民主党と自民党の原発政策に違いはあるか
菅首相が「個人的な見解」として「脱原発依存社会」(将来的に原発に依存しなくてもすむ社会)を打ち出したことをめぐり、メディアの混乱が深まっている。 その一例が、今日(7/21)の東京新聞の署名入りの記事、「既存の原発維持 公共事業拡大 民主との違い 自民前面」である。
この記事は、自民党の国家戦略本部が、昨日、中長期的な政策に関する報告書を発表したことに対し、自民党の政策と民主党のそれを比較・対照することを目的にした記事である。しかし、この記事は菅内閣および民主党の政策評価にめぐる基本的分析において誤っている。誤解や勘違いが幻想とともに蔓延しているかのようだ。
東京新聞は、このように分析する。
「[自民党と]民主党との違いが際立つのはエネルギー政策だ。安全強化策を条件に、既存の原発は当面維持すると明記した。菅直人首相の福島第一原発事故を踏まえた「脱・原発依存」宣言に対抗。首相が脱原発の具体的な時期や道筋を示していないこともあり、再生可能エネルギーでは、すぐには原発分を補えないという“現実”を強調した」
「安全強化策を条件に、既存の原発は当面維持する」という点では、菅内閣・民主党も同じである。両党に違いはない。両党の「違いが際立つ」ためには、いずれか一方が党として、それがいつになるのであれ、脱原発のタイムテーブルを出せるかどうか、にかかっている。現状では、民主党にその意思があるとはとても思えない。その意味で、首相の個人的見解を過大に評価することは誤っていると言わざるをえない。
たとえば、・クローズアップ2011:「脱原発」方針表明 首相独走、募る疑心(毎日,7/14)にも、次のような一文がある。
「地球温暖化問題に取り組む気候ネットワークは「歴代首相の中で初めて脱原発を宣言した。エネルギー政策の転換へ大きくかじを切った日として記憶に残る日となる」と歓迎した。また、グリーンピース・ジャパンは「福島第1原発事故を受け、将来世代の安全・安心を最優先に考えれば当然の方針」と評価した」・・・。
しかし、「エネルギー政策の転換へ大きくかじを切った日として記憶に残る日」となるためには、首相の「個人的な見解」が「内閣の見解」となり、「政府・与党の見解」として公式の文書で確認される必要がある。「福島第1原発事故を受け、将来世代の安全・安心を最優先に考えれば当然の方針」だと一見思えるのだが、首相の宣言は、とても「方針」と評価できるような代物ではなかったのだ。(もちろん、現政権、あるいは次期政権の下で、脱原発を標榜する政府なり党なりの「方針」が、具体的文書として公表されるなら、私も大いに評価し支持するつもりだ)。
政党として、これまでの日本の原子力行政を抜本的に見直し、脱原発を路線的に追求しているかどうかを判断する基準とは何か。それは、「国策・民営」の原発行政の三大柱、①地域独占、②発送電一体化、③統括原価方式を解体できるかどうか、そのための法改正を含めたプランとビジョンを持っているか/それを打ち出そうとする意思が感じられるかどうか、にある。 その試金石が、今回の原発災害に対する東電の社会的・経済的責任の明確化→東電の一時的「国有化」を通じた、①地域独占、②発送電一体化、③統括原価方式、この三位一体の解体的再編成なのだ。どれか一つでも欠けると、「国策・民営」の戦後原発行政を解体することはできない。
脱原発とは、まさに「言うは易し、行うは難し」である。とても一筋縄ではゆかない。
自民党はもとより、菅内閣・民主党も、脱原発政党からは、はるかに遠い存在だ。 くれぐれも勘違いをしないよう、また決して騙されぬよう、心がけたいものである。
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・福島第1原発、浄化システムまたトラブル「予想外の停止」 台風6号で汚染水も増加
東電は21日、福島第1原発で汚染水を処理して原子炉冷却に使う「循環注水冷却」の中核である汚染水浄化システムが自動停止したと発表した。除染後の処理水をためるタンクの電源が停止し安全装置が想定外に働いたためという。台風6号接近に伴う降雨のため、原子炉建屋地下などにたまった汚染水の水位が上昇しており、東電は雨水対策を急いでいる。
東電によると、21日午前8時半ごろ、電源工事に伴う停電でタンクの水位計が停止し、システム全体が予定より約7時間早く停止した。停止により、システムの稼働率はさらに約3%低下することが見込まれ、東電が目標としている稼働率70%を下回る公算が大きくなった。 東電の松本純一原子力・立地本部長代理は「予定外の稼働率の低下だ」としている。
福島第1原発の建屋や立て坑などにたまっている汚染水の水位が降雨の影響で上昇。特に1号機原子炉建屋地下では、汚染水の水位が20日午後4時からの15時間で約41センチ上昇した。 東電は「1号機建屋には屋根がないので、雨がそのまま地下に流れている」とみている。ただ、地下にはまだ約4・9メートルの余裕があり、ただちにあふれ出す危険が少ないとみられる。(産経)
・関西経済5団体、政府に原発再稼働要望 空洞化を懸念
関西経済連合会など関西の経済5団体は21日、原子力発電所の早期再稼働による電力の安定確保を政府に要望した。定期検査を終えた原発は稼働させながらストレステスト(耐性調査)を実施すべきだと指摘した。同時に、省エネ機器や太陽光発電を導入した企業に対する助成を2011年度第3次補正予算案に盛り込むことも求めた。
大阪、神戸、京都の商工会議所、関西経済同友会を加えた5団体が共同で要望書を作成。大商の佐藤茂雄会頭(京阪電気鉄道相談役)らが首相官邸を21日午前に訪れ、福山哲郎官房副長官に手渡した。 佐藤会頭は記者団に対し、政府が関西電力管内で10%以上の節電を要請したことについて「場当たり的だ。将来のエネルギー政策も示してほしかった」と語った。 要望書では、電力不足は企業の海外流出を招きかねず産業空洞化につながると指摘。「西日本は震災の復興支援基地として国全体の下支え機能を果たしてきたが、電力不足が大きな足かせとなっている」と懸念を表明した。(日経)
・自民党:「集団的自衛権」認める 保守層強く意識--中長期政策 自民党国家戦略本部(本部長・谷垣禎一総裁)は20日、中長期の政策の方向性を定めた報告書「日本再興」を発表した。「選挙のたびに無党派層の動向に一喜一憂し、岩盤のような保守層を置き去りにした」という反省に立ち、「学校での国旗掲揚、国歌斉唱の義務化」「集団的自衛権の行使を認め、範囲を法律で規定」など保守色の濃い政策を積極的に盛り込んだ半面、社会保障分野では具体論に踏み込まず、与野党協議を敬遠する党の現状も浮き彫りになった。
報告書は次期衆院選の選挙公約の基礎になる。谷垣氏は20日の会見で「民主党はバラマキ本位だが、われわれの基本は『自助』だという点をきちんと出していきたい」と述べ、民主党との政策の差別化に意欲を示した。
外交・安全保障分野では、国家安全保障会議の常設▽自衛隊の国際的平和活動に関する一般法(恒久法)の制定--などを列挙。非核三原則のうち核兵器の一時的な持ち込みを容認する「非核2・5原則」への転換も打ち出した。【毎日・佐藤丈一】
・自民、原発は当面維持 中長期政策、将来の存廃は触れず
自民党の国家戦略本部(本部長・谷垣禎一総裁)は20日、中長期的な基本政策をまとめた「日本再興」と題する報告書を発表した。当面のエネルギー政策については再生可能エネルギーの促進とともに「安全強化策を施した上で既存原発の稼働維持」を掲げた。核兵器の一時的な持ち込みを容認する「非核2.5原則」への転換も打ち出した。
昨年9月から「成長戦略」「社会保障・財政・雇用」「地域活性化」「国土保全・交通」「外交・安全保障」「教育」の6分野で検討を進めてきた。同報告書が自民党の次期衆院選の選挙公約の土台になる。
自民党がこれまで推進してきた原発については「事故はわが国のエネルギー政策の根幹を大きく揺るがした」と記したが、総合エネルギー政策特命委員会(山本一太委員長)でエネルギー政策を検討中のため、将来の原発の存廃には触れなかった。(朝日)
・政府10法案成立もう断念…早すぎ批判も
民主党は20日、今通常国会に政府が提出した法案のうち、野党の協力を得るメドが立たない約10本の成立を断念する方針を固めた。 いずれも秋の臨時国会に継続審議とする方向だが、国会を70日間も延長したうえ、まだ1か月余も残した中での消極姿勢には、与党内からも批判が出そうだ。 成立を断念するのは、
〈1〉温室効果ガス25%削減目標を盛り込んだ地球温暖化対策基本法案
〈2〉製造業への派遣を原則禁止する労働者派遣法改正案
〈3〉国家公務員への労働協約締結権付与を柱とした国家公務員制度改革関連法案――など。大半が審議入りすらしていない。
野党側が「菅首相の下では東日本大震災関連の法案以外は原則協力しない」との姿勢を強めていることに加え、首相の退陣条件とされる再生可能エネルギー特別措置法案などの成立や、原子力損害賠償支援機構法案など震災関連法案の処理を優先する狙いがある。(読売)
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・民自公、原賠法改正で大筋合意 電力会社負担に上限
衆院復興特別委員会の民主、自民、公明の理事が、事故時に電力会社が無限の責任を負う原子力損害賠償法(原賠法)の改正を進めることで大筋合意した。21日午前の協議で、東京電力福島第一原発事故の賠償を国が支えるための「原子力損害賠償支援機構法案」を修正して成立を目指すことを確認、原賠法改正の必要性も認めた。
原賠法は電力会社に対し、事故が起きた際は過失の程度などを問わずに無限の賠償責任を負わせるとしている。福島の事故では、数兆円に達する見通しの負担を東電が背負いきれず、資金繰りなどを支える機構を設けることになった。
機構法案の修正協議の過程で、今後の事故に備えるため、損害賠償の前提となる原賠法を改める必要があるとの認識で一致。負担に上限を設けるなどの改正を一定期間で進めることを、機構法の付則や付帯決議で定める方向で調整する。 (朝日)
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すべての話が振り出しに戻る。「原発+自然エネルギー」の推進路線を採る民自公のこの合意は、結局は、東電を救済し、原発事故の補償責任を「国民」の税負担と電気料金増によって賄おうとするものに他ならない。
「今回の原発災害に対する東電の社会的・経済的責任の明確化→東電の一時的「国有化」を通じた、①地域独占、②発送電一体化、③統括原価方式、この三位一体の解体的再編成」を棚上げにし、本質的・根本的な問題解決を先送りにしようとするものだ。
・原発再稼働基準「事故調報告の1、2年後」 首相が答弁
菅直人首相は21日の参院予算委員会での答弁で、原発再稼働のための本格的な安全基準について「(東京電力福島第一原発の)事故調(査・検証委員会)の報告が出た1年か2年の後、新しい基準をつくることになる」と述べた。
全原発を対象に実施するストレステスト(耐性評価)については「今の段階で(暫定的な)新しいルールづくりをすることは、国民に安心を持ってもらう上で必要だ」と強調した。原発輸出については「私自身これまで力を入れてきた。もう一度きちんとした議論がなされなければならない段階にきている」と述べた。
海江田万里経済産業相は、首相の「脱原発」発言について会見前に首相から説明を受けた際、「日本は核兵器を持たずに原子力技術を開発してきたが、原発ゼロとなるとこうした技術が途絶えてしまう。それで本当にいいのか。もう少し多角的な角度から議論した方がいい」と反論したことを明らかにした。 (朝日)
・原発の安全強化へ声明 核兵器非保有10カ国が閣僚会合
核兵器を保有しない10カ国による「核軍縮・不拡散に関する閣僚会合」が30日にベルリンで開かれた。日本からは松本剛明外相が出席し、福島第一原発の事故に対する日本政府の対応を説明。参加国は原発の安全性強化などを盛り込んだ「ベルリン声明」を発表した。 閣僚会合は「核兵器のない世界」をめざし、日豪の主導で昨年発足した枠組みで、ドイツ、トルコ、カナダなどの外相らも出席した。
会合では、福島第一原発の事故が各国の原子力政策に影響を及ぼす中で「原子力の国際的な安全性強化も(各国の)仕事の一つだ」(ドイツのベスターベレ外相)との認識で一致。核軍縮や不拡散に加え、原子力の平和的利用のあり方についても、連携して対処することを確認した。 声明では核軍縮の具体策として、高濃縮ウランなど核兵器用の核分裂物質の生産を禁止する「カットオフ条約」の交渉開始を促したほか、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効に向けた取り組みなどを挙げた。(朝日・ベルリン=松村愛)
・政府、米核実験に抗議せず
福山哲郎官房副長官は20日、昨年12月と今年2月に臨界前核実験をした米政府に対し、抗議しない考えを表明した。包括的核実験禁止条約(CTBT)が禁じる、核爆発を伴う実験でないためと説明している。 福山副長官は記者会見で「米国が貯蔵する核兵器の安全性、有効性を確保するためと承知している」とし「抗議や申し入れは考えていない」と述べた。
オバマ大統領が「核兵器のない世界に向けた具体的な措置を取る」と訴えた2009年のプラハ演説にも言及。「大統領は『世界に核兵器が存在する限り、安全で効果的な核兵器を維持する』と言った。(今回の実験は)その範囲内と認識している」と強調した。(中国新聞)
・「米核実験判明に抗議文相次ぐ」(中国新聞)
・「米国の核実験に抗議文、横浜・川崎・相模原3市」(神奈川新聞)
「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「菅内閣は退陣すべきである」(7/10)
⇒「「脱原発依存社会」宣言をどう評価するか?」(7/14)
⇒「〈脱原発〉新党と新しい政治のネットワーキングは可能か」(7/15)