2011年12月22日木曜日

「保護する責任」(R2P)と現実政治(power politics)

「保護する責任」(R2P)と現実政治(power politics)


 ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の土井香苗氏(東京事務所ディレクター)から、公表を前提とした返答が送られてきた。 私たちが土井氏にお願いしたのは、①「「保護する責任」(R2P)に関するヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)への質問状と回答」に対する補足的コメントと、②「質問4」に対する東京事務所の見解である。
 以下が、返答の全文。

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 世界各地の国家、特に日本政府が多くの経済援助を渡している国家でも、多くの重大な人権侵害が行われています。しかし、残念ながら、日本政府はこれまで、その潜在的な影響力にも拘らず、二国間の政府の間の友好関係にばかり焦点をあて、相手国の市民が当該国家から受けている人権侵害被害に対しての対応は概して受け身の対応に終始してきました。これは日本の市民社会から日本外交に対する要求や監視がまだ限られていることも原因のひとつだと感じます。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチ東京事務所は、世界各地で起きている人権侵害を止めるため、日本政府が人権により重点をおいた政策を取るよう働きかけています。日本の市民社会から、日本政府の外交政策に対し人権保護の観点からの発言や行動を求める声が高まることを期待するとともに、そうしたNGOとともに、各NGOのミッションの範囲内で、様々な形で協働できれば幸いです。

 土井香苗
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 とても残念な返答、だった。


 〈リビア以後〉のR2Pを考えるときの課題性については「解説」の中に書いた。
 これらはすべて、R2Pの実行/不実行が、国連安保理を舞台とした「現実政治」に左右されることに関係している。 私が問題にしているのは、HRWやアムネスティインターナショナル(AI)などの「国際人権NGO」が、そのことがはらむ問題に関し、あまりに無自覚なことだ。
 
 HRWやAIなどのR2P推進NGOは、シリアや「北朝鮮」等々の個別事例における「R2P安保理決議」に向けた国際キャンペーン・ロビーイング活動を精力的に展開する。そうすることによって、実は、国連安保理を舞台とした「現実政治」に自ら能動的・積極的に加担してしまっているのである。

 もちろん、そうすることが個々の国々の、彼/彼女らが言う「人権侵害」の改善・是正につながるのであれば「問題なし」とすることもできる。しかし実際にはそうはならず、事態はより悪化するだけなのだ。シリアやイスラエル/パレスチナがそうであるように、国連安保理を舞台とした「現実政治」は、国家(軍・治安部隊)による民衆虐殺の継続を放置し、彼/彼女らが言う「人権侵害」の改善・是正を本気で考えてはいないからである。

 土井氏や東京事務所のスタッフ・ボランティアのみなさんにも、「このリアリティをどうするのか?」、そこからまず考えてほしい。
 山ではアプローチの取り方を誤れば死に至る。それと同じ誤りを犯していることを理解してほしいと思うのである。

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・イスラエル:国連安保理4カ国が非難声明…入植者住宅建設
 東エルサレムやヨルダン川西岸で入植者住宅の建設を進めるイスラエルに対し、英仏独ポルトガルの国連安全保障理事会理事国は20日、連名で非難声明を発表した。議長国ロシアが「深刻な懸念」を表明するなど、入植活動には15理事国のうち米国を除く14カ国が懸念を示すが、拒否権を持つ米国が非難に消極的で安保理として対応できず、個別に意見を表明する異例な形となった。
 声明で欧州4カ国は「イスラエルの行為は、中東和平を進めようとする4者(米国、ロシア、国連、欧州連合)協議の努力を踏みにじるものだ。入植者の暴力行為も非難する」とし、パレスチナとイスラエルに速やかな交渉再開を促した。
 議長国ロシアのチュルキン大使は記者団に「ある国が安保理でのいかなる種類の声明も望んでいない」と付言し、米国を暗に非難した。
 国連教育科学文化機関(ユネスコ)でパレスチナの正式加盟が可決されたことへの報復措置としてイスラエルは11月、国際法違反とされる占領地の入植活動を決定。今月18日に入植者住宅約1000戸の入札を始めた。【毎日、ニューヨーク山科武司】

ユダヤ人入植者によるモスク放火相次ぐ、パレスチナ
 パレスチナ自治区ヨルダン川西岸(West Bank)で、イスラエル政府が承認していない違法なユダヤ人入植地の一部をイスラエル軍が解体したことに対し、ユダヤ人の原理主義者たちが腹いせにパレスチナ人のモスクに放火する事件が相次いでいる。
 14日にはエルサレム(Jerusalem)で、倉庫として使われていた元モスクが放火された。外壁が焦げただけで火は燃え上がらなかったが、壁にはイスラム教の預言者ムハンマド(Prophet Mohammed)を侮辱する言葉や反アラブのスローガン、売却地であることを示すような「値札」などの落書きが残された。同日夜にはカルキリヤ(Qalqilya)でパレスチナ人の車が複数放火され、やはり「値札」の落書きなどが残されていた
 15日には、ヨルダン川西岸(West Bank)のラマラ(Ramallah)に近いブルカ(Burqa)村のモスクが放火され、女性用の施設の一部が燃えた。壁にはヘブライ語で「戦争が始まった」と書かれていたほか、ナブルス(Nablus)近郊にあるミツペ・イトゥザル(Mitzpe Yitzhar)入植地の名前も落書きされていた。同入植地では前夜、パレスチナ人の私有地内にユダヤ人入植者が違法に建てた家屋と飼育小屋をイスラエル軍が解体していた。
 こうした襲撃事件は、イスラエル政府が違法入植地を解体する過程で、ユダヤ人入植者側の反動として起きている。一連のモスクに放火し「値札」の落書きを残す襲撃は通常、パレスチナ人が標的とされているが、9月にガリラヤ(Galilee)のベドウィン(Bedouin)村のモスクが放火されて以降、アラブ系住民を標的とするものも増えており、またイスラエル人の左派運動家やイスラエル軍も標的となっている。
 今週12日、原理主義ユダヤ人入植者たちは抗議デモを実施し、ヨルダンとの境界沿いにある立ち入り禁止の軍事地域内に侵入。13日にはヨルダン川西岸にあるイスラエル軍基地を襲撃、車両を破壊した。
 ベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相は14日夜、自らが率いる右派政党リクード(Likud)の会合で、「わが軍の兵士たちに対する彼ら(原理主義のユダヤ人入植者)の攻撃は許さないし、われわれの隣人との宗教戦争を誘発することも許さない。モスクの神聖を冒涜させもしないし、ユダヤ人でもアラブ人でも傷つけることは許さない。彼らを拘束し、裁いてみせる」と強く非難した。
 ただ、これまでもイスラエルの指導者たちはこうした事件を直ちに非難してきたが、実行犯が拘束されることは滅多にない
 一方、パレスチナ人社会は一連の襲撃事件に激怒している。パレスチナの指導者たちは、実行犯を罰しもせず放置しているとしてイスラエル政府を非難。マフムード・アッバス(Mahmud Abbas)自治政府議長の報道官、ナビル・アブ・ルデイナ(Nabil Abu Rudeina)氏はAFPの取材に対し「モスクへの放火は、ユダヤ人入植者たちによるパレスチナ人への宣戦布告だ」と怒りをあらわにした。
 パレスチナ自治政府は、イスラエル軍が「入植者たちの暴力の台頭を防ぐ努力も、罰することもしていない」と批判し、「そうした方針がパレスチナ人とその礼拝の場への入植者たちの憎悪犯罪をたきつけている。イスラエル政府がそのような原理主義者を無罪放免にする方針だから、こうした事件がいつまでも続いている」と強く責めている。【12月16日 AFP】(c)AFP