2011年12月16日金曜日

政府「事故調」の「調査」に疑義あり!--3号機の「高圧注水系(HPCI)」は「自動起動」したか?

政府「事故調」の「調査」に疑義あり!--3号機の「高圧注水系(HPCI)」は「自動起動」したか?


 毎日新聞(電子版)の記事(12/16)、「福島3号機:現場独断で冷却停止…3月13日、高圧注水系」を読んだ。
 私は毎日新聞の原発関連の記事を、他の主要新聞メディアのそれに比し、評価している。 しかし、この記事は、「事故」の「責任を問わない」という意味において決定的な問題をはらんでいる政府の「事故調査・検証委」の「報告」を鵜呑みにしているという点において、あまりに問題点が多い。 ここでは核心的なポイントのみ述べておく。

 今回の「事故」の真相究明にあたり、解明されなければならないのは、次の点である。 すなわち、いったい如何なる①福島第一原発の構造的・工学的な脆弱性と、②政府・東電の「統合対策本部」および現場における「ヒューマン・エラー」が、メルトダウン→メルトスルーを引き起こしてしまったのか?

 分かりやすく言えば、東電は、「想定外の津波」以外については耐震設計・安全対策を含め①は問題なかったとし、②に関し、現場末端の匿名の「作業員」の「判断ミス」という形で、「事故」原因解明の収束を図ろう/謀ろうとしている。そして、野田政権(原子力委員会・安全委員会、安全・保安院)も、それを追認しよとしている。誰ひとりとして刑事・民事・政治・行政上の責任を取ることもなく・・・。と言うか、まさにそのために。

 これに対し、〈私たち〉は、①と②の両方に今回の大災害の原因があると主張する。②については、国と東電のトップレベルから「課長」クラスまでの、歴史的に蓄積されてきた「ガバナンス」と「マネジメント」の能力欠如の問題として。
 間違ってもこれを、単なる「システム上の不備」に還元してはならない。「国策・民営」の原発事業が引き起こした大災害の責任の所在は、国においても民においても固有名を持つ人格と組織に帰せられねばならないからだ。そうでなければ私たちは今回の事態の教訓を歴史化し、社会化することができない。最も肝心なことは、組織と個人の法的不処罰(impunity)を絶対に許してはならない、ということである。


 上の記事を読み、私たちが理解すべきは、政府の「事故調・検証委」が、①今回の事態に人格的・組織的責任を負うべき主体の法的不処罰のための「お膳立て」をしていること、さらに②日本の主要新聞メディアの一つ、しかも「脱原発」を社として主張してきた毎日新聞が、予め仕組まれていた①の動きに対し、批判的に報道する〈眼〉を持っていない、ということである。

 私がこのように言う理由は、とても単純なことだ。記事には、「事故調が経過を調べた結果、運転員がバッテリー切れを恐れ、吉田前所長の判断を仰がずHPCIを止めたことが分かった」とあるが、原発に対する基礎的知識を持つ人間の常識で考えるなら、非常事態発生時においてメルトダウンを防止する安全装置たるHPCIを、「運転員」(いったい誰?)が「バッテリー切れを恐れ」、「止める」ことなど、ありえないからだ。しかも、「吉田前所長の判断を仰がず」に? これは何かの冗談だろうか?

 東電の現場「関係者」は、私の眼から見れば、明らかに共謀し、虚偽の「証言」をしている。

 ここで話は、「福島第一原発は「止まった」か?」(10/31)の中段、「福島第一原発災害と地震」に戻ることになる。
 内容はくり返さない。今後の対東電刑事・民事訴訟、および国賠訴訟の追求との関連で言えば、その「係争点」の一つが高圧注水系(HPCI)問題になることを確認するにとどめておきたい。つまり、東電の「事故」責任を問うにあたり、HPCIが「自動起動」したか、それとも津波襲来以前に地震の衝撃によって作動不全をきたしていたか否か、という問題である。

12/18

 もう一点。「原発幹部、非常用冷却装置作動と誤解 福島第一1号機」(12/18, 朝日新聞)についてだが、もしも東電の「原発幹部」が、「冷却装置「非常用復水器」について、電源が失われると弁が閉じて機能しなくなる構造」を「知らなかった」のだとしたら、これは下にあるような「有事の指揮系統、機能せず」といったレベルの問題では済まされないことになる。

 原発の基本構造および非常時の安全システムを知らない「原発幹部」に、「有事の指揮」などできるはずがない。それは指揮「系統」の問題ではない。「機能」すべき「系統」など最初から存在しなかったことになる。

 私には、「原発幹部」たちは、自分が何を「証言」しているのか、それさえ理解しているとは思えない。
 組織的・個人的責任を問わない、しかも匿名の「事故調査」「検証」が、常識では考えられないこうした「証言」を可能にする。
 そうした偽証の積み重ね、羅列による虚偽と虚構の「中間報告」が26日に発表されようとしている。

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福島3号機:現場独断で冷却停止…3月13日、高圧注水系
 東京電力福島第1原発事故で、3号機の原子炉を冷やすための最後の要となる「高圧注水系(HPCI)」が3月13日に現場の独断で止められ、再起動できなくなっていたことが、政府の事故調査・検証委員会の調べで分かった。
 3号機は翌日、水素爆発した。1号機でも冷却装置「非常用復水器(IC)」が止まったが、吉田昌郎前所長が稼働していると誤認して事故対応していたこともすでに判明している。指揮系統が機能していなかったことが重大事故につながった可能性がある。今月末に公表される中間報告書に、こうした対応が不適切だったと記載される模様だ。

◇政府事故調、中間報告へ
 東電が今月2日に公表した社内調査中間報告書などによると、3号機では東日本大震災が発生した3月11日、電源が喪失し、「原子炉隔離時冷却系(RCIC)」と呼ばれる別の冷却系が作動、原子炉に注水した。だが、12日午前11時36分には原因不明で停止。原子炉の水位が低下し同日午後0時35分にHPCIが自動起動したが、13日午前2時42分に停止した、としている。
 複数の関係者によると、事故調が経過を調べた結果、運転員がバッテリー切れを恐れ、吉田前所長の判断を仰がずHPCIを止めたことが分かった。その後、HPCI、RCICともに起動を試みたが再開しなかった。報告書は「HPCIを止めない方がよかった」と指摘する見通し。
 一方、報告書は津波対策にも言及するとみられる。東電は08年、想定していた高さ5・7メートルを上回る10メートル超の津波の可能性を試算したが、社内で「防潮堤のかさ上げは費用が高くなる」との意見が出された。当時原子力設備管理部長だった吉田前所長らが「学術的性格の強い試算で、そのような津波はこない」と主張したこともあり、具体的な対応は見送られたという。
 さらに、報告書は法律に基づいて設置された現地本部が十分機能しなかったことや、政府が「炉心溶融(メルトダウン)」を軽微に感じさせる「炉心損傷」と修正した点にも触れる見込み。閣僚の具体的な関与では今月から聴取を始めており、来夏に作成する最終報告書に盛り込む。
◇高圧注水系◇
 非常時に原子炉内に注水するために備えられた緊急炉心冷却装置(ECCS)の一つで、原子炉内の水位が異常に下がった場合に働く。原子炉の余熱で発生する蒸気を利用してタービン駆動のポンプを動かし、復水貯蔵タンクなどの水を勢いよく炉内上部から炉心(核燃料)に注ぎ込む。停電時でもバッテリーで使用できるのが利点。

◇解説…有事の指揮系統、機能せず
 これまで東京電力は「原発事故防止のためにさまざまな取り組みをしてきた」「想定を上回る津波だった」などと主張してきた。しかし、政府の事故調査・検証委員会による関係者聴取から浮かぶのは、「不十分な備え」であり、「人災」という側面すらみえる。
 同委員会の調査で、福島第1原発3号機で「高圧注水系(HPCI)」を運転員が独断で止めたことが判明した。今夏までの調査でも1号機の非常用復水器(IC)の停止を吉田昌郎前所長が把握できていなかったことが判明している。重大事故時の備えがなく、運転員にこのような行動をさせた点こそ問題だ。
 また、東電の過酷事故時の手順書には、全電源喪失が長時間続くことを想定せず、格納容器を守るためのベント(排気)の手順なども盛り込まれていなかった。備えが不十分で現場の指揮系統が混乱し、最善策を取れなかったとうかがわせる。
 過酷事故対策は79年の米スリーマイル島原発事故を契機に、世界的に整備が進んだ。日本でも検討され、原子力安全委員会は92年、事業者に過酷事故対策を求めた。だが、事業者の自主性に委ね、それ以来、対策内容を見直してこなかった。あらゆる警告を謙虚に受け止めることが関係者に求められる。
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 「あらゆる警告を謙虚に受け止めることが関係者に求められる」・・・。
 匿名のこの記事の筆者は、国と東電に対し、随分と理解があるようだ。