2009年3月24日火曜日

「海賊対策」と対テロ戦争---(3)国連安保理決議と米国のソマリア介入No.1

「海賊対策」と対テロ戦争

(3)国連安保理決議と米国のソマリア介入


 (2)「「海賊対策」は「海賊」対策にあらず」で確認したことは、ソマリア沖・アデン湾への海上自衛隊の「派遣」が、いわば民主党と自公政権の「大連立」状況によって決定されたことである。現在、民主党は社民党との政策協議との関係で、「海賊新法」を「修正」する動きを見せているが、党として自衛隊「派遣」を容認する方針に変わりはない。

 「国連安保理決議があれば、たとえ憲法九条第二項があろうと自衛隊の海外派兵も武力行使もできる」。
 これが小沢民主党の「安全保障」政策の基本方針である。この論理は憲法に対する国際法の「優越性」を認めるものだが、長島議員も麻生政権の海上自衛隊派兵の決断を誘導するような国会質疑の中で強調していたことである。

〇長島
 総理、もう時間がないので、総理の御決意を伺いたいんです。国連決議もある。国連決議がありますと私ども民主党では大体大丈夫なんです。国連決議もある、それからヨーロッパ諸国も本気で取り組んでいる。いつまでもただ乗りのそしりを受けるわけにはいきませんね・・・
〇麻生
 この種の話はぜひ与野党間で政党間協議をということをずっと申し上げてきておりましたので、こういった御提案をいただけるというのは私は物すごくいいことだと正直思っております」。(二〇〇八年十月十七日の衆議院「対テロ委員会」における発言)

 では、長島議員が錦の御旗にしているソマリア情勢に関する国連安保理決議とはどのようなものだったのか。
 二〇〇八年、国連安保理はソマリア情勢をめぐり、
①アフリカ連合によるソマリアPKO(AMISOM)の期限延長、
②ソマリアへの武器禁輸、
③「海賊および武装強盗」への対処、これら三つの議案に関連し、総計十本の決議を発している。
 その内、「海賊および武装強盗」に関するものは四つある。最初が決議一八一六、次に一八三八一八四六、そして最後が一八五一である。
 (因みに、日本政府(外務省、防衛省、内閣府、首相官邸)は、それぞれの「海賊」問題に関するホームページにおいて、これらの決議のいずれも日本語訳はおろか原文も公開していない。たとえば、外務省についていえば、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対する安保理決議では原文・日本語訳(仮訳)の両方を公開しているのに比し、その怠慢ぶりが際立っている。なお、上にリンクを張った各決議の翻訳には一部誤記・脱字等もみられるが、これらは民間ボランティア組織による訳であることを断っておきたい。)

 最初の決議一八一六の共同提案国は米国、フランス、イギリス、イタリア、ベルギー、パナマ、クロアチアの安保理理事国七カ国と、日本、スペイン、オーストラリア、カナダ、デンマーク、オランダ、ギリシャ、ノルウェー、韓国の非理事国の計十六カ国、最後の決議一八五一はパナマが抜け、新たにポルトガル、ウクライナ、シンガポール、マレーシアが加わった計十九カ国である。

 共同提案国の順番を米国、フランス・・・としているのには理由がある。米国とフランスは、ともにアフリカに対する直接軍事介入の事例にこと欠かない国であるが、そもそもこの決議一八一六を起草したのが米国であり、その米国とともに草案を完成させ、安保理での決議に向け政治工作に走ったのがフランスだったからである。

1 「海賊」対策か、それとも対テロ・海賊戦争か
---ソマリアの和平を脅かす「海賊」対策の軍事化


 「海賊対策」がソマリアの内戦への回帰と外部からの軍事介入ではなく、本当の意味で和平につながると理解できるのであれば、何も問題はない。けれども、国連安保理決議の内容を見る限り、おそらく誰もそうは思えなくなるだろう。
 去年の六月に出された安保理決議一八一六。この決議の中に見落とせない項目がある。それは決定事項の七点目である。

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 本決議採択日より6か月の期間、同国沖における海賊及び武装強盗と戦うにあたり暫定連邦政府と協力す る国家は暫定連邦政府により事務総長に対し事前に報告の上、以下のことを行ってもよいことを決定する。

a)関連する国際法の下で海賊行為に対して公海上で実施できる行動に従い、海上における海賊行為及び武装強盗制圧の目的で同国領海内に入ること

b)関連する国際法の下で海賊行為に対して公海上で実施できる行動に従い、同国領海内で海賊行為及び武装強盗を制圧するためのあらゆる必要な措置を講じること
・・・・・・・・

 この七点目の内容は、いみじくも民主党長島議員が現行法体系の下で海上自衛隊を出せると主張した、その根拠として挙げていた箇所である。しかも見落とせないのは、安保理決議が、決議一八一六から十二月の一八五一に至る過程で、有志連合軍の軍事的権限をさらに拡大していることだ。
 決議一八五一の決定事項の第六点目に注目しよう。そこでは、それまでのソマリアの領海内における有志連合軍の展開に加え、新たに「海上における海賊行為及び武装強盗を制圧するために、同国内であらゆる必要な措置を行うことができることを決定する」とされている。

 形式的にいえば、有志連合軍の行動は「暫定連邦政府の「要請」を受けて」ということになっているが(この点については後述する)、これで有志連合軍(=米軍)はソマリアの領海内のみならず領土全域において「海賊および武装強盗」の追撃・撲滅のために「あらゆる必要な措置」をとることが可能になったわけである。

 日本はこれら一連の安保理決議の共同提案国になっており、麻生政権はもちろんのこと、民主党をはじめ日本の議会政党やマスコミから「海賊対策」の軍事化を招く安保理決議に対する批判がひとつとしてきこえてこないのは異様である。それは、「海賊」を「テロリスト」と同一視し、「人類共通の敵」と定義し、必要とあらばその軍事的殲滅をはかるという、ブッシュ政権が生み出したグローバル対テロ戦争時代の政治的言説に日本の政党政治やジャーナリズムが、いまでも深く囚われていることの証である。

 ともすれば忘れがちになるが、ソマリアは未だ内戦状態にある。その中で、暫定連邦政府側に軍事援助し、政治的なテコ入れを続けてきた米国をはじめとした各国の軍隊が、ソマリアの国内まで「海賊・武装強盗」を追撃することを国連の名において許しているということ自体、きわめて異常だといわなければならない。
 本来、警察活動であるべき「海賊対策」が、戦艦を派遣する側の軍隊の論理によって戦争化し、ソマリア和平の阻害要因になりうる根拠がここにある。安保理決議はその前文において、ソマリアの「主権・領土保全・政治的独立・統一の尊重を再確認」すると語りながら、一般のソマリアの人々の視点に立てば、これらを蹂躙するものにしか映らない。

 もっとも、暫定連邦政府がソマリアの人々の広範な支持を得て、真にソマリアの人々の民意を代表しているといえるなら、問題は半減する。しかし、事実はそうではない。今年に入り、ブッシュ政権とエチオピア政府がアルカーイダとのつながりがあるとし、「ソマリアのタリバーン」「テロ組織」として軍事的殲滅の対象としてきた反政府武装勢力のアルシャバーブは、再びソマリア南部を中心に勢力を伸張させている。つまり、暫定連邦政府の支持基盤は決して磐石なものとはいえないのだ。しかも、政府軍自体がイスラム法廷連合内「穏健派」とその他の軍閥の連合体以上の呈をなしておらず、政府軍による民衆略奪や虐殺などがくり返し起こっている結果、民衆の怒りや不信は政府軍そのものに対しても向けられている状況なのである。

 ともあれ、ぼくらはできる限り、内戦の当事者の一方の側に肩入れし、状況を悪化させる事態を招きかねない国連安保理決議から距離を置きながら、次にブッシュ政権末期の米国が、なぜこれらの内容を決議に盛り込む必要があったのか、そしてその政治的目的がどこにあったのかを考えてみたい。そのためには、安保理決議を、ソマリア内戦に対する米国と国連の関与の歴史的文脈の中に置き直し、より広い視野に立って捉え返す必要がある。