2011年7月28日木曜日

「避難準備区域」の解除と「避難勧奨区域」の拡大

 「避難準備区域」の解除と「避難勧奨区域」の拡大

 先週末、福島に行った。
 いわき、三春、郡山、裏磐梯、福島から中村街道を抜け相馬に入り、相馬から南相馬・飯館村を経て、再び三春に入り、白河に抜けた。

 松川浦周辺の復旧作業が遅れている、とは聞いていた。 
 しかし、現地を訪れ、言葉をなくした。 
 「3・11」から130日余り。いまだに浦には津波で流されたバス、転覆した何艘もの漁船やボート、破壊された民家や土産物屋などが浮かんでいた。 
 原型をとどめていない沖合いの防波堤。その上に、小さな漁船が二隻、乗っかっていた。

 台風6号が、はるか彼方の太平洋沖をゆっくりと北上していた。
 防波堤にぶつかり、波しぶきを高く上げ、砕けながら防波堤を乗り越えてくる波。

 「避難準備区域」解除?

 松川浦と相馬漁港の復旧作業、防波堤の修復作業が本格的に始まるのは、いつのことだろう。

「原発事故の収束なくして福島に復興はありえない」・・・。
 その通りだと思う。原発事故が収束しないから、沿岸地域の復旧・復興作業が進まない。
 福島の「放射能難民」は、県内外の避難者を合わせると、行政が把握しているだけでも10万人近くに上る。そしてその七割近くの人々が、故郷に帰りたいが、帰れない/帰らないと言っている。

 ところが、国と自治体は、来年1月の「冷温停止」(?)→「原発事故の収束」(?)を前に、福島第1原発から20~30キロ圏を中心とした「避難準備区域」解除・縮小の「協議」を始めるという。

 文科省の「原子力災害対策支援本部」は、「緊急時避難準備区域」の解除に向けた「放射線測定アクションプラン」に基づき、8月中旬までに区域内の放射線分布マップを作製し、「解除」に向けた「基礎データの収集」を開始している。
 そして、原子力安全委員会が「安全性」の評価を行い、それを「解除」の「科学的な条件」にするらしい。

 しかし、「避難地域」の解除・縮小が検討されている一方で、現実には、かの悪名高き「避難勧奨地点」を拡大し、「避難勧奨地域」にしようという動きがある。
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避難勧奨拡大を検討 子ども世帯などが対象
 海江田万里経済産業相は27日、局地的に放射線量が高いホットスポットに住む世帯に自主避難を促す「特定避難勧奨地点」について、指定対象世帯の拡大を検討する意向を示した。すでに勧奨地点に指定された世帯がある地区内で、未指定となった子どものいる世帯などを拡大対象とする方向で検討を進める方針。
 「勧奨地点」から大字単位を基準とした「勧奨地域」への変更を求めた自民党参院政審会(山本一太会長)の要請に対し、海江田経産相が方針を示した。 山本会長は森雅子参院議員(福島選挙区)、佐藤正久参院議員(比例、福島市出身)とともに同政審の決議として要請した。「勧奨地域」への変更のほか地域内の放射線量測定の継続実施、地域全体の除染、避難世帯に対する補償の明示、避難しない世帯に対する補償や支援の明示などを求めた。(福島民友)
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 「局地的に放射線量が高いホットスポット」で生活する人々に対し、国が「自主避難」を「勧奨」するとは、どういう意味か? 
 「地域内の放射線量測定の継続実施、地域全体の除染、避難世帯に対する補償の明示、避難しない世帯に対する補償や支援」を国が住民に対して「明示」しないまま、住民が「自己責任」で「自主」的に避難することを国が「勧誘」し「奨励」する・・・。

 「計画的避難」の「計画的」もそうなのだが、「勧奨」という表現は、国の都合を第一に考え、国が住民の避難に経済的かつ政治的な責任を取らないようにするために、官僚と政治家が編み出した表現である。原発災害時の住民避難に関するこれらの定義は、もしも許容しうる、外部と内部を含めた年間被曝総線量を20ミリシーベルトではなく「1ミリシーベルト以内」と設定するなら、言葉自体が消滅する。なぜなら、「計画的」も「勧奨」もクソもなく、1ミリシーベルト以上の放射能汚染地域の住民避難・補償・賠償に、国・東電・自治体は、無条件的責任を負うようになるからである。

 原子力安全委員会は、「計画的避難地域」の解除の前提として、最終的にどのような「安全基準」を「助言」するか。この間の経緯から言えば、「20以内」という数字はもはや考えられないが、どういう数字や条件が飛び出してくるか、警戒心を解除せず、注目しよう。

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伊達市の特定避難勧奨地点4世帯が避難開始
 放射線量が局所的に高い「ホットスポット」にあたるとして、4地区113世帯が「特定避難勧奨地点」に指定された福島県伊達市で28日、避難を希望した4世帯に市営住宅の鍵が引き渡された。6月30日の指定後初の避難となる。113世帯のうち避難を希望したのは77世帯で、うち49世帯は8月中に避難が完了する見込みだが、県外や民間住宅への避難を希望した28世帯は移転先が未定という。【毎日・高島博之】

 特定避難勧奨地点は避難判断を住民に委ねており、指定後に市が意向を調査。49世帯のうち10世帯は指定以前に避難済みだった。国の現地対策本部と市は、避難を希望しなかった世帯については「意思を尊重する」として更なる呼び掛けなどはしない方針。
 鍵の引き渡し式で市側は、避難中に除染などを進める方針を説明した。対象者の市営住宅家賃無料化などの支援を行う。鍵を受け取った清野好子さん(37)は「早めに避難先が決まらなければ、自主避難しようと考えていたのでほっとした。避難先の部屋は狭い上に3階。子供と一緒に避難しますが、夫の両親と祖母は自宅に残るので心配です」と話した。
 この制度を巡っては世帯ごと指定になったことで「地域社会を分断する」との反論も噴出。国や市に「地区ごと指定」を求める要望書を提出した住民代表の高橋裕一さん(41)は「要求が受け入れられないまま戸別指定が既成事実化されていくことに憤りを感じる。地域コミュニティーが破壊されていく」と語った。引き渡し式で鍵を受け取ったのは▽霊山(りょうぜん)町石田地区1▽同町下小国地区1▽同町上小国地区2--の計4世帯。同地点には今月21日、同県南相馬市の4地区59世帯も指定されている。
 
福島の子ども36万人甲状腺検査 県民全員に健康手帳
 東京電力福島第一原発の事故による福島県民への放射線の影響を追う健康調査について、福島県の委員会は24日、今後の詳細な内容を決めた。震災発生時に18歳以下だった約36万人を対象に甲状腺がん検査を生涯にわたり実施する。これだけ大規模で長期に甲状腺の影響をみる検査は例がない。全県民200万人を対象に調査記録を保存する手帳「健康管理ファイル(仮称)」も作る。  子どもは大人より放射線の影響を受けやすく、特に甲状腺がんが子どもで増えることがチェルノブイリ原発事故の調査でわかっている。放射線の影響とみられる甲状腺がんの発生は事故後4~5年からだった。
 福島の甲状腺検査では、10月から2014年3月までに超音波(エコー)検査で現時点でのがんの有無を調べる。それ以降は全員に2年に1度、エコー検査を受けてもらう。20歳以上は5年に1度にするが、生涯、無料で検診をする。  また全県民に対して、広島や長崎の被爆者健康手帳のように、推計した被曝(ひばく)線量や検診記録などを保存するファイルも配布する。  県は8月から年内をめどに全県民に問診票を郵送し行動記録を調べて被曝線量を推計する作業を始める。県民だけでなく3月11~26日に県内に滞在して被曝が心配な人も調査の対象に含めるという。  事故による生活環境の変化やストレスによる健康影響を見るため、職場や地域の特定健診の対象になっていない19~39歳の健診も来年度実施する。
 被曝線量が高い人や避難区域などの住民には血液などの検査を受けてもらう。県の委員会の山下俊一座長(県立医大副学長)は「低線量の健康影響を見つけるには、がん以外の心臓病や脳卒中などの病気の早期発見が必要。調査の精度を上げたい」と話す。(朝日・大岩ゆり、林義則)
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 「生涯、無料で検診」するのは当然のことだ。問題は、癌その他の異常が発見されたときの補償と賠償、その明文化である。補償と賠償なき「健康診断」の導入は、ただ福島県民を人体実験のモルモットに化すだけである。

放射性の汚泥を地元に埋設 県が方針、市町村内の処分場を想定 
 放射性物質を含む下水処理場の汚泥問題で、福島県は施設内に仮置きされた汚泥の処理を受益市町村内の処分場で進める方針を固め、27日までに一部自治体と協議に入った。基本的に地元での処分を目指し、困難な場合は県の各地方振興局管内に範囲を広げて対応する考え。処分先が決まらないまま汚泥がたまり続ける現状を早急に打破する狙いだが、市町村から反発も出ており、協議が難航する可能性もある。

 県内には県管理と市町村管理の下水処理場が計62カ所あり、施設内に仮置きされた汚泥は合わせて約6000トンに上る。環境省は下水汚泥に含まれる放射性セシウムの濃度が8000ベクレル以下の場合、埋め立て処分を可能としており、県はこの基準に沿って圏域内の処分場への埋め立てを推し進める考え。
 県が管理する県北浄化センター(国見町)県中浄化センター(郡山市)あだたら清流センター(二本松市)大滝根水環境センター(田村市)の4施設については順次、地元自治体と協議を進めている。田村市からは既に了承を得て市内の一般廃棄物処分場への運び込みを再開した。 県北浄化センターについては、センターに集まる汚泥の8割を占める福島市分を同市の一般廃棄物処分場に持ち込み、伊達、国見、桑折の3市町から出る残りの二割を伊達市の一般廃棄物処分場で処理する方法を提示している。 市町村が管理する58施設については、施設を利用する自治体間で処理法を検討するよう促す。
 8000ベクレルを超える汚泥について環境省は遮へい措置を取った上での保管などを求めているため、県は今回の圏域内での処理方針の対象とはしていない。 汚泥を圏域内で処理する県の方針に対しては、「住民の理解が得られない」などと批判し、国に処分を求める声が強い。 県北浄化センターは2000トンを超える汚泥を抱え、来月末には仮置き場が満杯になる状況となっている。悪臭問題も出ているため、県は対応を急ぐ必要があるとしているが、福島市側も、伊達市内の一般廃棄物処分場を運営管理する伊達地方衛生処理組合側も「住民の理解を得るのは極めて困難」と難色を示している。同センターの汚泥処理をめぐっては、柳津町の最終処分場への埋め立てを町に打診したが、拒否された経緯がある。
 あだたら清流センターがある二本松市も反対の立場。大滝根水環境センターが立地する田村市は市内の処分場で受け入れているものの「県は市町村の意見を集約した上で、最終的な処分方法を考えるべき」としている。 2施設に計980トンを仮置きしている会津若松市は「市内に処分場所はない。国が全国の汚泥を一括処分してほしい」と要望。西会津町は放射性セシウム濃度が比較的低いため、汚泥の肥料化を視野に入れているが、財源確保が課題という。 こうした市町村側の受け止めに対し、県は「住民の理解が最も重要。市町村と丁寧に協議しながら処理を進めたい」(土木部)としている。 環境省は「安全性に配慮した埋め立て法を示している。市町村は、これを理解した上で対応してほしい」(産業廃棄物課)とし、あくまで地元自治体による処分を求めている。(福島民友)

高線量被ばくの作業員は2160人
 経済産業省原子力安全・保安院と東京電力は27日、福島第1原発事故の収束作業に当たる作業員のうち、事故収束までの高線量被ばく者数の3月下旬時点での試算を発表した。50ミリシーベルト以上100ミリシーベルト未満が約1680人、100ミリシーベルト以上が約480人だった。
 保安院などによると、試算は保安院の指示を受け、東電と原子炉メーカーの東芝、日立製作所の計3社が実施し、保安院に結果を報告。厚生労働省の内部文書内に「経産省によると50ミリシーベルト超は約1600人」との記載があることが市民団体の情報公開請求で明らかになったため発表した。
 試算結果を4カ月近く公表しなかった理由について、保安院の森山善範原子力災害対策監は「個別の企業情報が含まれているため」などと説明。内部文書の開示を受けた「全国労働安全衛生センター連絡会議」の飯田勝泰事務局次長は「もっと早く作業員に知らされるべき情報だった。隠していたとしか思えない」と批判している。 東電によると、今月13日現在、100ミリシーベルト以上の被ばくをした作業員は東電と協力企業の計111人。【毎日・池田知広、久野華代】