「揺れは想定内、津波は想定外」?? --東電の「中間報告書」と「検証委員会」の無責任
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昨日(12/6)、経産省の原子力安全・保安院が東電社員に対して行った「聞き取り調査」の結果の「メモ」が公表された。 その中で、ベントを行おうとした際、べント配管が地震で破損していたために操作できなかったこと、つまりは第一原発が地震に耐える事ができなかったがゆえにベントに失敗した「可能性」がある(と指摘した社員がいた)ことが明らかにされた。 復習しておくなら、べントとは、原子炉の爆発や損壊を回避するために、格納容器の圧力を下げる目的で放射性物質が充満する内部の気体を原子炉外部に放出すること、である。言わば、今回のようなメルトダウン→メルトスルーを回避する「最後の、そのまた最後の手段」と定義することができる。
このことを念頭に置きながら、先週の金曜(12/2)に公表された東電による「事故調査」の「中間報告書」を読んで頂きたい。全文を転載することはできないので、ネットから削除される前に新聞報道をクリップしておこう。
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・「揺れは想定内、津波は想定外」東電が中間報告書
東京電力は2日、福島第一原発の事故調査に関する中間報告書を公表した。法令や国の指導に基づいて安全対策を施し、過酷事故に備えたが、想定を超える津波に襲われて事故が起きたと結論づけた。自己弁護ともとれる内容で、報告書を検証した外部の専門家らの指摘ともかみ合わず、不明な点も多く残った。
報告書は、東電が作った事故調査委員会が、計測されたデータや運転員ら250人以上の聞き取りをもとに作成した。だが、1号機の原子炉建屋で爆発前に放射線量が異常に上昇したにもかかわらず、水素爆発を考えずに対策をとらなかった経緯などは記述がなく、不明のままだ。
地震直後に1号機で起動した原子炉を冷やす非常用復水器については、運転員の判断で手動で止めた。しかし、運転し続けたとしても、すでに炉心損傷は起きており、事故の拡大は防げなかったとの見解を示した。 機器の故障を想定して複数の非常用冷却設備を設置するなどの事前の対策が、国の安全審査に適合していたことを強調。過酷事故への対応策も「国と一体になって整備を進めた」と記した。
今回の地震は2002年に示された国の地震調査研究推進本部の見解や、869年の貞観地震より震源が広範囲な巨大地震だったが、揺れは想定と同程度で、確認した範囲では揺れによる安全上重要な機器の損傷はないとした。一方、津波は想定を大きく超え、最新の知見に沿って自主的な検討や調査もしたが、結果的に津波に対する備えが足りず、被害を防げなかったと説明した。
このため、非常用発電機は6号機の1台を除きすべて使えなくなった。安全の想定を超えた事象が起き、原子炉を冷やすための機能が失われ、1~3号機で炉心損傷が起きた。さらに原子炉建屋で水素爆発が起きた。
津波到達後は、消火用の配管を使って原子炉を冷やす作業を実施。事故対応のマニュアルにはなかったが、消防車のポンプを使うなど臨機応変の動作(??)を試みたなどとした。
東電は今回、矢川元基東京大名誉教授(注)ら外部の専門家による検証委員会を設置し、調査内容について意見を聞いた。委員会は「事故の直接の原因は未曽有の津波だが、アクシデントマネジメント(過酷事故対策)を含むハード面、ソフト面での事前の安全対策が十分でなかった」とし、「過酷事故が起こり得ないという『安全神話』から抜け出せなかったことが背景にある」と指摘した。
これに対し、東電事故調査委員長の山崎雅男副社長は「できるだけの安全対策に努めてきていることは事実として確認している。アクシデントマネジメントについても必要な対策をとってきた。今回の事故は想定を超える津波による浸水が原因だった」と話した。
今回は、中間報告で事故時の設備の状態などを調査した。東電は調査結果をふまえ、非常用発電機などが浸水しないよう対策をとる。今後、社内の意思決定過程や情報公開のあり方などについても調査し、来年6月ごろに最終報告書をまとめる。(朝日・坪谷英紀)
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なぜ、「中間報告書」を問題にするのか?
東電の「中間報告書」がこのような内容になることは、「3・11」直後からわかっていた。だからこそ私は徹底して東電の責任を問題にしてきたわけだが、東電という一企業体とそれに対する批判は私の中ですでに終わっている。
では、なぜ今更これを問題にするのか? それは簡単に言えば、脱原発の論理を「原発の安全神話」批判から、原発の事業主体たる電力会社とそれを「監督・指導」すべき国の「ガバナンス」批判へと発展させるためである。
これまで何度か述べてきたように、原発は工学的に「安全」だから建設されてきたわけではないし、「不安全」「危険」だから廃止できるわけでもない。もちろん、「原発の安全神話」から私たちが目覚め、解放されることが脱原発の大前提になる。しかしそれだけでは「ポスト3・11における原発推進の論理」、すなわち「福島第一原発事故は二度と繰り返さない。ハード面とソフト面における万全の「過酷事故対策」を整備する」という論理に対抗することはできないだろう。
「国策・民営」で管理・運営される日本の原発は、東電に象徴される日本の電力企業の「コーポレート・ガバナンス」と、既成政党(民主党であれ自民党であれ)と官僚機構(内閣府・経産省・文科省・・・)による「ガバナンス」の質と水準ではメルトダウン→メルトスルーに対処しきれない。私たちはそのことを「ポスト3・11」の全過程における国と東電(+米仏の原子力企業)の対応を見る中で、こちらの気が滅入ってしまうほど、厭というほど思い知らされた。
これはもはや原発が「安全」か否か云々、「ソフト面」における「リスクマネジメント」をどうするこうする云々、今更のようにドラッカーを読んでどうなるこうなるの問題ではない。私たちは今のこの国の政府・官僚機構・東電という一企業の在り方、その無責任体系の中に投影された〈私たち自身のガバナンスの質と水準〉において、原発という持ってはいけないもの、持てるはずがなかったもの、を持ってしまったのである。
(⇒「政府・東電は、なぜ「冷温停止」を急ぐのか?」(10/18)を参照)
幾分文学的な表現をするなら、東電はその意味で私たち自身の姿を映す鏡でもある。だから、国や東電をただコキ下ろすことだけを目的にしたような外在的批判では「原発問題の本質」を捉え、乗り越えるヒントをつかむことはできないだろう。「中間報告書」に読むべきは、そういうことではないかと私は思う。
「慙愧に耐えない」とは、まさにこういうことを言うのではないだろうか。
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「検証委員会」の無責任
冒頭の朝日新聞の記事は、「中間報告書」が「自己弁護ともとれる内容で、報告書を検証した外部の専門家らの指摘ともかみ合わず、不明な点も多く残った」と書いている。「外部の専門家らの指摘」は「中間報告書」と本当に「かみ合」っていないのだろうか、そうだとしたら何がかみ合っていないのか。
この問題を考えるにあたって、まずは政府の「事故調」の動きをみておこう。
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・原発事故調、住民への情報に不備 可能だった津波対策
政府の東京電力福島第1原発事故調査・検証委員会(委員長・畑村洋太郎東大名誉教授)が
(1)大津波に備えた防水対策や電源準備は可能だったが、実施されなかった
(2)避難住民に被ばく軽減のため必要な情報や指示が届けられなかった―
の2点を問題視し、26日に公表する中間報告で事故の教訓を得るための考察の柱にする方向で調整していることが7日分かった。
また吉田昌郎前所長が調査委の事情聴取で、原子炉格納容器が爆発して収束作業が不可能になり、はるかに多くの放射性物質が飛散する事態を懸念したと証言したことが分かった。(共同)
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(つづく)
(注)
矢川元基(東京大学大学院工学系研究科修了、東京大学名誉教授)
(公益財団法人)「原子力安全研究協会(NSRA)」理事長。
・略歴
日本原子力学会理事、日本原子力研究所特別研究員、国土交通省・放射性物質等海上輸送技術顧問会会長、 文部科学省科学技術・学術審議会専門委員、フランス原子力庁国際諮問委員などを歴任。
・原発関連著作
『原子炉構造工学』 原子力工学シリーズ, 東京大学出版会, 1976 (宮 健三、矢川元基)
『原子炉構造設計』 培風館, 1989 (矢川元基、一宮正和)
『核融合炉構造設計』 培風館, 1995 (矢川元基、堀江知義)
『原子力プラントのエイジングと寿命評価』 原子力安全研究協会, 2008 (矢川元基)
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12/8
・東電、汚染水の海洋放出を計画 漁業団体が猛反発
東電は8日、福島第1原発で貯蔵している低濃度汚染水を来年3月にも海洋に放出する計画をまとめ、漁業団体に説明したことを明らかにした。過去に漁業関係者や海外から批判を浴びており、今回も漁業関係者らは強く反発している。
計画しているのは建屋地下などに流入した汚染水から放射性物質を分離処理後の水。原子炉への注水などに利用しているが、注水に必要な量以上の処理水が発生している。 放出する場合は、放射性ストロンチウムなども処理し、法令で定める周辺海域での基準値以下まで下げるとしている。 建屋地下への流入水は、来年3月にも貯蔵しきれなくなるおそれがあるという。(共同)
12/7
・東電撤退「伝達あった」=原発事故で菅前首相
民主党の菅直人前首相は7日午前、TBSテレビの番組に出演し、3月の東京電力福島第1原発事故の直後に東電が同原発から全面撤退する意向を首相官邸に伝達したとされる問題について、「直接の話は清水正孝社長から海江田万里経済産業相、枝野幸男官房長官(いずれも当時)にあった」と述べた。
東電の社内調査委員会が2日にまとめた中間報告では、撤退伝達を否定している。これについて菅氏は「東電はその後、全面撤退ではなく一時避難だと言っているが、受け止めた2人(海江田、枝野両氏)は『撤退したいという話で重大な問題だから』と私に話があった」と語った。 (時事)
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「全面撤退ではなく一時避難」? どこから、どこへ「避難」するというのか? 福島から自宅?
私には意味がさっぱりわからない。
・前所長らの証言内容、保安院が東電依頼で修正
経済産業省原子力安全・保安院が東京電力福島第1原子力発電所の吉田昌郎・前所長らに現場の状況などを聴取した結果の概要を9月に発表した際、東電本店の依頼に応じて、証言の内容を修正していたことが6日に保安院が公開した聴取結果の資料から分かった。 保安院は「(事実関係が確認できず)表現を東電と調整した」と説明している。事故発生当初の現場関係者の声に手を加えて発表してきたことになり、調査の信頼性が問われそうだ。
保安院は8月に吉田前所長ら8人に聴取し、9月に結果の概要版を発表した。概要版では、福島第1原発1号機の非常用復水器2台の津波襲来時の運転状況について「両方とも隔離弁の開閉状態は不明」としていた。
ところが6日公開された聴取結果の資料によると、現場関係者は「両方とも閉止していた」と証言。保安院によると、概要版公表前に内容を調整し、東電側が証言が事実かどうか不明と主張したため「不明」と書き換えたという。 保安院は「公開しない前提で調査し(東電の)意向を尊重した」(???)と説明。聴取結果の資料の20カ所以上の黒塗り部分についても「東電の依頼で非公開にした」(!!)という。(日経)
・想定甘く準備不足 福島原発事故、前所長ら聴取結果 /冷却装置、動作と誤認 保安院公表
経済産業省原子力安全・保安院は6日、東京電力福島第1原子力発電所の事故について、吉田昌郎前所長ら8人に現場の状況などを聞き取り調査した結果を公開した。全電源が失われ放射線量も高い環境下で、人員や機材が足りず作業に手間取った。燃料損傷の可能性には早い段階で気付いたが水素爆発は考えず、想定の甘さや準備不足が改めて浮き彫りになった。
調査は8月4~19日、保安院担当者らが東電本店と福島第1原発で実施した。公開された調査結果は「所内の情報伝達」「手順書・マニュアル」などの項目ごとに聞き取りで判明した状況をまとめており、個々の証言者名は示していない。黒塗り部分が20カ所以上ある。 調査結果によると、緊急時に集まる担当者は決めてあったが、
1~6号機の同時事故は想定していなかった。
協力企業の一部が大津波警報で退避し、資材の保管場所が分からない東電社員が作業した。
電源車が必要と判断したのは3月11日午後6時ごろ。自衛隊による空輸は重量オーバーで断念。同日午後9時~12日未明に陸路で着いたが、接続しやすい中圧タイプはなかった。メーカーから仮設電源盤を取り寄せ、外部電源の復旧に着手できたのは15日だった。
冷却用の注水では手順書に示された消火栓が使えず、消防車を利用。しかし発電所にあった3台のうち1台は津波で故障、1台は所内道路の損傷で12日午後まで動かせなかった。
津波直後は全体の状況把握で精いっぱいで、1号機の原子炉を冷やす非常用復水器の作業に集中できなかった。復水器は動作していると誤認、水位計の誤表示で燃料の露出にも気付かなかった。
燃料損傷の可能性は11日夜に1号機原子炉建屋で放射線量が上昇した時に認識。水素が発生すると分かっていたが、建屋が水素爆発するとは考えなかった。調査結果はベント(排気)の作業に必要な、ボンベと弁をつなぐ配管が地震で壊れていた可能性にも触れている。(日経)
「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「福島第一原発は「止まった」か?」(10/31)
⇒「原発推進派のコスト論のコスト」(10/27)
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・美浜原発2号機でトラブル、手動停止へ
関西電力は7日、運転中の美浜原子力発電所2号機(福井県美浜町、加圧水型軽水炉、出力50万キロ・ワット)で、原子炉格納容器内にある加圧器の圧力を調整する装置から1次冷却水が漏れるトラブルがあり、8日未明に原子炉を手動停止すると発表した。 トラブルによる環境への放射能の影響はないという。
関電によると、この装置は、加圧器内の圧力が高まると自動的に弁が開き、加圧器に水を送って圧力を下げる仕組み。11月9日頃に装置内の弁の一部から、水漏れを想定して設けている配管内に漏れ始め、11月18日に1時間あたり30リットルの漏れを確認した。その後、漏えい量は12月7日に同230リットルにまで増え、今後、液体廃棄物の処理能力を超える可能性があるため手動停止を決めたという。(読売)
・原発住民投票法案を提出=みんな
みんなの党は7日、原発住民投票法案を参院に提出した。定期検査を終えた原発を再稼働させるため、国は都道府県知事の同意を求めなければならないと規定。都道府県知事は近隣住民の意見を尊重し、必要に応じて住民投票を行うことができるとしている。(時事)
⇒「原発再稼動の是非は広域的住民投票によって決めよう! 」(10/10)