「保護する責任」(R2P)に関するヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)への質問状と回答
●質問作成:中野憲志(先住民族・第四世界研究、〈NGOと社会〉の会)
●回答者:ジェームズ・ロス(ヒューマン・ライツ・ウォッチ リーガル&ポリシーディレクター)
Q1 ヒューマン・ライツ・ウォッチ東京オフィスによれば、「ヒューマン・ライツ・ウォッチは「保護する責任」(Responsibility to Protect=R2P)や(R2Pに基づき)安保理が決議を出すことには賛成していますが、今回のリビア武力介入そのものには立場はない(賛成もしない、反対もしない) というのが正確な立場」ということですが、説明を願います。
安保理がR2Pに基づきリビアへの武力攻撃決議を挙げることを支持しながら、実際に行われた武力攻撃そのものについて「賛成も反対もしない」というのは、非常に無責任であると思えるのですが。
J.R ご質問ありがとうございます。当団体および世界中で人権を伸長し保護するための当団体の活動に関心をもっていただき感謝します。たとえ貴殿が私たちのアプローチに賛同されないとしても、ヒューマン・ライツ・ウォッチの立場とその立場を支える根拠をご理解いただく上で、私の回答が役立てば幸いです。
「保護する責任」(R2P)や人道的介入という問題は、ヒューマン・ライツ・ウォッチがとりくもうとしている問題の中でも最も困難なものです。後述するようにヒューマン・ライツ・ウォッチはこれらの問題について一般的方針をもっていますが、それを実際に適用するのは抽象的に論じるよりもずっと難しいものです。他の大方の問題に比べ、これらの問題はしばしば当団体内で大きな議論になります。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの一般的立場は、赤十字国際委員会や国境なき医師団のような人道支援組織の立場と同様で、武力紛争状況においては中立を保つということです。一国もしくは複数の国が武力行使を決めた場合、ヒューマン・ライツ・ウォッチはそれに賛成も反対もしません。
私たちは、団体としての役割をもっともよく遂行できるのは、特定の武力行使が正しいかどうか、あるいは国連憲章に合致しているかどうかについて公に主張するよりも、戦闘における行動を監視し報告することであると考えます。それにより紛争当事者のどちらか一方に肩入れしていると思われることなく、両方の振る舞いについて報告することができます。また現地の調査スタッフが、特定の紛争当事者を支持しているという非難を受けずに済みます。
「保護する責任」は採択された当初から議論を呼んできました。国連にとって最も重要な課題の一つ――もっともよく知られた失敗でもあります――は世界各地の大量殺戮にどう対処するかというものです。
1999年の国連総会の演説において、当時のコフィ・アナン事務総長は「次世紀における安全保障理事会および国連全体にとっての主要な課題は、それがどこで起きようとも、大規模かつ体系だった人権侵害を許してはならないという原則の下に団結すること」であろうと述べました。
6年後の2005年世界サミットにおいて、世界各国の首脳は「ジェノサイド(集団殺害)、戦争犯罪、民族浄化、および人道に対する罪から人々を保護する責任」を認めることに合意しました。
「保護する責任」を認めることはしばしば、強制的人道的介入と同義であると誤って解釈されます。事実、「保護する責任」に含まれる広範な一連の行動の一方の極に軍事介入があります。世界サミットの成果文書は次のように述べています。
「国際社会は適切な外交的、人道的、その他の平和的手段を用いてこうした犯罪から人々を保護するべきである。ある国家がその国の市民を保護できない場合、もしくはまさにそうした犯罪の加害者である場合。国際社会は国連安全保障理事会を通じた集団的武力行使を含む、より強力な手段をとる用意がなければならない」。
このように、軍事力の行使は「保護する責任」の下活用できる行動の一つに過ぎず、必須というわけではなりません。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、関係国が「保護する責任」に関係する状況について指標を策定し、先に述べた一連の行動に意味を与えることが重要だと考えます。「保護する責任」をとるよう各国に求める際に、ヒューマン・ライツ・ウォッチはその活動使命の範囲内で、市民への脅威に対処するための一定の対応策――たとえば対象を絞った制裁や武器禁輸、その他の武力紛争に至らない措置――を提案しています。
リビアに関しては、同国の状況が切迫し、国際社会が戦争犯罪と人道に対する罪(カダフィ大佐はその部隊をベンガジの制圧に向けて進軍させ、ベンガジの一般市民を公然と脅かしていました)からリビアの市民を守るため行動を起こす必要があることから、私たちは国連安全保障理事会に「保護する責任」を行使するよう求めました。しかし、軍事介入を具体的に求めることはしませんでした。人道的介入の要請に関する団体内の規定(後述)を満たしていなかったからです。
ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれまで、一般市民が紛争当事者から重大なリスクにさらされている状況についてたびたび報告してきました。私たちは政策決定者や一般市民に私たちの懸念を伝えることが重要だと考えています。
たとえば、市民が神の抵抗軍から残虐な攻撃を繰り返し受けていたコンゴ民主共和国北部のケース、政府の支援を受けた民兵組織ジャンジャウィードが市民を脅かしていたダルフールのケースなどです。その両ケースで、ヒューマン・ライツ・ウォッチは一般市民を保護するために必要な行動をとるよう国連に呼びかけました。
非軍事行動であれ軍事行動であれ、どのような行動が最善かを具体的に示したわけではありませんでしたが、たとえば、村人に携帯電話を提供したり、国連の軍用ヘリを増やしたりといった、保護の方法についての実践的な提案を試みました。たしかに、市民の保護と攻撃的な軍事作戦の区別はあいまいになる可能性があります――村人を攻撃から守るための部隊の配備は必ずしも軍事力の行使を必要とするわけではありませんが、行使される可能性があります。
Q2 1990年代初期のソマリアに対する介入以降、武力による「人道的」介入が成功したとヒューマン・ライツ・ウォッチが総括する事例はありますか? あれば、その根拠とともに日本のオーディエンスに説明してください。
Q3 人権尊重の名の下に行われるR2Pに基づく武力介入は、それ自体が戦争行為であり、大量難民の発生と非戦闘員の犠牲(多国籍軍、当該国家の軍隊、あるいは武装勢力によって)をもたらし、より人権状況を悪化させるというR2P批判に対してどう答えますか?
J.R この二つの質問はともに同じ一般的問題に関係するのでまとめてお答えします。そしてこの機会に、人道的介入に関するヒューマン・ライツ・ウォッチの立場を説明します(人権団体としては異例です)。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、重大な国際犯罪に対して各国が一連の行動をとる義務に焦点をあてる「保護する責任」の行使を求めることと、人道目的の同意を得ない軍事力の行使である「人道的介入」を求めることを区別しています。
人道的介入は定義上、より広範に悲惨な状況が起きているところで行われます。人道的介入は当該国の人々がすでに甚大な被害を被っている中で行われます。したがって、人道的介入が「成功」であるか否かを見極めるには、その介入が引き起こす損害と、介入しなかった結果として生じるであろう損害の両方を検討しなければなりません。
つまり、起きたことと起こらなかったことを比較することになります。したがって、個別の人道的介入について、そしてそれが「成功」したか否か――短期的には人命の損失を軽減したか、長期的にはより権利を尊重する政府の形成につながったか――について結論に至ることは極めて困難であり、そこにおいて意見の一致はほとんど見られないでしょう。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは個別の人道的介入を成功あるいは失敗と判断することはしません。ただし、少なくとも50万人が死亡したルワンダのジェノサイドや、ボスニアにおける大規模な「民族浄化」とジェノサイドなど、国際人道法に合致した迅速な人道的介入が、実際に起きた悲惨な人間の悲劇を軽減したであろうと思われる状況は存在すると考えます。
組織の方針の問題として、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、極めて限定的な状況下において、国際社会による人道的介入――市民の保護という一義的目的のための軍事力の行使――の提唱を検討します。戦争は悲惨な人命の損失を伴いますが、ジェノサイドや同様の体系だった殺戮を止めるまたは防止するためには、ときに軍事力の行使が正当化され得ると私たちは考えます。そのため、ヒューマン・ライツ・ウォッチはルワンダやボスニアで続いていたジェノサイドを止めるためなど、まれに軍事介入を支持してきました。
団体の方針として、ヒューマン・ライツ・ウォッチが人道的介入を支持するのは、ジェノサイドが実際に起きているまたは切迫している、あるいはそれに比肩する市民の大量殺戮が起きている場合に限られます。加えて、政治的、外交的、経済的その他の性格の手段を試みたが成功しなかった、または、そうした手段が現下のジェノサイドを止められると期待できる根拠がないという条件が必要です。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、人道的介入を求めるにあたって、かかる軍事力の行使は国際法に則って行わなければならないことを明確にします。同様に、軍に対して国際人道法に基づくすべての義務に厳格に従うことを求め、すべての当事者が遵守しているかを監視し報告を行います。
Q4 日本国憲法は、国際紛争の武力による解決を否定しています。すなわち、日本の自衛隊が海外で武力行使することを禁止しています。このような国で活動する市民社会組織、NGOは、R2Pに対していかなる立場を取るべきだと考えますか。
J.R 各団体はもちろん、それぞれがもっとも納得できる立場をとるべきです。ヒューマン・ライツ・ウォッチは「保護する責任」原則が、大規模な虐待が起きている当の国だけでなく、国連の全加盟国が一般市民への極めて重大な脅威を低減するための行動をとる必要を認めた重要なものだと考えます。前述のように「保護する責任」を「人道的介入」と同義に捉えてはなりません。
「保護する責任」は各国に対し、一連の手段をとるよう求めますが、そのうち軍事力の行使は最後の手段です。すべての組織は武力行使に反対する場合であっても、非軍事的制裁を求めることによって「保護する責任」を支持することができます。これには、重大かつ広範な人権侵害への非難を示す手段として、政府や個人との軍事、貿易、財政、経済その他の関係を制限することも含まれます。
私たちは対象を絞った(「スマート」)制裁を強く支持します。これはマイナスの人道的影響を最小限にとどめながらできるだけ効果を上げることを意図するものです。効果的で対象を絞った制裁の詳細な提案を国際社会に提示できる団体は、「保護する責任」の下の非軍事的手段の推進に寄与できるでしょう。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、人権侵害を行う政府に対して日本政府が他国と協調して科す効果的な制裁を策定するにあたって、日本の諸団体とともに活動していきたいと思っています。
2011年10月25日
ジェームズ・ロス
(翻訳:〈NGOと社会〉の会)
●質問作成:中野憲志(先住民族・第四世界研究、〈NGOと社会〉の会)
●回答者:ジェームズ・ロス(ヒューマン・ライツ・ウォッチ リーガル&ポリシーディレクター)
Q1 ヒューマン・ライツ・ウォッチ東京オフィスによれば、「ヒューマン・ライツ・ウォッチは「保護する責任」(Responsibility to Protect=R2P)や(R2Pに基づき)安保理が決議を出すことには賛成していますが、今回のリビア武力介入そのものには立場はない(賛成もしない、反対もしない) というのが正確な立場」ということですが、説明を願います。
安保理がR2Pに基づきリビアへの武力攻撃決議を挙げることを支持しながら、実際に行われた武力攻撃そのものについて「賛成も反対もしない」というのは、非常に無責任であると思えるのですが。
J.R ご質問ありがとうございます。当団体および世界中で人権を伸長し保護するための当団体の活動に関心をもっていただき感謝します。たとえ貴殿が私たちのアプローチに賛同されないとしても、ヒューマン・ライツ・ウォッチの立場とその立場を支える根拠をご理解いただく上で、私の回答が役立てば幸いです。
「保護する責任」(R2P)や人道的介入という問題は、ヒューマン・ライツ・ウォッチがとりくもうとしている問題の中でも最も困難なものです。後述するようにヒューマン・ライツ・ウォッチはこれらの問題について一般的方針をもっていますが、それを実際に適用するのは抽象的に論じるよりもずっと難しいものです。他の大方の問題に比べ、これらの問題はしばしば当団体内で大きな議論になります。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの一般的立場は、赤十字国際委員会や国境なき医師団のような人道支援組織の立場と同様で、武力紛争状況においては中立を保つということです。一国もしくは複数の国が武力行使を決めた場合、ヒューマン・ライツ・ウォッチはそれに賛成も反対もしません。
私たちは、団体としての役割をもっともよく遂行できるのは、特定の武力行使が正しいかどうか、あるいは国連憲章に合致しているかどうかについて公に主張するよりも、戦闘における行動を監視し報告することであると考えます。それにより紛争当事者のどちらか一方に肩入れしていると思われることなく、両方の振る舞いについて報告することができます。また現地の調査スタッフが、特定の紛争当事者を支持しているという非難を受けずに済みます。
「保護する責任」は採択された当初から議論を呼んできました。国連にとって最も重要な課題の一つ――もっともよく知られた失敗でもあります――は世界各地の大量殺戮にどう対処するかというものです。
1999年の国連総会の演説において、当時のコフィ・アナン事務総長は「次世紀における安全保障理事会および国連全体にとっての主要な課題は、それがどこで起きようとも、大規模かつ体系だった人権侵害を許してはならないという原則の下に団結すること」であろうと述べました。
6年後の2005年世界サミットにおいて、世界各国の首脳は「ジェノサイド(集団殺害)、戦争犯罪、民族浄化、および人道に対する罪から人々を保護する責任」を認めることに合意しました。
「保護する責任」を認めることはしばしば、強制的人道的介入と同義であると誤って解釈されます。事実、「保護する責任」に含まれる広範な一連の行動の一方の極に軍事介入があります。世界サミットの成果文書は次のように述べています。
「国際社会は適切な外交的、人道的、その他の平和的手段を用いてこうした犯罪から人々を保護するべきである。ある国家がその国の市民を保護できない場合、もしくはまさにそうした犯罪の加害者である場合。国際社会は国連安全保障理事会を通じた集団的武力行使を含む、より強力な手段をとる用意がなければならない」。
このように、軍事力の行使は「保護する責任」の下活用できる行動の一つに過ぎず、必須というわけではなりません。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、関係国が「保護する責任」に関係する状況について指標を策定し、先に述べた一連の行動に意味を与えることが重要だと考えます。「保護する責任」をとるよう各国に求める際に、ヒューマン・ライツ・ウォッチはその活動使命の範囲内で、市民への脅威に対処するための一定の対応策――たとえば対象を絞った制裁や武器禁輸、その他の武力紛争に至らない措置――を提案しています。
リビアに関しては、同国の状況が切迫し、国際社会が戦争犯罪と人道に対する罪(カダフィ大佐はその部隊をベンガジの制圧に向けて進軍させ、ベンガジの一般市民を公然と脅かしていました)からリビアの市民を守るため行動を起こす必要があることから、私たちは国連安全保障理事会に「保護する責任」を行使するよう求めました。しかし、軍事介入を具体的に求めることはしませんでした。人道的介入の要請に関する団体内の規定(後述)を満たしていなかったからです。
ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれまで、一般市民が紛争当事者から重大なリスクにさらされている状況についてたびたび報告してきました。私たちは政策決定者や一般市民に私たちの懸念を伝えることが重要だと考えています。
たとえば、市民が神の抵抗軍から残虐な攻撃を繰り返し受けていたコンゴ民主共和国北部のケース、政府の支援を受けた民兵組織ジャンジャウィードが市民を脅かしていたダルフールのケースなどです。その両ケースで、ヒューマン・ライツ・ウォッチは一般市民を保護するために必要な行動をとるよう国連に呼びかけました。
非軍事行動であれ軍事行動であれ、どのような行動が最善かを具体的に示したわけではありませんでしたが、たとえば、村人に携帯電話を提供したり、国連の軍用ヘリを増やしたりといった、保護の方法についての実践的な提案を試みました。たしかに、市民の保護と攻撃的な軍事作戦の区別はあいまいになる可能性があります――村人を攻撃から守るための部隊の配備は必ずしも軍事力の行使を必要とするわけではありませんが、行使される可能性があります。
Q2 1990年代初期のソマリアに対する介入以降、武力による「人道的」介入が成功したとヒューマン・ライツ・ウォッチが総括する事例はありますか? あれば、その根拠とともに日本のオーディエンスに説明してください。
Q3 人権尊重の名の下に行われるR2Pに基づく武力介入は、それ自体が戦争行為であり、大量難民の発生と非戦闘員の犠牲(多国籍軍、当該国家の軍隊、あるいは武装勢力によって)をもたらし、より人権状況を悪化させるというR2P批判に対してどう答えますか?
J.R この二つの質問はともに同じ一般的問題に関係するのでまとめてお答えします。そしてこの機会に、人道的介入に関するヒューマン・ライツ・ウォッチの立場を説明します(人権団体としては異例です)。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、重大な国際犯罪に対して各国が一連の行動をとる義務に焦点をあてる「保護する責任」の行使を求めることと、人道目的の同意を得ない軍事力の行使である「人道的介入」を求めることを区別しています。
人道的介入は定義上、より広範に悲惨な状況が起きているところで行われます。人道的介入は当該国の人々がすでに甚大な被害を被っている中で行われます。したがって、人道的介入が「成功」であるか否かを見極めるには、その介入が引き起こす損害と、介入しなかった結果として生じるであろう損害の両方を検討しなければなりません。
つまり、起きたことと起こらなかったことを比較することになります。したがって、個別の人道的介入について、そしてそれが「成功」したか否か――短期的には人命の損失を軽減したか、長期的にはより権利を尊重する政府の形成につながったか――について結論に至ることは極めて困難であり、そこにおいて意見の一致はほとんど見られないでしょう。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは個別の人道的介入を成功あるいは失敗と判断することはしません。ただし、少なくとも50万人が死亡したルワンダのジェノサイドや、ボスニアにおける大規模な「民族浄化」とジェノサイドなど、国際人道法に合致した迅速な人道的介入が、実際に起きた悲惨な人間の悲劇を軽減したであろうと思われる状況は存在すると考えます。
組織の方針の問題として、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、極めて限定的な状況下において、国際社会による人道的介入――市民の保護という一義的目的のための軍事力の行使――の提唱を検討します。戦争は悲惨な人命の損失を伴いますが、ジェノサイドや同様の体系だった殺戮を止めるまたは防止するためには、ときに軍事力の行使が正当化され得ると私たちは考えます。そのため、ヒューマン・ライツ・ウォッチはルワンダやボスニアで続いていたジェノサイドを止めるためなど、まれに軍事介入を支持してきました。
団体の方針として、ヒューマン・ライツ・ウォッチが人道的介入を支持するのは、ジェノサイドが実際に起きているまたは切迫している、あるいはそれに比肩する市民の大量殺戮が起きている場合に限られます。加えて、政治的、外交的、経済的その他の性格の手段を試みたが成功しなかった、または、そうした手段が現下のジェノサイドを止められると期待できる根拠がないという条件が必要です。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、人道的介入を求めるにあたって、かかる軍事力の行使は国際法に則って行わなければならないことを明確にします。同様に、軍に対して国際人道法に基づくすべての義務に厳格に従うことを求め、すべての当事者が遵守しているかを監視し報告を行います。
Q4 日本国憲法は、国際紛争の武力による解決を否定しています。すなわち、日本の自衛隊が海外で武力行使することを禁止しています。このような国で活動する市民社会組織、NGOは、R2Pに対していかなる立場を取るべきだと考えますか。
J.R 各団体はもちろん、それぞれがもっとも納得できる立場をとるべきです。ヒューマン・ライツ・ウォッチは「保護する責任」原則が、大規模な虐待が起きている当の国だけでなく、国連の全加盟国が一般市民への極めて重大な脅威を低減するための行動をとる必要を認めた重要なものだと考えます。前述のように「保護する責任」を「人道的介入」と同義に捉えてはなりません。
「保護する責任」は各国に対し、一連の手段をとるよう求めますが、そのうち軍事力の行使は最後の手段です。すべての組織は武力行使に反対する場合であっても、非軍事的制裁を求めることによって「保護する責任」を支持することができます。これには、重大かつ広範な人権侵害への非難を示す手段として、政府や個人との軍事、貿易、財政、経済その他の関係を制限することも含まれます。
私たちは対象を絞った(「スマート」)制裁を強く支持します。これはマイナスの人道的影響を最小限にとどめながらできるだけ効果を上げることを意図するものです。効果的で対象を絞った制裁の詳細な提案を国際社会に提示できる団体は、「保護する責任」の下の非軍事的手段の推進に寄与できるでしょう。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、人権侵害を行う政府に対して日本政府が他国と協調して科す効果的な制裁を策定するにあたって、日本の諸団体とともに活動していきたいと思っています。
2011年10月25日
ジェームズ・ロス
(翻訳:〈NGOと社会〉の会)