2011年10月31日月曜日

福島第一原発は「止まった」か?

福島第一原発は「止まった」か?


 「原子力発電の安全性」「核燃料サイクルコスト」「事故リスクコスト」などを議論した原子力委員会の「新大綱策定会議」(第8回)の議事録に目を通していた。
 しかし、これから書くのは第8回会議ではない。第6回会議(9月27日)についてである

 その中でも、最も強い違和感を覚えたのが――原子力委員会や安全委員会の議事録に違和感を覚えるのは、何も今に始まったことではないのだが――相澤東電副社長(原子力立地本部長)による、「東京電力福島原子力発電所事故以降の原子力を取り巻く状況について」なる「報告」である。
 福島第一原発のメルトダウン→メルトスルー過程を、相澤副社長は次のようにまとめている。

・・
 通常時、原子力発電所では、「止める、冷やす、閉じ込める」の三つの安全機能を確保しておりますが、福島第一原子力発電所においては、全号機で地震発生と同時に全制御棒が自動的に挿入され、原子炉の核反応が止まり、「止める」機能は確保されました
 しかしながら、地震により送電線等が損傷し、非常用発電機が起動しました。

 その後、津波の浸水によりこの非常用電源が使用できない状態となり、全ての交流電源が失われた結果、最終的に原子炉と使用済燃料プールの「冷やす」機能を失うことになりました。
 更に、1から3号で、炉心が損傷し、建屋や圧力容器、圧力抑制室の損傷もあり、タービン建屋内に高レベル汚染水を確認しており、「閉じ込める」機能も失われたということになるわけでございます。
 (中略)
 次の14ページでございます。事故の概要は、以上ご説明のとおりでございますが、これからご説明いたします収束への取組みも含め、その結果として福島第一原子力発電所の最新状況はこの表のようになっておりま
す。
 「止める」は止まっておりますが、「冷やす」、これにつきましても原子炉、プールともそれぞれ安定的な冷却はできており、2号機の原子炉以外は安定的な冷却の状態になっており・・・・
・・

 福島第一原発は、東電が言うように、また原子力ムラの面々がそのように言い、ほぼすべてのメディアがそのように報道してきたように、本当に「止まった」のだろうか?
 (たとえば、3月13日の毎日新聞の記事、「東日本大震災:福島第1原発 東電「想定外」に批判の声も」も、「原発の安全対策の至上命令は「止める」(緊急停止)「冷やす」(炉心の過熱を抑える) 「閉じ込める」(放射性物質が漏れ出さないようにする)の三つ。今回、1号機が実行できたのは、最初の「止める」だけだった」と書いている。)

 原発が「事故」を起こした際に、「止まる」とは何を意味するのか?
 それは、具体的に、どのような状態において、何が「止まる」ことなのか?  
 私は、福島第一原発は「止まらなかった」と考えている。このブログでも、そのように書いた。
 福島第一原発大災害を経て、これまで「常識」とされてきた原発の「「止める、冷やす、閉じ込める」の三つの安全機能」の定義そのものを抜本的に再検討する必要がある。このことはストレステスト→再稼働の動きが具体化し始めた今、きわめて重要な課題になっている、と思うのだ。
 原発が自然災害や人為的過失によって「止まる」とはどういうことか。とりあえずは冒頭の第6回会議の議事録に目を通し、(再度)考えてみてほしい。


 しかし、その説明に入る前に、なぜ福島第一原発が「止まった」かどうかが重要な問題なのか、裏返して言えば、なぜ東電が「止まった」ことにこだわり、それを強調するのかについて簡単に触れておきたい。
 実は、それを解く鍵も議事録の中に隠されている。たとえば、相澤副社長の次のような発言である。

・・
 総じて申し上げますと、これまで原子力発電所は安全規制をクリアすることはもちろん(!)でございますし、国際的な最新の知見を随時反映する努力、あるいは定期安全レビュー、アクシデントマネージメント等のリスク低減の活動を講じてまいりました(!)。福島第一でも、重要免震棟の設置、あるいは消防車の配置等ということは中越沖地震の経験を踏まえて対応したものでございます。 こういったものがあったからこそベント、あるいは注水作業などを一生懸命継続してやることができた(!)わけでございます。

 しかし、今回、襲来いたしました津波はこうした取組みをはるかに凌駕するものであったため結果としては多重に設置している安全系設備の機能をほぼ喪失する事態に陥り、懸命の復旧努力にもかかわらず連鎖的に被害が拡大いたしました。今回の事故を真摯に返り見ますと、発生頻度が少ないとは言え、巨大津波という自然現象の前では人知の及ばない想定外のことが起こり得るということを謙虚に受け止めるべきと考えております。
 このような事態を再び招かないためにも多重の安全機能を同時喪失した場合でも、炉心の損傷を防止できる柔軟な対応力(?)というものを備えていかなくてはいけないというふうに考えている次第でございます。
・・

 従来の東電の発言との関係で言えば、ここで相澤氏が言っていることに特に何か新しい内容があるわけではない。問題は、なぜ東電がこういう発言を、何度も何度も、くり返すのか、また私たちがこうした発言から何を読み取るのかにある。その上で、話は「3・11」直後のブログの内容に戻るのだが、「で、東電をどうするのか?」ということに。 問題を整理しよう。

「止まった」という言説と東電(原発企業)の賠償・補償責任

  内閣官房原子力経済被害対応室、北川室長。

・・
 まずは、原子力損害、これは事故が起こりまして、大変な被害が発生してございます。この被害額、まだ全容が分かってございませんが、何兆円という規模になると考えてございます。一方で、避難者、被害者が多数出てございますので、迅速かつ適切な賠償を進めていくことが必要だと考えてございますので、早急に対応していくということでやってまいりました。
 これまで、事故前でございますけれども、我が国には原子力損害の賠償に関する法律がございまして、これは昭和36年に制定されているものでございます。後ほど申し上げます様々な施策はこれを基盤にいたしまして組まれてございますので、まずこの説明からいたします。

 この法律におきましては、原子力事故がございますと、原子力事業者、電力会社でございますけれども、無過失・無限の責任を集中して負うということになってございまして、この事故に伴いまして、誰が悪いとか、どれぐらいしか払わないとか、そういうことを考えずに、ともかく迅速に賠償を進めるという発想から、このような組立てになってございます。
 ただし、異常に巨大な天災地変等により原子力事故が生じた場合には、原子力事業者は免責となってございますが、その際は、賠償責任を負う者が不存在になってしまうということになってございます。これは非常に例外的なケースでございまして、今回の場合には、それには当たらないという整理で議論を開始してございます。

 その場合、現在のところでは、原子力事業者と政府との補償契約によりまして、1,200億円を原子力事業者に補償するということになります。しかし、今回の事故のように巨大でございますとそれを超えるのは明らかでございますが、この原子力損害賠償におきましては、それを超える場合には政府は必要な援助を行うこととされてございます。この具体策は特に規定されてございませんので、それを今回考えてきたということでございます。
 一方、この法律の中には、具体的に損害の範囲というのは何かということを考えるために、原子力損害賠償紛争審査会、これは文科省の審議会になりますけれども、これを規定してございます。この審査会において、どの範囲であれば原子力損害であり、賠償となるかどうかということを決めていくと、こういう構造になってございます。
・・

 ここには、政府(内閣官房)と東電(電力業界)との間の、原発災害時における賠償・補償責任をめぐる銭勘定・感情上のある種の緊張関係と同時に、原発災害の共同正犯としての両者の間の、ある種の馴れ合いの構造が見事に表現されている。 その「構造」とは、言うまでもなく、「国民」、納税者に賠償・補償責任を転嫁しようとする、そのような「国策・民営」の原子力行政における政官財"boys'club"の馴れ合い構造を指している。

【参考資料】
●「原子力損害の賠償制度について」(文科省 2003年4月)
1.我が国の原子力損害賠償制度(「原子力損害の賠償に関する法律」及び「原子力損害賠償補償契約に関する法律」)の概要
[法律の目的]
被害者の保護及び原子力事業の健全な発達
[法律の主な内容]
・原子炉の運転等による原子力損害につき、無過失・無限の賠償責任を原子力事業者に集中
*異常に巨大な天災地変及び社会的動乱によるものは免責。)
・原子炉の運転等につき責任が集中されている原子力事業者に、損害賠償をするための措置
(責任保険等)を講じることを義務付け(原子力発電所の場合は600億円)。
・賠償措置額を超えた原子力損害が発生した場合は、国会の議決により政府に属せられた権限の範囲内で政府が必要な援助。
・・・・・
 
 11/2
 前後して申し訳ないが、「「冷温停止」状態にある福島第一1、2、3号機で核分裂、キセノン検出?」の続きとして読んでほしい。

 ここまでの説明によって、次の二つのことが理解できたと思う。

 一つは、東電が「無過失・無限の賠償責任」を回避するために、福島第一原発「事故」は「異常に巨大な天災地変」によるものであり、自社の「安全対策」は機能していた、すなわち地震発生当時において原子炉はすべて「止まった」のだと主張し、政府・経産省・文科省、原子力ムラも、当初的な発言のブレはありつつも、基本的には同じ論理によって東電を、原子力事業を温存させたまま、救済しようとしてきたことである。

 ここで着目すべきは、「この事故に伴いまして、誰が悪いとか、どれぐらいしか払わないとか、そういうことを考えずに、ともかく迅速に賠償を進める」という内閣官房原子力経済被害対応室、北川室長の発言である。要するに、東電も政府も「悪く」はなかったのだ、それは問わないのだ、「迅速」な賠償支払いのために税金を投入する、という発言である。

 もう一つは、福島第一が地震に耐えることができた、という上の解釈が、現在稼働中の原発の、実際には対策になっていない「緊急安全対策」の根拠およびその前提になっていることである。
 では、福島第一原発がもたらした大災害、メルトダウン→メルトスルーと地震はいかなる関係にあるのか?

福島第一原発災害と地震

 第6回会議(9月27日)に出席した、原子力資料情報室の伴氏。
・・
 今回の事故の原因というのは津波という点に集約していいのかどうかということですね。 予想を超える想定外の地震や津波というふうに言われているわけですけれども、よくよく見ていけば、本当に想定外だったのかどうなのか
 また、地震について、岩波の科学の9月号に、第一原子力発電所の1号機について東京電力が発表しているさまざまなデータをもとに分析した結果、そもそも地震が決定的な事故の引き金になっている可能性が高いと、こういうふうな論文が出ていますし、2号機の爆発についても原因は地震以外考えられない。

 先ほど、機器は十分に揺れに耐えたと計算をした結果として言われていますけれども、これについては非常に詳しい結果、あるいはどういう前提のもとにされたのか知りたいところはあります。少なくとも130秒から150秒でもう地震の記録がないわけですから、そういうことを考えていくと、まず耐震バックチェック、今行われているわけなんですけれども、その見直しから始めないといけないというふうに今考えるのです。津波対策さえすればよいで終わってしまっています。

 今日の話ですと、ベントのことも出てきていますが、ではベントにフィルターをつけるということは一言も書いていない。こういうことで本当に進めていって、あるいはその定期検査を終わったやつから順番に運転を再開していっていいんでしょうか。極めて深い疑問がありますし、ひょっとしたらそんなことをやっていたら間に合わないことだってあるわけですよね。
 ちょうど前の策定会議のとき、2004年ですか、関西電力の美浜原発で蒸気管が破断でして11名が死傷した事故がありました。それも一、二週間で定期検査に入る予定だったが、間に合わなかったわけですよね。そうしてこういう事故が起きたわけです。

 そういうことを考えると、いろいろなことをされると思いますけれども、運転を継続したまま耐震のバックチェックをやり直すとか、今、安全委員会は指針の見直しということをやろうとしていますし、そういったことはもちろん、やるべきではあるんですが、運転を継続したままやっていて本当に事故を防げるのか。そこはもっときちっと受けとめて反省をしていただきたいというふうに思います。

 電力が足らないというのも大変なことだとは思いますけれども、今回の事故でも原子力委員会に出されている報告、試算見積もりでは最大20兆円、これはさらに超えるかもしれません。それぐらいの損害が出るということです。それは国民一人当たりにしたら17万円ですよね。1カ月1,000円、電気代が上がるのと比べてははるかに高い金額を―1年で17万円ということではありませんけれども―払わないといけない。これで次の事故が起きたらどうなるのかということはもっと深刻に考えて、まず耐震安全性はどうだったのか、地震はどうだったのかというところの見直しから始めていかなければならない。こういうふうに今思います。
・・

 私も、 「こういうふうに今思います」。
 しかし、「馬耳東風」と言うべきか、伴氏のこうした提言は、原子力ムラの"boys' club"には届かない。その結果が、玄海原発4号機の再稼働強行だったわけである。

 福島第一「事故」と地震との関係について、もう一点、紹介しておきたいものがある。 それは、今では忘れ去られた観のある、新聞メディアが5月に報じた冷却配管の破損問題である。毎日新聞の記事より
・・
 福島第1原発3号機で、緊急停止した原子炉を冷やすのに必要な装置の配管が破損した可能性があることが、東電の解析で(5月)25日分かった。
 配管は津波の影響を受けにくい原子炉建屋内にあり、地震の揺れが原因の可能性が強い全国の原発で耐震設計を見直す事態に発展する恐れもある

 この冷却装置は「高圧注水系(HPCI)」と呼ばれる。原子炉圧力容器から出る高温の蒸気でタービンを回し、それを動力として建屋外の復水貯蔵タンクからポンプで水をくみ上げ、圧力容器内に強制的に注水する仕組み。
 解析によるとHPCIは圧力容器内の水位が低下した3月12日午後0時35分に起動し、13日午前2時42分に停止した。しかしこの間に、圧力容器内の圧力が約75気圧から約10気圧まで急減。HPCIの配管が破損して蒸気が漏れたと仮定して計算した結果と、圧力減少のデータがほぼ一致したことから、破損の可能性があるとした。【河内敏康、岡田英】
・・
 
 高圧注水系(HPCI)とは、原子炉の水位を保つための緊急炉心冷却システム(ECCS)の一つのことだが、記事にもあるように、配管は安全上最も重要な設備に区分され、津波の被害を直接受けない建屋の中にある。
 しかし、東電は7月28日になって、奇妙なことに、そしておそらくはHPCI破損と地震との関係を否定するために(これは私の憶測に過ぎず、実証されたわけではないが)、「破損はなかった」と前言を翻してしまう。私たちが確認しようのない、そして東電が具体的な事実関係を明らかにしていない、「当時、配管付近で作業していた者がいた」ということを根拠に。
 同じく、毎日新聞の記事(毎日新聞電子版からは抹消)。
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 東京電力は28日、福島第1原発3号機で、緊急停止した原子炉を冷やすのに必要な「高圧注水系(HPCI)」の配管は破損していなかったとする新たな解析結果を公表した。東電はこれまで、3月11日の地震の揺れなどによってHPCIの蒸気が通る配管が破損した可能性があるとの見方を示していた。
 3号機では3月12日、HPCIが起動後の約6時間で圧力容器内の圧力が約65気圧下がった。HPCIの配管が破損して蒸気が漏れたと仮定すると圧力減少の説明が付く計算結果が得られたことから、東電は5月に破損の可能性を公にした。

 しかし、その後の調査でHPCI停止直後、配管付近に運転員が立ち入ったことや、流量調整をしていたことが判明。蒸気が漏れれば人が入れないほど高温になることなどから「配管が破断し大量の蒸気が漏えいしたとは考えられない」と結論付けた。
 また、東電は28日、東日本大震災の揺れが福島第1原発1、3号機の機器に与えた影響についての解析結果をまとめ、経済産業省原子力安全・保安院に報告した。圧力容器や燃料集合体などで設計時に想定した最大の負荷を超えたが、「余裕を持たせた設計の範囲内」(?)とした。【八田浩輔】
・・

 けれども、それではなぜ、格納容器の急激な圧力減少があったのか? 「余裕を持たせた設計の範囲内」は何の解答にもならない。
 私たちは、東電からも政府対策本部からも、未だこのことに関する納得できる説明を受けてはいない。

で、福島第一原発は「止まった」か?

 止まらなかった。
 「止まった」(「自動停止」した)、と政府・東電、原子力ムラの面々は言うが、止まらなかったのである。
 たとえば、ここに日本原子力学会が3月18日に発表した「国民の皆様へ 東北地方太平洋沖地震における原子力災害について」と題された声明がある。
 これが「3・11」から1週間も経た後の声明であることを念頭に置きつつ、太字強調部に注意しながら読んでみよう。

・・
 この激甚災害の中で、福島第一原子力発電所、福島第二原子力発電所ではマグニチュード9.0という巨大なエネルギーの地震による揺れと津波の被害を受けました。
 これらの発電所では運転中の原子炉は設計どおり自動停止したものの、福島第一発電所では、非常用ディーゼル発電機が起動したにもかかわらず、すぐに停止し、外部電源を含めた全電源が喪失する事態に陥りました。その後の炉心冷却過程に於いて必死の機能回復操作にもかかわらず多量の放射性物質が環境に放出され、一般住民や関係者の放射線被ばくを招く結果となっています。 (中略)

 今回の地震の規模は当初の想定を超えており、また津波についても、近隣の相馬市で観測された津波の高さは7.3mを超えていることから、福島第一発電所においても想定をはるかに上回る津波が押し寄せたと考えられます。
 この結果、非常用ディーゼル発電機が機能せず、冷却用海水系統も使用不能となりました。すなわち「止める」「冷やす」「閉じ込める」の安全機能の一部が破綻し特に「冷やす」機能の喪失が燃料の破損を伴う深刻な事態を招いています。さらに炉心にある燃料はもちろんのこと、燃料保管プールに取り出されていた燃料も、冷却機能が失われた結果、燃料が破損する事態を招いています。
 また、格納容器内の圧力低減操作も行われていますが、放射性物質や放射線を「閉じ込める」機能についても懸念される事態となっています・・・・
・・

 「3・11」以後1週間の間に生起したすべての事態を直視した上で書かれた上の一文、日本原子力ムラの中枢たる日本原子力学会のこの「声明」は、「結果は結果としてそれなりに受け止めざるをえないが、ぼくたちは間違っていなかった。正しかったし、今でも正しい。反省なんかするもんか」という全国民に向けた、殊勝な開き直り宣言である。
 運転中の原子炉は「設計どおり自動停止した」し、非常用ディーゼル発電機も、計画どおり「起動した」。「にもかかわらず」、今回の地震と津波の規模が「当初の想定を超えて」いたから、放射性物質や放射線を「閉じ込める」機能について、「懸念される事態」となっている・・・。
 あくまでも、学会にも東電にも責任はない、すべては「マグニチュード9.0という巨大なエネルギーの地震による揺れと津波」のせい、と言っているのである。
 そして悲しいかな、「日本の原子力研究の最高権威、日本原子力学会が会長名でそう言うのだから」と、疑うことを知らない一般人やマスコミの記者たちは、学会の見解や声明を鵜呑みにし、垂れ流してしまう・・・。

「成就された結果は前提を廃棄する」
 では、このような「止まった」=「自動停止」論のどこに問題があり、何が間違っているのか?
 それは、①「止める」、②「冷やす」、③「閉じ込める」を、それぞれが独立した、あるいは時系列的に段階化された、別々の「安全対策」装置であるかのように論じているところにある。
 たとえば、「三重の安全対策」といった表現、また「②「冷やす」、③「閉じ込める」は失敗したが、①は成功した」という「事故分析」をめぐる言説も、そうした把握に基づいている(そうした把握を助長する)と言ってよい。(ここで安全・保安院が、津波に襲撃されるまでは①、②、③すべてが機能していた、と言っていることに注意しよう}。

 しかし、少し考えて見れば誰にでも理解できるように、メルトダウン→メルトスルーを起こした原子炉が、「②「冷やす」、③「閉じ込める」は失敗したが、①は成功した」と言うこと自体、まったくのナンセンスであるばかりでなく、自己欺瞞と他者欺瞞もはなはだしい。
 「冷温停止」をめぐる私の議論を知る読者は、すでに理解されたと思うが、それはこういうことである。

1、相澤東電副社長は、このように言った。「福島第一原子力発電所においては、全号機で地震発生と同時に全制御棒が自動的に挿入され、原子炉の核反応が止まり、「止める」機能は確保されました」。

 まず、この説明からしてがデタラメである。なぜなら、仮に「地震発生と同時に全制御棒が自動的に挿入され」たとしても、そのこと=制御棒の挿入は「原子炉の核反応」の停止を意味するのではないからだ。
 原子炉(=「核分裂→核爆発炉」)の「停止」を、何かパソコンや冷蔵庫の電源を切る→作動停止と同様のものであるかのように表現することは、単にそれが事実と違うということばかりでなく、原発の基本的メカニズムの誤った知識を流布するという意味において犯罪的である。

2、原発とは、核兵器とは違う意味において、制御された核分裂→核爆発が生み出す「エネルギー」を「電気エネルギー」に置換する、きわめて特殊な「発電装置」である。原発が稼働中=操業中であるということは、原子炉内が臨界状態にあるということであり、原子炉を停止するということはこの臨界状態を停止することである。
 緊急事態時における制御棒の強制挿入は、その最初の動作に過ぎず、原子炉の安定的停止(=「止まる」)に向けたプロセスはその瞬間から始まると言ってよい。 

3、ここで 稼働中(=原子炉が臨界状態にある)原発を緊急停止するということは、核燃料そのものは「使用中」状態にあることに注意する必要がる。つまり、臨界状態で核爆発を繰り返していた使用中核燃料に、制御棒を挿入することによって放出中性子を吸収・コントロールし、再臨界状態を起こさないようにするわけである。
 このプロセスにおいて絶対不可欠なのが、「冷やす」という作業である。つまり、①「止める」、②「冷やす」は、互いを分離できるような作動ではなく、一体化したもの、この二つが同時的に進行しなければ原子炉は「止まらない」のである。
 当然、「閉じ込める」にも失敗する。核爆発の破壊エネルギーを吸収し、それにも耐えられるような格納容器が設置されているのでなければ。たいていは、「最後の最後の手段」としてのベントによって格納容器、と言うよりも原発施設の破壊を防ごうとする。東電は、そのベントにも失敗したのだけれども・・・・・。

 おそらく、政府の「事故調査」の「最終報告」も、福島第一原発は「止まった」ものとして、「安全対策のさらなる
強化」を「提言」するものなるだろう。
 私は、今回の原発大災害において福島第一が止まらなかったのは、「想定外」の地震と津波に原因があったのではなく、それ以前的な、遵守すべき様々な「安全対策」を東電が怠り、それを安全・保安院と原子力安全委員会が黙過し、放置してきたことにあると考えている。

 この問題は、いずれまた機会があれば整理したいと思うが、それを考えるためにも、稼働中原発の「安全対策」なるものが、実態においてはもちろん、考え方においても方東日本大震災を前提したものには、まったくなっていないことを理解しておかねばならない、と思うのだ。

 どれを取り上げてもよいのだが、ここでは福井県が発行したものを紹介しておこう。「3・11」を経た今日、「安全対策」の理念と現実との乖離に気絶しそうになるが、それがリアリティであるということも含めて私たちは現実を受け止めざるをえないだろう。 廃棄されるべきは、
第一に、以下に書かれているような「安全対策」論であり、
第二に、「合理的に達成可能な」「安全対策」でやむなしとする原発建設のあり方であり、そして
第三に、ポスト「3・11」状況において「安全対策」なき原発が稼働している現実なのである。 

【参考文献】
●「原子力発電所の安全確保対策」(「福井県の原子力」別冊「第四章」)
1.安全確保対策
(1)安全確保の基本的考え方
(2)原子炉の自己制御性
(3)原子力発電所の地震対策
(4)高経年化対策
(5)安全性確保の高度化に向けた取り組み
2.原子力発電所の事故・故障と対策
(1)事故・故障件数の推移
(2)事業者における事故・故障防止対策

「批評する工房のパレット」内関連ページ
⇒「で、私たちは原発をどうするのか?--原発の「合理的に達成可能な安全水準」は安全を保証しない 」(3/30)

・・・
原発安全対策の妥当性議論 保安院、専門家の意見聴取会
 枝野幸男経済産業相は17日、福島第一原発の事故で得た技術的な課題を取りまとめて、全国の原発に反映させるため、専門家から聞く意見聴取会を原子力安全・保安院に設置すると発表した。(10月)24日に初会合を開き、来年1月にも中間報告をまとめる。
 意見聴取会は田中知・東京大教授ら専門家8人で構成。これまでに判明した原発事故の経過を整理し、技術課題を体系的に取りまとめ、政府の原発事故調査・検証委員会が年内にまとめる中間報告を踏まえ、来年3月までに最終報告を出す。(朝日)
 ↓
 こんな「意見聴取会」を新たに設置するのは、「科学的」には何の意味もないし、経済的にはただの税金の無駄使いに過ぎず、政治的には経産省の巻き返しと政策決定の遅延化をもたらすだけである。
 また田中氏も「止まった」論者の一人で、原子力ムラの総本山、東大の原発推進論者の一人
・・
 今回の原子力災害は、冷却機能の喪失によって被害が拡大いたしました。原子力エネルギーの安全利用の前提条件となる「止める」「冷やす」「閉じ込める」のうち、「冷やす」能力が欠如したことにより「閉じ込める」機能までもが不完全な状況に陥ってしまったことは、安全システムの基本にかかわる大きな一石を投じることになったと考えます。
 (中略)
 地震による津波被害は甚大なものでありました。しかしながら、そもそもの安全確保の考え方が適切ではなかった可能性があることを真摯に受け止めなくてはなりません。原子力エネルギーが人類のために役立つためには今後はあらゆる事態に直面してもなお対応が可能な、頑健なシステムを持つことこそが求められております。
・・

 「あらゆる事態に直面してもなお対応が可能な、頑健なシステムを持つこと」は不可能だということを前提に、私たちは東電をどうするかとともに、原発をどうするかを考えざるをえない。
 しかし、 田中氏が「拠点リーダー」を務める、グローバルCEOプログラム、「世界を先導する原子力教育研究イニシアチブ」は、そういう前提には立たず、プロメテウス的意思をもって、世界の原子力産業を「先導」しようとする。

日本の原子力産業と研究開発は海外進出・国際化という歴史的転回点にあります
 社会の中の原子力問題の解決をはかり、原子力新世紀に対応できる人材を育成する必要があります。原子力社会学を含む体系的原子力教育の基礎の上に原子力社会学、原子力エネルギー、放射線応用3つのイニシアチブを一体的に推進し、豊かで安心な社会の実現に貢献します。
・原子力社会学教育研究イニシアチブでは学内外との連携により原子力法工学、核不拡散、(核)技術と社会の調和(?)を教育研究します。
・原子力エネルギーイニシアチブは未来型エネルギー・放射性廃棄物と核燃料リサイクル・原子力プラント保全工学を分野複合・統合の教育研究により展開します。
・放射線応用は医学・生物のみならず原子力エネルギーへ放射線技術の応用を展開します。
・本プログラムは日本原子力界の中核を担う人材を供給し、基礎研究において優れた成果を挙げてきた東京大学原子力グループの教員を中心に、文理の学際複合領域である原子力の特徴を世界に先駆けて教育研究に取り入れ、世界第1級の教育研究拠点形成を図るとともに、未来の原子力の展開を担う人材の育成を目指します・・・。

 結構な話だが、少なくとも私が生きる社会は「東大原子力グループ」に「先導」されることは御免蒙りたい。 
 果たして、どのような中間報告と最終報告が出てくるか。楽しみにしていよう。 

セシウム放出量「政府推計の3倍」 欧米の研究者ら
 東京電力福島第一原発の事故で大気中に放出された放射性セシウムは、内閣府の原子力安全委員会が公表した推定値の3倍になるとの試算を、ノルウェーなど欧米の研究チームが発表した。チェルノブイリ原発事故の放出量の4割にあたるという。大気物理化学の専門誌に掲載された。
 研究チームは国内の測定データのほか、核実験探知のために設置された北米や欧州などの測定器のデータを使い、事故が起きた3月11日から4月20日までのセシウムやキセノンの放出量を分析した。  セシウムの放出量は約3万5800テラベクレル(テラは1兆)で、原子力安全委の試算値1万1千テラベクレルの約3倍。降下物は大部分が海に落ちたが、19%は日本列島に、2%は日本以外の土地に落ちた。

 キセノンの放出は地震で原子炉が緊急停止した直後に始まったとみられ、原発が地震で損傷した可能性があるという。  

 4号機の使用済み核燃料プールへ注水を開始した直後から放出量が激減したといい、プール内の核燃料が損傷して放出された可能性を挙げた。ただ、燃料の外観が保たれていることは東電の調査で確認されている。
 研究チームは、これらの分析結果は、測定データが不足し、放射能汚染で信頼性の高いデータが得られないことなどから、不確かさを伴うとしている。
 今年5月にも、核実験の監視システムなどのデータをもとに、福島第一原発で原子炉の停止後に連鎖的な核反応が再び起きた「再臨界」の可能性が指摘されたが、その後、データが訂正されたことがある。 (朝日)