原発災害と「修復的正義」(restorative justice)
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「シンクロニシティ」という言葉がある。「何か複数の事象が、「意味・イメージ」において「類似性・近接性」を備える時、このような複数の事象が、時空間の秩序で規定されているこの世界の中で、従来の因果性では、何の関係も持たない場合でも、随伴して現象・生起する」ことを指すようだ。
先週(12/17)の明治学院大でのNGOシンポから、この三日間、①原発災害と被災・被曝者支援、②国連PKOと自衛隊の南スーダン部隊派遣、③「北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)問題」と「保護する責任」(R2P)、そして④「琉球の自治」と普天間問題という、「従来の因果性では、何の関係も持たない」「複数の事象」のことを考えている。
これらはまさに、私たちが先月から3回続けて行ってきたシンポジウムのテーマそのものなのだが、私たちは、これら「複数の事象」を、「時空間の秩序で規定されているこの世界の中で」、「共時的」に経験していることになる。
では、その奇跡のような偶然/必然性の秘密を解く鍵は何だろう? つまり、現代世界を「規定」しているいかなる「時空間の秩序」が、偶然あるいは必然にも、これらの事象を共時的に存在たらしめているのか、という問題である。
それを考えていて、〈修復的正義(restorative justice)の不在〉という観念がよぎった。
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"restorative justice"には他に「修復的司法」という訳語がある。「修復」を「回復」を訳す場合もある。
その理論や論争については、関連文献に直接あたってほしい。私はこれを「紛争解決」と言うよりも〈紛争の変容〉を説いたある研究者の文章から知るようになったのだが、いまでは非常に広範囲に及ぶ分野で主張され、実践されるようになっている法的概念である。
しかし、どの分野であれ、国家、自治体、企業、また個人レベルの犯罪が起こったときに、ただ犯罪者(組織であれ個人であれ)を罰するだけでなく、被害者(集団)の権利・補償・「癒し」、それらを法的に保障する制度作り、そして同じ類の犯罪が二度と起きないようにする政治・法・社会の「仕組み」を作るべきだという主張に関しては、おおむね一致しているように思われる。
①の「原発災害と被災・被曝者支援」と〈修復的正義(restorative justice)の不在〉について、少し考えてみたい。 思うに、これは「脱原発法学・原論」(「法医学」に倣うなら、「法原子力工学」と呼んでもよい)の要諦となるのではないか。未来を担う研究者・「市民」が、「文理融合」で考究すべきテーマだと思うのだ。
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「医療過誤」(malpractice)と原発災害
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「うそをつかないでくれ!」
『医療の良心を守る市民の会』 副代表/新葛飾病院 院長 清水 陽一
1.私の病院では、私が院長になってから「うそをつかない医療」を実践しています。新入医局員には、けして「患者さん、ご家族にうそをついてはいけない」と書かれている冊子を渡し、診療録にうそが書いていないのだから、診療録はいつでもお見せするよう指導しています。
30年以上医業に携わっているといかに医療の中では「うそ」をつくことが当たり前になっているかを思い知ります。まるで政治の世界と同じです。それもたちが悪いことに患者のために「うそ」をついているという傲慢な医者もいます。確かにときには真実を語ることが辛いこともあります。しかし「うそ」は結局患者さんを傷つけることになります。
2.25年前より患者側の弁護士に依頼され、鑑定意見書を書くようになりました。原告(患者側)、弁護士とも素人、裁判官も素人、被告(病院)は専門家のため、輸血ミスのような明白な事例はよいのですが、専門性が問われるような事例では被告の陳述、病院側の意見書の中には堂々とうそが語られていることがあることに、驚きあきれ、怒りがこみあげてきます。
3.(中略) 現在の法律では過失があっても、カルテを改ざんしても刑法上罪がないということです。ドイツではカルテの改ざんは刑法上の罪に当たるため、ありえないとのことでした。
さらに日本では病院側の意見書にも考えられないような「うそ、ごまかし」があります。ドイツでは医師職業裁判所では鑑定意見書も俎上にかけられ、問題があればペナルティーがあるそうです。
被告医者は過失もカルテの改ざんもないと居直っています。さらに病院は判決が誤っていると主張しています。どうして素直に判決の指摘を受け入れないのでしょうか。医師職業裁判所があればこの医者は免許剥奪、病院は業務停止でしょう。」
⇒「医療訴訟」
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原発「事故」を「修復的正義」に照らして考えるとき、その大前提となるべきは、国や電力企業、原子力ムラの面々、「専門家」が「うそをつかない」ということだ。「専門性が問われるような事例では・・・堂々とうそが語られている」。しかも問題の根っこには、「現在の法律では過失があっても」、データを「改ざんしても刑法上罪がない」現実がある。このような状況においては、「修復的正義」を語ることそれ自体が何かの冗談になってしまう。
けれども、現実政治や現行法体系を与件とするなら冗談話になってしまうことを怖れて、この問題を素通りしたり、棚上げにすることは許されないし、そんな余裕もない。放射能汚染・被曝被害と「風評被害」という名の実害は広がり続け、その補償/賠償を求める当事者たちのたたかいが、国・東電を一方の「紛争」の当事者としながら現在進行形で展開され、しかもいつ、何がどうなるかも分からない稼働中の原発が現に存在するからだ。
必要なことは、「医療過誤」に対する患者、家族/遺族のたたかい20年の歴史から、何を教訓として引き出せるか、を考えることである。そうすれば、「安全性のさらなる向上」「規制のいっそうの強化」を合言葉に、原発再稼働・工事再開・新規建設を進めようとするポスト「3・11」における原発推進論に欠けている思想や政策の限界も、自ずと明らかになってくるのではないか。
(つづく)
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・安全庁予算は500億円規模 12年度、健康管理も担当
細野豪志環境相は20日の閣議後の記者会見で、経済産業省原子力安全・保安院などを改組し、来年4月に環境省の外局として新たに発足する原子力安全庁(仮称)の予算が500億円規模になることを明らかにした。週内に決定する2012年度予算案に盛り込む。
安全庁は、保安院と原子力安全委員会を統合し、文部科学省が所管する放射線の環境モニタリング部門なども移管する。現在の予算の合計は約370億円で、130億円程度の増額となる。このうち新設する健康管理の担当部門は約20億円。人員は全体で500人規模と説明した。(福島民報)
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①職員は現行より100人増員、
②原子力安全庁の幹部は長官、次長、緊急事態対策監のほか複数の審議官で構成、
(原発などの施設の審査や検査関係で5部署程度、原子力防災や核物質防護、放射線モニタリングなどの危機管理関係で2部署程度、国際機関との調整や審査基準策定などを担当する部署を設置。
また、テロ対策など核セキュリティー確保に向けた事業者の監督、治安機関との連携を担当。これまで原子力委員会が所管していた核セキュリティーに関する政策立案機能も安全庁に一元化。)
③「独立的組織」として原子力安全審議会(仮称)を置き安全庁の行政を「監視」、
④原発が設置されている地域に、それぞれ「連絡調整」のための「検査官事務所」を置く、
⑤原発立地自治体への交付金を今年度32億から111億円へと増額。(産経)
・民主PC「原子力規制庁」を提言 規制組織の名称
経済産業省原子力安全・保安院などを再編し、来年4月に環境省の外局として発足予定の原子力規制組織について、民主党の原発事故収束対策プロジェクトチーム(荒井聡座長)は21日、名称を「原子力規制庁」とするよう求める提言をまとめた。 新組織について、政府はこれまで「原子力安全庁(仮称)」としてきたが、「規制」を入れるべきだとの声が強くなっている。
提言では「原子力事故災害の収束と損害に対する賠償は一体だ」として、現在文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が担当している賠償事務を新組織に移管すべきとした。(共同)
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「修復的正義」は、犠牲者の補償や「癒し」を、賠償問題やその額に還元する考え方を拒絶する。
もちろん、賠償問題は重要であるし、それ抜きに「修復的正義」は語れない。しかし、それだけではない。「修復的正義」は、ある重大で深刻な「紛争」「災害」「事故」が起きたときに、国際社会や国家が、地域社会や個人が、一定期間の過渡期を経て、その先に広がるべき未来社会の在り方、そのビジョンを規定づけるようなもの、と言ってよい。しかし常に賠償額の問題に切り縮められてしまう傾向があることに注意する必要がある。
・全県民への賠償要請 応急対策基金の活用求める
佐藤雄平知事は18日の3閣僚との会談で、東京電力福島第1原発事故に伴う損害賠償で、あらためて県内全域、全県民への賠償実施を求めた上で、自主避難や精神的損害の賠償で対象外となった県南、会津、南会津地域の住民の賠償も含め、原子力損害賠償紛争審査会の指針に盛り込まれていない損害について原子力被害応急対策基金を活用し賠償を進めるよう求めた。
枝野幸男経済産業相は、応急対策基金の活用に向けて関係省庁と調整を進める考えを示し、県に対し基金の活用方策について具体的に提示するよう求めた。 佐藤知事は会談で「県が当初から求めている県全域を対象とする完全賠償を考えてほしい。応急対策基金の活用をお願いしたい」と要請した。(福島民友)
・賠償地域拡大へ気勢 指針見直し求め決起集会
東京電力福島第1原発事故で、県内23市町村に限定した文科省原子力損害賠償紛争審査会の賠償指針をめぐり、対象外となった白河市と西白河、東白川郡地域の市町村長や議会議員による緊急決起集会が19日、白河市東文化センターで開かれた。約150人が対象地域の拡大を目指し、国などに一致団結して要望していくことを確認した。
白河地方広域市町村圏整備組合管理者の鈴木和夫市長は「時間がかかるかもしれないが、最後まで頑張ろう」、西白河地方町村会長の佐藤正博西郷村長は「ここが天王山。一致団結して国などに訴えたい」、東白川地方町村会長の藤田幸治棚倉町長は「福島は一つであることを国や審査会に伝えていこう」とあいさつ。古張允矢祭町長が、賠償指針を撤回し、損害賠償の対象地域を県内全市町村・全県民とする決議文を読み上げて採択。最後に「頑張ろう」コールで、参加者は気勢を上げた。(福島民友)
・102市町村が除染対象に 重点調査地域を環境省公表
環境省は19日、東京電力福島第1原発事故に伴う除染作業を国の財政負担で行う前提となる「汚染状況重点調査地域」に、東北や関東地方の8県にある102市町村を指定すると発表した。28日付の官報で告示し、自治体に正式に通知する。 除染の枠組みを定める放射性物質汚染対処特別措置法に基づくもので、自然界からの被ばくを除く追加線量が年間1ミリシーベルト以上の地域がある市町村が対象。指定市町村は今後、地域内の汚染状況を詳しく調査し、実際に除染する区域を定めた除染実施計画を順次策定、来年1月以降、国の負担で除染を進める。(共同)
・尾瀬国立公園:「原発事故の風評」で入山者が前年度比18.9%減
◇豪雨も影響 89年以降で初の30万人割れ
環境省関東地方環境事務所は20日、11年度の尾瀬国立公園(群馬、福島、新潟、栃木の4県にまたがって位置)の入山者数が前年度比18・9%減の28万1300人となり、記録の残る89年度以降で初めて30万人を下回ったと発表した。集計期間は5月23日~10月31日。同事務所は「東京電力福島第1原発事故に伴う風評被害に加え、7月末の新潟・福島豪雨の被害も重なったため」と分析している。
月別では5~9月が前年を下回り、5月=5400人(同55・0%減)▽6月=6万9100人(同23・1%減)▽7月=8万400人(同14・1%減)▽8月=3万5800人(同30・4%減)▽9月=3万3100人(同29・7%減)。10月は同10・1%増の5万5500人だった。
同事務所によると、特に西日本からの団体客が激減した。例年はニッコウキスゲの咲く7月の入山者数が最も多いが、今年は豪雨被害で公園内の木道が流されたほか、尾瀬に通じる道路の一部が通行止めになり、入山者が伸び悩んだという。【毎日、喜屋武真之介】
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・東海村・原子力機構研究所で火災 外部に影響なし
20日午前9時半ごろ、茨城県東海村の日本原子力研究開発機構原子力科学研究所で火災があった。地元消防によると、約2時間後に鎮火。同機構や県によると、研究用の原子炉棟の天井裏が燃えたが、放射性物質の漏えいはなく、けが人はいないという。
同機構によると、原子炉棟の屋根の葺き替え工事中に溶接の火花が天井裏に燃え移り、吸音板が約110平方メートルにわたって燃えた。敷地境界に設置されたモニタリングポストの値に異常はないという。 原子炉は、燃料の安全性を確認するための研究炉。現在は定期検査中で、東日本大震災前から運転を停止していた。(共同)
・東海第2、停止機能の万全確保を 村原子力安全懇が最終答申
東京電力福島第1原発の事故を受け、日本原子力発電東海第2発電所の安全対策などについて検討を重ねていた「東海村原子力安全対策懇談会」(斎藤平会長)は19日、東海第2原発で異常事態が発生した場合でも、原子炉を安全に停止させる機能や使用済み燃料プールの冷却機能の確保に万全を期すことなどを求める最終答申書を村上達也村長に手渡した。同懇談会は今年5月以降、村上村長の諮問を受け、東海第2原発の安全対策や住民の理解を得るために必要な方策について議論を重ねていた。
答申書では、原子炉を安全に停止させる機能や使用済み燃料プールの冷却機能の確保に加え、
(1)外部電源の耐震強化や非常用電源の独立性・多様性の確保、系統電源引き込みの早期実施
(2)原子炉建屋屋上の排気弁、建屋過圧防止用の安全装置の早期設置
(3)地震と津波、台風など過酷条件下における対応の準備や検討中の防潮堤の早期実現
(4)福島第1原発事故を反映した事故対応マニュアルの見直しとシステムの確立-など9点について求めた。
住民への周知・理解については、
(1)国・県・村が日本原電に求め実施された安全強化策の村民への説明
(2)東海第2発電の今後について村が方針決定する際、村民の意思を広く反映した内容とすること
(3)原子力相談員制度の創設-などを求めた。
村原子力対策課によると、今後は状況をみながら東海第2原発の安全対策強化を求めるとともに、住民の周知や理解については早急に対応したい考え。
最終答申について斎藤会長は「諮問当時、村民の間には(原発に対し)不安や不満が募っていた。村民の希望や意見を吸い上げ、今後も村と連携して原子力対策の展開に注目したい」などと語った。また、村上村長は「真剣にこの問題について検討していただいた。再稼働問題とは別の判断になるが、(答申は)非常に重要な提言だ」と述べた。 (茨城新聞)
・東海第2廃炉求める署名5万人分 県内18団体、県に提出
定期検査中の東海第2原発の再稼働に反対する住民グループなどが8日、同原発の再稼働中止と廃炉を求める計5万1435人分の署名簿を県に提出した。署名は7月10日から今月4日までの第1次集計分で、県内外を問わずインターネットなどで広く呼び掛けた。提出は18団体で行い、茨城大の名誉教授11人も名を連ねた。各団体は10万人の目標に向け、来年4月まで署名活動を続ける計画。
署名活動は「東海第2原発の再稼働中止と廃炉を求める実行委員会」が7月に開始。第1次の提出に向け、別に署名活動を行っていた新日本婦人の会県本部など5団体と同大名誉教授団が合流した。各団体のメンバーら約60人は同日、県庁を訪れ、大塚誠県原子力安全対策課長に署名簿を手渡した。
呼び掛け団体の一つ、脱原発とうかい塾の相沢一正代表は「より多くの署名を集め、2次、3次の提出では橋本昌知事に直接訴えたい」と話した。茨城大の田村武夫名誉教授は「知事や県原子力安全対策委員会にインパクトを与えられるよう、理学部や工学部の教授にも協力を求めていく」と述べた。 (11/9,茨城新聞)
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「理論物理学者ワイスコップは、一人前の物理学者になるためには、研究室の中での口頭教育(oral education)にさらされることが必要だと言っていますが、これは実は日本で言う「誰それの背中を見て育つ」という無言教育と相通じるところがあると私は受け取っています。
教科書や論文を勉強するだけでは足りません。研究室で個人が何とはなしに教えられて身につけるものは、クーンの言う、パラダイムに含まれる暗黙の知(これはもともとはマイケル・ポラニーのアイディアであり、言葉ですが)と大いに関係があります。それに、研究仲間がいることの利益として、学界の事情やニュースに絶えず接触できているということもあると思います。孤立した研究者あるいは門外漢は、時折、いわゆる「つんぼ桟敷」に置かれる悲哀を味わうことになります」
「何の分野であれ、私のように、独学者として孤独に勉強を進めている人々が世の中には必ずおいででしょう。研究室で仲間と先生にもまれながら仕事のやり方を身につけることが大切だと私も言いましたし、「親の背中を見て育つ」という言葉もありますが、その一方で「親はなくとも子は育つ」という格言もあります。独学でも何とかやれると思います。「人を見たら泥棒と思え」と教えられる一方で、「旅は道づれ、世は情け」という言葉にも真実があるのと同じでしょう。」(「孤独な独学者の告白 2011/12/16」 藤永茂)