれば、それから40年後の今回のそれは、まさに学生たちの「生存(サバイバル)をかけた闘い」として総括できるような運動である。その「生存をかけた闘い」において、学生たち自身のイニシアティブによって「自由大学」の模索が生まれていることに意義がある、と私は考えている。

 ところで、日本の状況に目を転じてみると、今日付けの毎日新聞、「大学関係9団体 「予算確保を」」によると、国公立大や私大教職員の全国組織など9団体が1日、「「大学予算は危機的状態にある」として、衆参両院の与野党議員に一斉に要請書を提出した」という。「非常勤講師の組合や学生・大学院生の全国組織も参加しており、「大学の全階層が垣根を越えて結集した、歴史上おそらく初の行動。危機感の表れだ」」と関係者が言ったとのことだ。

 要請書では、「来年度予算で文部科学省が特別枠で概算要求し、政策コンテストにかけられた国立大学法人運営費交付金や私大特別補助の「満額実現」を求めたほか、学費減免や無利子奨学金の拡充、高等教育への歳出を他の先進国並みに引き上げることを求めた。」

 「続・大学を解体せよ」の冒頭でも述べた通り、この「要請書」を仮に民主党政権が丸呑みしたとしても、日本の大学制度が抱える構造的問題とその危機は何も解決することはない。ただいたずらに問題の解決を先送りし、その間、現行の大学システムの温存のために血税が無駄に使われるだけである。

 ①「文部科学省が特別枠で概算要求」するということは、一般会計ではなく特別会計から予算を捻出するということであり、それはただ864兆円になろうとする赤字国債を膨張させ、来年度以降の国債乱発にさらなる拍車をかけるだけのことである。しかも、②「政策コンテストにかけられた国立大学法人運営費交付金や私大特別補助の「満額実現」」が仮に実現したとしても、「政策コンテスト」や「産官学連携」関連プロジェクトに何の関係もない地方の国立大学法人や圧倒的多数の私立大学が構造的に抱える経営危機を打開する展望など何も見えてこない。

 問題は、③「高等教育への歳出を他の先進国並みに引き上げる」ことにあるのではなく、これまでの日本における「高等教育への歳出」のあり方、そのものにメスを入れることにある。そして、個々の独立法人系研究開発機関の存在理由と、偏差値上位大学本位・優遇でしかない「政策コンテスト=産官学連携路線を大前提にした科学技術のイノベーションをめぐる国策」のあり方を抜本的に問うことだ。

 東大・京大の博士課程を出ても大学に職を求めることができず、非常勤講師を一〇年、二〇年、三〇年(!)続けても常勤講師になることもできず、学士・修士の資格を持っていても就職できない者たちが構造的に輩出され、社会的層を形成するようになった状況にあって、「保護者」も本人も借金地獄に苛まれることなく、どの分野であれ修士課程修了程度の「学識」を身に付けることができるような新たな社会的システムの導入を真剣に議論することが求められている。そしてそれこそが、学歴と学校歴、階層化された社会的資格の有無によって人の生が決まるのではないフェアな社会、知の特権的身分制を廃絶した社会を実現する現代の「イノベーション」になるはずだ。『大学を解体せよ』とは、まさにそのためのビジョンを示すものとしてあったのだが、継続して訴えてゆきたいと思う。

12/2/2010
⇒http://nakano-kenji.blogspot.com/2010/12/blog-post_02.html

平和<PEACE>=グローバル・ランゲージ東京2010
2010年12月4、5日@国際基督教大学(ICU)

平和<PEACE>について真剣に考えているみなさん!産学軍(産業-学術機関-軍事)複合体の支配から世界を解放するために、研究者やアクティビストの力で何ができるか、「ピース・グローバル・ランゲージ東京2010」でぜひ発表してください。企業による大学の乗っ取りが進み、教養課程や人文科学、社会科学が攻撃され続ける中、重要なのはこうした事態がどのように始まったのか、なぜそれが勢いを増しているのか、そしていかに抵抗していくのかを知ることです。

イギリスの大学問題と学生運動に関するちょっとした情報
 イギリスでは、11月24日、National Walkout Against Fees and Cuts(授業料値上げと政府の大学予算削減に反対する全国一斉街頭行動)が予定されている。政府が①最高で現水準の3倍に上る授業料の値上げと、大学に対して②30%の予算カット、③予算配分における「優先順位化」を義務付けようとする新大学「改革」構想に対する全国抗議闘争である。

⇒Students Take to London Streets on Day of Protest Nov. 12, 2010, The Real News
⇒The Death of the University, English Style(大学の死、イギリス方式)
Parliament Square Occupied - Free University open(パーラメント・スクウェア占拠 自由大学開校)

 特に「優先順位化」が、日本と同様に、大学の学部学科とカリキュラムの再編成として現象し、その中でミドルセックス大学(Middlesex University)の哲学科廃止問題が今年になって浮上した。官製版大学解体策が、ネオリベ化する大学に「利潤」を生み出さない人文フィールドの解体策となることは、まさにグローバルな現象であるようだ。詳しくは、「続・大学を解体せよ--人間の未来を奪われないために」の中で紹介したZero Anthropologyに新たに加わったエリザ・ジェーン・ダーリングのDeepwater Uni(深海のウニ)を参照してほしい。