2009年3月27日金曜日

「海賊対策」と対テロ戦争---(3)国連安保理決議と米国のソマリア介入No.3

「海賊対策」と対テロ戦争

(3)国連安保理決議と米国のソマリア介入


3 ソマリアにおける国連PKOの行方

 二〇〇六年十二月から翌〇七年一月の米軍、エチオピア軍、暫定連邦政府軍と当時のイスラム法廷連合との戦闘による「ソマリアの虐殺」を経て、二〇〇七年一月十九日、アフリカ連合の「平和安全保障理事会」は、ソマリアへのPKO(平和維持部隊)、AMISOMの派遣を決定した。

 AMISOMの任務は、主に三点。
①暫定連邦政府への支援、
②政府軍および警察の育成・訓練、
③「人道援助」物資の輸送の安全確保などである。
 国連安保理が翌二月にAMISOMの派遣を承認し、当初六ヶ月の派遣期限が更新され続け、現在にいたっている。

 ぼくらは、アフリカの「紛争」にアフリカ連合の軍隊が派遣されるのだから何も問題はないではないか、と思ってしまう。イラクやアフガニスタンのように米軍やNATO軍が派兵されるよりはマシではないかと。しかし、事はそう単純ではない。
 第一に、ソマリアにおける戦争犯罪の当事国のひとつであるエピオピアがアフリカ連合の「平和安全保障」理事会の理事国であり、AMISOM派遣決定に直接的に関与していること、しかもエピオピア軍は二〇〇九年一月の撤退まで、その後丸二年間、ソマリアに駐留し続けていたこと(実は完全撤退していないという情報もある)、
 第二に、AMISOM派遣決定に伴い、それまで国連安保理決議としてソマリアへの武器禁輸が決定されていたにもかかわらず、米国によるAMISOM(派遣国)に対する武器供与は「例外的措置」とされたこと、が指摘できる。

 つまり、形の上では米国はアフリカ連合のソマリアPKOに直接的関与はしていないということになっているが、エチオピアとAMISOM(派遣国)、そして暫定連邦政府に対する軍事援助・訓練という形で、事実上ソマリアへの軍事介入を継続してきたのである。

 AMISOMについていえば、これまで当初予定していた八〇〇〇人規模の部隊派遣がその半数にも満たないこと、装備と資金不足、さらにはPKOという性格上、武器使用=武力行使に制約があることなど、さまざまな問題点(苦情)が指摘されてきた。こうした中で、今年の六月までの期限を前に、この三月から部隊の増派が決定され、すでにモガディシュには増派部隊が到着したという現地の情報もある。

 そこで、国連安保理の動きが気になるわけだけれども、安保理は去年の十二月、まさに「海賊」対処をめぐり発した去年最後の安保理決議と機を一にして、AMISOMと交代に国連PKOを今年の夏から派遣することを「検討」するという決定を下している。それに米軍がどのように関与するか、いまのところ定かではない。
 しかし、「国際ソマリア連絡調整グループ」を母体とした「海賊対策国際連絡調整グループ」も結成された。米軍、仏軍、英軍など、要するに米軍とNATO軍を中心にした「海賊・武装強盗」撲滅有志連合軍は、すでに組織化されている。そしてそれに日本も参加し、金も出すとすでに確約している。これらのことを総合的に考え合わせると、一九九〇年代初頭のソマリア介入とその失敗という国連にとっての「ソマリアの悪夢」を総括せずに、いま再び二度目の悪夢の再現に向け、国連がソマリアPKOを新たに創設することは十分に想定しうることである。

 その時、日本、そして自衛隊はどうするか?
 日本は昨年から、アフリカにおける国連PKOに積極的に関与し始めている。

 昨年十一月、「アフリカ紛争解決平和維持訓練カイロ地域センター(CCCPA)」に日本は自衛官二名を講師として派遣している。また、同じく十一月、国連スーダン・ミッション(UNMIS)に派遣された自衛官二名は「軍事部門司令部兵站幕僚」と「統合任務分析センター情報幕僚」の任務を開始している。

 「海賊」が「人類共通の敵」であるなら、暫定連邦政府と戦うアルシャバーブやその他のソマリアの「イスラム原理主義者」はさしずめ「宇宙の敵」ということになるのかもしれないが、これから組織されるかもしれない国連ソマリアPKOへの自衛隊の参加は、少なくともその態勢だけは、すでに整っている。国際政治と国内政治の両方の舞台裏で何もかもがすべて「お膳立て済み」と穿った見方をするのは、ぼくだけだろうか?

 もしかしたら今秋、あるいは冬あたり、自衛隊から「軍事部門司令部兵站幕僚」と「統合任務分析センター情報幕僚」が「先遣隊」としてソマリアに「派遣」されることが決定されるかもしれない。「武器使用」基準を「国際標準」にして。
 ぼくらはその時になっても、今と同じ議論を性懲りもなく、また延々とくり返しているかもしれない。

4 「海賊対処」海域と対テロ補給海域


 三月十八日、防衛省の統合幕僚監部のホームページに「ソマリア沖・アデン湾における海賊対処のための活動特設ページ」が開設された。上の地図はそこに掲載されているものである。これを同ホームページにある「インド洋における補給支援活動特設ページ」にある下の地図と対照してみよう。産経新聞の記事に使われていた地図は下の地図を元にしたものだが、防衛省が作成したこの二つを対照すれば「海賊対処」と「補給支援」活動の位置関係がより正確に理解できるだろう。

 多くの人が「インド洋」のみで行われているものと思っていたに違いない「補給支援」活動はペルシャ湾のみならず、アデン湾でも展開されている。そして海上自衛隊の「海賊対処」海域はその海域の中にスッポリ収まってしまうのである。
 「海賊対処」と「補給支援」。もしかしたら、これから海上自衛隊はこの両方を使い分けながら、無期限にインド洋、ペルシャ湾、アデン湾で展開することになるかもしれない。「ねじれ国会」によって「補給支援」に関する与野党一致がはかれなくなった中で、「海賊新法」の本当の狙いはそこにあるのかもしれない。