自衛隊は南スーダンPKOから撤退すべきである
―「駆けつけ警護」と自衛隊の武力行使
国連PKOを、根本から、問い直す
南スーダンの内戦が止まらない。
「政府軍」と武装勢力間の戦闘が繰り返され、それによる一般市民の犠牲は増え続けている。
4年前の建国以降、状況は悪化の一途をたどっている。
こうした中、オバマ大統領は南スーダン政府に対し、武装勢力との停戦→和平の実現を求めると同時に、それが実現しない場合の両者に対する制裁の断行を示唆した。(
アフリカにおける中国の覇権拡大に対する、対抗的覇権形成を目的とするオバマのアフリカ歴訪そのものについての分析はここでは触れない。)
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・オバマ大統領、南スーダン制裁強化示唆 「状況が悪化」
アフリカを訪問中のオバマ米大統領は27日、内戦状態が続く南スーダンについて、「状況が悪化し続けている」と述べ、政府軍と反政府勢力が来月中旬までに和平を実現しない場合、双方に制裁強化などの圧力をかけていくと表明した。
オバマ氏はこの日、滞在先のエチオピアの首都アディスアベバで、ハイレマリアム首相らと南スーダン問題について協議。その後の会見で「現状を打開できなければ、両者に圧力をかけるための方法を考えなければならない」と述べた。
南スーダンは2011年7月に独立後、
豊富な石油資源などを巡ってキール大統領派とマシャル前副大統領派が対立。
13年12月以降、両派が衝突し、内戦状態に陥った。現在、
50万人以上が国外に逃れ、約150万人が国内での避難を余儀なくされている。(朝日 アディスアベバ=三浦英之)
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国連が、内戦状況にある国家の「平和の維持」と称して軍事的に介入し、その国の紛争の当事者になる、という国連PKOの問題性については、このブログでも再三にわたり取り上げてきた。南スーダンは、近年におけるその典型例のひとつである。
本来、地域紛争に対して中立的立場に立ち、当の紛争の非軍事的解決をミッションとすべき国連が紛争当事者になるというこうした錯綜的事態がもたらす問題は数え上げれば切りがない。しかし、その中でも最も深刻なことの一つは、紛争当事国政府の腐敗や、政府軍による民衆虐殺・女性やこどものレイプ、一般市民に対する人権侵害などが、「国際社会」=国連によって事実上、放置されてしまうことである。
国連は、現地の人権組織や国際NGOのレポートのみならず、国連機関自身によるレポートによっても、政府側・武装勢力側双方による人権侵害が報告されている国に対し、中立性原則を自ら裏切り、軍事的・政治的に介入し、その国の民衆の平和にではなく、紛争の長期化と泥沼化に貢献しているのである。ここでも、南スーダンはその典型例の一つになっている。
こうした中、安倍政権は、内戦が泥沼化する南スーダンへと自衛隊を「派遣」し、今年2月には8月末までの「派遣」延長を決定した。
それにあたって、PKO参加五原則の実質的改悪も行っている。国連PKOの変質に見合う形で、たとえ内戦状況にあろうとも自衛隊を「派遣」できるようにするためである。そして今、安倍政権は、「テロリスト」の攻撃から「他国の軍やNGOを守る」という口実の下に、いわゆる「駆けつけ警護」を自衛隊が行えるよう、「武器使用基準」を緩和し、隊員に武力を行使させようとしているのだ。
⇒「
自衛隊は何をしに南スーダンに行くのか? 」(2011年9月26日)
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<南スーダン>自衛隊PKO、駆けつけ警護追加 政府検討
政府は、自衛隊が南スーダンで実施している国連平和維持活動(PKO)の任務に、「駆けつけ警護」を追加する検討に入った。同PKO司令部への要員派遣も拡大する考えだ。複数の政府関係者が明らかにした。現行のPKO協力法では駆けつけ警護は禁止されているが、それを可能とする同法改正案を含む安全保障関連法案が成立すれば、来年3月にも追加する。【青木純】
安保関連法案は参院で28日に実質審議入りしたばかりだが、政府は今国会での成立をにらみ、既に準備に入っている。成立すれば来年3月までに施行される見通しで、新たな実施計画を施行後に閣議決定し、派遣部隊の任務に駆けつけ警護を追加する考えだ。
駆けつけ警護は、離れた場所にいる他国軍部隊や非政府組織(NGO)職員などの要請に応じて行う救援活動。駆けつけ警護を行うための訓練を行う必要があり、十分な訓練期間を確保するために、来年6月に予定されている要員交代時に合わせて任務に追加する案も浮上している。
実際の活動では、現地のNGOの要請を受け、武装勢力に拘束された職員を救出するケースなどが考えられる。警護に当たれば、国際的な負担を担うことに評価が高まることが考えられる一方、本格的な戦闘になる懸念もある。
安保関連法案にはPKO司令部における自衛隊の業務拡大も盛り込まれており、国連の要請に応じて南スーダンPKO司令部への要員派遣も拡大する考えだ。
法案に盛り込まれている住民の保護、検問所の運営などの「安全確保業務」は南スーダンでは行わない方針。現地では不安定な治安情勢を背景に住民保護のニーズが高まっているが、政府関係者は「日本に対してインフラ整備以外の要請は来ていない」と指摘した。
国連南スーダン派遣団(UNMISS)では、自衛隊は道路建設や避難民の支援などをしている。現在は
施設部隊約350人と、司令部要員4人が現地で活動している。
南スーダンでは
2013年12月、政府と反政府勢力の戦闘が始まり、避難民が自衛隊の宿営地がある国連施設内になだれ込むなど混乱が発生。避難民支援を行うNGOなどの活動は現在も危険にさらされているとされ、政府内で「将来的に自衛隊が駆けつけ警護を求められる可能性がある」との指摘が出ていた。
【ことば】
国連南スーダン派遣団(UNMISS)
アフリカ北東部にあるスーダンから2011年に独立した南スーダンの国づくりや復興を支援するため、国連主導で行われている平和維持活動(PKO)。各国は人道支援と周辺地域の安定に加え、南スーダンの主要産業が原油輸出であることから、
権益確保も視野に部隊を派遣している。自衛隊は11年から司令部要員、12年から道路整備などを行う施設部隊を派遣している。(毎日)
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このような安倍政権の国連PKOに対する姿勢、文字通りの自衛隊の海外〈派兵〉政策を放置すれば、これまで一度も実戦での死者を出さなかった自衛隊から、必ずや戦死者が出るだろう。
ところが、まったく驚くべきことに、自衛隊が南スーダンに「派遣」されて以降、一度として国会では自衛隊の撤退問題が議論されたことがない。安倍政権、防衛省は、南スーダンが内戦状況に
あることを無視し、「自衛隊員の安全は保たれている」との認識を繰り返してきたのだ。また、民主党から共産党に至るまで、国会審議の中で自衛隊撤退を訴えた議員は一人もいない。
自衛隊は国連PKOから撤退できない?
「いったん自衛隊をPKOに派遣したら、撤退させることはできない。日本の「国際的信用」にかかわるからだ」という人が、国会議員の中にも「専門家」の中にも数多く存在する。
伊勢崎賢治・東外大教授もその中の一人である。伊勢崎氏は、
7月1日に行われた、衆院・「平和安保」委員会における参考人発言の中で、上に述べたような国連PKOの変質、すなわち内戦状況下の介入が常態化している現実を説明した後で、このように言う。
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このように、
PKOの
中立性が失われる中で、国連で最後に残された中立の最後のとりでがこの軍事監視団であります。これは、非武装の軍人がやることが原則であります。そして、
敵対勢力の中に非武装で懐に入り、PKFとの交戦を未然に防ぐための信頼醸成をします。そして、武装解除の説得などもいたします。
以上、激動する
PKOを取り巻く環境を説明いたしました。
では、この中で日本の自衛隊はどうするのかということに進みたいと思います。
繰り返しますが、昔と違って、
停戦合意が破られたからといって撤退することはできません。そんなんだったら、最初から来るなということです。
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無茶苦茶な論理である。
東京外大の学生は、こんなことを授業で教えられているのだろうか?
一国が、現在の国連PKOに対し、どのような条件で、どのくらいの期間、自国の軍隊(自衛隊の法的地位は軍ではないが)を派兵するかは、その国の主体的判断如何によっている。その条件を国連PKO局が受け入れないというなら、派兵を拒否すればよいだけである。派兵した軍隊の撤退例は、イラクやアフガニスタンなど、過去にいくらでもある。
この常識が、国連専門家や(国際)安全保障学を専攻する日本の学者には通じない。
問題は、日本の場合、一度国連PKOに「派遣」された自衛隊の「派遣」延長/撤退問題が、閣議決定によって処理され、国会で審議に付されることもほとんどないことである。
民主党は、最初に「派遣」した手前、撤退を主張せず、共産党も「派遣」(=海外派兵)は憲法違反と言うだけで、現地情勢の変化の分析を基に、撤退を政府に要求することもない。その他の政党は、政府に追随するか、無関心を決め込むだけである。
では、どうすべきだと伊勢崎氏は言うのか?
「自衛隊の根本的な法的地位を国民に問う」(改憲→「警察予備隊」を前身とする自衛隊の国軍化?)である。 氏の主張を聞いてみよう。
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例えば、陸上自衛隊の施設部隊が兵たん活動の一環で道路建設をしている現場を考えてください。そこに武装グループに追われた住民が助けを求めて駆け込ん
でくる、これは当たり前です。そしてそのとき、住民に銃口が向けられているというふうに目撃したら、たとえその銃口が自衛隊員に向けられていなくても、
自衛隊員はこれに対して応戦しなければいけません。
自衛隊の駐屯地に住民が助けを求めて駆け込んでくる場合も同じであります。でもしかし、保護して中に入れた住民の中に武装グループが紛れていたらどうしますかということであります。
そもそも、こういう武装グループというのは、住民の中の民族や宗教における敵対感情をあおって暴徒をつくって、その中に紛れて行動することが大変多いです。つまり、住民と戦闘員の区別はつきません。その結果、
非戦闘員の住民を誤射してしまう場合があります。これは、PKOの現実としてしっかり想定すべきことであります。
一方、日本では、そういう武装グループは国家もしくは国家に準ずる組織、いわゆる国準ではないのだから、そういう連中への武器の使用は国際法上の武力の
行使には当たらないという議論があります。この日本独自のロジックは、現代の国際人道法の運用には全くありません。というか、国家もしくは国準でなけれ
ば、こういうふうに日本が勝手に想定して、国家もしくは国準でなければということで、国際人道法に関係なく殺せるというふうにこれはとれますので、もしこ
れを英語に訳して発信したら大変なことになります。ぜひしないでいただきたいと思います。
自衛隊員が任務遂行の中で誤って現地の人々を傷つけてしまったら、これは過失です。非戦闘員、つまり住民を多く殺傷すれば、国際社会はそれを国際人道法違反とみなします。
PKOでは、国連が一括して地位協定を現地政府と結ぶことで、現地法からの訴追免除の特権を国連PKF部隊全体に付託いたします。PKF部隊が過失を起こした場合、国連には軍事法廷はありません。
各国の軍法で裁くことになります。
つまり、PKF部隊が過失を起こした場合、現地社会の怒りをなだめる、当然ですが怒ります、これをなだめるには、ごめんなさいね、でも、あなたたちの法
律よりももっと厳しいうちの軍法で裁くから許してねと言うしかないんです。日本はこの言いわけができません、軍法がありませんので。この言いわけができな
いとどうなるか。当然、
現地社会の怒りは沸騰します。そして、国際人道法違反として、これは非常に重大な外交問題に発展します。
そもそも、
PKOの現場というのは、人心掌握が作戦の成功を左右する非対称戦であります。ということで、自衛隊はこういう作戦上の致命的な弱点を抱えていることになります。
この問題を、自衛隊員の側から考えます。
軍法がないなら、ありませんので、自衛隊による海外での過失がもし起こってしまったら、その過失はどう裁かれるか。これは、日本の刑法しかありません。
すると、日本の刑法には国外犯規定というのがありまして、日本人が海外で犯す過失は裁けません。そうすると、自衛隊の過失は犯罪として裁くしかありませ
ん。
そもそも、自衛隊の活動のような軍事行動は、個人の意思が極度に制限される国家の命令行動であります。しかし、その中で過失が起こった場合、日本の場合は、自衛隊員個人が犯罪として責任を負うのです。これは重大な矛盾であります。
私は、防衛省の統合幕僚幹部学校で、もう五年以上教えております。僣越ではございますが、自衛隊の皆さんの立場に立って物を言える立場に私は少しはある
と思います。自衛隊の皆さんは、国防に命をかけるのはやぶさかではないと思っているはずです。しかし、国防以外のことに命をかけるのは、それ相応の大義が
必要です。
国際平和に資する、こういう大義名分は簡単に言えます。しかし、そこで何が起こっても最終的に国家が全責任をとるという法の整備をして、我々は自衛隊を
海外に送り出しているでしょうか。僕は、していないと思います。これなしに、命をかけられる大義は生まれません。これは、今回の安保法制だけの問題ではあ
りません。一九九二年のカンボジアPKO派遣以来、これまでずっと現場に送られてきた自衛隊員だけが抱え込んできた矛盾であります。
御列席の与野党の先生方におかれましては、ぜひ、安保法制以前のそもそも論をやっていただきたく、次の言葉で私の意見陳述を締めさせていただきます。自衛隊の根本的な法的地位を国民に問うことなしに、自衛隊を海外に送ってはなりません。
・・
「自衛隊の根本的な法的地位を国民に問うことなしに、自衛隊を海外に送ってはな」らない・・・。
伊勢崎氏の分析の視角の多くを私は共有する。しかし、曖昧なニュアンスを残す、この氏の結論は飛躍しすぎており同意できない。
自衛隊の〈海外派兵〉に反対する氏の主張は、いかにもリアリストらしいものではあるが、歴史的総括(氏自身の東チモールやアフガニスタンに対する関与の総括を含む)を踏まえない、現状追認であり、その意味で転倒した論理になっているといわねばならない。
今、問われるべきは、
①1990年代後半以降の国連PKOの変質の歴史的軌跡を追いながら、
②「一九九二年のカンボジアPKO派遣以来、これまでずっと現場に送られてきた自衛隊員だけが抱え込んできた矛盾」を強いてきた、そんな
自衛隊主体の日本政府の「国際平和協力」活動なるものの総括である。
いずれにせよ、南スーダンを自衛隊員の墓場にしてはならない。
安倍政権は、9月以降の「派遣」延長を断念し、自衛隊を南スーダンから直ちに撤退させるべきである。
【
参考サイト】
⇒「
アフリカの紛争地から、集団的自衛権「駆けつけ警護」を考える
JVCスーダン現地代表
今井 高樹
「批評する工房のパレット」内関連ページ
⇒2014年4月15日 「
自衛隊は、何のためにジプチを拠点化するのか? 」
⇒2013年4月1日 「
叛乱鎮圧部隊化する国連PKO 」
⇒2012年3月18日 「
自衛隊は何を守り、誰のために戦うのか?--「災後」における自衛隊の機能と役割をめぐって 」
・・
・武器不正使用に罰則なし 安保法案、自衛隊の海外派遣中
中谷元・防衛相は29日の参院平和安全法制特別委員会で、安全保障関連法案について、自衛隊員が海外派遣中に武器を不正に使用しても、適用する罰則がないことを明らかにした。
今後検討する方針を示した。野党は「法案に欠陥がある」と批判し、撤回して再提出するよう求めた。法案が成立すれば自衛隊の海外活動が飛躍的に広がり、武器を使う場面も増えることが予想される。野党が「法制の不備」として追及を強めるのは確実だ。
中谷氏は「武器の不正使用については自衛隊法に国外犯処罰規定がないため、国外での行為には罰則の適用がない」と明言した。
訓練を徹底するため違法な武器使用は想定されない(???)とした上で、隊員が派遣先で殺人を犯した場合は刑法の国外犯規定を適用する可能性があると述べた。
質問した無所属の水野賢一氏は、武器使用が国際紛争の端緒となった戦前の事例などを引き合いに「勝手に武器を使用しても罪に問われなければ、大変なことになる」と指摘。これに対し中谷氏は「罰則の在り方については、今回の法制とは別途、不断の検討を行っていく」と応じた。
安倍晋三首相も該当する罰則を安保法案に設けていないことを認めた。国内での不正な武器使用に対し自衛隊法が定めた処罰は「
1年以下の懲役または3万円以下の罰金」にすぎず、刑法の国外犯規定が対象とする重大犯罪と同列に扱えば「均衡性」(首相)が取れないとして理解を求めた。同時に「
罰則によって規律を維持するとの考え方に立っていない(???)。今回の法制に全く問題はない」と強調した。
関係者によると、上官の命令がない威嚇発砲や、部隊内での仲間割れによる射撃などが不正な武器使用に当たるという。(中国新聞)
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自衛官の法的地位との関係から『安全保障法案』の廃案を求める緊急アピール
日本労働弁護団
幹事長 高木太郎
(2015年7月17日)
去る7月16日、自民党・公明党は、衆議院本会議においていわゆる『安全保障法案』を強行採決した。しかし、衆議院における法案審議過程をみたとき、この法案によって重大な影響を受ける自衛官の法的地位を巡る問題についての検討は、全くなされていない。
日本労働弁護団は、過去60年にわたり、民間労働者及び公務労働者の権利擁護のために奮闘し続けてきたものであり、自衛官の法的地位すなわち
自衛官の一人一人の権利と義務についての検討をないがしろにしたままで、『安全保障法案』を成立させることについては到底容認し得ない。かかる観点から、以下の三点を指摘し、廃案を求めるものである。
第1点
一人一人の自衛官は憲法擁護義務を負うこと
憲法99条は、公務員が「この憲法を尊重し擁護する義務を負う」ことを定める。一人一人の自衛官は憲法擁護義務の担い手なのであり、多くの憲法学者が指摘するとおり『安全保障法案』は憲法違反の立法であり、違憲立法に基づく上官の命令が違法であることはもとより、各自衛官が憲法違反の『安全保障法案』に基づく上官の命に服することは、憲法擁護義務違反となる。
第2点
一人一人の自衛官の同意なしに集団的自衛権行使のための出動を命じ得ないこと
憲法18条は、何人も奴隷的拘束を受けないこと、及び、その意に反する苦役に服させられないことを保障している。
このため、自衛官を含む公務員に対して、生命・身体の危険を冒してでも職務に服するよう命じることが適法化される範囲は、予め、本人が同意している範囲に限定され、本人の同意している範囲を超えて、危険な職務に服することを命ずることはできない。このことは、半公務員的性質を有するかつての公共企業体労働者に関しては最高裁裁判所の判例*1によって確立しており、その理は任用関係とされる自衛官を含む公務員にも妥当する。
自衛官は、武力行使を任務としており、自らの生命・身体に危険が生じることに予め同意しているが、その同意の範囲は、武力行使の範囲に関する従前の政府見解、すなわち、
「外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態に対処し、これらを守るためのやむを得ない措置として初めて、武力の行使が許される」ことを前提としている。
自衛官が、外国軍隊への支援等の集団的自衛権行使のために、生命・身体の危険を冒すことに同意して任官したと解する余地はなく、現在の自衛官に対し、集団的自衛権行使にかかわる軍務に服するよう命じることは許されないというべきである。
第3点
国は一人一人の自衛官に対し安全配慮義務を負うこと
最高裁判所の判決によれば、国は、公務員に対して安全配慮義務を負い、自衛官に関しても防衛出動時をも含めて安全配慮義務を負う*2。
しかるに、法案作成過程において、集団的自衛権行使のために出動を命じた自衛官に対して、いかなる措置を講ずることによって安全配慮義務を尽くすのかを検討した形跡は、見当たらない。
集団的自衛権行使のために生命・身体を危険にさらすことに関して、一人一人の自衛官から改めて同意を得ることなく、また、安全配慮義務を尽くすことなく、政府が、自衛官に対し集団的自衛権行使のための出動を命じることは、自衛官の意思及び生命身体をないがしろにしてこれを弄ぶものであり、法治国家として到底許されることではない。
日本国憲法は行政裁判所や軍法会議等の特別裁判所を設置することを許しておらず、一人一人の自衛官は、違憲立法に基づく職務命令に対する自らの法的地位や権利を確保するため、提訴し、
最終的に最高裁判所の判断を仰ぐ権利を有するのであって、この一人一人の自衛官の提訴する権利を国が妨害してはならないことはいうまでもない。
万が一にも、大多数の国民の反対を押し切って『安全保障法案』を成立させるという暴挙がなされたときには、少なくない自衛官が、憲法擁護義務を基礎に、また、外国軍隊等のために生命身体を捧げることに同意してはいないことを根拠に、そして、国が安全配慮義務を尽くさず自衛官の生命身体を危険にさらすことは許されないことを理由に、『安全保障法』に基づく指揮命令に従う義務のないことの確認を求めて提訴することが想定される。
そのときには、日本労働弁護団は、日本全国の心ある多くの憲法学者・行政法学者・労働法学者と連携しながら、労働弁護士の総力を挙げて、外国に奉仕するための『戦死者』『戦傷病者』を自衛官から出さないために、日本の歴史上最大級の裁判闘争を展開する決意であることを、ここに表明しつつ、かかる状況に至る前に『安全保障法案』を速やかに廃案とすることを強く求めるものである。
以 上
*1 千代田丸事件・最高裁判所第三小法廷判決昭43・12・24民集22巻13号3050頁/判時542号31頁。
当該事案は、1956(昭和31)年に電々公社所属の海底線敷設船千代田丸が日韓海底線に生じた故障の修理のため、朝鮮海峡に出動を命ぜられたが、当時、韓国連合参謀本部が李承晩ラインを超える日本船舶を対象とする「撃沈声明」を発していたことから、全電通労組本社支部の役員が船員の安全確保のために当局と交渉を行い、千代田丸の出航を25時間遅らせたことに関して、公共企業体等労働関係法(当時)17条違反を理由に解雇されたというものである。
最高裁は、米海軍艦艇の護衛が付され安全措置が講じられたにせよ、実弾射撃演習に遭遇する可能性もあり、海底線布設船の乗組員の本来予想すべき海上作業に伴う危険の類いではない等の理由を挙げ、「労働契約の当事者たる千代田丸乗組員において、その意に反して義務の強制を余儀なくされるものとは断じ難い」と判示して、解雇を無効とした。
*2 自衛隊工藤事件・最高裁判所第三小法廷昭50・2・25民集29巻2号143頁/判時767号11頁。当該事案は、自衛隊八戸駐屯地の車両整備工場において、車両整備作業中の自衛官が、大型自動車に轢かれて死亡した事件について、国が自衛官に対して安全配慮義務を負うか否かが争点となった。
この点について、最高裁判決は、次のとおり判示した。「国と国家公務員(以下「公務員」という。)との間における主要な義務として、法は、公務員が職務に専念すべき義務(国家公務員法101条1項前段、自衛隊法60条1項等)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(国家公務員法98条1項、自衛隊法56条、57条等)を負い、国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(国家公務員法62条、防衛庁職員給与法4条以下等)を負うことを定めているが、
国の義務は右の給付義務にとどまらず、国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解すべきである。
もとより、右の安全配慮義務の具体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであり、自衛隊員の場合にあつては、更に当該勤務が通常の作業時、訓練時、防衛出動時(自衛隊法76条)、治安出動時(同法78条以下)又は災害派遣時(同法83条)のいずれにおけるものであるか等によつても異なりうべきものであるが、国が、不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命、健康等を保護すべき義務を負つているほかは、
いかなる場合においても公務員に対し安全配慮義務を負うものではないと解することはできない。」