2011年7月18日月曜日

「ストレステスト」のマヤカシ(2)

「ストレステスト」のマヤカシ(2)---工学的耐性と社会的耐性

7/22
 原子力安全委員会が、保安院が策定した「ストレステスト」(安全評価?)の「実施計画」を「妥当」と判断し、「了承」した。
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・ストレステスト実施計画 安全委が「妥当」と了承
 経済産業省原子力安全・保安院は21日、原発の再稼働や運転継続の基準とする「安全評価」(ストレステスト)の実施計画を内閣府原子力安全委員会に提出し、安全委は「妥当」と判断し了承した。
 分かりにくいと指摘された2段階評価について保安院は「(定期点検中で停止中の原発を対象とする)1次評価では、地震や津波で原発の施設に加わる力に対し、設計段階で各設備がどこまで余裕があるかの数値を評価し、(全原発が対象の)2次評価では、実際に設備が健全性や機能を失う限界値を評価する」と説明。
 さらに「地震」「津波」「全電源喪失」「海水に炉心の熱を放出する機能の停止」の4項目としていた1次評価の対象に「地震と津波」が重複して起きるケースも加えた

 一方、各電力会社から評価結果の報告を受ける時期について、2次評価は年内をめどとし、東京電力福島第1原発事故の事故調査・検証委員会の検討状況などを踏まえて見直すとしたが、再稼働の可否に影響する1次評価の時期は明示しなかった。【毎日・比嘉洋】
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7/18
 ストレステストならぬ偽装「ストレステスト」の概要が、先週(7/15)、ほぼ明らかになった。 さらなる詳細は、19日まで待たねばならないが、以下の毎日新聞や東京新聞の記事をも参照しながら、「ストレステスト」が単なるマヤカシに過ぎない、その根拠を整理しておこう。
(⇒「「ストレステスト」のマヤカシ---2段階で再稼働判断?」より)

〈原発事故に対する社会的耐性
 「ストレステスト」の問題点を整理するにあたり、その大前提として考えておくべきことがある。それは、ポスト「3・11」において、日本の原発事故に対する社会的耐性は、「レベル7」の福島第一原発事故より、はるかに低いレベルを限度とする、ということである。

 万が一にも「第二の福島第一」が起こったとしたら、日本は文字通り、政治的・経済的・社会的に轟沈してしまうだろう。日本は、今回の大災害の「収束」過程において、「レベル7」の原発事故の再来に耐えることはできない。つまり、ポスト「3・11」における日本の原発の安全/不安全を検査するときに、福島第一と同レベルの事故が起きる/起きないの「レベル」で議論すること自体が、ナンセンスなのである。この意味において、菅内閣をはじめ、電力供給限界論や経済停滞論から、原発推進政策維持や停止中原発の再稼働容認の論陣を張る人々は、日本社会に対してはもちろんのこと、国際社会に対してもきわめて不誠実で不真面目な議論をしていると言わざるをえない。

 もちろん、「万、万が一」に「第二の3・11」が起こった場合に備える、原発の工学的耐性は確保されていなければならない。そして、現状、日本の原発はその条件を満たしていない。 けれども、それ以前の問題として、実際には「レベル7」より低レベルの事故の発生によって、日本のすべての原発は有無を言わさぬ形で「アウト」になる。稼動中のものは停止に追い込まれ、停止・検査中のものは、再稼働が不可能になってしまうだろう。それ以外の選択肢がなくなってしまうだろう。このことを政府・電力会社・自治体、そして私たちは、かなりシリアスかつシビアに考える必要がある、と私は思うのだ。

 では、その「レベル」とはどのような「レベル」だろう。「レベル6」、それとも「レベル5」だろうか?
 たとえば、「冷却装置」が「トラブル」を起こし、原子炉を「手動」で(!!)「停止」しなければないないような「レベル」の事故はどうか。「その程度」の事故であれば、社会的に許容できるだろうか。
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大飯原発1号機停止へ 冷却装置トラブル 
 関西電力は16日、大飯(おおい)原子力発電所1号機(117万5千キロワット、福井県おおい町)を手動停止する、と発表した。緊急時に原子炉の炉心を冷やすために使うタンクの圧力が下がるトラブルがあり、原子炉を止めて原因を調べるという。関西の夏の電力需給はさらに厳しくなる見込み。 関電によると、トラブルが起きたのは、事故時などに冷却水を注入するために複数設置されている「蓄圧タンク」の一つ。15日午後10時46分に異常を知らせる警報が鳴り、圧力を確認したところ保安規定上の制限値を下回っていた。圧力が低下すると緊急時に冷却水を注入できなくなる恐れがあるという。  安全確保のため、16日午後1時ごろから出力を低下させる作業に入り、午後9時ごろには原子炉を停止する。トラブルによる環境への影響はないとしている。
福井県「現状では再稼動認められぬ」 大飯原発トラブル
 16日公表された関西電力大飯原発1号機のトラブルで、約4カ月続いた異例の「調整運転」が幕を閉じた。地元福井県の幹部は停止中の他の原発と同様、現状では動かすことは認められないと明言。夏の電力需要のピークを目前に、関電の供給能力は厳しさを増すとみられる。
 福井県は午前10時、安全環境部の桜本宏企画幹が県庁で記者会見。「原子炉を停止する以上、今回のトラブルの原因究明や対策を終えただけでは、再稼働はできない」と述べ、大飯原発1号機も、検査で停止中の他の原発と同様の扱いとする姿勢を示した。すでに関電にそう伝えたという。  形式的には検査中にもかかわらず、100%の出力で運転する調整運転を黙認してきた同県。桜本企画幹は「最終検査前に売電を認める調整運転制度そのものが、今回の混乱をもたらしたのではないか」と現行制度に疑問を投げかけた。 (朝日)
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 原子炉を手動で停止するような事故が起こっても、「環境に影響がない」=放射能が漏出しなければ、あるいは水素爆発を起こさなければ大丈夫、と私たちは言うだろうか?
 ポスト「3・11」における「万が一」の原発事故とは何か? 「ストレステスト」を論じる以前に、私たちはこのことを「全国民的」に、きちんと議論しなければならないのではないだろうか。そうでなければ、何のために「ストレステスト」を議論し、何を基準にその賛否を評価するのか、討議の前提を共有できないからである。

 菅首相の思いつき的な、閣議決定さえ踏んでいない「ストレステスト」導入宣言以降、私たちはこの前提的了解事項が存在しないことをめぐり、実に膨大な時間と労力を「全国民的」に消費し、消耗してきたのである。

〈工学的耐性と社会的耐性〉

 原発の稼働/停止、再稼働の是非を、(原子力)工学的観点と基準からのみ判断し、議論できるのか? 「3・11」以後、菅内閣・電力会社・自治体・「原子力村」の言動と、それを報じる主要メディアに対し、私が最も強く不信感と違和感を抱いてきたのは、このことである。「できない」と、私は考えるからだ。

茨城南部震源、M.5.5の地震(気象庁) ポスト「3・11」において、「第二の「3・11」は「当面」は起こらないだろう」という絶望的楽観主義の下で、政府が将来的な「脱原発」宣言すら発せず、原発の稼働を容認していること/そういう政府を私たちが放任していること自体が異常であり、「狂気の沙汰」だと私は思う。まして、現状での停止中原発の再稼働など「ありえない話」だと言うべきである。

 しかし、半世紀以上にわたる「原子力行政」の結果、たとえ「工学的安全性」を満たしていなくとも、日本は原発を即時廃止にすることができない。これがリアリティである。原子力産業と科学の育成を国家戦略として位置付けてきたからだし、原発立地自治体が、道・県も市町村も「原発マネー」と「原発利権」に呪縛されてきたからである。
 こうしてできあがったのが、中央-地方を貫く、産官学・独法系研究機関の「連携」による〈原子力複合体〉である。安保と同様に、これを解体→再編成するのは、とても一筋縄ではゆかない。10年、20年で達成できることではない。原発漬けになった地域経済の再生をどうするか、「原子力村」を「平和村」に変えるにはどうすればよいか、解決すべき難題が山積するからだ。

 ではどうすればよいのか。
①早ければ早いに越したことはないが、せめて2050年くらいまでに原子力複合体の原発依存をゼロにする「脱原発」を国の方針として法的に確認した上で、
②「第二の3・11」を想定した「工学的耐性」を満たしていない原発(原子炉)から、順次停止→廃炉にすることを法的に確認する。この場合、重要なことは、
③現存する原発の中で、最も新しく、相対的に最も「安全」な原発でさえ、「工学的耐性」を満たさないものが存在することを認めること(認める以外に選択肢がないこと)である。だからこそ、
④法的に未整備状態にある、「第二の3・11」を想定した〈社会的耐性〉検査を行い、市民の「安全・安心」を保証/保障/補償できる体制/態勢構築に、即刻着手しなければならないのである。

 ここで言う〈社会的耐性〉とは、国・電力資本・自治体それぞれが整備すべき、「第二の3・11」が起こったときに、市民の「安全・安心」を保証/保障/補償する仕組みの「耐性」をさす。正確には、現行の「仕組み」がどこまでの事態に耐えられるか、その限界のことである。

 ポスト「3・11」の日本、いや世界における「原発の安全・安心」は、新たに構想され、基準設定されるべきこの〈社会的耐性〉の要素抜きに、単なる原発(原子炉)の工学的耐性のみで判断することはできないし、してはならないのである。少なくとも私たちが市民の「安全・安心」を第一義に考えるかぎりにおいては。
 逆に言えば、〈社会的耐性〉の観点と基準抜きに、原発の稼働を容認し、停止中原発の再稼働を云々していること、そのこと自体が今の日本社会の異常さと、政府を含むすべての「アクター」の無責任さを物語っているのである(〈社会的耐性〉については、改めて述べることにする)。

〈原発の「工学的耐性」について〉

 このブログの読者の中には、「「原発ジプシー」と被曝」の最下段で紹介した、沢田哲生・東京工業大助教(原子核工学)が毎日新聞の取材に対して答えた言葉、すなわち「原子炉圧力容器からタービン建屋につながる主蒸気管がある。そこに何らかの損傷があったとすれば重大なトラブルで信じがたい」と語ったことを覚えている人もいるかもしれない。沢田氏のこの指摘に対し、私は、
 「沢田助教が言う、「原子炉圧力容器からタービン建屋につながる主蒸気管」に「何らかの損傷」があったとすれば「重大なトラブル」で「信じがたい」という解説に、今回の福島第一原発事故の今後を占う「重大」なカギが隠されている。「主蒸気管」。この言葉、しっかり記憶に留めておこう」と書いた。

 「東日本大震災と原発 原子力緊急事態宣言(2) 」(3/27)より。
 「私の記憶では、福島第一原発(日本の原発のほとんどがそうかもしれない)が、最大の「重大事態」としているのは、原子炉格納容器で起こる放射能「漏出」である。もちろん、「理論的」にというか「一般的」には、原子炉が破壊されることも当然ありえる。もしも本当に3号機の原子炉が損壊したのであれば、今回の地震・津波のような、原発がそれに耐えうるように「理論的」には設定されているはずの「安全対策基準」を上回る破壊的力に原発がさらされた場合だ。
 しかし、すべての建築物がそうであるように、実際に原発が設計され、建設されるときには、そのような「非現実的」なことは「ありえない」ものとして、考慮すべき条件から排除される。福島第一原発の場合、現実的に想定している非常事態は、「せいぜい」原子炉外の「主蒸気管」破損とそこからの放射能の漏出、「その程度」のことなのだ。「原子炉圧力容器からタービン建屋につながる主蒸気管」破損⇒放射能漏出である。 

 しかし、本当に何もない/何も考えていない、とは想定しがたい/想定したくない。何かはあるはず/あってほしい。日本の原発「安全対策」は「世界トップクラス」なのだから。そう、私たちは聞かされ続けてきたのだから。
 何があるか? 何をしようとしているのか? それをまず最初に突き止めることがマスコミには求められており、正直に明らかにすることが東電、「対策本部」の責任であり使命である。 そして、もしも何かがあった場合、その「対策」の実現可能性が次に検討すべき課題となる。〈誰がその「対策」を現場で担うのか?〉という設問とともに」 

(以下、工事中)

①原子炉そのものの不安全
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「玄海1号機の劣化試験片は分析を」井野氏が講演
 玄海原発(佐賀県東松浦郡玄海町)1号機の劣化問題などを考えるシンポジウムが17日、唐津市文化体育館であった。金属材料に詳しい井野博満東大名誉教授が劣化判断の指標となる試験片の「脆性遷移(ぜいせいせんい)温度」の大幅上昇を問題視し、大学などの研究機関でも試験片を分析する必要性を訴えた。
 1号機の試験片の脆性遷移温度は56度(1993年)から98度(2009年)に急上昇した。研究者が問題視したことに対し、九電は衝撃に対する試験片の粘り強さなど新たなデータを公表したが、井野氏は「このデータでは急上昇の原因は分からず安全性は保証できない」とした。  急上昇の原因として「容器の鋼鉄に不純物が多く含まれ、想像以上に劣化が進んでいる可能性がある。中性子を浴びて組織構造がどう変質しているのか。ミクロの解析が不可欠」とし、「原因が解明されるまで運転を停止すべき」と訴えた。
 シンポは市民団体などによる実行委員会が企画。18日午後6時半から佐賀市のアバンセでも開かれる。実行委は20日、試験片の公的機関への提供と、1号機の運転停止などを求める要求書を九電に提出する。(佐賀新聞

脱原発派の試練」(6/21)の中で、「照射脆化・脆性破壊」の問題について説明した。
「照射脆化・脆性破壊」
 原子炉運転中に高速中性子の照射を受け、圧力容器鋼材が破壊に対する抵抗力が低下する(「中性子照射脆化」)という指摘や懸念に対し、東電を含む電力会社は、「脆化」や「脆性破壊」を防止するため、「監視試験片」を予め炉心の近くに装荷し、定期的に点検しているので、圧力容器の「健全性」は常に保たれている、としてきた。柏崎刈羽原発のこの問題に関する、昨年6月の東電の回答がその一例である。

②「津波対策」の不安全
⇒「東日本大震災:津波の高さ史上最大40.5メートル 宮古」(毎日新聞)
・「宮古市重茂姉吉(おもえあねよし)の約500メートル内陸で、海面から約40.5メートルの地点に津波が到達した跡を確認」
・「岩手県釜石市▽大船渡市▽久慈市▽野田村▽宮城県女川町の6市町村で30メートル超を記録」
・「青森、福島、茨城県でも10メートル以上に達した地点があった」
・「調査結果は研究者間で共有し、地震のメカニズム解明や今後の防災対策に活用される。同グループのウェブサイトで公開」

 上の記事に目を通した上で、下の記事を読んで欲しい。
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東電以外の原発37基、津波耐性「問題なし」
 政府が導入する原子力発電所のストレステスト(耐性検査)のうち、津波に関する部分について、産業設備の維持管理技術などの専門家らでつくる「日本保全学会」(会長=宮健三・東大名誉教授)が、政府とほぼ同じ評価項目で独自に試行した。 震災後、各原発とも津波の高さの想定を9・5メートル引き上げる緊急安全対策が講じられたため、福島第一原発を襲った規模の津波が到達しても、炉心損傷などの深刻な事故を起こさず、安全に冷却できると結論された。
 試行した耐性検査は、東京電力以外の商用原発37基が対象。地震と津波で外部電源と非常用電源が失われたと想定し、〈1〉原子炉の冷却設備〈2〉電源や冷却水の水源〈3〉原発の状態を監視する中央制御室――などが維持されるかを調べた。その結果、どの原発も、約3時間以内に電源車の接続が可能になり、電力は安定供給できると判定原子炉とプールの冷却には問題ないとした。(読売、7/17)

③「全交流電源喪失」への対処不能性
「「命綱」非常用電源を過信 複合災害原発安全は(上)」(福井新聞, 7/10)より

◎ 「国の指示を受け、電力各社はバックアップ電源を充実。関西電力は11基の県内原発に計32台の電源車を配備した。ただ、これだけではプラントの監視機能を働かす電力しかなく、ECCSを作動させて原子炉を冷温停止するには不十分9月までに空冷式ディーゼル発電機計21台を各原発の高台に置く計画で、中長期的には非常用発電機を追加設置する。
 外部電源の確保に課題を残すプラントもある。日本原電敦賀2号機の送電回線は2系統とも同一の変電所に連係しているため、変電所や鉄塔が損壊すれば早期復旧は困難。原電は2013年度までに北陸電力からの送電線に接続する方針だ」

◎ 「事故後に打ち出された対策で電源は確保されるのか。京都大原子炉実験所の宇根崎博信教授(原子力工学)は「長期間の全電源喪失を防げると技術的にはいえる。最低限は確保できる」と評価する。ただ、各対策でどんなリスクを軽減できるのか、国による体系的な説明がないと問題視する。
 一方、伴氏は「保安院が指示した対策で本当に済むのか。電源車を増やせばいいという問題ではない」と懐疑的。対症療法でなく、原発ごとに厳しく安全性をチェックすべきだと訴える」

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原発:安全評価、「1次」4項目で 保安院が手法概要公表
 経済産業省原子力安全・保安院は15日、原発の再稼働や運転継続の基準とする「安全評価」の手法の概要を公表した。電力各社が原発ごとに、安全性にどれだけ余裕があるかを評価し、保安院がその手続きの妥当性を評価。さらに内閣府原子力安全委員会が確認する。稼働中のほぼ全原発が対象の「2次評価」は年内に保安院に報告するよう求めるが、定期検査で停止中の原発で実施し、再稼働のカギを握る「1次評価」の報告時期は未定だ。安全委は同日臨時会を開き、保安院の手法の概要を大筋で了承した。

 保安院によると、試験の対象は、「1次評価」が現在定検中の九州電力玄海原発3号機など19基。「2次評価」は、福島第1原発と同第2原発、浜岡原発を除き、1次評価対象や建設中のものを含めた50基
 安全評価は、「地震」「津波」「全電源喪失」「海水に熱を放出する機能の停止」の四つの場合について、燃料損傷などの過酷事故に至るまでにどのくらい安全性の余裕があるのか定量的に計算する。 1次評価では
(1)原子炉の配管などの機器類に負荷をかけ、健全性が十分確保される値と比べて設計値にどれだけ余裕があるかを調べる。その上で
(2)原子炉全体で燃料溶融に至るまでの余裕度も測り、原子炉の弱点を見つける。さらに
(3)過酷事故に至らないために各社が講じている対応措置の効果を評価する。
 また、2次評価では、全電源喪失と炉心の熱を取り除く機能が失われ燃料溶融が起きる「限界値」を算出して設計値と比べることで、原子炉の能力を測る。
 安全評価をめぐっては、保安院が玄海原発の安全性を確認し、海江田万里経産相が6月29日に地元に再稼働を要請したものの、菅直人首相が同日、原子力安全委員会を関与させて安全審査をやり直すよう海江田氏に指示。1次評価が、定検中の原発を再稼働するための要件になっている。【毎日・河内敏康、関東晋慈】

原発:安全評価 機器の健全性対策で「基準以上」調査
① 経済産業省原子力安全・保安院が15日公表した原発の「安全評価」の手法は、地震や津波など原発の設計上の想定を超える状況で、基準に対してどのくらい余裕があるか安全性を評価するものだ。従来の安全審査では安全基準を上回るか否かが問われたが、東京電力福島第1原発事故を受け、保安院は「もともと安全は確保されているというのが前提。ただ、安全基準をぎりぎり上回っているのではないということを、テストで確認して安心していただく」と説明する。
 保安院によると、通常の原発は設計時に安全性に「裕度」を見込んでいる。新たな安全評価は、機器などの健全性が保たれるレベルや、破壊される限界までの余裕がどれだけあるのかをみる。つまり安全基準を超えて設置や運転の許可を得ている原発が、どれだけ基準を超えているかの「程度」を数値で表すに過ぎない。さらに津波の高さの想定は02年に土木学会が示した基準を想定しているため、震災前の福島第1原発も「安全性がある」という評価になる可能性が高い。

② 具体的には、設計時などに想定した地震、津波で機器などにかかる力が計算され、ある材料にかかるひずみ量が求められる。 ひずみ量が大きくなると、材料は破壊される。一般に健全性が失われるひずみのレベルはその値より小さく、設計時の想定値はさらに小さい。それだけの余裕がなければ、そもそも原発の運転が認められないからだ。設計値を基準に裕度を測るため、結果として、安全評価をしても安全でないという結果は原理的に出ないということになる。
 定期検査で停止中の原発を「1次評価」、運転中の原発は「2次評価」と2段構えで実施することについて、報告を受けた内閣府原子力安全委員会で「違いが分からない」と不満の声が上がった。再稼働の可否を決める判断材料の1次評価では、福島第1原発事故で実際に起きた地震と津波などの複合事象を含めていないため、1次評価に加えることなどを修正したうえで再提出するよう求めた。班目(まだらめ)春樹委員長は「一般の人にも分かるよう説明資料をつけるように」と指示した。
③ 保安院が参考にしたEU(欧州連合)のストレステストは、域内の143原発を対象とする。停止中と稼働中の原発は同じテストで、1次と2次に分けていない。また、事業者のテスト評価を各国規制機関が評価した後、さらに他の加盟国の専門家も招いた安全性の相互評価「ピアレビュー」を行う。
 これに対して、保安院案は事業者が1次と2次を評価したうえで、保安院がその手続きを評価。さらに原子力安全委員会が確認する。再稼働の可否を判断するのは菅直人首相と3閣僚だ。 岡本孝司・東京大教授(原子力工学)は「2次評価は、ヨーロッパで行われているストレステストに近く、よく考えて作られている。ただ、1次評価は何のためにあるのか不明で、1次、2次に分ける理由が分からない」と指摘する。【毎日・足立旬子、岡田英、藤野基文】

原発安全評価 1次は地震など4項目
 経済産業省原子力安全・保安院は十五日、原発が地震や津波などにどこまで耐えられるのかを確認する「安全評価」の手法と実施計画の素案をまとめ、原子力安全委員会に説明した。安全委は同日、大筋で了承したが、評価の手法などが分かりにくいなどとして保安院に再提出を求めた。  保安院によると、安全評価はまず電力会社自らが行い、その妥当性を保安院や安全委が確認する。 定期検査中の原発を対象とした簡易の一次評価と、東京電力福島第一、第二原発を除く全原発を対象とした二次評価に分け、コンピューター解析する。二次評価について、保安院は事業者に年内の報告を求める考えだ。

 一次評価は①「地震」②「津波」③「全交流電源喪失」④「熱放出機能の喪失」の四項目について、想定を超える地震や津波が起きた際、施設や機器などの安全性にどれだけ余裕があるかを確認する。 機器が壊れた際のバックアップ機能も調べる。 二次評価では、東日本大震災のように、地震や津波が複合的に襲うことを想定。地震と津波、電源喪失と熱放出機能喪失がそれぞれ同時に起きたケースについて、どこまで核燃料の損傷を防ぐことができるか耐性をチェックする。損傷からさらに事態が進み、水素爆発など過酷事故(シビアアクシデント)に至るまでのケースも検証する。
 保安院から素案の提出を受けた安全委は、一次評価でも地震と津波の同時発生について調べるべきだとし、一次と二次評価の違いについても、原発の地元住民向けに分かりやすい書面をつくるよう求めた。保安院は再提出する計画案が了承され次第、電力会社に実施を要請する。(東京)

原発:安全評価、法的根拠乏しく 「強制ではない」
 15日に概要が発表されたストレステストだが、法的根拠は乏しい。枝野幸男官房長官も15日の記者会見で「法律に基づくものではなく、国民の皆さんの安全を高める見地から政府として(電力会社に)要請する手続きだ」と認めた。 背景には、菅直人首相が求める厳しい基準のルールに法的根拠を持たせるには「少なくとも1年かかる」(政府高官)ことがある(→まったく根拠無し)。それでは再稼働に間に合わない。
 枝野氏は12日の会見で「強制力を伴わない範囲で、各大臣の行政権限のもとでさまざまなことを行っている。特に原子力への国民の不信、不安が高い状況で、今の法律で実現可能なことを今回行った」と述べ、従来より厳しい基準の導入と、電力供給確保の両立を図った「苦肉の策」だったと認めた。 首相も12日の衆院復興特別委員会で再稼働の責任者が誰かを問われた際、「今の法体系で言えば経済産業相になるが、政治的には経産相、原発事故担当相、官房長官と私で最終的な判断を行う」と答弁し、政治判断で再稼働や運転継続を決めるとした。【毎日・影山哲也】

再稼働可否判断、期間は依然不明
 「安全評価」の評価手法や実施計画の大枠は固まったものの、原発の再稼働の可否を判断するために実施される1次評価にかかる期間は「電力会社が作成する調査報告書の中身次第」(原子力安全・保安院)とされ、明確には示されなかった。また、1次評価の後、最終的な再稼働の可否は菅直人首相と関係3閣僚が政治判断するため、どの原発がいつ再稼働できるかは依然として見通せない状況だ
 発電電力量の半分近くを原発が占める関西電力は、原発全11基のうち4基が定期検査で停止中。いずれも起動準備はほぼ整っており、「早々に1次評価を受けられる状態」(保安院)だ。管内の8月以降の需給が綱渡りなだけに「適切かつ迅速に対応したい」と再稼働を急いでいる。地元の了解が得られず、10日に予定していた再稼働を断念した伊方原発3号機を抱える四国電力も「(1次評価の通知があれば)一日も早く報告書を提出したい」と思いは同じだ。
 1次評価に向けて電力会社が提出した報告書は保安院が精査し、原子力安全委員会が確認する。しかし、それだけで自動的に再稼働できるわけではない。最終的に菅首相らが、安全性以外に地元の了解度なども加味して政治判断する再稼働のハードルは高い。今夏以降、電力不足が続く可能性はある。
 停止中の原発が再稼働できない状態が続けば、国内の全原発は12年3月末にはストップする。菅首相は「この夏、冬の必要な電力供給は可能」と言うが、裏付けには乏しく、経済産業省は需給逼迫(ひっぱく)が続くことを想定して、対応策の検討に入っている。【毎日・和田憲二】
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福島3、4号機の燃料搬出を優先 東電が従来計画を変更
 福島第1原発事故の収束に向けた作業のうち、水素爆発などで原子炉建屋が大きく壊れた3、4号機について、政府と東京電力は使用済み燃料プールからの燃料取り出しを優先するよう従来の計画を変更することが16日、分かった。がれき撤去やクレーン設置などの作業をするため、大気中へ放射性物質が拡散するのを防ぐ「建屋カバー」の設置は遅らせる(???)。
 また建屋内の汚染水の処理完了などの「中期的課題」は、最長3年程度と、期間のめどを初めて示す。事故収束に向けた工程表の「ステップ1」が終了し、19日に政府と東電が公表する新たな工程表には、こうした「ステップ2」以降の計画を盛り込む。 (共同)

浜岡原発真下に活断層 名古屋大教授指摘 室戸岬まで全長400キロ
 中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)の真下を通り、室戸岬(高知県)に延びる長さ四百キロの巨大な活断層が存在する可能性があることが、鈴木康弘名古屋大教授(変動地形学)らの研究で分かった。中電は独自の調査結果で活断層の存在を否定しているが、東日本大震災を受け、専門家らは耐震評価の見直しを訴えている。
 日本列島周辺の海底を調査した海上保安庁のデータを基に、鈴木教授と中田高広島大名誉教授らが二〇〇九年に詳細な海底地形図を作製し、研究を進めている。その結果、浜岡原発周辺の太平洋岸から室戸岬付近まで四百キロにわたり幅十~三十キロ、深さ三百~千メートルの海底のたわみ「撓曲(とうきょく)」を確認。「遠州灘撓曲帯」と名付けた。 撓曲は、もとは水平だった地形が、その地下にある活断層の動きで、できるとされ、「遠州灘撓曲帯」の地下には、同じ長さの活断層が想定される。
 鈴木教授は、浜岡原発の北東二キロにあり、段丘状に隆起している「牧之原台地」も、遠州灘撓曲帯を形成した活断層の動きによる地形と推測し、浜岡原発の真下に活断層がある可能性を指摘している。 中電は、浜岡原発の半径百キロ圏内の海域に十四の活断層があることは認めているが、音波探査の結果、遠州灘撓曲帯に対応する活断層はないとしている。 中電が把握している活断層の中で最も強い揺れを想定する「石花海(せのうみ)海盆西縁断層帯」は長さ三十四キロ。鈴木教授は「可能性のある断層は想定に入れるべきだ」と求めている。(東京新聞、7/17)

脱原発:弁護団が全国連絡会 大飯1号機で訴訟準備進める
 東京電力福島第1原発事故を受け、原発立地地域などの弁護士96人が16日、「脱原発弁護団全国連絡会」を発足させた。東京都内で同日開かれた初会合には50人が参加し、各地域の実情や今後の方針などについて意見交換。「日本から全原発を無くすまで訴訟などのあらゆる手段を尽くして闘う」ことを確認した。
 会合で、冠木克彦弁護士(大阪弁護士会)は、調整運転中に緊急炉心冷却装置(ECCS)系統にトラブルが発生した関西電力大飯原発1号機(福井県おおい町)の営業運転再開を認めないよう国に求める訴訟を起こす準備を進めていることを報告した。今週中にも大阪地裁に提訴するという。
 一方、連絡会代表の河合弘之弁護士(第二東京弁護士会)は当初、全原発の運転停止を求めて秋にも各地で一斉提訴する意向を示していたが、この日の会合後の会見では「各地域ごとにいろいろな事情がある」と述べ、一斉提訴は難しいとの見方を示した。【毎日・和田武士】
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