2009年11月25日水曜日

日本はアフガン和平貢献の中心に 各国代表らが提言

日本はアフガン和平貢献の中心に 各国代表らが提言
2009年11月25日

 アフガニスタンや周辺諸国の代表を招き、23日から都内で開かれていたアフガンの和解と平和に関する国際会議(主催・世界宗教者平和会議など)は最終日の25日、「アフガン和平構築で日本は中心的役割を果たすべきだ」などとする提言書をまとめ、岡田克也外相に手渡した。

 会議は、アフガンから反政府武装勢力タリバンとの和平交渉を担当するスタネクザイ大統領顧問らを招き、非公開で開催された。提言は、和平交渉進展に向けて、タリバンに一定の影響力があるとされるサウジアラビアのアブドラ国王らの協力を期待し、イスラム諸国の一層の関与を要求。

 タリバンメンバーが和解に応じて暴力を放棄すれば、タリバン幹部らの資産凍結を命じた国連安全保障理事会決議からメンバーの氏名を削除するよう国連に求めた。

 日本政府は既にアフガンへの50億ドル(約4500億円)規模の民生支援を表明しているが、これとは別に、提言を中長期的な和平貢献策に反映させる。(共同)

2009年11月21日土曜日

アフガン和平会議

23日からアフガン和平会議 東京で開催、貢献策を検討
2009年11月21日

アフガニスタンに和平を築く道筋を探る国際会議が23日から3日間の日程で、東京都内のホテルで開かれる。日本政府は既にアフガンへの50億ドル(約4500億円)の民生支援を表明しているが、会議の結果を日本の中長期的なアフガン和平貢献策に反映させる方針。

主催は「世界宗教者平和会議」(WCRP)などで外務省が協力。アフガン、パキスタン、サウジアラビア、イラン、欧州連合(EU)などの代表を招き、日本からは犬塚直史参院議員(民主党国際局次長)や伊勢崎賢治・東京外大大学院教授(元アフガン武装解除日本政府特別代表)らが参加する。

「参加者の安全を確保し、率直かつ自由な討議を保証するため」(WCRP)に会議は非公開だが、外交筋によると、アフガンからは反政府武装勢力タリバンとの和平交渉も担当するスタネクザイ大統領顧問らが参加する。(共同)

2009年11月2日月曜日

12/19 アフガニスタンの和平と復興を考えるトーク・イン

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12/19 アフガニスタンの和平と復興を考えるトーク・イン

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終わりなき「テロとの戦い」
破壊と混沌が広がるアフガニスタン

これまで何がまちがっていたのか
これから何をなすべきなのか
和平と荒廃からの復興のために

■2009年12月19日(土) 午後1時~3時半(開場 午後12時半)
■明治学院大学・白金キャンパス 2号館 2102教室

  東京都港区白金台1-2-37
  東京メトロ南北線/都営地下鉄三田線 「白金台」・「白金高輪駅」徒歩7分
  都営地下鉄浅草線 「高輪台」駅徒歩7分
  地図→http://www.meijigakuin.ac.jp/access/

■参加費 一般500円/明治学院大学生100円(事前予約不要)
■主催 〈NGOと社会〉の会/明治学院大学・国際平和研究所

Ⅰ部 「鳩山政権の新アフガン政策をめぐって 」
   ファシリテータ
     藤岡美恵子(〈NGOと社会〉の会)
   パネリスト
     犬塚直史(民主党参議院議員)
     服部良一(社民党衆議院議員)
     高橋清貴(日本国際ボランティアセンター[JVC])
  東澤 靖(明治学院大学・国際平和研究所)

Ⅱ部  NGOと会場参加者からのトーク・イン

●お問い合わせ
「12/19トーク・イン」と明記し、emailまたはファックスにて、下記までご連絡下さい(電話不可)。
〈NGOと社会〉の会(コーディネータ: 中野憲志)
(株)新評論編集部内 Email:yamada@shinhyoron.co.jp Fax:03-3202-5832

※〈NGOと社会〉の会とは、『国家・社会変革・NGO』(新評論)の出版を機に執筆者によって結成された有志グループです。

2009年10月11日日曜日

軍民一体の平和構築は平和を創造するか?~アフガニスタン「復興支援」を再考する~  

〈NGOと社会〉公開シンポジウム 第5回
軍民一体の平和構築は平和を創造するか?
~アフガニスタン「復興支援」を再考する~  


 2001年10月7日のアフガニスタンの空爆に始まった、対テロ戦争の勃発から丸八年。戦争は「テロ」を無くすどころか、より混沌とした世界へと私たちを引きずり込んできました。

 アフガニスタンにおいては、一度は政権を明け渡し、地下に潜ったタリバーンが徐々に勢力を回復し、首都カブールを再び制圧しかねない情勢になっています。こうした状況の中で、鳩山新政権は11月の日米首脳会談までにインド洋における給油活動に代わるアフガニスタンへの「民生支援」の具体案を取りまとめると発表しました。

 しかし、対テロ戦争と一体化したこれまでの復興支援に対する総括と反省の声は、残念ながら何も聞こえてきません。内戦による荒廃と混乱からアフガニスタンの本当の平和を取りもどすために、日本政府、市民社会、そしてNGOはこれからいかなる役割を果たすべきか? アフガニスタン現地において人道・復興支援に長年取りくんできた二つのNGOが、最新の現地情勢と米国の動向の分析を交えながら、発言します。

■ 日時  2009年10月24日(土) 14~17時
■ 場所  大阪経済法科大学・東京麻布台セミナーハウス
     東京都港区麻布台1-11-5 TEL 03-3582-2922
     地下鉄日比谷線 神谷町下車(E1出口)徒歩3分・都営大江戸線 赤羽橋駅下車 徒歩8分
    (地図→http://kenshu.e-joho.com/azabudai/map.html
■ 発言  福元 満治 (ペシャワール会・事務局長)
     「アフガン復興に必要なもの――26年間の支援活動で学んだこと
     高橋 清貴 (日本国際ボランティアセンター[JVC])
     「オバマ政権のアフガン政策を考える――NGOはどう動くべきか
■ コーディネータ  中野 憲志(先住民族・第四世界研究)
■ 参加費  500円(予約不要)
■主催  〈NGOと社会〉の会

****〈NGOと社会〉ニューズレター第5号 10月7日発行
(http://www.shinhyoron.co.jp/blog/?page_id=1697)
◇ 「戦争のテロルと平和のテロル」 中野憲志
◇ 「人災(戦乱)と天災(旱魃)の荒野で用水路を拓く」 福元満治
◇ 「日本はアフガニスタンで「平和構築」を進める資格と能力があるだろうか?」 高橋清貴
◇ 「バンドーラは悲しい味がする――占領下における開発援助の不可能性」 清末愛砂
◇ 書評・『人道的帝国主義』(ジャン・ブリクモン著) 藤岡美恵子

※シンポジウム・ニュースレターの問合せ先:
新宿区西早稲田3-16-28(株)新評論・編集部内〈NGOと社会〉の会
(TEL:03-3202-7391/FAX:03-3202-5832)

2009年9月16日水曜日

アフガニスタン: 政権交代の可能性

10%の投票所で不正発覚 カルザイ氏の過半数割れも
2009年9月16日 【カブール共同】

アフガニスタン大統領選で、不服審査委員会は15日、不正票があるとして再集計や調査の対象となっている投票所が、全投票所の約10%に当たる2516カ所に上ったことを明らかにした。同委は対象の票数を明らかにしていないが、数十万票となり、カルザイ大統領の得票が過半数を割る可能性がある。

8月20日投票の大統領選は当初、今月17日に確定結果が発表される予定だったが、選管は15日「再集計には時間がかかる。結果発表の日程を示すことはできない」としており、数週間単位で発表が遅れそうな情勢となっている。

選管はこれまでに全投票所の約92・8%(580万票)の集計を終え、現職のカルザイ大統領が再選に必要な過半数の約54・3%(約300万票)を得票している。再集計によってカルザイ氏の得票が大幅に減る可能性も否定できず、現時点の得票から約23万票減らし、過半数を割り込む事態となれば、上位2人による決選投票となる。

2位には得票率約28・1%(約156万票)で全国政党「国民戦線」のアブドラ元外相がつけている。アブドラ氏の得票も再集計の対象となる可能性がある。

大統領選は即日開票され、各開票所で集計報告を作成、首都カブールの集計所に送られてコンピューターで集約されている。不服審査委のこれまでの調査によると、集計報告では得票していないはずの候補への票が投票箱から見つかるなどした。

2009年8月16日日曜日

「国際の平和と安定」は殺戮の代名詞

「国際の平和と安定」は、殺戮の代名詞

民主党も「アフガニスタンの安定」を語り始めているが、ぼくたちが「安定」という言葉に込める意味と、国家が込める意味は違う。国連憲章や安保条約にある「国際の平和と安全」が、「国際の平和と安定」という表現に変わり、対テロ戦争やそれへの戦争協力が正当化されている。

「アフガニスタンの安定」という言葉は、「戦争継続・タリバーン殲滅」の隠喩である。「安定」のために殺されてゆく人々の死は、誰が責任を取るのか。誰が補償するのか。相手が「イスラーム原理主義者」で武装勢力であれば、何をやっても許されるのか。

対テロ戦争と一体化した「復興支援」は間違った政策である。その認識をどうやって広げてゆくか。それがぼくらに問われている。

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アフガン駐留英兵死者200人に 首相「戦闘継続」
2009年8月16日 【ロンドン共同】

英国防省は15日、アフガニスタンでの戦闘で負傷、英国で入院していた英兵が死亡し、アフガンで軍事作戦を開始した2001年以降の英兵の死者が計200人になったと発表した。ブラウン首相は「極めて悲劇的な知らせ」としつつ「アフガンを一層安定させることで、英国を安全にする」と述べ、反政府武装勢力タリバンとの戦闘を続ける必要性を強調した。

英軍は米軍に次ぐ規模の約9千人を派兵。死者数も米軍(780人以上)の次に多い。アフガンでは20日に実施される大統領選を前に、選挙妨害を宣言したタリバンが攻勢に出ており、米軍とともに掃討作戦を展開する英兵の死者は急増。7月は22人と過去最悪の月間死者数となった。

首都カブールでは15日、国際治安支援部隊(ISAF)本部前で自爆テロがあり、市民ら7人が死亡、ISAF兵を含む91人が負傷した。タリバンが犯行への関与を認めている。

2009年8月10日月曜日

民主党のアフガン政策を問う

民主党のアフガン政策を問う

 選挙が近づくにつれて、民主党は外交・安保政策における「現実主義」路線への傾斜を、ますます強めるよう
になっている。その表れの一つが、対アフガン政策の転換である。

 民主党は、今年の二月、「アフガニスタン安定化策」の素案なる文書を明らかにした。⇒アフガニスタンの和平、あるいは「平和構築」?をめぐる断章 No.2を参照。

 素案の要点は、「国連にも働き掛け、アフガンに軍隊を駐留させる米国など関係国と、反政府武装勢力タリバンの双方に戦闘停止を要請。アフガンとパキスタン国境地帯から米軍、北大西洋条約機構(NATO)軍、パキスタン軍が撤退、代わりに日本を含む複数国でつくる国際停戦監視団が現地に展開する構想だ。日本政府がホスト役となり、和平実現に向けた国際会議を東京で開催することも想定している。」というものだった。

 確かに、現在展開されている戦闘の停止を実現することは、容易なことではない。しかし、それがどのような形になるにせよ、タリバーンを含むすべての武装勢力と米軍、国軍、有志連合軍間の戦闘行為の停止と和平合意を模索する方向においてでしか、アフガニスタンの人々の平和な暮らしを回復する道を切り開くことはできないだろう。

 今月二〇日の大統領選までの間に、タリバーンや反政府武装勢力を虐殺し続け、一時的に勢力を弱体化させることはできるかもしれない。けれども、その後はどうなるのか。武装勢力を一人残らず殺すまで、対テロ戦争を続けてゆくというのだろうか。

 ブッシュ政権の対テロ戦争を継承し、カルザイ政権への軍事・経済援助の増大と米軍の大量増派を両輪とするオバマ政権の対アフガニスタン「包括的新戦略」が、イラクでそうあったように、ただ戦争の長期化をもたらし、一般市民や地方部の農民たちの犠牲を拡大することになるのは明らかである。だからこそ、困難ではあっても和平の模索が、あくまでも追求されねばならないと思うのである。

 結局、民主党は、自・公政権の下で推進されてきた「復興支援」をそのまま踏襲する、と言っているに過ぎない。自衛隊の派兵を当面は見送るにせよ、「民生、復興支援」の強化や「治安が比較的安定している地域への政府職員や民間人を中心とした人的貢献の拡充」は、すでに開始されている取り組みであって、そこに何の新しさもないといわざるをえない。

 政権交代がなければ、何も変らない。しかし、政権交代しても何も変らない・・・。少なくとも、安保やアフガン情勢に関する限りは、そう言えそうである。そうはならないように、ぼくらに何ができるか、それこそが問題である。

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対米外交、給油に代わり復興支援 民主党、オバマ氏に9月伝達
2009年8月9日

民主党は9日、衆院選での政権交代を前提にした対米外交の基本方針を固めた。インド洋で給油活動に当たる海上自衛隊を来年1月で撤退させる代わりに、アフガニスタン本土での民生、復興支援を強化。陸自派遣は見送り、治安が比較的安定している地域への政府職員や民間人を中心とした人的貢献の拡充を検討する。新首相就任を想定する鳩山由紀夫代表が9月の国連総会出席のための訪米時にオバマ大統領と会談し理解を求める。

民主党が掲げてきた(1)在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)削減(2)日米地位協定改定(3)米軍普天間飛行場の県外移転―の3項目についても、直ちに交渉入りは求めない。米国との「信頼関係の構築を優先」(鳩山氏)させる観点から、さらに「現実路線」へ踏み出したといえる。

直嶋正行政調会長は共同通信のインタビューで給油活動の代替策について「自衛隊をいきなり陸に上げるのは難しいが、民間を中心に民生部門で支援できることはある」と指摘。思いやり予算削減など3項目についても「いきなり交渉のテーブルに乗せて『変えてくれ』というようなやり方はとらない。まずは信頼醸成だ」と述べた。

前原誠司副代表も9日のテレビ朝日の番組で、「(米主導の)『不朽の自由作戦』(OEF)は泥沼化している。復興、民生支援に軸足を移す時に来ている」とした。

民主党は、アフガン安定化に向けて、道路、水道などのインフラ整備や、治安回復のためのアフガン国軍・警察の増強に対する人的、財政支援を検討。11月に予定されるオバマ大統領の来日時までに、給油活動の代替策としての支援メニューを詰める方針だ。(共同)

2009年7月30日木曜日

戦争のテロルと平和のテロル---アフガニスタン「復興支援」の欺瞞2

戦争のテロルと平和のテロル---アフガニスタン「復興支援」の欺瞞2

 10月に、アフガニスタンの「復興支援」と和平をもう一度考える、小さなシンポジウムを、今、準備している。ペシャワール会、日本国際ボランティアセンター(JVC)の人、そしてぼくが発言する予定になっている。そのシンポジウムに向けて、〈NGOと社会の会〉のニューズレター第5号の発刊も構想中である。

 これから、大統領選に向けた残り三週間、アフガニスタンではタリバーン掃討戦が強化され、それにともない、非戦闘員たる一般市民の犠牲がさらに広がることになるだろう。タリバーン=絶対悪=殲滅の等式が国際的に正当化され、対テロ戦争と共存した「復興支援」が、何の矛盾もないかのように行われていく。

 アフガニスタンの和平をどうするのか。「復興支援」をこのまま続けてよいのか。
 問題を整理するために、短い文章を書いた。

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戦争のテロルと平和のテロル

撞着語法としての平和構築

 対テロ戦争時代の平和構築は撞着語法である。戦争をしながら平和を構築することなどありえないからである。国連や日本政府がいう人間の安全保障も同じである。殺戮を容認、黙過しながら、人間の安全を保障するなんてできるはずがない。何という偽善、何という欺瞞が、平和の仮面をかむって世界を席巻していることか。

 ところが、国際法の迷宮と国際政治のアリーナに足を踏み入れると、なかなかそう正直(ナイーブ)には語れなくなる。なぜなら、国連憲章が謳う「国際の平和と安全」という大義名分があれば、国家の自衛権を発動した武力行使も、その国家を中心とした有志連合による集団的自衛権の行使も違法ではなくなってしまうからである。後になって、実は自衛権の行使が政権転覆(レジームチェンジ)を目的にしたものであったことが判明しても、それこそ後の祭りである。

 連合国の勝利宣言の場に国際社会が集い、和平が成立したということにして(誰と誰の?)、どこからか連れてきた人物に暫定政権をつくらせる。そして国際社会は、国家再建(復興)と銘打ち、対テロ戦争と一体化したその後の政治プロセスに平和構築や人間の安全保障を語りながら関与しはじめる。「国際の平和と安全」のために。それが自国の国益と安全保障にも適う、ということにして。

平和のテロル

 そこでは対テロ戦争は平和と対立するのではなく、その手段とされる。平和は多国籍軍によって強制され、維持されるものとなる。テロルを無化する何かではなく、平和そのものがテロルと化すのである。その瞬間に、国際政治の言語学では偽善や欺瞞は姿を消し、慈愛や誠実がとって代わる。世界の政治エリートが対テロ戦争を正当化、容認、黙過しながら、アフガニスタンの人々への慈愛を込め、誠実かつ真顔で平和を語りだす。その言葉に撞着語法、偽善、欺瞞はない、ということにして・・・。

 けれどもそこに生き、殺された人々、その家族にとって、テロルと化した平和ほど絶望的なものはない。たまったもんじゃない。だから、アフガニスタンに始まった対テロ戦争の勃発から丸八年目を迎えた今、戦争と同じくらい長く続いてきた平和構築・復興支援の歴史を、これからもそう呼び続けることがほんとうに妥当かどうかをも含め、検証し直したいと思うのである。

内戦から和平へ

 そのための導きの糸となる言葉は内戦である。なぜなら、もしも国際社会がアフガニスタンを内戦下の国であることを、ありのままの現実をみつめ認めたとしたら、「国家再建から経済発展へ」を合言葉にしたこれまでのいっさいの前提が崩れ、その抜本的な総括が余儀なくされるからである。そうすれば対テロ戦争と平和構築が撞着語法であるように、内戦と経済発展もそうであることがはっきりするように思えるのである。

 優先すべきは経済発展ではない。外国軍、国軍、すべての武装勢力間の戦闘行為の中止、外国軍の撤退である。そして現政権と武装勢力間の恒久的和平合意の実現、権力構造の再編、武装勢力の武装解除である。体裁を取り繕い、手続きを無理に整えるために過去に行ったことのすべてが失敗に終わったことを国際社会が実直に認める以外に、虐殺や抑圧と同時進行する平和のテロルからアフガニスタンの人々を解放する手立ては、少なくともぼくには見つけられそうにない。

 額に脂汗を滲ませながら、もう一度、一から議論し直すべき時を、今、ぼくらは迎えている。


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アフガニスタン:カルザイ政権、タリバンと戦闘激化
【マイダンシャー(アフガニスタン中部)栗田慎一】

アフガニスタンの武装勢力タリバンと米軍が激しくぶつかり合う中部マイダンワルダック州。8月20日のアフガン大統領選の妨害を宣言しているタリバンは、首都カブールの包囲網を急速に狭め、南接する同州の大半を掌握しつつある。カルザイ政権の「要所」として、戦闘を強化しながら対話による和解を探るという矛盾に直面している現場を見た。

 カブール市街から南西へ35キロの州都マイダンシャー。樹木のない丘陵地帯を武装ヘリが低空で飛び回り、地上では政府軍が通行車両を1台ずつ検査する。検査役の兵士は「タリバンの攻撃を防ぐためだ」と言った。

 タリバンは連日、州内で米軍や警察の車列を攻撃している。州警察幹部は「携帯電話を使った路上爆弾の遠隔爆破を防ぐため、外国軍は車両に電波妨害装置を備えた。するとタリバンは、地雷や有線爆破に変えた」と説明する。爆薬のほか、市販の液化ガスやガソリンも使われるという。

 州議会議員のガニ氏(54)は「2年前まで州内は平穏だったが、戦闘の激化で治安は悪化し貧困が拡大、タリバンの勢力拡大を支えた」と言う。拉致事件も増え、政府幹部の父親が拉致された事件では、幹部が高額な身代金を拒否すると切り取られた鼻や耳が送りつけられ、父親は殺された。「タリバンの狙いは恐怖支配。停戦と対話開始しか治安回復の道はない」と言い切る。

 米国は増派米兵約2000人を同州に追加配置し、住民に軍事訓練を施しタリバンと対峙(たいじ)させる民兵496人の育成を終えるなど戦闘強化を進めている。一方でフェダイ州知事(38)によると、州政府は和解担当局を新設し、宗教指導者らを通じてタリバン幹部らとの交渉に着手。選挙後の「本格対話」(カルザイ大統領)に備えている。

 知事は「二つの政策は矛盾しない。治安を乱す暴力をまず封じ込める必要がある」と強調しつつ、「州内の米軍指揮官には対話が必要だと説得し続けている」と打ち明けた。失業生活から脱するため民兵を志願したという男性(37)は、「本当は殺し合いなんかしたくない」と語り、「対話を求める候補者が当選したら、米国はどうするのだろうか」と問いかけていた。毎日新聞 2009年7月25日

2009年7月28日火曜日

民主公約---基軸は日米同盟?

民主公約---基軸は日米同盟?

 おそらく多くの人がそうであるように、政権交代が当たり前になるような政治が求められている、とぼくは考えている。実際、「ねじれ国会」の出現によって、それまでは考えられもしなかった多くのことが実現可能であることや、数多くのそれまで知らなかったこと、知らされていなかったことをぼくも学んだ人間の一人である。

 だから、今回の衆議院選でいえば、ぼくも民主党を中心とした政権ができるべきだと考えているし、それをぼくも支持したいと考えてはいるが、事が安保問題に及ぶと、民主党の安保政策はあまりに抽象的かつ矛盾に満ちていて、何ともつかみ所がない。

 「日米同盟」を「基軸」にしながら「国連を重視」するとは、具体的にどういうことか。その中身がないのが、どうにもフラストレーションをたまらせる。自・公政権の安保政策の何を変え、それによって何をめざそうとするのか。民主党に問われているのは、そのことを大胆に有権者に問うということではないか。

 社民党は民主党を「危ない」というが、これでは「大山鳴動して・・・」に終わりかねないような気がしてきたのは、ぼくだけだろうか?

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民主公約…基軸は日米同盟、地位協定改定盛る

民主党は外交について、「5つの約束」には盛り込まなかったが、直嶋政調会長は「重要政策との位置づけに変わりはない」としている。

日米関係については「日本外交の基盤として緊密で対等な同盟関係をつくる」と明記。日米同盟を基軸とする一方で、日米地位協定について「改定を提起する」とし、米海兵隊普天間飛行場移設問題など在日米軍基地のあり方に関しても「見直しの方向で臨む」とした。ただ、中止を求めてきたインド洋での海上自衛隊の給油活動については触れず、当面継続する方針に転じた。

北朝鮮問題では「核実験とミサイル発射は、わが国および国際の平和と安定に対する明白な脅威で、断じて容認できない」と訴え、「貨物検査の実施を含め断固とした措置を取る」と強調した。

国連については「国連を重視した世界平和の構築を目指す」としたが、日本の果たす具体的な役割についての言及は避けた。

アジア重視の外交姿勢を取る「鳩山カラー」を打ち出す具体策として、〈1〉東アジア共同体の構築〈2〉北東アジア地域の非核化――などを盛り込んだ。(2009年7月27日 読売新聞

2009年7月25日土曜日

ソマリア: PKOが内戦の当事者に---自衛隊と国連PKOの行方

ソマリア: PKOが内戦の当事者に---自衛隊と国連PKOの行方

日本のマスコミのソマリア報道は、そのほとんどが「海賊対策」と称した自衛隊の「派遣」、特に武器使用の規制(撤廃)をめぐる問題に集中している。

 そんな中、ソマリアの現政権と反政府武装勢力との戦闘行為に、アフリカ連合(AU)の平和維持軍が政府側に与し、武装勢力のアル・シャバーブと戦闘を行ったことが、二週間前の朝日新聞に掲載された。

 これをぼくらはどのように考えればよいのか。最も重要なことは、国連やAUなど地域機関のPKOの、いわゆる「政治的中立」原則が、なし崩し的破棄されてるようになっていることである。「イスラム武装勢力」や、「テロリスト」であれば、PKOが派遣先の国の内戦・紛争に、政府側に味方をして介入する、というパターンである。

 事実上の国連PKOであるアフガニスタンの「国際治安支援軍」(ISAF)が、中立的立場を踏み越えて、タリバーンとの戦闘を行ってきたことや、イラクにおける多国籍軍の役割も同じ性格の問題をはらんできたが、「PKO平和五原則」など、もはや通用しなくなっていることを、ぼくらはこうした事態の中に読み取ることができる。(ISAFは、一般に「国際治安支援部隊」と訳されるが、'force'は「部隊」ではなく「軍」と訳すほうが実態に即している。)

 下の朝日新聞の記事においても、PKOの武器使用の問題にこの問題が解消されているように読めてしまうが、そういうレベルの問題で済ましてしまって、ほんとうによいのだろうか。

 自衛隊が、国連PKOの名において、他国の内戦に直接介入する日が近づいている。

ソマリア AU平和維持部隊も交え戦闘、43人死亡
2009年7月12日【ナイロビ=古谷祐伸】asahi.com

ソマリアからの報道によると、首都モガディシオで12日、暫定政府軍とイスラム武装勢力との間で戦闘が起き、双方で少なくとも43人が死亡した。駐留するアフリカ連合(AU)の平和維持部隊も、暫定政府側に立って戦闘に加わったという。

 ロイター通信などによると、ソマリア南部を実質支配する武装勢力「シャバブ」が暫定大統領官邸から約1キロの地点まで侵攻したため、戦闘になった。暫定国会の議員によると、死者はシャバブ側が40人、暫定政府軍側が3人という。

 AP通信によると、AU部隊の戦闘参加は07年3月の駐留開始以来初めて。AU部隊は、無政府状態が続くソマリアで正式政府の樹立を目指す暫定政府を支援するため、大統領官邸の警護などに就いている。自衛にしか武力は使えず、今回は「部隊が直接の危機にさらされたため」(AU部隊報道官)としている。

2009年7月24日金曜日

民主党はどこへゆく? 民主党:日米地位協定の改定方針後退

民主党はどこへゆく? 民主党:日米地位協定の改定方針後退

 政権交代が現実性を帯びるにつれ、民主党の安保政策がブレてゆく。
 民主党は、八月末の選挙までの間に、今後さらに「現実主義」路線へと方向転換をはかるだろう。
 この国では、権力に近づけば近づくほど、強烈な安保の磁場に引き込まれ、その虜となってゆくのである。

 対米追随を批判していた民主党がどこまで対米追随路線に屈服するか。しっかり見定めたいものである。

民主党:日米地位協定の改定方針後退 「09年政策集」で

 民主党は23日、衆院選マニフェストの原案となる「09年政策集」を公表した。同党が目指す「より対等な日米同盟」の一環として主張してきた日米地位協定の改定方針を後退させ、「改定を提起する」の表現にとどめた。昨年10月に公表された政策集では「抜本的改定に着手する」としていた。

 政策集は、外務・防衛分野の冒頭で「新時代の日米同盟の確立」として「主体的な外交戦略を構築し、日本の主張を明確にする」「率直に対話を行い、対等なパートナーシップを築く」とうたった。その上で「日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方等についても引き続き見直しを進める」としている。

 民主党は08年4月、沖縄で頻発した米兵による事件を受けて社民、国民新両党と共同で地位協定改定案をまとめ、政府に実現するよう申し入れた。同年7月にまとめた「党沖縄ビジョン」でも「抜本的な地位協定改定を早急に実現する」と明記していた。

 岡田克也幹事長は23日、群馬県太田市内で記者団に、日米関係について「地位協定の問題などいろいろあるが、全部机に並べてどうだということはない」と強調した。「まず鳩山(由紀夫)首相とオバマ大統領の信頼関係を作る」とも述べ、政権交代後直ちには地位協定などの具体的懸案は交渉せず、首脳同士の関係の構築を優先させる考えを示した。

 一方、政策集では沖縄県への配慮も示した。鳩山代表が最も重視する「地域主権」で打ち出した「ひも付き補助金の廃止と一括交付金化」では、「まず沖縄県をモデルとして取り組む」と明記。沖縄県に多い米軍基地がある市町村からは、基地関係に使途が決まった補助金ではなく、使途が自由な交付金を求める要望が根強く、こうした声に配慮したとみられる。【上野央絵】

◇日米地位協定
 日米安保条約に基づき在日米軍人・軍属の日本での法的な地位を定めて60年に締結された。米兵が日本国内で事件や事故を起こした場合、起訴まで日本側に身柄を引き渡さなくてもよいとするなど、日本側の捜査の障害となってきた。沖縄県で95年に起きた女児暴行事件を契機に運用での改善はあったが、改定されたことはなく、同県など基地がある自治体には抜本的な改定を求める声が根強い。毎日新聞 2009年7月23日 

2009年7月21日火曜日

日米安保50年に新文書?

日米安保50年に新文書?

 読売新聞によると、来年の日米安保50年に際し、米国は安保をめぐる新たな「文書」をまとめる意向だという。
 しかし、日米いずれかの意思次第で、安保条約は「終了」できるはずである。だから、改定安保半世紀にあたり、まず日本として検討しなければならないのは、安保条約をいつまで結び続けるのか、その「国民的議論」を起こすことではないのか。

 安保が永遠に続くはずはないし、続くてよいはずもない。だから、いまは安保を支持する人々も含め、いったいいつまで安保条約を延長するのか、その議論が必要だと思うのである。
 安保が無期限に「自動延長」されるかぎり、ぼくはこのことを問い続けたいと思う。

日米安保50年に新文書…米国務次官補が意向表明

 来日中のカート・キャンベル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は17日、都内の米大使館で記者会見し、日米安保条約締結50周年にあたる2010年に、同盟関係の深化を図るための文書を日米両政府でまとめる意向を表明した。

 キャンベル氏は、1996年の「日米安保共同宣言」に続く新たな文書をまとめるための日米協議は「次期衆院選まで待たなければならない」としたうえで、米国としては新たな文書に、〈1〉同盟が他国の平和と安定のために成し遂げた実績の確認〈2〉同盟の現状と課題の点検〈3〉気候変動問題など、同盟が対処すべき新たな課題の設定――の3点を盛り込む考えを示した。

 また、キャンベル氏は米国が日本に提供している「核の傘」に関し、日米両政府が定期的な協議開始で合意し、18日に都内で開く日米安全保障高級事務レベル協議で初めて正式な議題として取り上げる方針を示した。日本の核武装については、「日本の国益にもアジア太平洋地域の平和と安定の維持にもつながらない」と否定的な考えを示した。(2009年7月18日 読売新聞

2009年7月16日木曜日

で、民主党は安保をどうするのか?

で、民主党は安保をどうするのか?

民主党の「政権公約」が公表された。報道されたところによると、

「外交・安全保障では日米を「対等で相互的な同盟関係」と定義し、日米地位協定の抜本的な改定を提案。
海上自衛隊のインド洋での給油活動停止は盛り込まない。日本人拉致問題は「国の責任で解決」と約束した」(共同)、ということらしい。

で、民主党は安保をどうするのか。安保の無期限自動延長をどうするのか。安保が無期限に延長されて、「対等で相互的な同盟関係」がつくれるのか、日米関係を「同盟」と定義する根拠は何か。

 一方、自・公政権は、まもなく政権交代する可能性があるというのに、「新日米安保共同宣言」を政権末期のドサクサに紛れて強行しようとしている。これを野党、民主党はどうするのか。

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日米「新安保共同宣言」に向け協議へ 
2009年7月16日

日米両政府はテロなど世界規模の課題に対応するため、新たな「日米安保共同宣言」に向け協議する方針を固めた。16日に来日するキャンベル米国務次官補らと協議を始める。米国の「核の傘」から地球温暖化対策を含む広範な分野で日米同盟の拡大・強化を図るもので、日米同盟を「礎石」とするオバマ米政権の東アジア戦略を具体化するものとなる。

協議では、米国が核抑止戦略を説明。テロ対策、ミサイル防衛(MD)での日米協力や、日本の新たな「防衛計画の大綱」の検討作業、米国の国防戦略見直し(QDR)、米軍再編も議題となる見通し。北朝鮮など地域情勢でも意見交換する。

オバマ政権になって米国が地球温暖化対策で積極方針に転じたことから、この問題でも連携の強化を模索する。

新宣言は、現行の日米安全保障条約が締結されて50周年を迎える2010年にまとめる方針。現在の日米安保共同宣言が合意された1996年以降に生じた「テロとの戦い」など、新たな安全保障環境に対応した日米安保の再定義を目指す。外務省幹部は「最初の協議なので、テーマや枠組みなど協議の前提について意見交換する」と話している。

オバマ大統領は今年2月のワシントンでの日米首脳会談で、日米同盟は「東アジアの安全保障の礎石だ」と指摘。クリントン政権下で現在の共同宣言をまとめたキャンベル氏を、東アジア・太平洋担当の国務次官補に指名していた。

日米安保共同宣言 1996年4月に当時の橋本龍太郎首相、クリントン米大統領の首脳会談で発表された、冷戦後における日米安保を再定義した文書。日米安保は21世紀に向けたアジア・太平洋地域における安定の基礎と位置付けている。日本周辺事態での日米協力の研究を促進することを定め、これを基に99年に周辺事態法が制定された。(中日新聞)

2009年7月2日木曜日

自衛隊が「国連待機制度」(UNSAS)に参加--- 「PKO参加五原則」の終わりの始まり

自衛隊が「国連待機制度」(UNSAS)に参加 
「PKO参加五原則」の終わりの始まり


麻生首相:「国連待機制度」参加を初表明 潘国連総長に

潘基文国連事務総長(左)との共同記者発表を行う麻生太郎首相=首相官邸で2009年7月1日午後7時54分、梅村直承撮影 麻生太郎首相は1日夜、来日中の国連の潘基文(バン・ギムン)事務総長と首相官邸で会談した。2回目の核実験を強行した北朝鮮について、北朝鮮の核保有を認めず、追加制裁を盛り込んだ国連安保理決議1874の着実な実施が重要との認識で一致した。

 首相は、自衛隊の国連平和維持活動(PKO)に関し「PKOにより積極的にかかわる」ため、「国連待機制度」(UNSAS)に参加する考えを初めて表明した。PKOの機動性を高めるため加盟国が事前に派遣可能な要員規模などを登録しておく制度で、日本は未参加だった。医療や輸送、通信など後方支援6分野で登録・活動する。

 会談後の共同会見で潘氏は、日本の地球温暖化対策の取り組みについて「12月の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)の合意は、日本の支援なしでは考えられない。大胆で積極的な役割を期待している」と要望した。【中澤雄大】毎日新聞 2009年7月1日 

2009年6月28日日曜日

麻生首相、「強固な日米同盟」へ決意?

 麻生首相が「強固な日米同盟」に向けた「決意」を示す「演説」を行うという。
 有権者の八割近くが支持をしておらず、解散権のみを印籠に権力の座にしがみつく人間が何を言っても誰も聞く耳を持たないだろう。
 しかもその「演説」とやらは、予め内容が透けて見えるような代物だ。虚しい思いを通り越して、「痛い」感じがする。

首相が30日に外交演説 強固な日米同盟へ決意
2009年6月27日

麻生太郎首相は30日に都内で行う外交政策演説で、不安定な東アジア情勢に対処するため強固な日米同盟を構築する必要性を訴え、日米韓3カ国の緊密な連携により北朝鮮の核・ミサイル、拉致問題の早期解決を目指す決意を表明する。

当初は持論の「自由と繁栄の弧」構想に基づく中央アジア各国への支援強化を演説の柱に据える予定だったが、早期の衆院解散・総選挙をにらみ内容を変更、自民党と民主党の安保政策の違いを前面に打ち出す考えだ。

民主党の政権公約(マニフェスト)に日米地位協定の見直しやアジア重視が盛り込まれる見通しとなったのを受け、「民主党では北朝鮮の核・ミサイル、国際テロといった脅威から日本を守れないと訴える方が得策」(官邸筋)と判断したようだ。地球温暖化対策や核軍縮など国際的課題で日本が主導権を発揮していく決意も示す。

首相は演説で、民主党の小沢一郎代表代行(前代表)が「米国の極東におけるプレゼンス(存在)は第7艦隊だけで十分」と発言したことをあらためて批判し、日米同盟をより高いレベルに引き上げる必要があると強調する。(共同)

2009年6月26日金曜日

アフガニスタン: 「復興支援」の欺瞞1

アフガニスタン: 「復興支援」の欺瞞1

 八月のアフガニスタンの大統領選挙を前に、「治安回復」の名の下に、アフガニスタンとパキスタン両国にまたがるタリバーン掃討戦が激化している。すでにパキスタンでは軍の公式発表で1600人にのぼるタリバーンや武装勢力が殺され、250万人ともいわれる難民がでている。

 このさなか、日本の「文民チーム」がアフガニスタンの地方復興チーム(PRT)の活動に本格的に乗り出した。けれども、全面的な内戦状況を呈するアフガニスタンにおける「復興支援」とは、いったい何のか。

 そもそも、「文民チーム」とは何か。「武装」をしなければ外務省に出向した自衛隊員も「文民チーム」に入ることになるが、「文民チーム」の定義、実態があまりに不透明だ。

 「文民チーム」と自衛隊との関係はどうなっているのか。いずれは武装した自衛隊のPRTへの派兵が目論まれており、「文民チーム」派遣はその布石にすぎないが、総選挙、イラン、北朝鮮報道にかき消され、このことがはらんでいる問題性は何も報道されていない。

 内戦、つまり戦争をやりながら「復興」する?
 いろんな嘘、欺瞞、ペテンがある。情報操作と意識操作がある。
 まずは、読売新聞の下の記事を読んで考えてほしい。  

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アフガニスタン、日本文民チームが復興支援開始
2009年6月26日 読売新聞

アフガニスタンで、地方復興の一翼を担う日本チームの活動が始まった。これまで外国の援助が行き渡らなかったアフガン中西部に、日本の文民4人が派遣された。

日本人がアフガンでの地方復興チーム(PRT)に入り、支援に参加するのは、これが初めて。国際社会貢献の新たな形となる。

◆「村の悲願」◆

褐色の丘陵に囲まれた山道を、機関銃を備えた装甲車を先頭とした6両が土煙を舞い上げて走る。泥造りの民家が並ぶ集落で停車すると、この地域で治安維持にあたるリトアニア軍の兵士7人が車外に飛び出し、警戒態勢に入った。

「OK」 停車から1分後、外に出た兵士の合図で、ワイシャツ姿の官沢(かんざわ)治郎さん(35)と、頭にスカーフを巻いた石崎妃早子(ひさこ)さん(31)が降り立った。ゴール州の州都チャグチャランから約25キロ・メートル離れたマデラサ村。日本がPRT参加で初の事業として手がける女子小中学校の建設予定地だ。2人は、外務省職員として派遣された。

村には「青空教室」しかなく、「女の子だけでも屋根の下で授業を受けさせたい」と8年前から州政府に陳情していた。これを知った日本チームは予算を検討、日本政府の承認を経て地元の民間活動団体(NGO)に建設を依頼する。

迷彩服の兵士が銃を携える姿に、官沢さんは「兵士と行動することが、住民への圧迫になっていないかという心配はある」と話すが、村の期待は大きい。村民の多くは日本を「裕福な国」として知っていたが、日本人を見るのは初めてという。村民のザイ・フセインさん(45)は「学校建設は村の悲願。日本人が来てやっとかなえてもらえる」と言う。石崎さんは「秋までに医療所建設など3か所の支援を実施したい」と意欲を語る。

◆兵士と寝食ともに◆

視察を終えた2人の帰路、車列がとまる度に子供らが集まってきた。兵士が配る菓子目当てで、奪い合いも起きた。官沢さんは「子供が単純に喜ぶものではなく、絵本を配布するなど別の方法で住民に近づきたい」と話した。

石崎さんらは、高さ約10メートルの土のうに囲まれる基地で、リトアニア軍の指揮下に入り、兵士約200人と寝食をともにする。食事などは軍が提供し、日本は文民1人当たり1日約50ドルをリトアニアに支払う。兵士は2人部屋だが、文民には1人1部屋が与えられる。トイレ、シャワーなどは共用だ。石崎さんらは、ここで約2年間にわたって、このような活動を繰り返す。

日米など7か国の国旗や国際治安支援部隊(ISAF)の旗が基地にはためいていた。ISAF兵らの死亡を意味する「半旗」だった。比較的安定しているゴール州だが、住民の襲撃事件や路上爆弾で軍車両が破壊される事件も起きている。日の丸を見上げ、官沢さんは「旗が普通に揚がったのは1日しかありません」とつぶやいた。(アフガン中西部ゴール州チャグチャランで、酒井圭吾)

民主党と安保---民主党は米軍再編を阻止できるか

米軍再編巡り激論 民主・岡田幹事長と米国防次官

民主党の岡田克也幹事長は25日午前、党本部で米国のフロノイ国防次官と会い、在沖縄米海兵隊のグアム移転や米軍普天間飛行場の移設などを巡って激しく応酬した。

会談は米側が申し入れた。同飛行場の沖縄県外移転など民主党の主張を念頭にフロノイ氏が「米軍再編を進めることは日米両国の合意だ」とクギを刺すと、岡田氏は「日米関係は64年前の過去を引きずっている」と反論。日米地位協定を巡っても「公平ではない。日米関係を長期的に安定させるために改善しなければいけない」と譲らなかった。 (日本経済新聞)

参考ブログ
マスコミはなぜ野党に対してフェアーな報道をしないのか

猫の首に鈴をつけるのは誰か---小沢発言の波紋

資料ブログ 小沢発言の波紋

2009年6月25日木曜日

アフガン米基地で虐待

「今更かよ」という感は否めないが・・・

アフガン米基地で虐待とBBC 拘束のタリバンメンバーら
【イスラマバード25日共同】

英BBC放送は24日、アフガニスタンのバグラム米空軍基地で拘束された経験のある反政府武装勢力タリバンなどのメンバー27人にインタビューした結果、同基地で殴打や睡眠妨害、犬をけしかけるなど拘束者への虐待が行われている疑いがあると報じた。

証言が事実ならば、オバマ米政権はキューバのグアンタナモ米海軍基地のテロ容疑者収容施設閉鎖を決め、過酷な尋問を禁じているだけに、処遇改善を迫られそうだ。米国防総省はBBCに対し虐待疑惑を否定した。

インタビューでは、2002年から08年に同基地で拘束された27人に同じ質問をした。窮屈な姿勢を強制されたり、水責めを受けたり、女性兵士の前で服を脱がされるなどの虐待行為を受けたことが共通していた。1人は「冬には冷水を、夏には熱湯を掛けられ、銃を頭に突き付けられて脅された」と証言。「動物にさえしないようなことを、彼らは人間に対して行った」と述べた。

2009年6月22日月曜日

ソマリア 非常事態宣言!

ソマリア:暫定政府が非常事態宣言 反政府勢力と戦闘激化
【カイロ和田浩明】東京新聞

ソマリアで暫定政府軍と急進的イスラム組織「アルシャバブ」など反政府勢力の戦闘が激化し、ロイター通信によると暫定政府は20日に非常事態を宣言、国会議長はエチオピアなど周辺国に支援の軍隊急派を要請する異例の声明を出した。AFP通信によると、首都モガディシオでは大統領宮殿の3キロまで反政府勢力が接近、戦闘を避けて数千人の住民が脱出した。

ソマリアでは5月初旬から、南部を拠点とするアルシャバブなどが暫定政府軍への攻勢を強めており、民間人を含む約300人が死亡し、12万5000人が避難民となった。18日には中部ベレドウェインでアデン治安相が自爆テロで殺害され、19日にもモガディシオ北部で国会議員が銃撃され死亡するなど、政府幹部にも犠牲が相次いでいる。ヌール国会議長は20日の声明で、周辺国に24時間以内の軍隊派遣を要請。パキスタンなど外国人勢力がアルシャバブに加わっており、周辺国の軍事支援がなければ「地域全体の問題になる」と警告した。

ソマリアには06年から今年1月まで暫定政府支援のためエチオピア軍が駐留していたが、エチオピア政府は「国際的承認が必要」(政府報道官)と慎重姿勢を見せている。しかし、エチオピア国境に近いベレドウェイン近郊の住民らはAFP通信などに「エチオピア軍部隊が近くまで来ている」と語っている。

ロイター通信によると、ケニア政府は事態を座視できないとの姿勢だが、実際に部隊を派遣するかどうかは不透明だ。ソマリア国内にはアフリカ連合(AU)の平和維持部隊約4300人が駐留しているが、政府機関や要人の警護などが主任務。毎日新聞 2009年6月21日 

海賊対処、洋上給油…増える活動 護衛艦8隻 海外へ
2009年6月21日

ソマリア沖の海賊対処、インド洋での洋上補給など、海上自衛隊の海外活動が目立っている。艦艇の交代時期となる七月には、八隻の護衛艦が海外に派遣される。有事に活動できる護衛艦の半数に当たり、本来任務の「国防」への影響を心配する声も出ている。

「護衛艦不足」の影響は既に表れており、毎年六月、米国での訓練に派遣する護衛艦は、例年の二隻から初めて一隻に減らされた。海外に出た艦艇の穴を埋める国内部隊の負担は大きい。海外活動中の護衛艦は、海賊対処二隻のほか、洋上補給、遠洋航海、派米訓練で各一隻の計五隻。海賊対処と洋上補給に当たる艦艇の交代がある七月には、重複派遣となり、八隻の護衛艦が日本周辺から離れる。

海上自衛隊は計五十二隻の護衛艦を保有している。修理、錬成、任務のローテーションが確立しているため、直接の任務に当たるのは三分の一だ。国防に不可欠な隻数のはずだが、次々に海外に送り出されている。

海外派遣の影響は、インド洋の洋上補給が始まった二〇〇一年から目立つようになった。〇二年以降、米海軍が主催する環太平洋合同演習(リムパック)に参加する護衛艦は、それまでの八隻から四隻に半減。さらにイージス艦情報の漏えい事件や「あたご」の衝突事故などの不祥事が相次いだ。

海自は昨年十二月、抜本的な改革案をまとめ、問題の背景にある「多すぎる任務と人不足」の解消を打ち出したが、その直後からソマリア沖の海賊対処が始まった。赤星慶治海上幕僚長は「海外任務は間違いなく増えている。(国防のための)国内態勢を整えていきたい」としている。北朝鮮の核実験をめぐる国連決議を受けた船舶検査でも、自民党からは「護衛艦を活用すべきだ」との意見が出ている。海自の「自転車操業」状態は続きそうだ。

2009年6月20日土曜日

ソマリア沖 活動終了見えぬまま 海賊対処法成立

ソマリア沖 活動終了見えぬまま 海賊対処法成立 第2陣に準備命令
2009年6月20日 東京新聞


自衛隊による海賊対策を随時可能とする海賊対処法が十九日成立したことを受け、浜田靖一防衛相は同日午後、アフリカ東部ソマリア沖アデン湾で活動中の海上自衛隊護衛艦と交代する第二陣部隊の派遣準備を自衛隊に発令した。同法成立で自衛隊による海賊対策は法的根拠が整ったが、活動終了の「出口」が見えないままの船出を余儀なくされる。

海賊を取り締まるべきソマリアは国家崩壊状態。今年のソマリア沖での被害はすでに昨年を上回るなど、活動は収まる兆しがない。国連などによる復興支援も進んでおらず、外務省幹部は「ソマリアが復興しない限り、派遣はいつまでも続くが、日本が復興を支援しようにも手が出せない状態」と話す。

さらに海賊対処法では、自衛隊法の海上警備行動では認められていない日本に無関係の外国船も護衛対象。武器使用基準を一部緩和し、警告射撃にもかかわらず民間船に接近する海賊船への船体射撃も認められる。麻生首相は「戦闘に巻き込まれる可能性はなきにしもあらず」と述べており、海賊との交戦の可能性をはらんだ派遣となる。 (三浦耕喜)

2009年6月19日金曜日

内戦的様相深めるソマリア情勢

自爆テロで閣僚ら25人死亡 ソマリア、急進組織の犯行
2009年6月19日

【カイロ18日共同】ロイター通信などによると、ソマリア中部ベレドウェインのホテルで18日、自動車を使った自爆テロがあり、アデン治安相を含む25人が死亡した。ソマリアでのテロとしては最悪の規模という。

ソマリアでは南部を中心とした地域を支配する急進的イスラム組織アッシャバーブと、暫定政府軍の激しい戦闘が続いており、今回のテロについてアッシャバーブ報道官が地元ラジオに犯行を認めた。アッシャバーブは国際テロ組織アルカイダとの関係が指摘され、暫定政府のアハメド大統領の打倒を呼び掛けている。

アハメド大統領はテロを厳しく非難。戦闘の指揮を執っていた治安相が死亡したことは暫定政府に打撃となりそうだ。ソマリアからの報道では、治安相は地元長老らとの会談を終え、ホテルを出るところで、同行していた暫定政府の前駐エチオピア大使も死亡した。

海賊対処法案が成立へ 年金、税制法案も
2009年6月19日

ソマリア沖などの海賊対策で自衛隊の随時派遣を可能にする海賊対処法案が19日午後の衆院本会議で、自民、公明両党など出席議員の3分の2以上の賛成多数で再可決、成立する。この後、国民年金法改正案と2009年度補正予算関連の税制改正法案も同本会議で再可決、成立。

政府、与党は、北朝鮮を出入りする船舶の貨物検査を可能にする新法成立にも意欲を見せるが、衆院解散のタイミングを控え情勢は不透明。延長国会の焦点は解散のタイミングに移る。3法案はこれに先立ち、参院本会議で野党の反対多数で否決。参院で否決された法案が衆院の再可決で成立するのは、3月の09年度予算関連4法以来で、今国会では計8本となる。

政府、与党が成立を目指す補正予算関連法案のうち日本学術振興会法改正案も19日の参院本会議で成立。改正商工組合中央金庫法は成立しており、残る日本政策投資銀行法改正案など2法案も26日成立の見通しだ。

海賊対処法案は護衛対象を日本に関係のない外国船にまで拡大し、武器使用基準も一部緩和する。成立で、政府は自衛隊法に基づきソマリア沖に派遣している海上自衛隊護衛艦などの法的根拠を切り替える方針。

国民年金法改正案は、基礎年金の国庫負担割合を現行の3分の1強から2分の1に引き上げる。09、10両年度の財源を財政投融資特別会計の「埋蔵金」で賄う。税制改正法案は、住宅投資資金を対象に10年末まで贈与税の非課税枠を500万円上乗せする。(共同)

海賊対策法根拠に7月下旬始動 自衛隊2次隊(朝日新聞)

2009年6月12日金曜日

アフガン、攻撃過去最悪に 米軍増派でさらに激化へ

アフガン、攻撃過去最悪に 米軍増派でさらに激化へ
【ワシントン11日共同】

ペトレアス米中央軍司令官は11日、ワシントンで講演し、アフガニスタンでの武装勢力による攻撃が過去1週間で400件を超え、2001年に米軍などの攻撃でタリバン政権が崩壊して以来、最悪のレベルに達したことを明らかにした。

司令官は、米軍の増派が進み、反政府武装勢力タリバンなどの掃討作戦が拡大するにつれ、戦闘が激しくなると予測し「厳しい時期が待ち受けている」と述べた。

ロイター通信はアフガンに駐留する国際治安支援部隊(ISAF)の報告書の内容として、今年1月から5月までの攻撃件数が5222件で、昨年同期の3283件から59%増加したと伝えた。

司令官によると、アフガニスタンに駐留する米軍は昨年末の3万2千人から、既に5万6千人に増強された。秋までに6万8千人になる見通しという。

2009年5月22日金曜日

パキスタンにおける人道危機

グテーレス、パキスタンにおける人道危機を警告
-避難民の数が90万人を超える


UNHCRイスラマバード、パキスタン(15日)発:
パキスタン北西部で行われている紛争による避難民が100万人目前となったことを受けて、グテーレス国連難民高等弁務官は15日、訪問先のイスラマバードで、国際社会の迅速かつ大規模な人道的対応が求められるとの意向を示した。

「UNHCRは、パートナーたちと拡大する人道的ニーズに対応すべく、出来る限りのことを行っている。しかしながら、5月2日以降、避難民は100万人近くも増え、私たちが直面する課題は山積みだ」とグテーレス高等弁務官は述べた。

このような大規模な避難民の発生は、パキスタンの不安定化につながるのではないかという記者の質問に対し、グテーレス高等弁務官は「この地域は、地政学的見地をないがしろにできる地域ではない」「短期間に非常に多くの避難民が発生した。現在、その多くは避難民キャンプではなく、親戚や知人を頼りに避難し、社会的、経済的プレッシャーが双方に立ちふさがっている。今後、避難民や、受け入れてくれている双方が、速やかに国際的支援を受けることができなければ、その時は、さらなる治安の不安定化が現実のものとなる可能性が高まる」と答えた。

UNHCRはこのパキスタン北西部における人道危機において、シェルターや救援物資を速やかに配布するなど、国連合同の取組みの中で対応してきた。

12日には、蚊帳1万張、緊急シェルター用ビニールシート14,000枚、壁や間仕切りとなるビニールロール1,500個、組み立て式倉庫2基など、120トンの緊急支援物資をドバイから追加的に空輸した。

2009年5月20日水曜日

難民200万人! 殺戮と「人道支援」

米がパキスタンに96億円支援 北西部避難民対策で
2009年5月20日【ワシントン19日共同】

クリントン米国務長官は19日、ホワイトハウスで記者会見し、イスラム武装勢力との戦闘が続くパキスタン北西辺境州スワト地区の避難民対策として、約1億ドル(約96億円)の人道支援を行うと表明した。

長官は同日、ワシントンの外国人記者センターでも記者会見し「国際社会が手を差し伸べれば、パキスタンは必ず(人道的な)難題を乗り越えられる」と支援の重要さを強調。米国が求め続けてきた掃討作戦の結果、パキスタンが不安定化することは避けたいとの考えをにじませた。

パキスタン政府は、スワト地区の武装勢力と2月に結んだ和平合意を今月7日に破棄し、アフガニスタン旧政権タリバンに近い武装勢力の掃討作戦を本格化。クリントン長官によると戦闘を逃れるため避難生活を送る住民は約200万人に上っており、避難民キャンプの収容能力が追いついていない状況が続いている。

ホワイトハウスによると、食料やテントなど約1億ドル分の支援を国務省が担い、国防総省が給水車の提供などで約1000万ドルを支援する。

アフガニスタンの和平と対テロ戦争 資料2へ

2009年5月13日水曜日

パキスタンの避難民130万人!!

パキスタンの避難民130万人に 
イスラム武装勢力掃討作戦で

【2009年5月12日 イスラマバード12日共同】

パキスタン軍は12日、同国北西辺境州スワト地区や周辺でのイスラム武装勢力掃討作戦で、昨年8月から現在までに避難民となった住民が約130万人に上ったと発表した。

今回の作戦を開始した4月末以降、武装勢力751人を殺害、兵士29人が死亡したという。軍報道官のアバス少将は会見で、避難できずにいる住民が10万-20万人いると指摘。トラックを用意して救出を進めているとしている。

スワト地区では昨年6月、政府が米国の圧力で掃討作戦を開始。報復の自爆テロや学校爆破が相次ぎ、今年2月に和平合意した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も100万人以上が避難民になっていると発表している。

2009年4月30日木曜日

中央即応連隊と集団的自衛権の行使

中央即応連隊と集団的自衛権の行使

中央即応連隊を派遣 ソマリア
陸自 哨戒機警護40人、編成後初の任務

2009年4月24日 東京新聞

ソマリア沖の海賊対策に関連して、アフリカのジブチに派遣される陸上自衛隊の部隊は海外活動を専門とする中央即応集団直轄の中央即応連隊(宇都宮駐屯地)となることが二十三日、分かった。二〇〇八年三月に新規編成されて以来、中央即応連隊が実任務に就くのは初めて。

五月にジブチ空港に派遣され、アデン湾の洋上監視を開始するP3C哨戒機二機の機体を警備する。派遣されるのは中央即応連隊の一個小隊(約四十人)。〇七年十二月、自衛隊の海外活動が本来任務に格上げされたのを受けて、優秀な隊員ばかりを集めた「オールスター派遣」(陸自幹部)をやめ、常設部隊を送り込むことになった。

持参する武器は駐屯地警備で使用するのと同じ小銃、拳銃のほか、機関銃も検討。「正当防衛・緊急避難」を根拠に武器使用し、P3C哨戒機を防護する際の発砲は、自衛隊法九五条の「武器等を防護するための武器使用」を適用する。

ジブチ空港には米軍のほか、フランス、ドイツ、スペイン軍の哨戒機も置かれているが、自前で機体警備を行わない軍もある。火箱芳文陸上幕僚長は二十三日、「陸上自衛隊には海外活動の知見があり、海上自衛隊を補完できる」と派遣の意義を強調した。

中央即応連隊はテロ・ゲリラに対応する中央即応集団の直轄部隊として〇八年三月、宇都宮駐屯地に編成された。隊員は約七百人。本部管理中隊のほか、三個中隊がある。隊員は格闘術や体力に優れた精鋭を集めた。
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麻生首相 集団的自衛権行使の解釈変更を本格検討へ
4月24日産経新聞

麻生太郎首相は23日、安倍晋三首相(当時)の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)で座長を務めた柳井俊二元駐米大使と首相官邸で会談し、集団的自衛権の行使を違憲とする現行の政府解釈について意見を聞いた。北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射や、海上自衛隊による海賊対策の本格化を受け、集団的自衛権を行使できるように解釈変更が必要な状況が差し迫っていると判断したとみられる。首相が解釈変更に踏み切れば、日米同盟の強化や国際貢献に向け、大きな一歩を踏み出すことになる。

会談には、柳沢協二官房副長官補(安全保障担当)も同席した。柳井氏は安保法制懇の議論の経緯をたどりながら、解釈変更が喫緊のテーマであることを説明したという。会談後、首相は記者団に対して、「安保法制懇の話がそのままになっているので話を聞いた。長い文章なので勉強しなければならないと思っている」と解釈変更に前向きな姿勢を示した。再議論の必要性については、安保法制懇が平成20年6月に報告書を福田康夫首相(当時)に提出していることを踏まえ、「きちんとした答えは作られており、内容もまとまったものがある」と述べた。

安保法制懇の報告書は、
(1)公海における米軍艦艇の防護
(2)米国を狙った弾道ミサイルの迎撃
(3)国際的な平和活動における武器使用
(4)国連平和維持活動(PKO)での他国部隊の後方支援-の4類型について、集団的自衛権の行使を認めるなど政府解釈を変更すれば、現憲法のまま実施できると結論づけた。

しかし、福田首相(当時)は記者団に「(解釈を)変える話などしたことはない。報告は終わったわけだから完結した」と語り、解釈変更を否定。安保法制懇の報告書は封印されたままとなっていた。

一方、麻生首相は首相就任直後の平成20年9月26日、米ニューヨークで「基本的に解釈を変えるべきものだと言ってきた。大事な問題だ」と述べ、いったんは解釈変更に前向きな考えを表明したが、10月3日の参院本会議では「解釈について十分な議論が行われるべきだ」と答弁し、早急な変更には慎重な姿勢を示した。

現行の集団的自衛権に関する政府解釈は、昭和47年10月の田中角栄内閣で「わが国は集団的自衛権を有しているとしても国権の発動としてこれを行使することは許されない」という政府見解で示された。

■集団的自衛権 同盟国など密接な関係にある他国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていなくても、自国への攻撃だとみなして実力で阻止する権利。国連憲章51条で、主権国家の「固有の権利」と規定され、国際法上の権利として広く認められている。
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容認論が再浮上 集団的自衛権行使
2009年4月30日 東京新聞朝刊

政府・自民党内で、憲法解釈で禁じられた集団的自衛権行使を認めるべきだとの議論が再浮上している。党内のタカ派議員が北朝鮮の弾道ミサイル発射を機に仕掛けたもので福田政権以降“お蔵入り”になっている解釈改憲を再燃させたい思惑が見え隠れする。

仕掛け人は、首相在任中に集団的自衛権行使問題に取り組んだ安倍晋三元首相。安倍首相時代に設置された「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」で座長だった柳井俊二元駐米大使が二十三日、「憲法九条は集団的自衛権行使を禁ずるものではないと解釈すべきもの」とした懇談会の結論を麻生太郎首相に説明。同日夜には安倍氏自らが首相に対し、憲法解釈を変えることを自民党マニフェストに盛り込むよう進言した。

集団的自衛権とは、同盟国などへの武力攻撃があった場合、自国が直接攻撃を受けていなくても、その攻撃を実力で阻止する権利。政府は国際法上、権利は持っているが、憲法解釈上、行使は許されないとしている。米国を狙った弾道ミサイルの迎撃も違憲とされ、自民党の国防族議員を中心に集団的自衛権の行使を認め、日米が連携して「北の脅威」に対抗すべきだとの意見が出ている。

ただ、麻生政権がこの問題に本腰を入れれば、近隣諸国の反発は確実で、北朝鮮問題での中韓両国との連携にはマイナス。党内には保守色の強い政策を前面に出し、負けた二〇〇七年参院選の記憶も残る。首相も「よく勉強させていただきます」と述べるにとどめている。 (荘加卓嗣)
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参考ブログ⇒「憲法九条の死文化と安保---国家と「自衛権」をめぐって」

『永遠の安保、テロルな平和』の目次へ

2009年4月23日木曜日

再び、「海賊対策」は「海賊」対策にあらず

再び、「海賊対策」は「海賊」対策にあらず

 「海賊新法」の衆議院通過が決定的になった今日、「海賊対策」と称した陸上自衛隊の「中央即応連隊」の「派遣」方針が明らかにされた。

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ソマリア沖海賊:「中央即応連隊」派遣へ 会見で陸幕長毎日新聞 2009年4月23日
 陸上幕僚監部の火箱芳文・陸上幕僚長は23日の記者会見で、東アフリカ・ソマリア沖の海賊対策で、派遣予定の海上自衛隊のP3C哨戒機の警備や拠点施設の管理のため、緊急事態や国際平和維持活動(PKO)に対応する精鋭部隊「中央即応連隊」(宇都宮市)を派遣する方針を明らかにした。同部隊の海外派遣は初めて。
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 日本政府、麻生自公政権は、ソマリアの「海賊」問題を最大限に政治利用し、一方で改憲論議を回避しつつ憲法九条体制を「守り」ながら、他方で憲法九条の規範原理の最終的解体に向けた動きを加速している。航空自衛隊による空爆や海上自衛隊による砲撃の前段階として、自衛隊の海外における武力行使の実戦部隊が「中央即応連隊」であるからだ。

 今回、陸上幕僚長は「中央即応連隊」の派兵理由を「海上自衛隊のP3C哨戒機の警備や拠点施設の管理」としているが、ゲリラ戦や対テロ戦に備えて特殊訓練を積み重ねてきたこの連隊を、なぜあえて出動させる必要があるというのか。明らかにこれは、アフガニスタンの「軍民協力」部隊=PRT(地域復興チーム)、国連スーダンミッション(PKO)、あるいは今年中にも組織される可能性がある再度の「国連ソマリアPKO」など、陸上における「治安維持」部隊への自衛隊の「派遣」を念頭に置いた動きとしてみるべきである。

 ぼくは、二〇〇六年の年末に出版した『国家・社会変革・NGO』の中の「人間安全保障・植民地主義・NGO」と題した論文において、ブッシュ-小泉政権による安保体制の再編の本質が「対テロ日米共同作戦態勢の構築」にあると述べたが、麻生自公政権の下の「新日米安保宣言」構想において、これがいま「海賊対策」という大義名分によって実戦化されようとしているのである。

 「海賊新法」をめぐる国会論議や新聞ジャーナリズムの「社説」において決定的に欠如しているものこそ、主権者の意思を問うことなく「永遠の安保」の下で着々と進むこうした「安保のグローバル化」の実態なのである。

2009年4月17日金曜日

「オバマの戦争」と「新日米安保宣言」

「オバマの戦争」と「新日米安保宣言」

 いよいよ、自衛隊の海外派兵一般法制定の動きが具体化してきたようだ。

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防衛相、新日米安保宣言を提案 自衛隊派遣一般法へ布石
2009年4月17日

浜田靖一防衛相が2月に訪日したクリントン米国務長官と会談した際、対テロなど世界規模の課題や台頭する中国に対する日米協力強化を念頭に、新たな日米安保共同宣言の策定に向けた協議を提案していたことが分かった。複数の政府関係者が16日、明らかにした。米側は回答を保留した。防衛省は日米安保条約改定50年に当たる来年の発表を模索している。

関係者によると、新安保宣言は国際平和協力活動などで自衛隊の海外派遣を随時可能にする一般法(恒久法)制定に向けた布石とも位置付けられる。自衛隊の随時派遣が可能となった場合、米軍とどのような協力が可能かを調整し、世界規模での日米協力を打ち出したい考えだ。具体的にはテロ、海賊など新たな脅威に加え、台湾海峡有事も視野に入れた対中国戦略も検討されそうだ。

浜田氏はクリントン氏との会談で「アジアの安定と世界規模の課題への対処に向け、自衛隊と米軍の協力強化と役割分担の明確化を図りたい」と新安保宣言を提案。クリントン氏は「アジアの平和と安定に強固な日米同盟は重要だ」と述べたが、新宣言に関しては返答しなかった。(共同)
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マスコミはなぜ野党に対してフェアーな報道をしないのか

マスコミはなぜ野党に対してフェアーな報道をしないのか

 最近、どうしても見逃せない新聞記事があった。民主党に関する読売新聞の社説である。
 その社説とは、四月十六日の「海兵隊移転協定 民主党は「反米」志向なのか」である。この社説は、
①「在沖縄米海兵隊のグアム移転に関する日米協定承認案の衆院採決で民主党が反対した」こと、
②「インド洋での海上自衛隊の給油活動の中止や、在日米軍の思いやり予算の見直しも唱えている」こと、そして
③小沢代表が「在日米軍は第7艦隊で十分」と発言したことなどを指摘しながら、次のようにいう。

「これでは、日米同盟を重視するどころか、「反米」志向と受け止められても仕方あるまい。米国に注文すること自体は悪くない。だが、民主党の重大な欠陥は、要求するだけで、同盟強化のため自らどんな負担をするのか、何も具体的に語らないことだ。」

 ぼくは無党派で、民主党の支持者ではないばかりか、民主党の安保・外交政策に対して少なからず疑念を持っている人間であるが、そういう立場からみたとしてもこの社説は「議会制民主主義」の基本原則をわきまえない、あるいはその原則を意図的に歪曲して論じているという意味において、大きな問題をはらんでいる。

 読売新聞が社としてブッシュ・小泉政権が打ち出した「世界の中の日米同盟」路線を支持し、その実効的な推進のために憲法九条第二項が障害になっていると判断し、改憲=九条改廃を主張することは、自由である。
 しかし、そうした社としての方針に基づきながら、民主党が自公政権の安保・外交政策の見直しをはからんとしていることに対し、「反米」志向というレッテルを貼ることは、第一に政治的に偏向しすぎているし、第二に政権政党の政策を批判する立場にある野党の正当な役割を踏まえていない愚挙である。むしろ、読売新聞が社説を通じて与党の立場にたった「世論形成」をはかろうとする意図が透けてみえてしまう。要するに、読売新聞は社説を政治的プロパガンダ機関に自ら堕落せしめているのである。

 なぜ、読売新聞はそこまで「親米」志向になるのか? なぜ、日米「同盟強化」が既定の方針になり、そのために自社の論陣を張ろうとするのか? 問いは、読売新聞に対してこそ向けられるべきではないか。

 もしも政権交代が実現されるなら、新政権が旧政権が行ってきた安保・外交政策全般の見直しをはかり、それによって予算配分をも見直すことは、当然のことである。民主党は、無前提的に日米「同盟」を「強化」するとはいってはいないのである。この点において、読売の社説は明らかに客観性を喪失しており、フェアーではない。

 また、民主党に限らず、野党は一般的に選挙前に「包括的な政策をきちんと明示すべき」といえないし、それが「政権交代を目指す政党として最低限の責任」でもない。むしろ、「ネジレ国会」の出現によって、上の①から③のような、自公政権の安保政策に代わる個々の対案が野党サイドから出るようになってきたことが、大局的には日本の「議会制民主主義」の一歩前進とみるべきなのである。少なくとも、公的言論機関としての新聞ジャーナリズムがそこを評価せずして「ネジレ国会」の何を評価するというのだろうか。

 ぼく自身は、安保条約に基づく日米関係は「同盟」関係とはいえないこと、にもかかわらず日米首脳会談、安保協議(2+2)などで、主権者を意思を無視した恣意的な「同盟」宣言がなされ、そのことが米国の対テロ戦争に日本政府が「主体的に」引きずり込まれる状況を生み出してきたと考えている。米国の世界戦略を「後方支援」したり、あるいは側面から補完したりする形での外交・ODAの「バラまき政治」が行われてきた根拠もそこにある、と。

 いまぼくたちが直面しているのは、ブッシュ政権八年のアフガニスタン・イラク戦争を中心とした対テロ戦争を抜本的な見直し、再検討抜きに、アフガニスタン、イラクからさらに戦場をパキスタン、ソマリアへと拡大してよいのか、対テロ戦争をこのまま継続してよいのか、という問いである。それが日本や「国際の平和と安定」を本当にもたらすのか、という問いである。

 読売新聞をはじめとした新聞ジャーナリズムの社説にも、同じことが問われている。各紙はまず、この八年間、アフガニスタンやイラク戦争に対して、破産したブッシュ政権の対テロ戦争に対して自社がどのような論陣を張ってきたのか、その内省をすべきだろう。そしてそうした主体的な内省に基づき、これからもアフガニスタンやパキスタンにおいて対テロ戦争を激化させようとしているオバマ路線とこれに追随する麻生政権に対して、ジャーナリズムがジャーナリズムとして、いかに自律的な立場に立った論陣を張れるか、論説委員と記者ひとりひとりが考え直してみるべきだと思うのである。

(⇒参考ブログ。「「日米同盟」の呪縛――「日米同盟」とマスコミ」

2009年4月16日木曜日

「海賊対策」の戦争化は事態を悪化させるだけである No.1

「海賊対策」の戦争化は事態を悪化させるだけである No.1

 先週から米国では、「マースク・アラバマ号」事件を契機に、ソマリア沖の「海賊」問題が、またにわかにマスコミの脚光を浴びている。いわゆるオルタナティブ・メディアでは、三大ネットワークをはじめとした巨大メディアが報道しない論点を整理しながら、客観的かつ問題の本質に迫るような記事がいくつか発表されている。

 たとえば、AlterNetは、四月十四日、カナダに難民として移住したソマリア人アーティスト、K'Naanの"Why We Don't Condemn Our Pirates in Somalia"(なぜぼくらはソマリアの海賊を非難しないのか)という記事を転載している。要するに彼がこの記事で書いていることは、三月にぼくが「ソマリアと「海賊」---新介入主義の破産」の中で書いたようなことである。すなわち、

「ソマリアの海岸(近海ではない。海岸である)へのドラム缶にコンクリ詰にされた核廃棄物や産業廃棄物の直接投棄、またそれらのソマリア沖への海洋投棄、そしてグリーン・ピースいうところのpirate fishingがソマリア近海でくり返されてきたことについては、少しずつではあるが情報は広まりつつある。犯人は誰か。「海賊」撲滅のために艦隊を派遣した国連安保理常任理事国を中心とする国々である」(引用、終わり)。

 だから、K'Naanは、まずEUや米国などのグローバル水産業がソマリア沖での不法操業を停止し、それと同時に産業・核廃棄物の不法投棄をやめるのことが先決ではないか、という。ぼくもまったく同感である。(⇒K'Naanのオフィシャルサイト

 ところが、NHKから民放、新聞ジャーナリズムでは、「海賊」問題の背景にあるこうした現実に目が向けられる気配が一向にみられない。さらに悪いことには、先述した「マースク・アラバマ号」事件をめぐる「報道」では、米国政府が発表した内容を、何らの検証も批判的吟味もなく、ただそのまま垂れ流し的に翻訳しているだけなのだ。

 AlertNetが配信した別の記事に、四月九日付のJeremy Scahillの"'Pirates' Strike a U.S. Ship Owned by a Pentagon Contractor, But Is the Media Telling the Whole Story?"がある。「「海賊」がペンタゴンとの契約関係にある軍事企業所有の船舶を攻撃」、しかしメディアは真相を報道しているのか?」という記事である。

 「マースク・アラバマ号」事件では、米国人船長が人質に取られ、ペンタゴンは四月十二日に船長を「無事救出」と発表したが、その際、米海軍特殊部隊「SEALS」が「海賊」を「急襲」した。そして海賊四人のうち三人を射殺、残る一人を拘束したとされている。
 日本の新聞各紙では攻撃を先に仕掛けたのは「海賊」の方で、海軍の特殊部隊は船長の身に危険が迫ったから「急襲」したと報道された。それも米国政府が発表した内容をそっくりそのまま引用したものであるが、果たして本当にそれが真相なのか、乗組員のインタビューを詳細に分析するなら事実関係に不明な点が多い、と筆者は問うているのである。

 ともあれ、この事件を節目として、ソマリアの「海賊」問題をめぐる事態は急変してしまった。一言で言えば、「海賊対策」の戦争化である。「海賊」側は報復宣言を発した後に、実際に米国の船舶への攻撃をしかけ、さらには「アラビア半島のアルカーイダ」を名乗る武装勢力も報復戦を扇動しはじめた。一方、これに対し米国政府は「海賊対策コンタクト・グループ」による国際会議を呼びかけ、「海賊」に対する非和解的・非妥協的な姿勢を貫くことを表明するに至っている(詳細は資料ブログを参照)。

 こうして折りしも、日本の国会で「海賊新法」の審議が本格的に始まったまさにその時、ぼくが当初より予想したように「海賊対策」はアルカーイダやソマリアのイスラーム武装勢力をも巻き込んだ、対テロ=「海賊」戦争へと変質してしまったのである。

2009年4月9日木曜日

制裁の徹底化は、拉致問題の解決と朝鮮半島の非核化に何もつながらない

制裁の徹底化は、拉致問題の解決と朝鮮半島の非核化に何もつながらない

 四月五日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が三段ロケットを発射したころ、ぼくはPAC3が配備された首都圏のある地点から一〇キロも離れていない公園にいた。花見をしていたのである。

 公園は、ぼくが住んでいる界隈では花見の名所になっていて、家族連れで賑わっていた。こぼれ落ちそうな満開の大きな桜の樹の下でお弁当を囲む家族、駆け回る子どもたちのはしゃぎ声、酒宴に興じるおとなたち。少し離れたグランドでは少年野球の試合、その隣ではテニスコートを独占していた年配の人々・・・。何とも「平和」な、春爛漫の、最高の日曜日だった。

 ロケットに通信衛星が載っていたのかどうか、真偽の程はわからないが、韓国政府は飛翔体を「軌道から判断して、通信衛星用のロケット」と定義した(毎日新聞)。中国やロシアも同じ立場である。これに対し、日本政府は断固「弾道ミサイル」と言い張っている。読売・朝日・毎日・東京・産経・日経新聞などマスコミ各紙も政府に同調し、「弾道ミサイル」と表現している。ぼくは、北朝鮮が公表した映像を見た上で、韓国政府の定義が妥当だと思っている。

 日本政府は、ロケット発射直後から、これが二〇〇六年一〇月の国連安保理決議に違反した行為だとして、再決議を上げ、北朝鮮に対する制裁の徹底化をはかろうとしてきた。米国やイギリスを頼みの綱にしながら、安保理での政治工作にいまも余念がない。衆議院でも参議院でも、自民・民主・公明・国民新党の絶対多数で非難決議も上がってしまった。

 日本でも韓国でも、北朝鮮のロケット発射を良しとする人は、もしいたとしてもごく少数だろう。圧倒的多くの人は反対であり、たとえ「通信衛星」の打ち上げのためであったとしても、これ以上、北朝鮮がミサイルや核開発をすることを支持しないだろう。朝鮮半島と「東アジア」の非核化、そして両国の拉致被害者の帰国に始まる拉致問題の全面的解決を切に望んでいるだろう。ぼくも、その中の一人である。

 では、北朝鮮にミサイルや核開発をやめさせ、拉致問題を解決をはかるために、いま以上の制裁措置が有効だろうか? 答えは歴然としている。否である。制裁をいくら強化したところで、この間、事態はどれひとつとして何の進展も改善もはかられなかったのである。日朝間の金の移動はこれまでの制裁の結果、実に九億円程度にまでなっており、仮に制裁を徹底化したところで、実質的に何の効果もない。これが真実である。
 たびたび指摘されるように、北朝鮮は世界の一四〇ヶ国以上と国交関係を樹立しており、日本との貿易関係は北朝鮮の現政権と体制が生き残るにあたり、もはや必要不可欠の存在とはいえないのである。これも真実である。

 いまこそはっきりさせねばならないのは、主に拉致問題の解決のためと称して正当化されてきた北朝鮮に対する制裁こそが、拉致問題を解決はおろか、朝鮮半島の非核化という、そもそもの六カ国協議の基本目的の実現をも著しく困難にしている元凶だということではないか。
 日本政府をはじめ、何かといえば拉致問題を引き合いに出しながら、北朝鮮への制裁の強化を主張してきたマスコミ・新聞ジャーナリズムは、制裁政治の政策的破綻を自覚しながら、現実を真摯に見据え、政策の誤りを誤りとして総括しようとしない。むしろ、自らの無策ぶりを隠蔽するために「制裁の徹底化」を主張しているとしか思えない。

 もう一度確認しておきたいが、日本でも韓国でも、圧倒的多数の人々は、拉致問題の解決と朝鮮半島と「東アジア」の非核化を望んでいる。しかし制裁政治は、これまでがそうであったように、それに向けた道筋をつくらない。何の問題解決にもならないのである。このことを基本認識とすることが、二〇〇九年四月段階の「北朝鮮問題」を論じる出発点でなければならないとぼくは考えている。「いやそうではない、制裁の徹底化だ」という日本政府、議会政党、マスコミは、拉致問題の解決はおろか、朝鮮半島と「東アジア」の非核化を本気になって考えてはいないとしかいうしかないだろう。

 実は、一年半前、ぼくは⇒『制裁論を超えて--朝鮮半島と日本の〈平和〉を紡ぐ』の中でも同じ事を書いている。状況は、あれから悪化の一途を辿っている。では、どうすればよいのか? まず、
①制裁政治を外交に置き換える政策的誤りを正視し、次に、
②北朝鮮との二国間のチャンネルを復元することである。そして、
六カ国協議と「日朝平壌宣言」の枠組みの中で
④ミサイル・核開発問題を解決し、
⑤日朝国交正常化を実現することである。

 正規の国交関係抜きに、北朝鮮自身が認めた国家的組織犯罪たる拉致問題を解決することは不可能である。北朝鮮の正式な「調査報告書」に基づき、日本の外務省および警察が北朝鮮国内で独自に調査することも不可能である。いくら米国を巻き込もうとしても、米国が拉致問題を解決してくれるわけではない。

 これと同じことがミサイル・核開発についてもいえる。「約束対約束」の六カ国協議の原則を反故にしてきたのは、日本政府に言わせれば一方的に北朝鮮だとなっているが、北朝鮮に言わせれば日本の側である。そして、その主張には十分な根拠がある。なぜなら、「拉致問題の解決なくして経済援助なし」のスローガンの下、現に日本はエネルギー支援も経済援助も、植民地支配の清算も、何もしていないからである。

 今回のロケット発射に至るこうした経緯、つまり六カ国協議の膠着状態の原因は日本の側にもあるということ、そして実際に制裁強化は何の問題解決にもならないということを、マスコミや新聞ジャーナリズムは日本政府に対して提言すべきだったのではないか。にもかかわらず、今回もまた日本の政治と「言論」は、まさに体制翼賛的にそれとは真逆の方向へと、大きくブレてしまった。

 くり返される日本の政治と「言論」のダブル・スタンダード

 日本の政治と「言論」のダブル・スタンダード(二重基準)の根っこには安保がある。安保がある限り、何をやっても、何を言ってもダブル・スタンダードになる。

 「核廃絶」を政府として主張しながら、安保によって「米国の核の傘」に庇護されるのは「日本の防衛のため」だという。にもかかわらず、世界最大最強の軍事大国米国の核戦力や中国、ロシアの核戦力、そして日米安保と韓米安保に包囲された北朝鮮が核を持つことは絶対に許さない。米国の核軍事力に庇護されているという国が、それを自国の主権と安全保障に対する最大の脅威と捉え、「防衛的・対抗的核」を持とうとしている国を批判するのはダブル・スタンダードの極みというしかないだろう。

 けれども、日本社会の中では、これはダブル・スタンダードだとは見なされない。日本政府が安保と米軍基地を永続化させ、それを「日本の防衛のため」だと正当化し、それによって朝鮮半島と「東アジア」の核軍事バランスを著しく不均衡化させてきた現実に対し、「北朝鮮脅威論」と拉致問題を前にするとマスコミも「世論」も目をつむってしまうのである。この矛盾を矛盾として意識しなくなる矛盾・・・。まさしくこれこそが「戦後日本」が自らの内にすっぽりと抱え込んでしまった最悪のダブル・スタンダードとはいえだろうか。

 『制裁論を超えて』の中のぼくの文章のひとつ⇒「安保を無みし、〈平和〉を紡ぐ」で書いたのも、要するにそういうことであるが、ここで話を「オバマは「核のない世界」を実現するか?」の内容に引き付けて、もう少し問題の所在を整理してみよう。

(つづく)  

2009年4月6日月曜日

オバマは「核なき世界」を実現するか?

オバマは「核なき世界」を実現するか?

 ぼくは、何でもかんでも米国のやることに反対する「反米主義者」ではないし、皮肉屋でもない。けれども、米国政府のいうことを簡単にまに受けるほど、ナイーブな人間でもない。
 昨日報道された、オバマの「核なき世界」構想は、それを実現する意思を本当に米国が持つとしたら大歓迎ではあるが、ぼくにはどうもそうとは思えない。

 もちろん、米国が戦略核兵器をある程度削減することは十分ありえるだろう。しかしそれは、未曾有の経済危機に見舞われ、ブッシュ政権の核軍拡路線の戦略的かつ財源的な見直しを迫られたオバマ政権が、軍事戦略全体の方向転換をはかろうとする中から出てきた既定の方針であり、米軍自体の軍縮を推進しようというものではない。
 「使えない核」「必要がなくなった核」を米ロ協調路線の下で、できればイギリス、フランス、中国をも巻き込んで「処分」しようとしている程度のものでしかない。一基でも戦略核がなくなること自体は良いことであるが、だからといって大きな期待を抱くほどことは何もない、といわなければならないだろう。

 その証拠に、オバマ政権は二〇一〇年度のペンタゴンの予算において、前年度比3%増の予算案を策定し、連邦議会で通そうとしている。オバマの米国は軍縮に向かっているのではないのだ。
 では、どこに向かっているのか。ワシントン・ポストの"America at War"の記事を読んでみよう。その中に、"Gates Planning Major Changes in Defense Programs, Budget"という記事がある。そこでは、オバマ政権がロシアや中国などとの「伝統的なライバル国との大規模な戦争から、counterinsurgency programs(叛乱撲滅作戦)」、すなわち対テロ戦争に全面的にシフトし、それに応じた米軍の再編成と予算配分をすると書かれている。
 要するに、使えなくなった、維持するだけで財源を浪費する金喰い虫の核は処分するが、その分、アルカーイダとタリバーンの徹底抗戦派に対しては予算を増やし、今まで以上に対テロ戦争にまい進する、と言っているのである。この世界経済危機と米国の財政赤字の時期に、である。

 日本のマスコミも、こうした事実をきちんと踏まえ、オバマの「核なき世界」構想がはらんでいる問題点を分析した上で報道する義務があるのではないか。そうでないとオバマ政権と核軍縮に対する根拠なき、過剰な幻想を振りまき、人心を欺くことになるだけである。

・・・・・・・ 
オバマ氏「核なき世界」へ新構想 世界核安保サミット主催へ
【プラハ5日共同】

オバマ米大統領は5日、チェコの首都プラハで演説し、公約に掲げる「核兵器のない世界」の実現に向けた包括的構想を初めて示した。1日の米ロ首脳会談の合意に基づき、両国の戦略核をさらに減らす新条約を年末までに策定、これをてこに大胆な核軍縮を進める。核拡散の防止策を探る「世界核安全保障サミット」を米国が主催する意向も表明。

核拡散防止条約(NPT)は非核保有国の核開発を禁じるのと引き換えに、核保有国である米ロなど5大国に「誠実に核軍縮交渉を行う義務」を課している。保有国側が守らなければ、非核保有国が核開発に乗り出す口実を与え、NPTの弱体化に拍車を掛けることから、模範を示した形。

大統領は新構想を「既存の核兵器を削減し、究極的には廃絶する」ための提案と位置付け、米ロなどが真剣に核軍縮に取り組めばイランや北朝鮮に核開発断念を迫る上で説得力を持ち、核拡散防止に寄与すると期待。しかし、北朝鮮は演説直前に「人工衛星」名目で長距離弾道ミサイルを発射、出ばなをくじかれた。大統領はこのほか、多国間条約に後ろ向きだったブッシュ前政権の政策を転換、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准や、核兵器原料の生産を禁止する「兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約」の交渉開始を目指す。

NPT強化策としては
(1)国際原子力機関(IAEA)の査察権限強化
(2)国連安全保障理事会への即時付託などNPT違反国への罰則導入
(3)核物質を国際的に一元管理する「核燃料バンク」支持-などを提案。

・・・・・・・

米、軍事費8兆円追加へ イラク・アフガン大統領、議会に要請
2009年4月10日東京新聞【ワシントン=嶋田昭浩】

オバマ米大統領は九日、米国が取り組んでいる軍事、外交、情報活動のため、総額八百三十四億ドル(約八兆三千四百億円)に上る追加支出の承認を議会に求めた。

特に、アフガニスタン・パキスタン国境の治安状況は「緊急」な対応が必要と強調し、追加支出額の約95%(七百九十億ドル)はイラクやアフガン・パキスタン国境方面の軍事作戦に充てるとしている。厳しい財政事情を踏まえ、六日にはゲーツ国防長官が、前政権で聖域だった兵器調達の見直し計画を発表したばかり。大規模な追加軍事支出は、米国内から反発も受けそうだ。

オバマ大統領は、ペロシ下院議長あての手紙で「(アフガンの反政府武装勢力)タリバンは復活し、(国際テロ組織)アルカイダはアフガン・パキスタン国境の根拠地から米国に脅威を与えている」と指摘した。

米の国防予算案4%増、対テロ戦重視に組み替え【読売新聞・ワシントン=小川聡】

米国防総省が7日発表した2010会計年度(09年10月~10年9月)の国防予算案は5338億ドル(53兆383億円)で、09会計年度に比べて4%増加した。

沖縄に駐留する海兵隊約8000人のグアム移転に伴うグアム基地の強化費用3億7800万ドル(375億5800万円)も初めて盛り込まれた。今回の予算案は、ゲーツ国防長官が4月6日に発表した主要な兵器システム調達の見直しを反映し、アフガニスタンなどでの対テロ戦を重視した内容に「組み替えた」(国防総省)のが特徴だ。

これに伴い、最新鋭ステルス戦闘機「F22ラプター」や新型護衛艦の調達を取りやめる一方、ヘリコプターや無人偵察機への支出を増やした。共同開発中のステルス戦闘機「F35」の購入も加速させる。ミサイル防衛関連は、前年度比約13%減の78億2600万ドル(7775億9100万円)。多弾頭型の迎撃ミサイル開発など、不急の事業を廃止・縮小する一方、イージス艦6隻をミサイル防衛用に新たに改修するなど、北朝鮮やイランを念頭に、中短距離ミサイルへの対応策を強化した。

海外での対テロ戦の予算案は、本予算案と別に前年度並み(補正予算含む)の1300億ドル(12兆9168億円)を要求した。(2009年5月8日 読売新聞)

2009年4月4日土曜日

オバマの対テロ戦争と日本---アフガン「包括的新戦略」を検証する No.2

オバマの対テロ戦争と日本---アフガン「包括的新戦略」を検証する No.2

3 試される日本の開発戦略と開発「援助」

 昨日のニューヨークタイムズの記事によると、米国はオバマの「包括的新戦略」に基づき、パキスタンに対する向こう五年間にわたり三〇億ドル、ざっと三〇〇〇億円の軍事援助を計画しているとのことである。パキスタン国内のアルカーイダとタリバーンの本格的な掃討戦に向け、パキスタン軍と警察をメイドイン・アメリカの武器で武装させ、米軍が訓練するのだという。

 すでに米軍は、アフガニスタンと国境を接するパキスタンの領土において、タリバーンの拠点(と米軍が判断する)地域に対し、無人(無線による遠隔誘導)爆撃機による空爆をくり返している。
 米国のパキスタンに対する本格的な軍事介入、つまりは「包括的新戦略」の直接的目的は、イラク戦争と同様に、アフガニスタンとパキスタン両国の軍隊と警察の「アメリカナイゼーション」にある。その背後には、石油・天然ガス・鉱物資源開発問題や、アフガニスタンからパキスタンを経てインドに通じるパイプラインや道路網の建設などのインフラ整備と開発問題がある。アフガニスタンには、旧ソ連による占領期からタリバーン政権の時代にわたって開発計画中だったものが内戦によって実施されず、未開発のままになっているプロジェクトが数多く存在するのである(⇒この問題については別の機会に改めて述べることにしたい)。

 ソマリアの首都モガディシュ(モガディシオ)からイラクのバグダッド、パキスタンのイスラマバードを経て、アフガニスタンのカブールを線でつなぎ、この地域の歴史を数世紀さかのぼり、長いスパンで捉えてみる。すると、そこから浮かび上げってくるのは、かつてイギリスを中心にしたヨーロッパ列強が植民地支配し、その後「独立」した国々を、第二次世界大戦に一人勝ちした米国が、徐々に徐々に、今度はかつての植民地宗主国を従え、自らの手で実態的な「再植民地化」を果たしてきたという、そんな構図である。

 もちろん、戦後の米ソ「冷戦」体制の下で、これらの地域に旧ソ連が入ってきた時期もあった。しかしそのソ連も崩壊し、旧ソ連から独立した諸国と自国の「イスラム原理主義」から激しい抵抗を受けている。中国もしかり。チベットのみならず東トルキスタン(新疆ウイグル)問題をかかえている。もはや、国連加盟国の中で米国の対テロ戦争の遂行に歯止めをかける国家は存在しない。現代世界でそれと対峙している最も強力な政治勢力とは、他でもないイスラム武装勢力なのである。

 だからといって、ぼくはイスラム武装勢力を支持しているわけでも賛美しているわけでもない。彼/彼女らの思考と思想は、その教義とともにぼくの理解力を超えている。ただし、ぼくは彼/彼女たちの政治的主張と戦いには、否定しがたい正当な根拠があるとは考えている。とりわけ、自分たちの国、領土が米軍や外国軍によって支配されていることや、トランスナショナルなメジャー資本によって天然資源が略奪されているという主張は、ぼくにも理解することができる。
 また、西洋版「自由と民主主義」イデオロギーと統治制度を人類普遍的な「価値」とし、米国がその絶対的な軍事力を背景に、これを外部から移植しよとすることに対し、彼/彼女らが強烈な拒否反応を示していることも理解できるような気がする。どれだけ彼/彼女らの宗教的教義や行為に同意できないものがあるにしても、そのことが彼/彼女らを抹殺する理由には到底なりえないし、彼/彼女らの政治的主張の根本には、「テロ集団」と一言で断罪し、切り捨てることはできない一片の真実と正論が含まれている、少なくともぼくはそのように考えている。

 実は、このような徹底抗戦派のイスラム武装勢力と和解し、和平合意をまず結ばなければならないのは、アフガニスタンのカルザイ政権でもソマリアの暫定連邦政府でもない。誰を置いても、まず米国である。米国と、米国が「テロ集団」規定する武装勢力の両方を、その和平交渉のテーブルに引きずり出す力と意思を国連が持たない/持てないことが、ブッシュが始めたグローバル対テロ戦争を永続化させ、世界各地のテロルな「国際の平和と安定」を永続化させる根拠になっているのである。

 ぼくらはこのような観点から、今一度、対テロ戦争時代における日本の安保・外交戦略と開発戦略、とりわけアフガニスタンに対する「復興支援」「開発援助」のあり方と、これらに対する日本のマスメディアの「言論」のあり方、さらには国際NGOを含む「市民社会」が果たしている役割を捉え返す必要があると思うのである。

①「復興支援」という表現の問題性

 さて、報道されているところによると、米国は今年の年末までに、アフガニスタンに駐留する米軍の規模を現在の三万八〇〇〇人から六万八〇〇〇人へと増強する計画を明らかにしている。イラク戦争のせいで米軍がイラクに集中し、その結果タリバーンの復活を許してしまった、だから再度米軍と「文民」部隊を大量に投入し、アフガニスタンとパキスタンの二正面作戦でアルカーイダとタリバーン「強硬派」を殲滅するという戦略である。一言で言えば、「アフガニスタンのイラク化」である。

 イラク戦争がイラクの人々にどのような凄惨な戦禍を残したかは、ここでは触れない。「国際社会」はすでにそのことを忘却しかけているが、ここでの問題は、今後、このような状況の中でアフガニスタンにおいて取り組まれる「プロジェクト」を「復興支援」プロジェクトと呼ぶことが適切かどうか、ということである。

 アフガニスタンにおける対テロ戦争への日本の「後方支援」は、米軍とイギリス軍を中心とした「有志連合」による空爆の開始から始まった。タリーバン政権の転覆後、直ちに旧テロ特措法を制定し、アフガン「復興支援」の国際会議の主催国にもなった。また政府と国際NGOの「パートナーシップ」の名の下に、ジャパン・プラットフォームも結成され、「官民共同」の「復興支援」プロジェクトの体制も構築された。

 しかし、二〇〇二年春から本格的に始まる「復興支援」とは、タリバーンが政治勢力としては解体した、という前提の上に立っていた。「有志連合」による対テロ戦争は、ごく一部のタリバーン「残党」に対するもので、それもいずれ近いうちに終わると想定されていたのである。
 また、NATO軍の国際治安支援軍(ISAF)の投入は、タリバーン掃討戦の勝利を前提に、アフガニスタン軍の再建と警察を支援しながら、国連の活動が円滑に進むように「治安維持」にあたるものと位置づけられていた。そして、国連のミッションも、タリバーンやアルカーイダの復活などはまったく想定していない、対テロ戦争とは一線を画した「非軍事」の一年間のミッションとして、あくまで「復興」のための「緊急」かつ「人道」的な支援として構想されていたのである。

 もっとも重要なことは、国連としてのアフガニスタン「介入」には、「内戦状態ではない」という大前提があったことだ。それは、日本政府やジャパン・プラットフォームにしても同じである。
 しかし、その大前提は根底から崩れ去ってしまった。当初の「復興支援」の構想は、タリバーンの頑強な抵抗が続き、挙句の果てに全土に復活するという事態に直面し、破綻する。「有志連合」、ISAF、国連、いずれのレベルにおいても、二〇〇五年あたりからその矛盾が露わになってくる。米軍は空爆を激化させ、「治安維持」のためのISAFはタリバーンとの地上戦を戦うようになる。「復興支援」「治安維持」活動は、一般市民、農民を巻き込んだ再度の内戦状態へと舞い戻っていったのである。

 これに輪をかけたのが、絶えることのない腐敗と汚職にまみれたカルザイ政権に対する民衆の不信の高まりだった。政権は軍閥政治の延長で、米国とEUに操られたカイライ政権に過ぎないと多くの人が見るようになった。こうしてタリバーンを当初批判していた人々や、タリバーンから一度は離脱した人々の中にも、米軍と外国軍の存在自体が内戦を泥沼化させ、一般市民の犠牲を激しくしている最大の理由だという認識が広まり、タリバーンへの再転向への動きが加速化していったのである。けれども、米国はいうまでもなく、イギリスもドイツも、カナダも日本も、「国際社会」=国連全体がこの事実を黙殺し続けてきた。内戦状態にあることを正式に認めてしまえば「復興支援」といい続けてきた矛盾が露わになってしまうからである。

 内戦状態へと舞い戻った時期を、早くも二〇〇二、三年とする専門家もいるが、どんなに遅く判断しても⇒「アフガニスタン・コンパクト」と呼ばれる現在の「国際社会」のコミットメントが決定された二〇〇六年にはそうなっていたといえるだろう。日本を含む「国連アフガニスタンミッション」に関与してきたどの国家も、事実を事実として、現実を現実として受け止めようとせず、カルザイ政権とタリバーンとの和平交渉を真剣に仲介する意思を持とうとしてこなかったことが、内戦の激化と一般の人々の犠牲をここまで悪化させてきた最大の理由なのである。

 無益な内戦によって殺されてしまった人々、その遺族の立場に立つなら、総括なきアフガニスタンへの介入を続けてきた「国際社会」の犯罪的責任性は、いっそう明白になるのではないだろうか。

2009年4月1日水曜日

米軍はイラクから撤退しない


 米軍はイラクから撤退しない

 日本の新聞各紙、マスコミは、今年9月末までのイラク駐留米軍1万2000人の撤退問題に関連し、これが2011年末までの「完全撤退」に向けた「第一弾」であると報道している(「資料ブログ」を参照)

 しかし、米軍がイラクから「完全撤退」しないであろうことは、米国では周知の事実である。日本のマスコミは米軍のイラクからの撤退問題に関して、どのような議論が米国国内でなされているかを独自に調査・分析し、もっと事実に即した記事を書いてほしいものである。
(上の地図はイラクとアフガニスタを中心に、中東から中央アジアに広がる米国(および有志連合)の対テロ戦争地図。globalresearch.caより。) 

 この問題についてネット上で公開された二つの文章を紹介しておこう。
 その一つは、二月末にAlternetに掲載された、Jeremy Scahill"All Troops Out By 2011? Not So Fast; Why Obama's Iraq Speech Deserves a Second Look"、もう一つは、Institute for Policy Studies に掲載されたPhyllis Bennis"Obama to Announce Iraq Troop Withdrawal"である。

 これら二つの論考を要約すると、だいたい次のようになる。
 「たしかに、オバマは選挙前からイラクからの米軍撤退を公約にしてきたし、先日のノース・キャロライナにおける演説でも、一見したところでは、同じことを言っているように思える。しかし、実はオバマの演説にはブッシュがやったようなレトリック上のトリックがあり、そう簡単には事は運ばない。事実は、無期限駐留の可能性さえあることを示している」・・・。

 その証拠の一つとして、ある米軍の指揮官がNBCのペンタゴン付記者に「かなりの数の米軍が今後十五年から二〇年にわたりイラクに駐留することになるだろう」と語ったことが紹介されている。

 米国は米軍の完全撤退をイラク政府とすでに合意している。そのための協定も結ばれたというのに、米国が協定に違反することが許されるのか、という疑問がわいてくる。
 しかし、ぼくらは米国という国が、国際法に違反しようが国際的な非難を受けようが、自国の「国益」と「安全保障」戦略、対テロ戦争のためなら何だってやる、できる国だということを知っている。ブッシュがオバマに変わったところで、そういう米国という国の性質が変わるわけではない。ブッシュ政権の時代が「生ける悪夢」の時代であったことが確かだとしても、ぼくらはオバマ政権に対する根拠なき、過剰な幻想を払拭し、これからオバマと米軍がイラクとアフガニスタン、そしてソマリアや「アフリカの角」で何をするかを慎重にモニターする必要がある。

 問題になっているのは、大統領就任後のオバマの主張が微妙に変質してきていることだ。イラクからの米軍撤退問題に関していえば、注意すべき二つの表現がある。
 その一つは、"conditions on the ground"、もう一つは、"upon request by the government of Iraq"である。つまり、全面撤退の協定を結びはしたが、イラクの「治安」状況が今後どのように改善されるか、その「条件」次第によって、「イラク政府からの要請」があるなら二〇一二年以降も継続駐留する、ということである。
 間違いなく、現実はそうなるだろう。そうならないためにこそ、声をもっと上げなければならない・・・。二人の著者は米国国内と世界に向けて、そう呼びかけているのである。

 Democracy Now!というネットメディアでも、同じことが報じられている。三月二六日付けのニュース、、「オバマの誓約に反し、イラクの米軍戦闘部隊は残留する」を見てほしい。関連サイトとしては、Inter Press Serviceのこちらがある。

 要するに、米軍はイラクから撤退しない。100%撤退しない。これは確実である。
 ただし、駐留の継続にあたり、その呼び方が変わる。"combat brigades"(戦闘部隊)ではなく、 "Brigades Enhanced for Stability Operations" (BESO)、イラクの「安定化作戦のために高度化された部隊」とでもいったものに。

 この部隊が「移行部隊」と呼ばれ、当初の撤退期限、来年の八月以降も無期限にイラクに残留することになる。米軍は、「期限がいつになるか未定の最終的撤退」に向けた過程を「移行期」と呼んでいるのである。
 「移行部隊」数は、少なくとも三万五千から五万人規模!といわれている。米軍のイラク司令部は、「移行司令部」と名前を変え、"advisory and assistance brigades"(助言・支援部隊)も上のBESOとは別に残留する。イラク政府軍と警察の反政府武装勢力との内戦を「助言・支援」する部隊として。
 ニューヨーク・タイムズが報じたところによると、米軍関係者の中には二〇一一年以降もイラクに七万人規模の米軍が駐留する可能性もあると発言した者もいるという。

 大統領が選挙期間中に何を公約しようが、就任後にどのような発言をしようが、関係ない。少なくとも、米軍に関していえば。これが「民主主義」国家、「文民統制」が取れた国家だといえるのだろうか?

 ソマリア、イラク、パキスタンにアフガニスタン。
 永遠の米軍基地と米軍駐留とともに、対テロ戦争も永遠に続く気配をますます濃くしている。

2009年3月31日火曜日

オバマの対テロ戦争と日本---アフガン「包括的新戦略」を検証する

オバマの対テロ戦争と日本---アフガン「包括的新戦略」を検証する

1 「包括的新戦略」は失敗する

 去年の十一月下旬、「アフガニスタンの和平、あるいは「平和構築」?をめぐる断章」の中でぼくは次のように書いた。
 
 「米国が共和党ブッシュ政権から民主党オバマ政権に変わろうとも、イラクからアフガニスタンへと対テロ戦争の主戦場をシフトすることに変わりはない。今日(11/26/2008)のニュースで、オバマはゲーツ国防長官の、少なくとも一年間の留任を決定したときいた。アフガニスタンの「復興」プロセスにおける米軍の大量部隊の投入、全面的軍事介入の開始は、党派を超えた米国の「国益」をかけた国家戦略として位置づけられているということだろう。

 今まで以上の戦争分担金の負担、そして自衛隊の「貢献」をめぐる米国からの対日要求が高まることは必至である。自衛隊の海外派兵「恒久法(一般法)」制定の論議を再燃させながら、早ければ2009年中にも、イラクの時と同じように、時限立法の制定を含めた派兵に向けた具体的な動きがでてくるだろう」(引用終わり)

 あれから四ヶ月が経ち、オバマの「包括的新戦略」が発表された。特徴は四点ある。
①対テロ戦争の前線をただ単にイラクからアフガニスタンに移しただけでなく、
②パキスタン(のアフガニスタンとの国境地帯)をも主戦場化し、
③さらにこれにNATO諸国はもちろん、イランの参加を目玉にしながら、国連機関をも全面的に巻き込もうとしていることにある。そして、
④日本がその最大のドナー(資金提供国)の一つとして予め位置づけられていたことはいうまでもない。

 アフガニスタンのいまを知るための予備的知識として、まずは下に示した三つの地図と図表、そして関連サイトをみてほしい。

 最初に下の地図。これは「安全保障と開発に関する国際会議」(ICOS)が作成した、昨年十一月段階のアフガニスタンにおけるタリバーンの勢力分布図である。色の濃淡と数字が、タリバーンの地域的な制圧度合いを示している。
 すでにタリバーンは首都カブールの軍事境界線を突破したという情報もあるが、この地図をみれば、タリバーンが一部の山岳地帯の洞窟を拠点に展開しているのではなく、明らかにアフガニスタン全土にわたってその勢力を伸張させていることがわかるだろう。
 

 二〇〇一年十月のブッシュのカブール空爆に始まったアフガニスタン戦争は、ブッシュが権力の座から降りた時点で敗北していたのである。オバマはその敗北を敗北として認めず、タリバーン「強硬派」との全面戦争を準備し、それに「国際社会」を引き入れようとしているのである。

 次に、上の地図を日本政府が国際協力機構(JICA)を中心にしてアフガニスタンで行ってきたプロジェクトの位置関係の地図と、さらにその下の日本の「アフガニスタン復興支援」なるものの内容と対照してほしい。これらはいずれも外務省のサイトに掲載されているものである。



  地図にある日本が「連携」しているPRTとは、「地域復興チーム」というもので、米軍やドイツ軍その他の国の軍隊と「民間セクター」が共同して「復興」活動を行う、「軍」と「民」が一体化したプロジェクトのことである。外国軍がタリバーンと戦闘し、武力行使しているPRTに日本が「連携」しているのだから、これは明らかに「武力行使との一体化」となり憲法違反であると思えるが、日本政府の解釈では「憲法九条に基づいた活動」ということになる。

 それにしても、このブログを訪れてきてくれた人は、上の地図と表をみて何を思うだろうか。
 日本政府は、二〇〇〇億円以上にのぼる納税者の血税を使い、アフガニスタンの何を「復興」してきたのか。「平和構築」の名において、どのような「平和」を「構築」してきたといえるのか。戦争と破壊、破壊と「復興」、そしてまた戦争。終わりが見えない殺戮と止むことのない人々の阿鼻叫喚・・・。

 「日本の得意分野」と長年宣伝されてきた「武装解除」をはじめ、何もかもが失敗に終わったことを、ぼくらはいま、確認できる。DDRもクソもない。タリバーンは、日本がDDRを終了した、まさに二〇〇六年には地方部で勢力を回復しはじめていたのである。「治安」も「インフラ」も、アフガニスタンの人々の「基礎生活」も何もかもが滅茶苦茶な状況にある。それが二〇〇二年からはじまった、日本のアフガニスタンにおける対テロ戦争「後方支援」の政策的かつプロジェクト的総括でなければならないだろう。一言でいえば、⇒いかなる意味においても、アフガニスタンに平和は「定着」しなかったのである

 そして、いま「包括的新戦略」という新しい名前の対テロ戦争がはじまろうとしている。日本は、自公連立政権は、「復興支援」の何の総括もなさぬまま、これから全面的にこれに「協力」しようとしている。破壊しては再建し、再建しては破壊する・・・。その財源の一切合財は、米国でも日本でも、これからも永遠に、ぼくら主権者の懐の中から出てゆくのである。

 この七年半に及ぶ対テロ戦争の敗北を、軍事技術的な側面と外部からの開発援助の規模の問題に矮小化する限り、「包括的新戦略」の敗北も目に見えている。その敗北の政治責任のすべてを、タリバーン「強硬派」とアルカーイダのみに転嫁することは許されない。

2 「ブッシュの戦争」を継承する「オバマの戦争」に試される日本

 米国という世界のスーパーパワーが、
①イギリスやフランスとの密接な打ち合わせの上で---もっと言えば、ロシアや中国の了承も取りつけた上で、
②ソマリアやアフガニスタンなど、内戦状態にある国の政府を前面に押したて、
③安保理内外の国々を巻き込み、「コンタクト・グループ」(ソマリア、アフガニスタン)や「支援国(friends)グル-プ」(パキスタン)をなどを結成し、
④米国自身の「安全保障」と「国益」に基づいた「包括的戦略」に沿った「決議」を、国連安保理や将来的には国連人権理事会などであげ、
⑤それに「国連開発計画」、「国連食糧計画」、「国連環境計画」などの主だった国連機関を総動員しようとしたらどうなるか?

 いまの国連システムの下では、どうすることもできない。ブッシュの対テロ戦争の破綻がそうであったように、世界は米国政府が犯す失政の道連れになるしかない。それがいま再び、アフガニスタンでくり返されようとしている。

 自公連立政権の十年をふり返ってみると、「主体的な外交」を語りながら、その中身はひたすら対米追随路線をひた走ってきただけであることがよくわかる。「世界の中の日米同盟」宣言以降は、この傾向が特に著しい。事が外交と安保に関わる限り、共和党政権であろうが民主党政権であろうが、結局は同じことなのである。

 外務官僚の頭の中には、毎年度確保した予算を粛々と執行し、次年度の予算規模と省益を拡大し、外務省系列の独立行政法人、公益法人や財団法人、国際機関、大学教授など、将来の天下り先を確保することしか念頭にないのではないか、そもそも膨大な血税を使い(浪費し)行われる外交・安保政策を抜本的に見直し、「総括する」という言葉は外務省の辞書にはないのではないかと思えてくる。
 客観的情勢が「違う方向に進むべし」と命じているにもかかわらず、軌道修正もままならない。その結果、ぼくらの税金はドブに捨てられるように、失敗することが運命付けられた「プロジェクト」なるものに浪費され続けるのである。丸七年に及ぶ、日本のアフガニスタン「復興支援」なるものは、まさにこの典型である。

 すでに米国国内でも批判があがり、G20内でも微妙な「温度差」が露わになっているオバマのアンガニスタンとパキスタンを串刺しにした「包括的新戦略」。当面、四月十七日に東京で「パキスタン支援国会合」が開催されることになっている。例によって、何もかもがすべてお膳立て済みであるが、マスメディアはもちろんのこと、日本の国際協力NGO、開発NGOをはじめ、「平和構築」「人間の安全保障」「紛争予防」やアジア・中東・アフリカ地域を専門とする大学研究者がこの会合にどのようなスタンスが取るかが試されている。それをこれから考える準備作業として、この間日本政府・外務省がどういう「主体性」を発揮し、何をしてきたのか、まずは外務省の公式文書を通じて理解を深めておこう

⇒「オバマの対テロ戦争と日本---アフガン「包括的新戦略」を検証するNo.2」へ 

参考記事
国連人権理、米国が初の理事国入り オバマ協調路線反映
2009年5月13日【ニューヨーク=松下佳世】朝日新聞

国連総会は12日、国連人権理事会(47カ国)の改選を行い、6月に任期満了を迎える18カ国に代わる理事国(任期3年)を選出した。「イスラエル非難ばかりしている」などと同理事会を批判し、参加を拒んできた米国が初めて立候補し、06年の発足以来初めて理事会入りを果たした。

 当選には国連加盟国(192カ国)の過半数に当たる97カ国の賛成が必要で、米国は167票を得た。「西欧その他」枠では、立候補を予定していたニュージーランドが米国に譲る形で辞退したため、改選数3に候補が3カ国しかいない信任投票となった。

 米国の理事会入りは、国際社会との協調や人権を重視するオバマ政権の誕生による「変化」を印象づけるとともに、内側から組織改革を促す狙いがある。
 同理事会は、人権問題を専門に扱う国連の常設機関。前身の人権委員会を格上げする形で06年6月に発足した。

2009年3月30日月曜日

永遠の安保、永遠の米軍基地、そして永遠のテロル

永遠の安保、永遠の米軍基地、そして永遠のテロル

 世界的な米軍再編に伴い、二〇〇八年十月一日、米軍の「アフリカ司令部」、AFRICOMが正式に発足した。これで六つの独立した米軍司令部が、地球をスッポリ包み込み、分割・支配する体制ができあがった。
 ブッシュが残した人類への遺産。永遠の安保、永遠の米軍基地、永遠のテロルの時代の幕開けである。⇒下の地図はペンタゴンの広報サイト、Defense Linkより。


 世界中に拡大する米軍基地。下の米軍基地の配置図をみると、ヨーロッパにおいては第二次世界の敗戦国、ドイツとイタリアが真っ黒になっているのがわかる。そして米国の戦略的同盟国、イギリス。
 世界の真ん中に、米軍基地で黒こげになったイラクとアフガニスタン。そしてイラク北西の、西洋社会とNATOへの参加にヤッキになっているトルコから、ぐるっとアジアに目を転じると、同じく第二次世界大戦の敗戦国日本、そして米国に「解放」された韓国がみえる。(地図のPDFデータはGlobal Policy Forumからダウンロードできる

 この米軍基地の世界地図が、AFRICOMの創設を突破口に、これからソマリアをはじめ、アフリカ大陸各地に広がろうとしている。

ところで、海上自衛隊がアデン湾での「護衛」活動を開始した。アラビア半島の南の国、オマーンからソマリアの北、ジプチの間を往復しながら、日本「関連」の船舶を「警備」するのだという。
 オマーンには海軍と空軍の米軍基地があり、ジプチにも米軍基地がある。これで日本の海上自衛隊は、「補給支援」活動と合わせて、インド洋からアデン湾にわたる「海賊・武装強盗」との戦いの名において、米軍の「中央司令部」CENTCOMとAFRICOMの両方と「連携」しながら展開することが既成事実化したわけである。現行憲法の下で、である。
 
 日本のマスコミの「海賊」報道。何かが決定的に欠けている。意図的ともいえる、情報操作がある。あるいは無知がある。
 PACOM、CENTCOM、そしてAFRICOM。「アジア太平洋」から「中央アジア・中東」を経て、「アフリカ大陸の東海岸」に至るまで、「多国籍軍」という体裁を取りながら自衛隊と米軍との共同作戦体制が構築されはじようとしている。問題は、これにいつ「アフリカ大陸」へ陸自の部隊の上陸が実現するかである。

 いま国連安保理では、米国が昨年十二月に提起したソマリアへの国連PKOの派遣問題の検討が進んでいる。その主力部隊および指揮は、もちろんAFRICOMが担うことになる。AFRICOMの主要な任務は、アフリカの「戦争予防」と「平和維持」活動ということになっている。そしてその軍事拠点になるのが、二〇〇二年にジプチにつくられた米軍基地である。

 ソマリアPKOへの陸自の参加。この問題が、日本のマスコミで取り沙汰されるのも、そう遠い先のことではないだろう。

2009年3月28日土曜日

誰のための「平和と和解」か?---対テロ戦争時代の国連安保理と「国際社会」の役割を再考する

誰のための「平和と和解」か?
---対テロ戦争時代の国連安保理と「国際社会」の役割を再考する


 ソマリアの内戦勃発からほぼ二十年、旧ソ連のアフガニスタンへの軍事介入から三十年、また「自衛権」を発動した米国のアフガニスタンへの空爆の開始から七年半を迎え、誰の目にも明らかになったことがひとつだけある。それは、「イスラム原理主義」は欧米、ロシア、中国の軍事力をもってしても消え去らない、ということだ。
 アルカーイダのみならず、アフガニスタンのタリバーンもソマリアのアルシャバーブも、ハマスにファタハにヒズボラ、その他フィリピンをはじめ世界各地のイスラム武装勢力も、米軍やNATO軍によって軍事的に殲滅することはできなかったし、これからもできないだろう。なぜなら、彼、彼女たちは米軍や外国の軍隊が自国の領土に駐留する限り、武装闘争を放棄しないと宣言しているからである。

 問題は、国連安保理においても日本においても、この現実をいまだに教訓化しきれていないことである。つまり、ブッシュ政権の対テロ戦争に全世界が振り回され、世界全体がブッシュ政権登場以前より惨憺たる状況になっていることを総括しきれないまま、ぼくらはいまポスト・ブッシュの「国際政治」になし崩し的に雪崩れ込んでしまっているのである。

 ぼくらのような「非イスラム原理主義」の世界は、「原理主義」を外部から軍事的に解体することは不可能であることを知ってしまった。にもかかわらず、現実的には「原理主義」=「過激派」=「テロリスト」というレッテル貼りではない、彼や彼女たちとの関係を作り直すための政治的言説をいまだ見出しきれていないのである。その結果、ぼくらはイスラム武装勢力をターゲットにした、けれども実際には絶大なる一般市民の犠牲を生み出してきた米国、イスラエル、中国、ロシア等々の対テロ戦争を国際的に容認、あるいは黙認してしまっているのである。

 米軍とNATO軍、そして「紛争」をかかえる各国の軍隊と武装勢力の戦闘の激化、追い詰められた武装勢力による「自爆テロ」の炸裂、一般市民の犠牲、国家と武装勢力双方の戦争犯罪の氾濫、そしてそれに対する国際的な黙殺や沈黙・・・。ここ数年、アフガニスタンやソマリアで起こってきたことは「テロ対策」の絶対戦争化という根本的な政策的誤りが正されない限り、これからも半永久的に続くことになる。そのことを十分に知りながら、ぼくらは惰性的に同じ誤りをくり返そうとしている。

 人によって程度の違いはあるかもしれないが、米国の大統領がブッシュからオバマに変わったことによって、もしかしたら対テロ戦争は終息する兆しをみせるかもしれない、という仄かな期待を感じた人は多いだろう。ぼく自身が、「もしかしたら」と思った人間の一人である。しかし、大統領選におけるオバマの勝利以降、米国から発せられてくる情報を読むにしたがい、「もしかしたら」は「やっぱりダメか」にあっけなく変わってしまった。

 たしかに、バラク・オバマその人は、ブッシュ政権八年の「単独行動主義」とネオコン的「軍事至上主義」からの転換をはかろうとしていたのだろう。「対テロ戦争」という言葉を嫌い、日本語でいえば米軍の「海外派遣」とでも訳せるような表現を使おうとし、何とかイスラム社会に対する米国と米軍のイメージアップをはかろうと腐心している。しかし、政権として打ち出されてくる内容は、早くもオバマ自身の公約を裏切っている。
 ブッシュが始めた「終わりなき戦争」としての対テロ戦争がオバマ政権の時代に終息する気配は、いまのところ何も確認できない。それを証明するのが、ブッシュの対テロ戦争からの転換をはかるとされた、しかし実態は「軍事だけでなく、民生もやる」と言っているに過ぎない、オバマ政権のアフガニスタンに対する「包括的新戦略」である。

 オバマ政権は、アフガニスタンとパキスタンにおいてこの間勢力を飛躍的に増大させているタリバーンの「穏健派」と「過激派」を分断し、「穏健派」の政治的取り込みをはかり、「過激派」を炙り出そうとしている。しかし、そうした米国の「包括的」で新たな軍事的・政治的介入を拒否する勢力に対しては、断固として戦争継続(use of force)を宣言しているのだ。それはいわば、軍事的・政治的破産が明らかになったブッシュの対テロ戦争を、軍事・開発・「民生」部門全体にわたる膨大な額のドルのバラ撒きを通じ、オバマ流に少しだけ「リベラル化」した対テロ戦争に過ぎないのである

 アフガニスタンでもソマリアでも、タリバーンやアルシャバーブに反対する人々さえ、米軍や外国軍の撤退を要求している。ぼくらはこのことを、もう少し真剣に考えてみる必要がある。そうすれば、人々の広範な支持を集めているとは決していえない両国の現政府を全面的に支援する形で行われている米国や「国際社会」の介入策の誤りが、より鮮明にみえてくると思うのである。

 「紛争当事国」のどの「紛争当事者」の立場にも立たず、まずは当事者間の停戦交渉を積み重ね、和平合意を実現する。そのための「調停」あるいは「仲介者」として、あくまでも第三者的に関与する。これが国連であれ、アフリカ連合などの地域機関であれ、「国際社会」の「紛争」地域に対する関与のあり方の大原則である。十年、二十年かかったとしても、粘り強く関わり続けるしかない。その過程で力の均衡が破れ、いずれかの勢力が伸張したとしても、外部からの軍事介入は事態を悪化させるだけだからである。

 ところが、対テロ戦争時代においては、この大原則が通らない。「テロとの戦い」は「国連的正義」となり、「テロ対策」を戦争化する米国の世界戦略と、一方においてEUと日本は利害が一致し、引きずられ、他方ににおいてロシアや中国は、自国に深刻な「民族問題」と「イスラム原理主義」武装勢力をかかえるがゆえに「連携」する。
 こうして国連(安保理)に代表される「国際社会」が、第三者的関与という大原則をかなぐり捨て、予め現政権・政府を支援する(あるいは転覆する)という明確な政治目的を持ち、「紛争」地域に干渉・介入するというパターンが確立してきたのである。

 ブッシュ政権の唯一の遺産とは、この外部からの軍事的介入が問題解決はおろか、問題をさらに複雑にし、悪化させることを、世界に知らしめたことである。にもかかわらず、ぼくらはいまだにブッシュの負の遺産を償却する道筋を見出せないまま、同じ過ちに向かって突き進んでいるのである。

 「テロルな平和」とは、そのようにしてかろうじて「維持」されたり「強制」されたりする「国際の平和と安定」のことである。つまりは、国家と非国家主体双方によってくり返される戦争犯罪、虐殺と隣り合わせの、そんな対テロ戦争時代の「平和」のことである。

2009年3月27日金曜日

「海賊対策」と対テロ戦争---(3)国連安保理決議と米国のソマリア介入No.3

「海賊対策」と対テロ戦争

(3)国連安保理決議と米国のソマリア介入


3 ソマリアにおける国連PKOの行方

 二〇〇六年十二月から翌〇七年一月の米軍、エチオピア軍、暫定連邦政府軍と当時のイスラム法廷連合との戦闘による「ソマリアの虐殺」を経て、二〇〇七年一月十九日、アフリカ連合の「平和安全保障理事会」は、ソマリアへのPKO(平和維持部隊)、AMISOMの派遣を決定した。

 AMISOMの任務は、主に三点。
①暫定連邦政府への支援、
②政府軍および警察の育成・訓練、
③「人道援助」物資の輸送の安全確保などである。
 国連安保理が翌二月にAMISOMの派遣を承認し、当初六ヶ月の派遣期限が更新され続け、現在にいたっている。

 ぼくらは、アフリカの「紛争」にアフリカ連合の軍隊が派遣されるのだから何も問題はないではないか、と思ってしまう。イラクやアフガニスタンのように米軍やNATO軍が派兵されるよりはマシではないかと。しかし、事はそう単純ではない。
 第一に、ソマリアにおける戦争犯罪の当事国のひとつであるエピオピアがアフリカ連合の「平和安全保障」理事会の理事国であり、AMISOM派遣決定に直接的に関与していること、しかもエピオピア軍は二〇〇九年一月の撤退まで、その後丸二年間、ソマリアに駐留し続けていたこと(実は完全撤退していないという情報もある)、
 第二に、AMISOM派遣決定に伴い、それまで国連安保理決議としてソマリアへの武器禁輸が決定されていたにもかかわらず、米国によるAMISOM(派遣国)に対する武器供与は「例外的措置」とされたこと、が指摘できる。

 つまり、形の上では米国はアフリカ連合のソマリアPKOに直接的関与はしていないということになっているが、エチオピアとAMISOM(派遣国)、そして暫定連邦政府に対する軍事援助・訓練という形で、事実上ソマリアへの軍事介入を継続してきたのである。

 AMISOMについていえば、これまで当初予定していた八〇〇〇人規模の部隊派遣がその半数にも満たないこと、装備と資金不足、さらにはPKOという性格上、武器使用=武力行使に制約があることなど、さまざまな問題点(苦情)が指摘されてきた。こうした中で、今年の六月までの期限を前に、この三月から部隊の増派が決定され、すでにモガディシュには増派部隊が到着したという現地の情報もある。

 そこで、国連安保理の動きが気になるわけだけれども、安保理は去年の十二月、まさに「海賊」対処をめぐり発した去年最後の安保理決議と機を一にして、AMISOMと交代に国連PKOを今年の夏から派遣することを「検討」するという決定を下している。それに米軍がどのように関与するか、いまのところ定かではない。
 しかし、「国際ソマリア連絡調整グループ」を母体とした「海賊対策国際連絡調整グループ」も結成された。米軍、仏軍、英軍など、要するに米軍とNATO軍を中心にした「海賊・武装強盗」撲滅有志連合軍は、すでに組織化されている。そしてそれに日本も参加し、金も出すとすでに確約している。これらのことを総合的に考え合わせると、一九九〇年代初頭のソマリア介入とその失敗という国連にとっての「ソマリアの悪夢」を総括せずに、いま再び二度目の悪夢の再現に向け、国連がソマリアPKOを新たに創設することは十分に想定しうることである。

 その時、日本、そして自衛隊はどうするか?
 日本は昨年から、アフリカにおける国連PKOに積極的に関与し始めている。

 昨年十一月、「アフリカ紛争解決平和維持訓練カイロ地域センター(CCCPA)」に日本は自衛官二名を講師として派遣している。また、同じく十一月、国連スーダン・ミッション(UNMIS)に派遣された自衛官二名は「軍事部門司令部兵站幕僚」と「統合任務分析センター情報幕僚」の任務を開始している。

 「海賊」が「人類共通の敵」であるなら、暫定連邦政府と戦うアルシャバーブやその他のソマリアの「イスラム原理主義者」はさしずめ「宇宙の敵」ということになるのかもしれないが、これから組織されるかもしれない国連ソマリアPKOへの自衛隊の参加は、少なくともその態勢だけは、すでに整っている。国際政治と国内政治の両方の舞台裏で何もかもがすべて「お膳立て済み」と穿った見方をするのは、ぼくだけだろうか?

 もしかしたら今秋、あるいは冬あたり、自衛隊から「軍事部門司令部兵站幕僚」と「統合任務分析センター情報幕僚」が「先遣隊」としてソマリアに「派遣」されることが決定されるかもしれない。「武器使用」基準を「国際標準」にして。
 ぼくらはその時になっても、今と同じ議論を性懲りもなく、また延々とくり返しているかもしれない。

4 「海賊対処」海域と対テロ補給海域


 三月十八日、防衛省の統合幕僚監部のホームページに「ソマリア沖・アデン湾における海賊対処のための活動特設ページ」が開設された。上の地図はそこに掲載されているものである。これを同ホームページにある「インド洋における補給支援活動特設ページ」にある下の地図と対照してみよう。産経新聞の記事に使われていた地図は下の地図を元にしたものだが、防衛省が作成したこの二つを対照すれば「海賊対処」と「補給支援」活動の位置関係がより正確に理解できるだろう。

 多くの人が「インド洋」のみで行われているものと思っていたに違いない「補給支援」活動はペルシャ湾のみならず、アデン湾でも展開されている。そして海上自衛隊の「海賊対処」海域はその海域の中にスッポリ収まってしまうのである。
 「海賊対処」と「補給支援」。もしかしたら、これから海上自衛隊はこの両方を使い分けながら、無期限にインド洋、ペルシャ湾、アデン湾で展開することになるかもしれない。「ねじれ国会」によって「補給支援」に関する与野党一致がはかれなくなった中で、「海賊新法」の本当の狙いはそこにあるのかもしれない。

「海賊対策」と対テロ戦争---(3)国連安保理決議と米国のソマリア介入No.2

「海賊対策」と対テロ戦争

(3)国連安保理決議と米国のソマリア介入


2 内戦の泥沼化と「ソマリア・コンタクト・グループ」の結成

 ブッシュ政権八年の米国のアフリカ戦略は、対テロ戦争と開発戦略を通じた経済統合を両輪にしてきた。一方において、親米政権の形成と反米イスラム武装勢力の軍事的解体、他方において石油、天然ガス、鉱物資源、海底資源などの開発権益の保全と新たな開拓。そのために有償・無償の軍事援助、政府開発援助(ODA)、「人道援助」が使い分けられてきたのである。

 二〇〇二年のソマリアの隣国ジプチ共和国での基地建設と、ソマリア国内におけるCIAの政治工作に始まったブッシュ政権のソマリアへの軍事的・政治的介入は、アフリカ大陸の中でもこうした傾向が最も顕著に現れていた。その意味で、グローバル対テロ戦争の中に位置づけられたブッシュ政権のソマリア政策は、恐ろしくはあるが、逆に非常に分かりやすいものであったということができる。

 記憶を呼び戻すために、二年前の二〇〇七年一月の下の記事と、参考資料に目を通してほしい。

・・・・・・・
 ソマリア沖に米軍展開 イスラム勢力の逃亡阻止
 【共同通信】2007/01/03

 マコーマック米国務省報道官は3日の記者会見で、ソマリアの首都モガディシオから撤退したイスラム原理主義勢力「イスラム法廷会議」(イスラム法廷連合のこと。引用者)メンバーの国外逃亡を阻止するため、米軍がソマリア沖に展開していることを明らかにした。
 また暫定政府部隊とエチオピア軍がモガディシオを制圧したことを受け、今後の対応を関係国間で協議するため「ソマリア連絡調整グループ」(Somalia Contact Groupのこと。引用者)の会合を5日にケニアで開く予定だと述べた。米国の呼び掛けによるもので、フレーザー国務次官補(アフリカ担当)が共同議長を務める。
 報道官は、イスラム法廷会議のメンバーがアルカイダを含む国際テロ組織と関係を持っていると指摘。国外逃亡は「われわれの大きな懸念」と強調し、米軍展開は「海上の逃げ道をなくすため」と説明した。

◎参考資料⇒「ソマリアで生じている事態および米国のソマリア軍事介入に関する日本NGOの声明」(2007年2月2日)
・・・・・・・

 ブッシュ政権の全面的なソマリア軍事介入を決定付けたのは、前年の二〇〇六年の上半期にイスラム法廷連合が全土を支配下に置く気配をみせ、ついに六月、首都モガディシュを制圧したことだった。これを機に、米国は二〇〇四年にケニアのナイロビに亡命政府として樹立された暫定連邦政府およびこれへの軍事的支援を行っていたエチオピア政府を、さらにその背後から、しかし公然と支援するようになる。

ソマリア内戦の経緯については、AFPの「ソマリア紛争年表」、その他の資料を参照してほしい。

 こうした米国のソマリア介入を国際的に事前承認し、バックアップする非公式機関として、二〇〇六年六月に米国自身のイニシアティブによってニューヨークで組織されたのが、「ソマリア・コンタクト・グループ」(国際ソマリア連絡調整グループ。ICGS)である。ICGSのオリジナルメンバーは米国、英国、イタリア、EU代表部と委員会、スウェーデン、そしてタンザニア。国連とアフリカ連合はアラブ連盟、ソマリア開発政府間協議(Intergovernmental Authority on Development )とともに「オブザーバー」としてこれに参加した。

 以降、米国がヘゲモニーをとる形で国連(安保理)を巻き込みながら、暫定連邦政府を軍事的・政治的に支え、「イスラム原理主義過激派」をソマリアから放逐する、いわゆる「ソマリアの平和と和解」(ICGSのスローガン)に向けた「国際社会」の介入が本格化する。二〇〇六年十二月のエチオピアのソマリア侵略、そして年明けの米軍の空爆・ミサイル攻撃は、こうした米国版「ソマリアの平和と和解」戦略の本質を、最も露骨な形で全世界に示したのである。その結果もたらされたものが、上に紹介した日本の国際協力NGOの声明の内容である。

2009年3月24日火曜日

「海賊対策」と対テロ戦争---(3)国連安保理決議と米国のソマリア介入No.1

「海賊対策」と対テロ戦争

(3)国連安保理決議と米国のソマリア介入


 (2)「「海賊対策」は「海賊」対策にあらず」で確認したことは、ソマリア沖・アデン湾への海上自衛隊の「派遣」が、いわば民主党と自公政権の「大連立」状況によって決定されたことである。現在、民主党は社民党との政策協議との関係で、「海賊新法」を「修正」する動きを見せているが、党として自衛隊「派遣」を容認する方針に変わりはない。

 「国連安保理決議があれば、たとえ憲法九条第二項があろうと自衛隊の海外派兵も武力行使もできる」。
 これが小沢民主党の「安全保障」政策の基本方針である。この論理は憲法に対する国際法の「優越性」を認めるものだが、長島議員も麻生政権の海上自衛隊派兵の決断を誘導するような国会質疑の中で強調していたことである。

〇長島
 総理、もう時間がないので、総理の御決意を伺いたいんです。国連決議もある。国連決議がありますと私ども民主党では大体大丈夫なんです。国連決議もある、それからヨーロッパ諸国も本気で取り組んでいる。いつまでもただ乗りのそしりを受けるわけにはいきませんね・・・
〇麻生
 この種の話はぜひ与野党間で政党間協議をということをずっと申し上げてきておりましたので、こういった御提案をいただけるというのは私は物すごくいいことだと正直思っております」。(二〇〇八年十月十七日の衆議院「対テロ委員会」における発言)

 では、長島議員が錦の御旗にしているソマリア情勢に関する国連安保理決議とはどのようなものだったのか。
 二〇〇八年、国連安保理はソマリア情勢をめぐり、
①アフリカ連合によるソマリアPKO(AMISOM)の期限延長、
②ソマリアへの武器禁輸、
③「海賊および武装強盗」への対処、これら三つの議案に関連し、総計十本の決議を発している。
 その内、「海賊および武装強盗」に関するものは四つある。最初が決議一八一六、次に一八三八一八四六、そして最後が一八五一である。
 (因みに、日本政府(外務省、防衛省、内閣府、首相官邸)は、それぞれの「海賊」問題に関するホームページにおいて、これらの決議のいずれも日本語訳はおろか原文も公開していない。たとえば、外務省についていえば、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対する安保理決議では原文・日本語訳(仮訳)の両方を公開しているのに比し、その怠慢ぶりが際立っている。なお、上にリンクを張った各決議の翻訳には一部誤記・脱字等もみられるが、これらは民間ボランティア組織による訳であることを断っておきたい。)

 最初の決議一八一六の共同提案国は米国、フランス、イギリス、イタリア、ベルギー、パナマ、クロアチアの安保理理事国七カ国と、日本、スペイン、オーストラリア、カナダ、デンマーク、オランダ、ギリシャ、ノルウェー、韓国の非理事国の計十六カ国、最後の決議一八五一はパナマが抜け、新たにポルトガル、ウクライナ、シンガポール、マレーシアが加わった計十九カ国である。

 共同提案国の順番を米国、フランス・・・としているのには理由がある。米国とフランスは、ともにアフリカに対する直接軍事介入の事例にこと欠かない国であるが、そもそもこの決議一八一六を起草したのが米国であり、その米国とともに草案を完成させ、安保理での決議に向け政治工作に走ったのがフランスだったからである。

1 「海賊」対策か、それとも対テロ・海賊戦争か
---ソマリアの和平を脅かす「海賊」対策の軍事化


 「海賊対策」がソマリアの内戦への回帰と外部からの軍事介入ではなく、本当の意味で和平につながると理解できるのであれば、何も問題はない。けれども、国連安保理決議の内容を見る限り、おそらく誰もそうは思えなくなるだろう。
 去年の六月に出された安保理決議一八一六。この決議の中に見落とせない項目がある。それは決定事項の七点目である。

・・・・・・・・
 本決議採択日より6か月の期間、同国沖における海賊及び武装強盗と戦うにあたり暫定連邦政府と協力す る国家は暫定連邦政府により事務総長に対し事前に報告の上、以下のことを行ってもよいことを決定する。

a)関連する国際法の下で海賊行為に対して公海上で実施できる行動に従い、海上における海賊行為及び武装強盗制圧の目的で同国領海内に入ること

b)関連する国際法の下で海賊行為に対して公海上で実施できる行動に従い、同国領海内で海賊行為及び武装強盗を制圧するためのあらゆる必要な措置を講じること
・・・・・・・・

 この七点目の内容は、いみじくも民主党長島議員が現行法体系の下で海上自衛隊を出せると主張した、その根拠として挙げていた箇所である。しかも見落とせないのは、安保理決議が、決議一八一六から十二月の一八五一に至る過程で、有志連合軍の軍事的権限をさらに拡大していることだ。
 決議一八五一の決定事項の第六点目に注目しよう。そこでは、それまでのソマリアの領海内における有志連合軍の展開に加え、新たに「海上における海賊行為及び武装強盗を制圧するために、同国内であらゆる必要な措置を行うことができることを決定する」とされている。

 形式的にいえば、有志連合軍の行動は「暫定連邦政府の「要請」を受けて」ということになっているが(この点については後述する)、これで有志連合軍(=米軍)はソマリアの領海内のみならず領土全域において「海賊および武装強盗」の追撃・撲滅のために「あらゆる必要な措置」をとることが可能になったわけである。

 日本はこれら一連の安保理決議の共同提案国になっており、麻生政権はもちろんのこと、民主党をはじめ日本の議会政党やマスコミから「海賊対策」の軍事化を招く安保理決議に対する批判がひとつとしてきこえてこないのは異様である。それは、「海賊」を「テロリスト」と同一視し、「人類共通の敵」と定義し、必要とあらばその軍事的殲滅をはかるという、ブッシュ政権が生み出したグローバル対テロ戦争時代の政治的言説に日本の政党政治やジャーナリズムが、いまでも深く囚われていることの証である。

 ともすれば忘れがちになるが、ソマリアは未だ内戦状態にある。その中で、暫定連邦政府側に軍事援助し、政治的なテコ入れを続けてきた米国をはじめとした各国の軍隊が、ソマリアの国内まで「海賊・武装強盗」を追撃することを国連の名において許しているということ自体、きわめて異常だといわなければならない。
 本来、警察活動であるべき「海賊対策」が、戦艦を派遣する側の軍隊の論理によって戦争化し、ソマリア和平の阻害要因になりうる根拠がここにある。安保理決議はその前文において、ソマリアの「主権・領土保全・政治的独立・統一の尊重を再確認」すると語りながら、一般のソマリアの人々の視点に立てば、これらを蹂躙するものにしか映らない。

 もっとも、暫定連邦政府がソマリアの人々の広範な支持を得て、真にソマリアの人々の民意を代表しているといえるなら、問題は半減する。しかし、事実はそうではない。今年に入り、ブッシュ政権とエチオピア政府がアルカーイダとのつながりがあるとし、「ソマリアのタリバーン」「テロ組織」として軍事的殲滅の対象としてきた反政府武装勢力のアルシャバーブは、再びソマリア南部を中心に勢力を伸張させている。つまり、暫定連邦政府の支持基盤は決して磐石なものとはいえないのだ。しかも、政府軍自体がイスラム法廷連合内「穏健派」とその他の軍閥の連合体以上の呈をなしておらず、政府軍による民衆略奪や虐殺などがくり返し起こっている結果、民衆の怒りや不信は政府軍そのものに対しても向けられている状況なのである。

 ともあれ、ぼくらはできる限り、内戦の当事者の一方の側に肩入れし、状況を悪化させる事態を招きかねない国連安保理決議から距離を置きながら、次にブッシュ政権末期の米国が、なぜこれらの内容を決議に盛り込む必要があったのか、そしてその政治的目的がどこにあったのかを考えてみたい。そのためには、安保理決議を、ソマリア内戦に対する米国と国連の関与の歴史的文脈の中に置き直し、より広い視野に立って捉え返す必要がある。

2009年3月22日日曜日

「海賊対策」と対テロ戦争---(2)「海賊対策」は「海賊」対策にあらず


「海賊対策」と対テロ戦争

(2)「海賊対策」は「海賊」対策にあらず

(右の一覧は読売新聞の「「海賊襲撃」に緊迫、漁船との判別難しく…ソマリア沖ルポ」より)

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海賊対策でイエメン漁民が悲鳴=海軍から威嚇射撃も-サウジ紙
【カイロ22日時事】

海賊対策で海上自衛隊も含めた各国海軍が派遣されているソマリア沖のアデン湾で、イエメン漁民が海賊と疑われて威嚇射撃を受けるなど海軍と海賊の板挟みとなり、「漁業が立ち行かない」と悲鳴を上げている。21日付のサウジアラビア紙アラブ・ニューズが伝えた。
 同紙によると、イエメンのハドラマウト州沿岸では約1万2000人が漁業に従事、主要な漁場は同国とソマリア中間海域で、海賊被害海域とも重なる。両国の漁師が乗り組むことが多く、海賊と誤認されて威嚇射撃を受け負傷者も出ているという。
・・・・・・・・

 「海賊新法」をめぐる国会審議が始まった三月十九日、いきなり自衛隊OBの国会議員から「海賊対策はテロ対策でもある」という議論が飛び出した。そして、従来の政府解釈を変更し、自衛隊の武器使用を「国際標準」化し、海外派兵一般法を制定すべし、という持論をブチまいたのである。

 しかし、その自衛隊が三月三十日から「警備行動」を開始するというアデン湾では、すでに周辺諸国の一般漁民が射撃されるという事態が起こっている。また、ソマリアからアデン湾をイエメンに向かっていた難民が銃撃されたという事件も報道されている。
 今年に入り「海賊」発生件数が顕著に低下し、しかも米軍やNATO軍その他諸国の戦艦、国連の報告書がいうところの「現代史で最大規模の海賊対策の艦船」の到着によって、すでにアデン湾が「警備」過密状態にあり、「警備」する側が問題を起こしているというのに海上自衛隊はいったい具体的に何をしにいくのか。とにもかくにも「何でもいいから理由をみつけて海自を出す」とでもいうような、出すこと自体を自己目的化した「派遣」だったのではないかと思えてくる。

 海上自衛隊はその任務期間中に何件の「海賊事案」に遭遇し、その阻止活動に成功するだろう。その総件数とそのために使われた納税者の血税との関係、要するに自衛隊「派遣」の「費用対効果」について、ぼくらは厳しくチェックし、査定する必要があるだろう。対テロ戦争の「後方支援」=補給活動のように「国際的に評価されている」といった、いい加減な表現でもう済まされてはならないと思うのである。

 こうした議論、つまり「海賊対策の軍事化」が現地の漁民や難民にもたらしている重大な人権侵害(その補償はいったい誰がするのか、殺された難民の遺族は誰を訴えることができるのか?)、そして自衛隊「派遣」の経済合理性如何の問題が何も議論されず、またマスコミも問わぬまま、これまで自衛隊を出すことを前提にすべての話が進んできたのである。

 海外のニュース報道では、押しなべて日本は「海軍を派兵した」となっているが、ここで海上自衛隊の「派遣」が本当に妥当な政策選択であったかどうか、改めて問題を整理するために、麻生政権がソマリア沖への海上自衛隊「派遣」を決定するに至った経緯を改めて振り返っておこう。

 麻生首相が、国連の「海賊」問題に関する安保理決議を受け、海上保安庁ではなく「海軍」の派兵を決定したのは、昨年十二月二十五日である。元々、麻生政権には海上保安庁を出すという選択肢などなく、「はじめに自衛隊ありき」の決定だった。
 この決定の呼び水になったのは、昨年十月十七日の衆議院の「国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラク人道復興支援活動等に関する特別委員会」における民主党長島議員と浜田防衛大臣による次の質疑・応答、そしてそれを受けた麻生首相の発言である。

・・・・・・・・・
〇長島
 二つの国連決議が出ました。六月二日と十月七日、国連決議一八一六そして一八三八。先ほど話が出ましたね、一八一六は、多国籍艦隊に対して、海賊制圧のため、ソマリア領海への進入と領海内での海賊行為を制圧するための必要なあらゆる手段を認める、こういう決議であります。これが六月二日に出た決議一八一六であります。
 そして十月七日、決議一八三八、この決議は、大要は三つに分かれますけれども、海賊の襲撃がその間、より洗練されてきた、このことを強調している。そして、各国ともより積極的な関与をしてほしい、こういう呼びかけをしております。そして、期限を特定せず、かつ、公海上での活動をあわせて強く要求する、こういう形になっております・・・。
 浜田防衛大臣にお伺いしたいんですけれども、これら一連の国連決議を受けて、あるいはEUやNATO諸国の具体的な行動を受けて、先ほど海上警備行動の話もありましたけれども、我が国として何か具体的な行動に移す、そういう準備、可能性は考えておられますか。

〇浜田
 我々とすれば、現在、ソマリア沖の海域における海賊対策の部隊を派遣する等は検討はしておりませんが、しかしながら、我々は、総合海洋政策本部という関係閣僚から成る法制チームを設置しまして、海賊に対する取り締まりのための法制度上の枠組みについて検討を進めているところでありまして、この法制チームの検討結果を受けてまた考えていきたいというふうに思っているところでございます。

〇長島
 今、取り締まりというお話をされました。取り締まりというのは司法警察の権限に入り込んでいくものですから、法制的にはなかなかこれは難しいんですよ。新しい法律が必要なんです。しかし、やれることはまだあるはずなんですね。
 私は、去年のまさにこの委員会での質疑の中で、何で補給活動なんだ、なぜ日本は海上阻止活動の正面に立てないんだ、やれることがあるんじゃないかと。例えば警戒監視です。海上自衛隊には、P3Cという哨戒機が八十機以上もあるんですね。ある軍事専門家に言わせると、余っている。こういうアセットをこの地域に持っていけばかなり有用じゃないんでしょうか。例えばドイツは、もう既にジブチにある米軍の基地を拠点にP3Cの哨戒機の運用を始めました。浜田防衛大臣、まさに我が国の生命線を握るこの海域が海賊の脅威にさらされている、そういう事態にあって、国防の責任者として、少なくともこういった活動は現行法のもとで私は十分できると思んですが、いかがでしょうか。

〇浜田
 我々とすれば、あらゆる可能性を考えながら今まで対応してきたところもあるわけで、当然その警戒監視というものに対してもいろいろな形で検討の材料にはしてまいりましたけれども、今の現状からいえば、大変おしかりを受けるかもしれませんが、目の前にある法律をしっかりとやって、そしてインド洋の活動というものをやらせていただいて、その後にまたそういったことも可能性を考えていきたい。お考えはよくわかりますけれども、そういう状況であります。

〇麻生
・・・今、民主党の方もこの種のことに御理解があるということに関しましては我々としては大変心強ところでもありまして、ぜひこの問題につきましてきちんとした、日本の国益に沿っておる話でもあろうと思っております。
・・・・・・・

 こうして麻生政権に先立つ福田政権においては、自衛隊の派兵はおろか海上保安庁の派遣さえ検討されていなかった「海賊対策」が、麻生政権に変わるや否や、長島副幹事長を始めとする民主党内部の「日米同盟強化」派の「大変心強い」援軍を得て、一挙に海上自衛隊の派兵へと動いたのである。長島議員の質疑を報じた民主党ニュースにもあるように、福田政権を引き継いだ当時の麻生政権の「海賊対策」といえば、「間接的な協力貢献」としての「燃料の無償提供」と、「中長期的課題」としての「沿岸国の能力強化」しかなかった。それは福田政権が「自衛隊の武器使用」や「集団的自衛権の行使」をめぐる、それまでの政府見解と解釈に、それ以上の変更を加えないという方針を採っていたからである。

 麻生政権が本当に「国民生活第一主義」を唱えた福田政権の路線を後継する政権であるなら、「海賊対策」なるものに自衛隊を「派遣」する意思は持たなかったはずだ。せいぜいのところ、「燃料の無償提供」と「沿岸国の能力強化」で十分だったのである。このことは自民党と公明党の支持者もよく考えてみるべきではないか。福田路線は民主党内の「日米同盟」強化派と彼らと志を同じくする麻生太郎その人の連合によって覆され、放棄されたのである。この事実過程をしっかり認識しておきたい。

 長島議員の国会質疑から一ヶ月が経った十一月十八日。日本財団と海洋政策研究財団は「総合海洋政策本部長」たる麻生首相に⇒「ソマリア沖海賊行為への日本の対応に関する提言」を提出する。ぼくらはこの日、笑顔の麻生首相と同じく笑顔の長島議員が「同士」として仲良く同席している姿を確認することになる。

 「海賊新法」の本質を考えるときに忘れてならないのは、自衛隊の派兵が事実上、自公政権と民主党の合意の下で決まったのが、衆議院の「国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラク人道復興支援活動等に関する特別委員会」だったということだ。このことは実に象徴的である。

 ぼく自身は自公連立政権の「外交・安全保障」政策が、安保と米軍駐留を永続化するものであるという意味においてこれに反対であり、政権交代を強く期待している主権者の一人である。しかし、長島議員と麻生首相の掛け合い漫才のようなやりとりを読むにつけ、もしも仮に民主党を中心とする政権ができたとしても、米国のグローバル対テロ戦争から自立した日本の「外交・安全保障」政策は、とても望むべくもないと言わざるをえなくなる。
 なぜなら、長島議員が紹介している「海賊」対策をめぐる一連の国連安保理決議が、グローバル対テロ戦争の一環として、ソマリアにおけるイスラム武装勢力の撲滅と封じ込めを目的とし、米国ブッシュ政権の強力なイニシアティブの下に採択されたものであるからだ。

 その昔、米国の「西部開拓」の時代に、「良いインディアンは死んだインディアンだけだ」という表現が使われ、アメリカ先住民族に対するジェノサイドが正当化されたものだが、ペンタゴンの対テロ戦争は、「良いイスラム原理主義者は、死んだイスラム原理主義者だけだ」といわんばかりの「テロリスト」根絶作戦として展開されてきたのである。
 ブッシュ政権丸八年のその好戦的なレガシーからオバマ政権はいかに脱却しうるか。そうなることがぼくらにとっても希望ではあるのだが、なかなか事はそう簡単には運びそうにない。それは六年前のイラクが、いまアフガニスタンで再現されようとしている事態の中にもはっきりと示されている。

 ソマリア、イラク、アフガニスタンでこれから何が起こっていくか、そのことに目を配ることを常に忘れないようにしながら、次にソマリアや「アフリカの角」における米国の対テロ戦争と「海賊対策」国連安保理決議との関連についてみることにしよう。

2009年3月19日木曜日

「海賊対策」と対テロ戦争---(1)佐藤正久自民党議員の重大発言

「海賊対策」と対テロ戦争

(1)佐藤正久自民党議員の重大発言

(右の地図は産経新聞の「“ソマリア海賊掃討司令部”へ要員派遣 政府検討」より)

 3月19日午前中の参議院予算委員会における「外交・安全保障等に関する集中審議」。自民党の佐藤正久議員が質疑にたった。佐藤議員の質疑内容は、ソマリアの「海賊対策」についてこれからぼうが書こうとすることと密接に関係しているので、ここにその要旨をまとめておこうと思う。ポイントは次の五点である。

①ソマリア沖(アデン湾)への自衛隊派兵には「海賊の脅威だけでなく、テロの脅威」にも対応するものである。

②「海賊新法」での制限付の武器使用の緩和措置を、そのまま自衛隊のPKO活動における武器使用の緩和措置の前例としないこと。
 つまり、自衛隊のPKO参加にあたっては、自衛隊の「現場」における行動を縛るような武器使用の制限を廃止し、「任務遂行のための武器使用」を全面的に認めべきという主張である。
 これに対し宮崎内閣法制局長は「海賊対策」とPKOは前提が違うので、「PKOにおける警護任務における武器使用についての議論に直接結びつくものではない」と答弁した。さらにこの答弁に対し、佐藤議員は「前例としないという明確な答弁」と解釈し、「感謝」を示した。

③自衛隊を海外で「運用」する一般法の制定すること。
 これに関連し、現在、防衛省、外務省、内閣府、内閣官房にまたがっている自衛隊の海外展開に関する管轄官庁を防衛省に一本化すること。
④一般法の中に「海賊新法」を含め、自衛隊が「海上交通路を確保する任務」を統合すること。
⑤今回アデン湾に派兵された自衛隊員に「補給支援特別措置法」に基づいた、あるいはそれ以上の特別手当を支給すること。
 
 もっとも重要なことは、佐藤議員(自民党の一部)が、憲法論議や九条解釈をいっさい抜きにして、海外における自衛隊の「任務遂行目的」での武器使用=武力行使の承認、そしてそれに基づく海外派兵一般法の制定を主張していることである。自衛隊OBのロビーイストとしてならともかく、いやしくも国会議員の発言としては、はっきり言って無茶苦茶な議論である。

 しかし、他方で政府与党の「国際平和協力の一般法に関するプロジェクト・チーム」のメンバーでもあるこの佐藤議員の主張を踏まえるなら、「海賊新法」を憲法違反とし、武力行使に「つながる」から反対するといった議論が、論戦の戦術としてもいかに無力であるか、その根拠も理解しうると思うのである。

2009年3月17日火曜日

「海賊対策」における憲法解釈の権力学---海外派兵と海外派遣、武力行使と武器使用をめぐって(2)

「海賊対策」における憲法解釈の権力学---海外派兵と海外派遣、武力行使と武器使用をめぐって(2)

1 「海賊新法」が憲法違反にならない理由

 「海賊新法」(案)が憲法違反だと主張したとしても、政府がそう解釈していない以上、議論は平行線をたどるだけである。ぼくらは「戦後」の長い間、安保条約や自衛隊をめぐり、あるいは日米安保ガイドライン、周辺事態法、武力攻撃事態法をめぐり、さらには国際平和協力法、イラク特措法、対テロ特措法などをめぐって、そんな虚しい議論を幾度となく、くり返してきた。
 けれども、政府が新しい口実をみつけては安保を強化し、自衛隊を海外に出そうとするたびに「憲法違反だ、いやそうではない」といった議論から、もういい加減、卒業すべきだとぼくは考えている。

 もちろん、改憲がなされていない以上、個々の政策が違憲行為であると判断できる場合に、違憲訴訟その他の活動を通じ、政府に政策の中止や変更を求めることは主権者としての当然の権利である。がしかし、そうした訴訟や活動なるものは、実際には「憲法九条を守る」ものではなく、自公政権による個別的な「外交・安全保障」政策を問う活動になる。だから、護憲派の人々をも含めぼくらにとっていま重要なことは、憲法九条が政府の政策規範として死文化している現実をはっきりさせることであり、「海賊新法」を憲法違反と主張することよりもむしろ「政府解釈によれば、なぜこれが憲法違反にならないか」を学習することではないかと思うのだる。

 なぜ、「海賊新法」が憲法違反にならないのか?
 日本政府が、憲法九条の規範原理を換骨奪胎する、憲法学説的にもきわめて異端的な九条解釈を政府解釈とし、しかもそれを上に列挙したような個別法の制定によって合法化し、「合憲」化してきたからである。
 憲法九条の死文化については、すでに述べているので、ここでは日本政府(内閣法制局)が編み出し公明党も踏襲している、
①自衛隊の海外派兵を「海外派遣」と言い換え、同時に
②武力行使を「武器使用」と言い換える、世界にも例をみない、ほとんど「天才的」ともいえる稀代の「霞ヶ関文学」の詭弁法について学習を深めることにしたい。

 学習の目的は「海賊新法」と、自衛隊の「武器使用」制限の「緩和」措置を通じ、改憲以前の段階において海外における自衛隊の武力行使を可能にすることを目論む「国際平和協力一般法」との関係性を見定めることにある。
⇒「「オバマの戦争」と「新日米安保宣言」」に続く

2009年3月16日月曜日

「海賊対策」における憲法解釈の権力学---海外派兵と海外派遣、武力行使と武器使用をめぐって(1)

「海賊対策」における憲法解釈の権力学---海外派兵と海外派遣、武力行使と武器使用をめぐって

 三月十四日、海上自衛隊が「海賊対策」と称して、新たに制定された法律ではなく、自衛隊法82条を根拠に日本の領域外に「派遣」された。
 日経新聞の記事によると、麻生首相は訓示の中で、「(海賊は人類共通の敵。貿易に依存する日本にとって国家存立の生命線を脅かすものだ」と「海賊対策」の意義を強調したという。

 これに先立つ三月十二日。政府はソマリア周辺国が実施する「海賊対策」を政府開発援助(ODA)で支援する方針を決めている。この決定に伴い、四月以降、国際協力機構(JICA)がイエメンに調査団を派遣するという。ODAによる周辺諸国に対する「海賊対策」の「能力向上」に向けた取り組みはすでに始まっているが、日本の「安全保障」政策と一体化した、いわゆる「ODAの戦略的活用」論のさらなる具体化である。

 自衛隊法の拡大解釈による自衛隊の海外「派遣」という意味では、ちょうど十八年前にも同じようなことがあった。湾岸戦争(一九九一年)直後の海上自衛隊の掃海艇のペルシャ湾への「派遣」である。その時は、海上自衛隊の「機雷等の除去」の任務を規定した自衛隊法九九条を適用しての「派遣」だった。
 当時のことを振り返るために、『永遠の安保、テロルな平和」の「Ⅲ 鎖を解かれた安保体制---「軍事同盟」への軌跡」の「1湾岸戦争と自衛隊の海外「派遣」」から引用しておこう。

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 「憲法も自衛隊法も改定せず、時限立法も制定せずにペルシャ湾への自衛隊派兵をどうやって正当化したのか。最初に、掃海艇が日本の領海のみならず「公海」で機雷除去できるという新解釈を出す。次に、「公海」概念から地理的制限を解除する。これで完了である。安保であればその対象領域は「日本区域」や「極東」という制限があるが、その縛りを解くのである。

 「自衛隊法九九条に基づく海上自衛隊の機雷等の除去の権限につきましては公海にも及び得るが、具体的にどの範囲にまで及ぶかについては、そのときどきの状況等を勘案して判断されるべきであり、一概には言えない」(九一年三月一五日衆議院外務委員会における政府答弁)。

 自衛隊はペルシャ湾であろうがどこであろうが、「そのときどきの状況等を勘案」すれば地球の裏側にまで「派遣」できるという画期的な新解釈が飛び出した。日本は、一九九一年段階において、自衛隊法の新たな「解釈」と内閣(外務・防衛官僚)の意志次第でそれができる国になっていたのである。

 ただし、法の解釈を変えるだけでは政治的には不十分である。日本の戦争「協力」に対する「国民の理解」を得るために「本土防衛」を超えた自衛隊の海外派兵を正当化する「大義」がなければならない。そこで出された論理が、「カネとモノだけでなくヒト=自衛隊を出すことがポスト冷戦時代の日本の国際的責任」という国際平和貢献論だったのである」(引用終わり)
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 十八年前は「国際平和貢献」論で、今回は「人類共通の敵」たる「海賊対処」論。
 思い起こすに、当時はまだ「五五年体制」の崩壊以前の時代だった。いかにも、時代は大きく変わってしまったようだ。その証拠に、掃海艇の「派遣」に「断固反対」を唱えていた「平和の公明党」は、政府与党となり自民党と一緒に「海賊新法」を国会で通す側に回るようになった。公明党は湾岸戦争以降、「そのときどきの状況等を勘案」し、こんなにも変わってしまった、ということだろうか。

 マスコミの対応の変化にも、時代の変化を痛感させられる。
 朝日新聞から「海賊新法」に反対する主張は何も聴こえてこないし、毎日新聞は今更ながらに、「自衛隊の海外活動全体になし崩し的に武器使用基準が緩和される事態は避けなければならない。そのための歯止めが必要である」などという社説でお茶を濁している。湾岸戦争以降、いや憲法九条が死文化した半世紀以上も前から「歯止め」など何もなかったし、かけられようもなかったにもかかわらずに、である。

 朝日新聞や毎日新聞は、過去の歴史と現在生起している事態を故意にみようとせず、「海賊対策」=「国益」論に押され、批判されること(=購読者の減少)を恐れて自らの主張を自主規制しているとしか思えない。
 なぜなら、これまで何度も繰りかえされてきた解釈改憲の手法を分析するなら、「海賊新法」が「武器使用の国際標準」に基づく自衛隊の海外派兵に向けた地ならしであること、つまりは「自衛隊の海外活動全体になし崩し的に武器使用基準を緩和」することを目的としたものであることは明らかだからである。

 次に待ち受けているのは、「復興支援」に名を借りた自衛隊のアフガニスタン「派遣」、また「平和維持」「人道的危機」を根拠とするスーダン、あるいはもしかしたらソマリアにおける国連PKOへの部隊としての派兵である。こんなことは、朝日新聞や毎日新聞の編集委員がもっともよく知るところだろう。
 日本の新聞ジャーナリズムは、「海賊対策」を突破口に常態化するであろう今後の自衛隊の海外派兵に対し、どのような立場で何を主張するかが、いま、問われているのである。

 「海賊新法」の分析に関しては、新聞ジャーナリズムとは違う意味ではあるが、日本共産党や社会民主党の主張も問題なしとしない。これから始まるであろう国会審議を見る目を養うためにも、次にそのことを検討しておきたいと思う。

1 「護憲主義」ではたたかえない---「海賊新法」の何に反対するか

 明文改憲がされておらず、政府解釈によって憲法九条の規範原理が限りなく相対化され、憲法九条が死文化している状況においては、法律を通すことによって政策の合法性と合憲性を担保しようとしても、政府のやることはそのすべてが憲法違反になる。しかしもちろん、このような主張を政府は受け入れない。憲法九条は改定されておらず、「憲法九条を守りながらやっている」と政府はいえるからだ。

 過去の「イラク特措法」や「対テロ特措法」の時と同じように、「海賊新法」に関する今後の国会論議においても、「憲法違反だ、いやそうではない」といった形式的(アリバイ的)な「論戦」がくり広げられ、「海賊新法」は遅くても四月中には国会を通過し、施行されることになるかもしれない。

 三月十六日現在、民主党が「小沢問題」で打撃を受け、「海賊新法」に対する党内の足並みが揃っておらず、しかも社民党や国民新党との議会内共闘にも暗雲が垂れ込めている状況においては、何か余程のことが無い限り、「海賊新法」が廃案に追い込まれることを想定するのは、とても困難である。蓋を開けてみると、日本共産党と社民党のみが儀礼的な反対票を投じ、それですべてが終わってしまう可能性も十分にありうるだろう。

 それでもぼくらは、憲法論と政策論、その両方の意味において「海賊新法」に反対する。
 ①憲法論的にいえば、ぼくらは「海賊新法」が憲法九条に「違反」しているから反対するのではない。「武力行使」や「武器使用」をめぐる解釈において、自衛隊の海外活動に関する現行の法体系は、とっくの昔に憲法違反になっている。

 ぼくらが反対するのは、自衛隊の外国軍に対する「後方支援」を超えた「前方展開」、つまりは多国籍軍への「協力」を超えた「参加」や外国軍の武力行使との一体化など、これまでの政府解釈によれば「改憲抜きにはできない」とされてきたことを麻生-自公連立政権が、、「海賊対策」という名の下に主権者にその信を問うことなく、権力を濫用し、勝手な解釈によってやろうとしているからである。
 自公連立政権・外務-防衛官僚機構による主権者の選択権を奪った、主権者蔑視の政治手法に反対しているのである。一言でいえば、やり方が汚いのだ。

 ②政策論的にいえば、ソマリア沖への自衛隊派兵は財政的には無駄の極み、非効率・非合理であり、外交・安全保障政策的には「ソマリア問題」の解決には何もつながらないばかりか、それに逆行する政治環境を、米国を中心とする国連安保理常任理事国と一緒になってつくろうとするものであることが指摘できる。

 日本政府はいうにおよばず、日本のマスメディアも、一月から二月にかけて、ソマリア国内では暫定政府とイスラム武装勢力との間で和平合意を結び、連邦統一政府ができるかできないかといった、きわめて重要かつ予断を許さない局面を迎えようとしていることを、何も報道しようとしない。「ソマリアは破綻国家」「無政府状態」という表現が、具体的な分析なしにくり返されるのみである。

 「海賊対策は絶対に必要」という共通認識の下で、「海賊新法」をめぐる議論は、自衛隊の果たす役割と憲法論議の中にのみ閉じ込めてきたのである。その意味では、ソマリアの事で自衛隊を「派遣」しようとしているのに、当のソマリアで具体的に何が起こっているかをまったく見ようとしない、ソマリアの人々から見れば、自国の都合しか考えない、きわめて手前勝手な「議論」をくり返してきたというしかない。

 はっきりしていることは、日本や米国などソマリア沖に艦隊を派遣した十カ国以上の国々で使われる軍事費の総額を充当するだけで、食糧危機・洪水・難民など、ソマリアの「人道的危機」を解決する費用は十分にまかなえる、ということだ。中央集権的ではない地方的自治を認めた連邦的なソマリアの統一政府が、イスラム武装勢力との和平を通して実現されるなら、そもそもソマリアの人々にとっては自国の国家主権を侵犯して行われている米国を中心とする有志連合艦隊の「海賊対処」を口実にした派遣など、ありえないことなのである。
 日本は、そしてぼくらはソマリアの和平のために何をすべきか、何ができるか。これこそがもっと議論されるべきテーマなのである。

 以上のことを押さえた上で、次に「海賊新法」がはらむ、憲法論と政策論両方にわたる問題点を具体的にみてみよう。
⇒「海賊対策」における憲法解釈の権力学---海外派兵と海外派遣、武力行使と武器使用をめぐってNo.2へ

2009年3月11日水曜日

ソマリアと「海賊」---新介入主義の破産

ソマリアと「海賊」---新介入主義の破産

 「海賊新法」が3月13日に閣議決定され、自衛隊法82条に基づく「海上警備行動」の発令後、海上自衛隊の護衛艦2隻が翌14日にソマリア沖へ向けて出航することが決まった。
 以下は、「海賊新法」(案)の概要が明らかにされて以降、この問題をめぐり書き綴ってきた記録である。(上の地図は十九世紀末期のヨーロッパ列強によって植民地されたアフリカ。Global Issuesより。)

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 政府与党の「海賊対策プロジェクトチーム(PT)」がまとめた「海賊対策新法案」の骨子が明らかになった(東京新聞の記事を参照)。ソマリアの「海賊」問題を、国内政治との関係で分かりやすく解説している文章として「海ゆかば~海上自衛隊「ソマリア沖海賊退治」派遣の裏表」(松尾信之)を紹介しておこう。
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海賊新法案 接近船への攻撃容認 
与党PT 任務遂行目的を追加

2009年2月26日 東京新聞(朝刊)

 政府は二十五日の与党海賊対策プロジェクトチーム(PT)で、海賊対策新法案の骨子を提示し、大筋で了承された。従来、海外での自衛隊活動では困難だった任務遂行のための武器使用を容認したことが柱。政府は三月四日のPTに最終案を示し、十日の国会提出を目指す。 
 骨子によると、海賊対策を警察活動と位置づけた上で、海上保安庁が対処できない場合、首相の承認を得て海上自衛隊が行動するとした。焦点の武器使用基準は、警察活動について定めた「警察官職務執行法」を準用しながら、別の規定も追加。これにより、自衛隊法に基づく海上警備行動で認められている(1)正当防衛(2)緊急避難-の場合に加え、任務遂行のための武器使用を可能にした。
 具体的には、海賊船の接近自体を海賊行為と定義し、海賊が攻撃を始める前に停船目的で船体射撃できる。一方、保護対象については、すべての国籍の船舶を対象にすることを規定。国会の関与については、海自が出動する場合に限って基本計画を国会に報告するとした。(⇒「ソマリアの「海賊」問題の資料ブログを参照
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 「海賊新法」(案)は、憲法九条が死文化していることを、改めてぼくらに突きつけている。これまでの解釈改憲の積み上げの上にたてば、自衛隊が「海賊」に攻撃を受ける前に「船体射撃」=武力行使することが憲法違反にはならない、という「解釈」が成り立つからである。もちろん、日本政府の解釈によれば「船体射撃」をしても武力行使に該当しない。「武力行使」と「武器使用」という概念を使い分け、武力行使を、きわめて限定的かつ狭義に解釈しているからである。

 「海賊新法」は、憲法九条が禁じている武力行使や集団的自衛権の行使に「つながる」のではない。そうではなくて、法的にはそれらを「新たな段階へと高める」ものである。護憲派の人々やこの法律に反対する立場に立つぼくらは、もう一度このことをよく考えてみる必要がある。つまり、この新法が「憲法違反」だとするような論法では、とてもたたかえないのだ。政府解釈によれば、憲法九条と「海賊新法」は何らの矛盾なく、共存しているからである。
 まして、「自衛隊はダメだが海上保安庁なら良い」といった議論では、「世界の中の日米同盟」戦略と「資源・エネルギー危機」時代の日本のアフリカ開発戦略という二つの文脈の中で、この問題を捉えることができなくなってしまう。こうしてズルズルとまた、新しい解釈改憲の既成事実が積み上げられることになるだろう。

 ともあれ、「海賊新法」と憲法九条および解釈改憲との関係については⇒「鎖を解かれた安保体制--「軍事同盟」への軌跡」を更新するときに、もう一度整理するつもりでいる。ここではソマリアの「海賊」問題を、「新介入主義」とその破産という観点から、もう少し視野を広げて考えてみることにしたい。

1 「海賊」は「人類共通の敵」か

 昨年一二月一六日に開催された、国連安全保障理事会の⇒「ソマリア沖海賊対策に関する閣僚級会合」。これに出席した西村外務大臣政務官(自民党)は、日本政府の声明として「海賊」を「人類共通の敵」と定義した。

 一部の新聞では報道されたが、意外とこの事実は知られていない。「人類共通の敵」。かなり、グロテスクな言葉である。
 ソマリアの「海賊」は「人類共通」の、つまりはあなたの「敵」であり、ぼくの「敵」でもあるのだろうか? ぼくに関していえば、少なくとも「海賊」行為と国連が定義する行為をした人々を「敵」と定義する感性は持ちあわせていない。

 「海賊」を「人類共通の敵」と定義する感性は、与党公明党も共有しているようだ(⇒公明党の「海賊対策の論点 Q&A」を参照)。しかしこの定義は、もともとはブッシュ政権時代の米国が国際会議の場でくり返し使っていた表現である。

 西村政務官は、自身のウェブサイトで当日の会合のことをふり返り、「ライス米国国務長官を見つけて、海賊対策についての日本における検討状況や、給油法の成立などを説明。ライス長官からは給油法成立について「Excellent!」と感激され、さらに、ソマリアにおいても日本の活動への高い期待が表明された」と書いている。
 ライス元長官に褒められたことが、西村政務官には余程嬉しいことだったのかもしれないが、そう、「人類共通の敵」たる「海賊」撲滅と称して海上自衛隊をソマリア沖に派兵することは、ブッシュ政権からの強い要請があってのことだった。安保と米軍の存在抜きに、日本が「シーレーン防衛」を掲げて自衛隊をソマリア沖に派兵することなど、ありえないことだったのである。

 自衛隊派兵が、米国からの強い要請に基づいたものであることは、日本記者クラブにおけるシーファー元駐日大使の「お別れ講演」(一月一四日)の内容にも示されている

 この講演の中で元駐日大使は語っている。
 「アフガニスタンやアフリカの角などの紛争地域で、国際社会がなすべきことは、まだたくさんあります。そして日本はそれを実行することができます。罪のない人々を犠牲にするという点で国際犯罪者の定義に当てはまる海賊から世界のシーレーンを守ることであろうと、アフガニスタンの紛争現場で貢献することであろうと、日本は実行することができます。
 日本は憲法によりこの種の行動を禁止されている、と主張する人たちもいるでしょうが、私は、日本はこうした行動を取ることによって憲法の約束を果たすことができる、と主張したいと思います」。

 「海賊」にタリバーンにアルカーイダ・・・。
 シナリオは、とっくの昔に書かれていたのである。

 「海賊」たちの顔と名前

 「ソマリアの海賊」は、「カリビアンの海賊」ではない。ジョニー・デップのような、イカした兄ちゃんはいないかもしれない。それでも、当たり前のことであるが、「海賊」には一人ひとり固有の名前がある。この当たり前の事実が「海賊」を一括りに犯罪集団とする政府のキャンペーンとマスコミ報道では見えなくなってしまう。とても危険なことである。
 「海賊」のほとんどは、イスラム教徒としての名前を持っている。統計によって数にバラツキはあるが、ちょうど大阪府の人口と同じくらい(九〇〇万人程度)の「ソマリア」と呼ばれている大地の、統一政府なき国に生きる人々の圧倒的多数(九割程度)はイスラム教徒だからである。

 「海賊」問題を考える前に、彼らがどんな人々なのかを見てみよう。 
 写真家のジェハド・ンガは、「ソマリアの海賊」たちを取材し、ニューヨーク・タイムズに掲載した(The Pirates of Somalia)。
 「海賊」の一人は、名をAbdi Rashid Ismael Abdullahiという。収監されて15年が経つ。それまで長年、漁師として働いていたことを想像させる。顔に皺が刻み込まれ、とても疲れた顔をしているが、ぼくにはこの人が「人類共通の敵」、ましてぼくの「敵」だとは、どうしても思えない。

 「敵とは、形をとったわれわれ自身の問いである」

 カール・シュミットの『パルチザンの理論』のなかの一節である。シュミットは続けていう。
 「敵は、何らかの理由で除去され、その無価値ゆえに抹殺されねばならないところのものではない。敵は、わたし自身と同じ平面に立っている。
 この理由から、わたしは自己の尺度、自己の境界、自己の形態をうるために、敵と闘争しつつ対決しなければならない」

 シュミット学者の中では、このくだりをどのように解釈するか、いろいろ論争はあるようだ。
 しかし、このシュミットの言葉を「ジョージ・ブッシュⅡとビン・ラディン」、「国家と「テロリスト」」、「イスラエルとパレスチナ」、「日本と北朝鮮」などの二項関係を挿入して読み直してみると、「海賊」を「人類共通の敵」と定義し、彼らを「除去」「抹殺」しようとする者たちと「海賊」との関係が浮かびあがってくる。シュミット流に理解すれば、艦隊を派遣し、ソマリアの「海賊」と「闘争」「対決」している国家群は、新しい「自己の尺度、自己の境界、自己の形態」をうるためにそうしている、ということになるだろうか。

 米国は、アフリカにおける新しい「自己の尺度、自己の境界、自己の形態をうるために」、昨年、米軍の「アフリカ軍司令部」を創設した。そして「アフリカの角」をイラク、アフガニスタンと並ぶグローバル対テロ戦争の前線地帯と化し、ソマリアの「イスラム原理主義化」を阻むと称してソマリア内戦に介入し続けてきた(詳しくは後述する)。「海賊対策」の軍事化はその延長線上にあるといってよい。米国とNATO諸国は、「海賊」の中に武装した「イスラム原理主義」と「テロリスト」の姿をみているのである。

 そしてその米国のグローバル対テロ戦争に、日本は小泉政権以降、米軍へのグローバルな「後方支援」体制を築きながら「協力」(=加担)してきた。麻生政権は、これからさらにそれを強化しようとしているのである。米国の「不安定の弧」に対応する麻生版「自由と繁栄の弧」の構築のために。
 つまり、海上自衛隊と「海賊」は同じ海面に立っている。まさに、「海賊」とは「形をとった、ぼくら自身の問い」でもある。「海賊」を論じるとき、ぼくらはこのことを忘れないようにしなければならない。

2 帝国主義の亡霊と植民地支配の遺制  

 ソマリアの海岸(近海ではない。海岸である)へのドラム缶にコンクリ詰にされた核廃棄物や産業廃棄物の直接投棄、またそれらのソマリア沖への海洋投棄、そしてグリーン・ピースいうところのpirate fishingがソマリア近海でくり返されてきたことについては、少しずつではあるが情報は広まりつつある。犯人は誰か。「海賊」撲滅のために艦隊を派遣した国連安保理常任理事国を中心とする国々である。

 これらの問題については、後でまた触れることにする。ここではとりあえず、「資料ブログ」の赤字のところ国連環境計画のレポート(11頁目の写真に注目)、そして「資料ブログ」の冒頭の記事を読んだ世界各地の読者の書き込みを記録したアルジャジーラの記事のfeedbackをみてほしい。
 アルジャジーラの記事への書き込みの一つに、"Josh, United States 19/11/2008"がある。

 "Well maybe if those idiots down in Somalia would stop killing each other they would have a stable government that would be able to stand up for itself. The US under UN mandate tried helping them in the earlier 90's and im sure youre all familiar with the "black hawk down" incident. When you shoot at the people who are trying to give you food and restore peace your not going to get any sympathy from the world."

 「海賊」問題を考えるにあたり、さしあたりぼくらはこのような無知、つまりソマリアで起こってきたことをソマリア人のせいのみにするような思考からぼくら自身を解放することを目的としたい。考えてもみたい。三年連続で「世界最悪の破綻国家」という汚名を浴びせられ、「世界の最貧国」とされているソマリアの「海賊」たちが持っている武器は、いったいどこの国からやってきたものなのか。なぜ、飢餓が蔓延するソマリアには、かつてないほどの武器が溢れているのか。
 これらの問いに対する答えを出すためには、ソマリアの植民地支配の歴史と、ソマリア「独立」後の日本とソマリアの関係、日本にとってソマリアとは何であったのかについて、基本的な事実を押さえておく必要がある。

①「戦後」日本とソマリアの関係史

 ポスト冷戦時代に生まれた人の中では、ソマリアという国を強く意識したのが今回の「海賊」問題が初めてという人がいるかもしれない。しかし、多くの人にとっては、一九九〇年代前半期のソマリアの内戦と難民問題、その後の国連と米軍の軍事介入とその失敗、そして撤退と続いた一連の出来事だったのではないだろうか。
 実は、それよりはるか以前にソマリアは何度か日本の政治シーンに登場している。その最初は、一九六〇年代末期から七〇年代の初期にかけてのことだった。

 1)日本の核(原子力)開発とソマリア

 「数年前から動力炉開発事業団で海外ウラン探鉱という項目を設けまして、鋭意いま海外に出ておるわけでございます。そうして、いま比較的精密な調査をしていますのが、カナダとオーストラリアとございます。なお、その中間で、フランスが日本と共同でアフリカのニジェールの開発をしたらどうかという話で、共同で現在ニジェールの開発のための海外ウラン開発株式会社というものを去年設置いたしまして、そこは鋭意進んでおります。

 あと、ソマリアにも手を出す予定にしております。しかし、これではまだ足りませんので、昭和六十年になりますと十二万トンぐらいのウランが必要になりますが、現在民間が長期契約等で獲得しておりますのは三万八千トンぐらいでございます。

 したがって、まだ三分の一ぐらいの獲得でございますから、もっともっとやはり海外に、たとえば探鉱を進めて日本自身の権利も持って、それで開発していくべきじゃないかということで、もう間もなく始まりますが、原子力委員会にウラン資源開発懇談会を設けまして、この六月までにはその対策を出すという形にしております」
(科学技術庁・研究調整局長梅澤邦臣。一九七一年二月二六日、衆議院・科学技術振興対策特別委員会における発言)

 「最近はだいぶ海外探鉱ということに目を向けておりますけれども、これを政府は指導しない。電力会社は技術者なしに、金さえ出せば外国でやってくれるのだということで、あなたまかせのかっこうになっている。こういうことではきわめて不安定だ・・・。

 コンゴがあり、オーストラリアがあり、それからソマリア、あるいはまたニュージーランドあたりも有望な鉱区がたくさんあるわけなんで、何としても目標最低三分の一ということにして、それは絶対に確保しなければならない」
(石川次夫(日本社会党)。一九七〇年七月三一日。同じく衆議院・科学技術振興対策特別委員会における発言)。

 「ソマリアにも手を出す予定にしております」・・・。
 戦後の日本の政治シーンにソマリアが初めて登場するのは、中曽根康弘を初代長官とする科学技術庁の下で始まった、国策としての核(原子力)開発のための燃料資源(ウラン)を「絶対に確保」する、その戦略的対象国としてだった。それは当時の野党第一党だった日本社会党も党として推進した、まさに国家的プロジェクトとしてあったのである。
 他のアフリカ諸国との二国間関係と同じように、潜在的資源開発国としてのソマリアのウランを「確保」すべく、ソマリアに対する開発援助の供与がこうして議論され始めるようになった。つまり、アフリカに対する日本のODAや「技術援助」は、当初から「人道的観点」から始まったのではなかったのだ。それは、日本の「国益」に基づく「国策事業」として明確な国家戦略の中に位置づけられたものだったのである。

 麻生自民党は、今回「海賊対策」任務につく自衛隊員の安全を確保するために、「ソマリア周辺国が実施する対策を政府開発援助(ODA)で支援する方針を決めた」(読売新聞。3月13日)ように、「ODAの戦略的活用」はODAの歴史とともに始まっていたのである。

 2)安保戦略と一体化するソマリアへの「人道援助」

 けれども、このような「戦略的資源の安定的供給」を第一目的に据えたアジア・アフリカにおける日本の開発援助戦略は、一九七〇年代を通じて、やがて安保戦略に沿ったものへと変質をきたすことになる。その最大の理由は、アジア・中東・アフリカ地域において、米ソの覇権抗争に構造的な変化が起こったことである。
 ソマリアを例にあげてみると、日本がまさにソマリアのウラン開発を国会でしきりに議論していた一九六九年に軍事クーデターが起こり、軍事政権は「社会主義」路線の下で旧ソ連との軍事的・経済的関係を強化するようになる。

 ところが、一九七七年、ソマリアはソ連との関係を絶ち、ソ連圏からの離脱をはかった。ソ連の支援を受けていたエチオピアとの領土問題が引き金になったものである。そしてこの時期から、米国(民主党カーター政権)によるソマリアを含む「アフリカの角」と中東を網羅した地域への本格的な介入と軍事独裁政権へのテコ入れが始まる。日本の対アジア、対アフリカ、対ソマリア政策は、そうした米国のアフリカ・中東戦略を「経済援助」の側面からバックアップするものへと変質していくわけである。
 少し長くなるが次の四つの引用に目を通すなら、問題の所在がかなりはっきりするだろう。
 
 「我々の勧告にこたえてソ連のアフガニスタン侵攻後、日本はエジプト、ソマリア、トルコ、パキスタンに対してそれぞれ一億ドル以上に経済援助を増額した」
(一九八三年三月二十二日、米国下院歳出委員会の軍事建設小委員会における米陸軍ケヴイン・マホー二ー少佐の証言)。

 「一九八一年五月の日米共同声明で、世界の平和と安定の維持のための重要な地域に対して我が国が援助を強化していく旨述べましたのは、世界の平和と安定の維持のためには開発途上国の安定が不可欠であり、したがって、援助を通じ開発途上国の経済社会関発を支援し、民生の安定、福祉の向上に貢献することがこれら諸国の安定をもたらすとともに、広く国際間の緊張を緩和することに貢献することになるという基本認識に基づくものでありまして、我が国は南北問題の根底にある相互依存と人道的考慮という立場から、開発途上国の経済社会開発を支援し、民生の安定、福祉の向上に貢献をするため援助を実施しておるわけでございます・・・。

 具体的にどの地域が世界の平和と安定の維持のために重要な地域に該当するかにつきましては、そのときどきの国際情勢に応じて我が国が自主的に判断することといたしておりますが、我が国が従来よりASEAN諸国、中国、韓国を初めとするアジア地域に重点的に援助を行ってきていること、及び近年、例えばパキスタン、エジプト、ケニア、スーダン、ソマリア、ジャマイカという諸国に対する援助を強化してきたことはそのあらわれでもあることをひとつ御理解をいただきたいと思います」
(参議院の外交・総合安全保障に関する小委員会における安倍晋太郎(外務大臣)の発言。一九八四年七月四日)

 「最近になってみられるエジプト、パキスタン、トルコ、スーダン、ソマリア、およびアラブ湾岸諸国の一部、さらにカリブ海地域などに対する援助の拡大は、戦略的に重要な地域に対する援助の政治的重要性を日本が認識していることと、より広範囲にわたって日本が世界において政治的イニシアティブを発揮していく決意の表われとして大いに評価すべきものである」
(「日米諮問委員会報告書」一九八四年)

 「一つは、日本の援助量の拡大というのを非常に評価しております。それからもう一つは、ODAが日本の総合安全保障政策にとって極めて重要な役割を占めてきているということが第二点かと思います。
 それから第三点が、日本のODAが六〇%、七〇%アジアに向けてきたが、最近になってエジプト、パキスタン、トルコ、スーダン、ソマリア及びアラブ湾岸諸国の一部、さらにカリブ海地域などに対する援助の拡大は、戦略的に重要な地域に対する援助の政治的重要性を日本が認識していることと、より広範囲にわたって日本が世界において政治的イニシアチブを発揮していく決意のあらわれとして大いに評価するということであります」
(一九八五年四月一六日、衆議院大蔵委員会における政府(外務省)答弁)

3 新介入主義とは何か

 新介入主義(new interventionalism)とは、冷戦体制崩壊後の旧植民地宗主国による旧植民地諸国に対する「新しい」形態の「介入」を正当化するイデオロギーの総称である。「介入」は軍事的なものから、政治、経済、文化全般におよぶ。

 新介入主義は、
①主権国家が国家としての統一的統治能力を喪失し、その結果、国内の「民族紛争」や「人道的危機」が起こり、
②そのまま放置すればそれらが地域のみならず「国際の平和と安定」の阻害要因となる、だから、
③国連あるいは国際的な「介入」によって「秩序」を回復し、「国際の平和と安定」を維持する必要がある、 といった三段論法によって自らの政策を正当化する。
 
 「東アフリカのアフガニスタン」とも呼ばれているソマリアにおいても、一九九〇年代以降、米国を中心とする国連(安保理)によって新介入主義に基づく介入が繰り返されてきた。そしていまソマリアで起こっていることは、まさにその新介入主義が政策的に破産した結果だとみることができる。「海賊問題」とは、ソマリアに対する新介入主義の破産の氷山の一角にすぎないのである。

 問題を複雑にするのは、多くの場合、新介入主義を正当化する論拠の中には、否定することができない事実があるということだ。ジェノサイド的様相を帯びた民族「紛争」、女性へのレイプ、子どもの虐殺、目を覆いたくなるような人権侵害・・・。
 どれだけ欧米帝国主義による植民地支配の歴史、あるいは戦後、アフリカ大陸を舞台にして展開された米ソの覇権政治、さらには欧米諸国の「新植民地主義」政策の実態を暴き、それらの矛盾を指摘しようとも、「人道的危機」がアフリカや世界各地で起こっている現実は無視できないできないからである。「海賊対策」のためとされている大国の艦隊のソマリア沖派遣の意味を考えるときにも、ぼくらはこの事実を踏まえておく必要があるだろう。