2014年7月7日月曜日

動き始めた日本の軍産学複合体

 
動き始めた日本の軍産学複合体


 ・ 大学機関へ強まる関与 政府、軍事転用に注目
 政府が大学など研究機関から技術提供を得ようと関与を強める事例が増えている。
 軍事転用の可能な先端技術に注目しているためだ。東大は軍事研究の禁止方に基づき防衛省の協力要請を拒否したが、同省は働き掛けを続ける構え。
 政府の要求がエスカレートすれば、将来的には大学の自治への介入だと問題になる恐れもはらむ。

 東大に協力を拒まれた事例は6月下旬の自民党国防部会でも取り上げられた。防衛省幹部は「引き続き文部科学省と相談したい」と述べ、東大側に善処を促す考えを明らかにした。
 防衛省は昨年4月、文科省所管の独立行政法人、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と技術協力のための協定を締結。 ミサイルや艦船に搭載する高感度の赤外線センサーを衛星に搭載する研究を始めた。
 きっかけは2012年6月にJAXAの活動を「平和目的」と限定した規定を削除した改正機構法の成立だった。

 熊本大が12年に開発に成功した高い強度を持つマグネシウム合金も防衛省内で高い関心を集めている。次期戦闘機の機体に使う想定で、研究への投資を検討している。米国の軍事産業大手や中国も関心を寄せているといい、ある幹部は「外国には出すなと働き掛けている」と明かす。
 防衛省には、自前の研究開発費が頭打ちの中、大学や外部機関の軍事転用可能な研究成果を取り込み、効率的に装備品を開発したい事情がある。

*■東大と軍事研究*
 岸信介内閣の下で日米安全保障条約の改定交渉が始まり、安保闘争が盛り上がった1959年、東大は当時の最高意思決定機関である評議会が「軍事研究は一切行わない考えである」との方針を申し合わせた。
 以後、明文化はされていなかったが、全ての研究者に厳格に適用されてきた。2011年3月には、情報理工学系研究科が軍事研究の禁止を明記したガイドラインを策定した。 (共同)

・ 東大 空自機への協力拒否 不具合の原因究明 「軍事研究」と判断
 防衛省が今年5月、強度試験中に不具合が起きた航空自衛隊輸送機の原因究明のため東大大学院教授に協力要請したところ、大学側が「軍事研究」を禁じた東 大方針に反すると判断し拒否したことが5日分かった。
 防衛省は文部科学省を通じ東大に働き掛けを強め、方針変更を促す構えだが、文科省は大学の自治を尊重 し消極的だ。一方、教授は大学側に届けず防衛省の分析チームに個人の立場で参加しており、大学方針の実効性が問われる可能性もある。

 輸送機はC2次期輸送機。離島防衛のため陸上自衛隊部隊が移動する際の主力輸送手段と想定されている。2014年度末からの配備を予定していたが、今年 1月、高高度を飛行するのに必要な強度を確認する試験で、貨物扉が外れるなど強度不足が判明した。
 小野寺五典防衛相は今月4日の記者会見で、配備の2年延 期を明らかにした。

 教授は東大大学院工学系研究科に所属し航空宇宙工学が専門。
 防衛省は有識者による機体構造の分析チームを設置するため5月中旬に委員委嘱を大学側に打診 した。しかし東大側は研究科の判断でチーム入りを断った。教授は「研究への参加ではなく、最先端の情報を得る目的」としてオブザーバー参加した。
 東大は1959年と67年に当時の最高意思決定機関の評議会で、軍事研究の全面禁止を申し合わせた。広報担当者は取材に「大学の方針に従い対応した」と説明した。

 防衛省は6月、防衛産業や関連技術の維持・育成のため大学と連携強化を加速する新戦略を決定。防衛相は今回の事態を受け、同月中旬の国家安全保障会議 (NSC)に参加していた下村博文文科相に「事態の改善をお願いしたい」と伝えた。
 文科省科学技術・学術政策局は「協力するかどうかの判断は大学の自主性 に委ねている」としている。

 ●大学の自治尊重を
 ▼軍事評論家の前田哲男さんの話 
 戦闘機やミサイルは巨額の開発予算が必要となり、国際共同開発が主流となっている。軍用にも民生にも使える技術が増え て、境目がぼやけている中で、防衛省が大学の先端技術を取り込もうとするのは当然の動きだ。 
 これから防衛産業も含めた「産官学」の一体化は進むだろう。だ からといって政権の意向を押し付けることは認められず、学問の自由、大学の自治は尊重されるべきだ。平和利用の原則を守った東京大学の対応は評価できる。 (西日本新聞

・・
・日本の武器輸出第1号決定か、ロシア紙が批判的に報じる背景とは?
 6日付の日本経済新聞は、かねてから三菱重工業がアメリカ企業から引き合いを受けていた、パトリオット2(PAC2)ミサイル用センサーの輸出案件が、政府によって承認される見込みであると報じた。
 三菱重工はアメリカの防衛大手レイセオン社からライセンス供与を受けて、PAC2を自衛隊向けに生産しているが、本件ではレイセオンが、三菱重工から調達した部品などでミサイルを組み立て、中東のカタールに輸出するという。

 本件は、4月に政府が策定した「防衛装備移転三原則」のもとで、日本が外国に武器を輸出する初のケースとなる。

【新三原則】
 もちろん4月に決定した新三原則のもとでも、国連安保理決議の違反国や紛争当事国には武器は輸出できないことになっている。
 今回の案件に関して日米両国政府は、カタールが他国と紛争を起こすおそれがないと結論付けた訳だが、『RT(ロシア・トゥデイ)』は、アメリカの同盟国であるカタールが、リビアの最高指導者であったカダフィ氏の追放や、現在も継続中のシリア内戦において積極的な役割を果たしたという報告があるという。

【日本の武器輸出増加策】
 戦後数十年にわたって堅持されてきた「武器輸出三原則」緩和の狙いについて各紙は、日本の防衛産業の育成であると述べる。
 防衛専門サイト『defenceweb』の2日付の記事では、以下の点から日本政府が武器輸出を増やすために進めている戦略が見て取れるという。

 第1に、6月にパリで開催された、世界最大の陸戦兵器・セキュリティ関連の見本市である「ユーロサトリ」に日本企業13社が初参加した。
 パラシュート、顔認証システム、地雷探知機といったセキュリティ分野での出展が主だが、三菱重工は新型の8輪装甲車を発表した。他の参加企業としては川崎重工、NEC、日立の名が挙げられている。

 第2に、日本は武器の輸出入を促進するための調達機関を1年以内に設置する予定である。
 フランスの「装備総局」をモデルに設置される新機関は、「F-35統合打撃戦闘機計画」やアメリカの「SM-3 IIA弾道弾迎撃ミサイル開発」への参画において、スケールメリットを活かしてコスト低減をはかりつつ、日本への技術移転を促進する。

 『defenceweb』は続けて、日本の武器輸出緩和にも限度があり、オーストラリア海軍が検討している「そうりゅう型潜水艦」の極秘技術について、日本は未だに売り渋っていると述べている。
 だが、6日付けのブルームバーグの記事によれば、オーストラリア訪問中に安倍首相は、日本の潜水艦技術など防衛装備品の共同開発に関する協定に調印する予定であるという。  (NEWSPHERE)

・ 防衛装備品協定を締結 日豪首脳、EPAも  【キャンベラ共同=林学】
 安倍晋三首相とオーストラリアのアボット首相は8 日、防衛装備品移転に関する協定と経済連携協定(EPA)に署名し、両協定を締結した。
 首脳会談で安全保障と経済分野を柱とする包括的な2国間関係を強化 する方針を確認。 東シナ海や南シナ海で海洋進出を図る中国を念頭に、力による 一方的な現状変更の試みに反対する方針でも一致した。会談後、こうした内容を 盛り込んだ共同声明を発表した。

  両国の「特別な関係」をアピールし、権益拡大に動く中国をけん制。防衛装備 品移転は、禁輸政策を転換して4月に定めた新三原則を踏まえたもので、日本に とり防衛産業の輸出先開拓につなげる狙いがある。
  EPAは早ければ来年発効。日本が課す牛肉関税の段階的引き下げなどが柱 で、主要農産物の関税のあり方をあらためて話し合う「見直し規定」が盛り込ま れた。

  安倍首相は集団的自衛権行使を可能とする憲法解釈変更の閣議決定を伝え、ア ボット首相は支持を表明した。「法の支配」と「公海上の航行、飛行の自由」の 重要性も再確認した。
 安倍首相は会談後の共同記者会見で、環太平洋連携協定(TPP)に関し「早 期妥結に向け、緊密に連携していく」と表明。集団的自衛権について「国際社会 で日本がより積極的な役割を果たすことを可能にする」と説明した。

  防衛装備品をめぐっては、潜水艦などの船舶に水が与える抵抗力や推進力を調 べる「流体力学分野」の協力推進で合意。米国との同盟関係が地域の平和に貢献 しているとして、米国のアジア太平洋地域を重視するリバランス政策を支持する 方針で一致した。

  共同声明には、日本とオーストラリアで毎年交互に首脳会談を開くことを明 記。
 自衛隊とオーストラリア軍の共同運用を可能にする協定作成を目指し、外 務・防衛当局の交渉を始める方針も盛り込んだ。留学生の増員など両国間の人的 交流拡大でも一致した。
 安倍首相は会談に先立ち、連邦議会で日本の首相として初めて演説し、集団的 自衛権の行使容認を踏まえた安保法制の整備への決意を表明した。

・・・
・ 日米欧、ロボット開発で官民タッグ
日経 6/23 フランクフルト=加藤貴行、ワシントン=川合智之】
 日米欧で医療や介護、家事など次世代ロボット産業の育成に官民共同で取り組む動きが活発になっている。欧州では総額28億ユーロ(約3900億円)の共同研究プロジェクトが始動。
 米国では軍事技術の民間応用を促す試みが進む。
 日本も生活支援ロボットの国際安全規格作りを主導し、同分野での日本勢の海外展開を後押しする構えだ。次の成長市場をにらんだ官民挙げた競争が激しくなってきた。

 欧州のロボット関連企業など約180社・団体で構成する欧州ロボティクス協会はこのほど「スパーク」と呼ぶ28億ユーロ規模の技術革新計画を決めた。ロボティクス協会が21億ユーロ、欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会が7億ユーロを拠出する。
 欧州勢が強い産業用ロボットだけでなく、医療や介護、家事、農業、運輸など幅広い分野で研究を進める。研究開発で1万2千人、付随するサービスも含めた関連産業全体で24万人の雇用創出を狙う。

 米政府もロボットを次世代の中核産業と位置づけ、民間のロボット開発を後押ししている。
 ホワイトハウスで18日開いた「ものづくり展」ではオバマ米大統領が最新研究を見学。「この革命は今後数十年にわたって雇用と新産業を創出する」と強調した。

 米国の強みは軍事から民間への技術移転。傷病兵向けのロボット義手や小型の無人偵察ヘリなどの技術の民間応用を狙う。その一環が米国防総省国防高等研究計画局(DARPA)が始めた災害救援ロボットのコンテスト「ロボティクスチャレンジ」。優勝賞金200万ドル(約2億円)を掲げ、新鋭技術を呼び込む。

 軍事や災害救助向けロボットは、不整地におけるスムーズな移動や遠隔操作、自律的な活動などの技術が必要で、サービス分野ロボットや自動運転への応用につながりやすい面がある。昨年、同コンテストで予選1位となった東京大学発のベンチャーは米グーグルに買収されている。

 軍事利用が難しい日本は、家事や介護を手伝うロボットを成長分野として新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を軸に育成に力を入れる。2月には日本発の生活支援ロボットの安全規格が国際標準化機構(ISO)に採用された。同分野は高い安全性が求められるため、主導権を握る利点は大きい。

 日本は産業用ロボットで世界トップクラスで、ファナックや安川電機といった日系メーカーが世界市場の半分のシェアを占める。医療分野でも装着型ロボットが欧州で初の医療機器としての認証を取得するなど技術革新が進みつつある。
 経済産業省とNEDOによると、日本国内のロボット市場は2035年に9兆7千億円を超える見通し。このうち災害救助などを含むサービス分野は約4兆9千億円に拡大する見込みで、成長余地が大きい。

・米国防総省、生物工学に力 ロボット義手開発
   米国防総省は生物工学研究に本格的に取り組む。専門の部署を新設し、ロボット義手や失った記憶の回復などの研究開発を強化する。若手研究者やベンチャー企業に門戸を開き、革新的なアイデアに予算を集中投下する。研究対象の範囲を広げ、軍事技術で突出した地位を維持するのが狙いで、将来は医療やIT(情報技術)など民生への応用も見込む。

 同省の国防高等研究計画局(DARPA)に、生体工学部門を新設した。これまでプロジェクトごとにばらばらだった神経科学やセンサー開発などの研究を統合し、相乗効果をもたらす狙い。

 このほど完成したロボット義手は、脳が筋肉を動かす電気信号(筋電位)を皮膚に付けたセンサーで読み取る。手や指を動かそうとするだけで義手がその通りに動く。握力を自動的に調整し、卵を割らずに持ちあげることも可能だ。
 義手は腕に障害のある人や戦争で腕を失った兵士ら向けで、映画「スターウォーズ」の主人公にちなんで「ルーク」と名付けた。立ち乗り式電動二輪車「セグウェイ」創業者が興したDEKA社(米ニューハンプシャー州)が開発。米食品医薬品局(FDA)の販売承認を得ており、量産を目指す。

 失った記憶を回復する脳の研究も始めた。戦闘で脳にダメージを受けた兵士や、アルツハイマー病患者らが対象。脳の記憶や学習に関わる「海馬」に刺激を与える装置を開発する。このほか医療用途を中心に幅広い研究テーマを手がける。

 DARPAの2015会計年度の予算要求額は前年度比5%増の29億ドル(約2900億円)。研究課題ごとに任命された計画責任者(プログラムマネジャー)が強い権限を持って開発を指揮するのが特徴だ。
 プログラムマネジャーは「無人自動車」や「災害用ロボット」などの開発に懸賞金をかけるなど、失敗を恐れず独創的な研究を促す。これまでDARPAの研究をもとに、インターネットや全地球測位システム(GPS)、音声認識技術などが実用化された。

 同省の研究スタイルは日本政府も注目する。内閣府は日本版DARPAとして「革新的研究開発推進プログラム」の創設を決めた。米国と同様に責任者に大きな権限を与えて研究を進める計画だ。ただ日本ではDARPAのように軍事予算を研究開発に転用することへの反発もあり、防衛費は投入しない。(日経  2014/5/14 ワシントン=川合智之)

・ 経産省、米国防総省と災害復旧ロボ共同研究   
 経済産業省と米国防総省は災害復旧ロボットの共同研究で合意した。
 人が入れない場所でがれきの撤去や解体作業を素早くできる技術を開発する。
 東京電力福島第1原子力発電所事故の復旧作業にも応用できると判断、協力関係を強化する。

 両者は共同研究に関する合意文書を交わした。経産省は年内に研究機関や大学などから研究者を募る。国防総省の外局の国防高等研究計画局(DARPA)が開く協議会への出場を促し、技術を磨く機会をつくる

 災害復旧ロボットの技術は米国が先行している。国防総省は日本の官民と組むことで、原発事故に対応可能なロボットの開発を念頭に置いているようだ。福島第1では日立製作所グループが開発したロボットががれき解体に取り組んでいる。三菱重工業やホンダも除染作業向けのロボットの研究開発を進めている。(日経 2013/9/29 )