2011年12月7日水曜日

自衛隊の「国際平和協力」と「保護する責任(R2P)」

 自衛隊の「国際平和協力」と「保護する責任(R2P)」


 『外交』という名の外務省の広報雑誌(創刊は去年)を、ご存知だろうか。
 いや、「外務省の広報雑誌」という言い方は編集委員に失礼かもしれない。たとえ外務省が発行元(つまり、発行に税金が投入されているということ)であれ、各号の「企画・内容は独立した編集委員会が決定」し、「国内唯一の外交専門誌として、幅広い論者が意見を交わす「場」」、というのが雑誌のフレコミになっているからである。

 ところが。外務省の「広報・出版」のサイトを見ると、冒頭に『外交』が紹介されている。どうも外務省にとってのこの雑誌の位置付けと編集側のフレコミにはギャップがあるようなのだが、これはどのように理解すればよいのだろう。

 編集委員長の中西寛(京都大学大学院教授)氏。この人は、
・「「21世紀日本の構想」懇談会」(1999年5月 - 2000年1月)に始まり、首相の私的諮問機関である
・「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(2007年4月-08年6月)、
・「安全保障と防衛力に関する懇談会」(2009年1月 - 8月 麻生内閣)、
「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(2010年2月 - 8月 鳩山内閣〜菅内閣)と、
自公連立時代から政権交代後の民主党政権を股にかけ、これら「懇談会」の「委員」を務めてきた大学人である。
 また、編集委員には日本のNGOを代表する立場かどうかは定かではないが、ジャパン・プラットフォームの代表理事であり、「難民を助ける会」の理事長でもある長有紀枝氏(立教大学教授)も名を連ねている。

 この『外交』の最新号に、『脱「国際協力――開発と平和構築を超えて』の書評が掲載されている。龍谷大学でのシンポジウムを終え、紅葉をまだ楽しめた関西から戻ると、版元の新評論から送られてきていて、つい先ほどまで目を通していた。

 書評を読んで感じた微妙な違和感について、書く時間の余裕はない。というのも、①シンポジウムの報告を始め、②原発関連(東電による「事故調査」の「中間報告」、原発の海外輸出問題(東芝や三菱重工の動き)、東海第二原発における放射能に汚染された冷却水漏出問題、等々)、③「世界経済のメルトダウン(改定版)、⑤壊れる世界の大学と学生運動(改定版)等々等々と、書き記しておかねばならないことが、たまりにたまっているからである。

 しかし、本題に入る前に、一言だけ書評について触れておきたいことがある。それは、書評では私が書いた序章と「「保護する責任」にNO!という責任」が言及されているのだが、「保護する責任」に関する私の論文が「「保護する責任」に対する慎重論を展開」していると、論文の本旨を完全に歪曲しながら紹介されていることについてである。

 私は、R2Pに対する「慎重論」を「展開」した覚えはない。国際人権・開発NGOや、「難民を助ける会」などの「緊急人道支援」NGOが、軍民一体となって「破綻国家」に介入する責任を主張し、紛争や内戦を長期化させ、その国に生きる人々の自立を阻むR2Pに対して、「NO!という責任」があると「展開」しているのである。
 
 外務省の広報誌で何であれ、自分が関わった本を批評し紹介してもらうのは、とても有難いことだ。それが内容のある批判であれば、もっと有難いと思うだろう。 しかし、論旨の歪曲は困る。これはどのような書評であれ、評者が守るべき「最低ラインのルール」だと思うのだ。

 ではなぜ、R2Pに「NO!という責任」がR2Pに対する「慎重論」へと歪められてしまうのか?
 『外交』が外務省の広報雑誌であるという点から考えるなら、その理由はいたって単純明快だ。 
 安保理常任理事国構成国による武力行使抜きには成立しないR2Pを、情報開示もせず私たちが知らない間に、しかも国会での事前審議も抜きに外務省が国連で承認し、R2Pはいまや
①「国際の平和と安全」に「貢献」するという外務省主導の外交・開発援助戦略(アフガニスタン・イラク・リビア・南スーダン「復興開発・人道」支援、ソマリアに対する対テロ戦争と一体化した人道支援・・・)や、
②「平和構築」と並ぶ自衛隊の「国際平和協力」活動、つまりは武力紛争の真っ只中にある国や地域における、武力行使を排除しない国連PKOへの部隊参加を正当化する、そのための「規範」や「大義」として位置付けられるようになったからである。

 外務省としては、自らが発行元になっている広報雑誌に、自らが戦略的に推進してきたR2Pの「地球規範」化に「「NO!」という責任」を主張する論考の本旨を掲載するわけにはいかない、また、実は中西編集委員長はもとより長編集委員もまたR2Pの積極的な支持者であり推進者であってみれば、このような歪曲が起こったとしても何ら不思議はない・・・。

 ここで注目しておきたいのが、防衛省所管の「統合幕僚学校」に設置された「国際平和協力センター」である。この「センター」が主催する第1回の「国際平和と安全シンポジウム」が、まさに今日と明日の二日間に及び開催されている。そして驚くなかれ、このシンポで「文民の保護」と題した講演をヒューマン・ライツ・ウォッチ(東京オフィス)の土井香苗氏が行っっている。

「国際人権NGO」、ヒューマン・ライツ・ウォッチは〈どこまで〉ゆくのか?

(つづく)

・・・
自衛隊の「国際平和協力」と「保護する責任(R2P)」(資料)
グローバル・テロ対策フォーラム(GCTF)
・9月22日、ニューヨークにおいて設立。(GCTF:Global Counterterrorism Forum)
・GCTF設立文書採択、カイロ宣言と暴力的過激主義対策のためのセンター設置について発表。
・玄葉外務大臣→「テロという国境をこえた人類にとっての脅威に国際社会が一致団結してあたる必要性に言及」。「我が国が、GCTFの活動とその発展に積極的に貢献する旨表明」。

・GCTFは、「米国により提唱され、テロ対策に係る新たな多国間の枠組みとして、
1)実務者間の経験・知見・ベストプラクティスを共有し、
2)法の支配、国境管理、暴力的過激主義対策等の分野におけるキャパシティ・ビルディングの実施等を目的に、
3)テロ対策の政策決定者・実務者が一堂に会して知見を共有する場。
 組織として、調整委員会、テーマ別・地域別の作業部会、事務局を設置。
 メンバーは以下の29か国及びEU国連がパートナーとして参加。
・米国、フランス、イギリス、中国、ロシアの国連安保理常任理事5カ国
・日本、ドイツ、イタリア、豪州、カナダ、デンマーク、オランダ、スイス、スペイン
・中東→サウジアラビア、ヨルダン、カタール、トルコ、UAE
・アフリカ→アルジェリア、モロッコ、エジプト、ナイジェリア、南アフリカ
・ラテンアメリカ→コロンビア
・アジア→インド、インドネシア、パキスタン

アフリカの角」(ソマリア、ケニア、エチオピア、ジブチ)への人道支援に関する閣僚レベル・ミニ・サミット」(9/24)
・玄葉外務大臣スピーチ。
 「東日本大震災の際にアフリカ諸国から表明された温かい連帯の気持ちに応えるためにも、日本として深刻な干ばつ被害への対策をアフリカ諸国と協力して進めていきたい」
 「我が国が「アフリカの角」の干ばつ対策として今年既に1億ドル近い支援を実施しており、今般、これに加えて新たに約2,100万ドルの食糧支援を実施する旨表明」。
・米国・英国・EU→「同地域に対する支援を引き続き行っていく」。
 ジプチには米仏の軍事基地、自衛隊初の「海外拠点」が、ケニア・エチオピアは米仏英の軍事支援・援助を受けソマリアに軍事侵攻。
 日米欧の「人道・食糧支援」は「干ばつ被害」から「アフリカの角」を救うか?
・・・
12/8
武装集団が襲撃、40人死亡 南スーダン、民族対立
 国連平和維持活動(PKO)のため日本の陸上自衛隊施設部隊が派遣される南スーダンからの7日の報道によると、同国東部ジョングレイ州の村を5日に武装集団が襲撃、子どもを含む少なくとも40人が死亡した。現場は首都ジュバなど陸自の活動予定地域からは離れている。
 背景には異なる民族間の対立がある。武装集団は村で多数の住居を焼き払った上、家畜の牛を盗んだという。現地PKOの国連南スーダン派遣団(UNMISS)は調査団を派遣した。
 ジョングレイ州では8月にも民族衝突があり約600人が死亡、その後も断続的に衝突が続いた。南スーダンは7月にスーダンから分離独立したが、治安の安定が課題の一つとなっている。(共同)

⇒「南スーダン軍、民兵組織からの脱却の困難」(12/7,時事)より。
・2005年の包括和平合意以来、スーダンと南スーダンは法的には和平状態にあるが、両国は資源が豊富な国境の州を拠点とする互いの反政府勢力に、互いが資金提供していると非難の応酬を続けている上、脆弱な経済がいっそう安定を失っているため、新たな戦闘が勃発しかねない状況だ。
・国連の「スーダン共和国における武装解除・動員解除・社会復帰計画(Sudan Disarmament, Demobilization and Reintegration Programme、DDR)」の下、軍の再編と軍事費削減の一貫として、南スーダン政府は兵士8万人と警官など治安要員7万人の解除を計画している。しかし、実際には軍に再び吸収される元反政府勢力と、解除される兵士の数が変わらない状況で、真の平和が訪れるまでDDRは効果がないという批判も聞こえている。SPLA特殊部隊の元訓練官リチャード・ランズ(Richard Rand)氏は、3~5年で軍の再編が完了するという国際社会の予想は楽観的すぎると警告する。
⇒「自衛隊は何をしに南スーダンに行くのか?」(9/26)

12/7
米司令官、アフガン撤収の一時中断を主張
 米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は6日、アフガニスタン駐留米軍のジョン・アレン司令官が、治安確保のため米軍部隊の撤収を来年夏で一時中断し、2014年に再開すべきだと米議会関係者などに訴えていると報じた。
 アレン司令官は、米軍兵力が現在予定されている通り来年夏に6万8000人を割り込めばアフガン辺境地域での治安確保や補給路の維持が困難になるとして、兵力削減の中断を求めているという。
 オバマ政権は、09年発表のアフガン新戦略に基づき増派した3万3000人を来年夏までに撤収させて兵力を6万8000人規模とし、その後も段階的に撤収を続けて14年にはアフガン政府に治安権限を完全移譲させると表明している。 (読売、ワシントン=黒瀬悦成)

・アフガン変革へ支援継続を確認 国際会議閉幕
 ドイツ西部ボンで開かれたアフガニスタンに関する国際会議は5日夕、国際治安支援部隊(ISAF)からアフガン側への治安権限移譲を終えた後の2015年から24年までをアフガンの自立に向けた「変革の10年」とし、国際社会の継続的な支援を確認する総括文書を出して閉幕した。
 会議後の記者会見で、主催国ドイツのベスターベレ外相は「国際社会はアフガンの国民に、我々は決してアフガンを見捨てないという明確なメッセージを送った」と述べた。
 総括文書は治安面について、計35万2千人にまで増員する軍・警察に対し、治安権限移譲が完了する14年末以降も国際的な支援が必要だと確認。資金援助計画などを来年5月に米シカゴで開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議までに検討するとした。 (朝日)

米軍、エチオピアに無人機基地 ソマリアの武装勢力攻撃
 米軍が、アフリカ東部ソマリアのアルカイダ系組織の攻撃を目的に、隣国エチオピア南部に軍事拠点を極秘に開いたことが分かった。米紙ワシントン・ポストが(10月)27日、米空軍の話として報じた。エチオピア政府はこの拠点の存在を否定しているという。
 同紙によると、軍事拠点は首都アディスアベバから南に約500キロの町にある民間空港の一部を転用。米空軍の要員が駐留して無人機リーパーを運用している。米空軍は「エチオピア政府が受け入れる限り(無人機攻撃を)続ける」と同紙にコメントしている。攻撃対象はソマリア中南部を支配するイスラム武装勢力シャバブ米軍はこのほかに、東アフリカのジブチや島国セーシェルにも、無人機の運用拠点を設けているという。
 オバマ政権はアフガン、イラク、イエメンなど世界の6カ国で無人機による攻撃をしている。テロ容疑者を裁判を経ずに殺害するうえ、民間人の巻き添えも出ていることから、批判が高まっている。(朝日、ワシントン=望月洋嗣)