2014年2月1日土曜日

『福島と生きる』 メールマガジン特別号 No.5-2 黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)インタビュー(2)

『福島と生きる』 メールマガジン 特別号No.5-2
――息長く〈福島〉とつながり続けるために――
2014年2月1日発行(不定期刊)
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インタビュー
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黒田節子さん(原発いらない福島の女たち http://onna100nin.seesaa.net/
――「しびらっこく、なィ」 福島の状況は危機的 でも決してあきらめません

パート2
<目次>
 III 核のごみの処分は日本全体の問題
 IV 国の政策の背後にIAEA
 V 多様で互いを認め合う新たな運動を「しびらっこく」続けたい


III  核のごみの処分は日本全体の問題

Q  去年12月、政府は除染で出た汚染土を保管する中間貯蔵施設について、双葉、大熊、楢葉の3町に建設受け入れを要請しました。
 避難区域の住民の中には、どうせ帰還できないならそこに中間貯蔵施設を作ってほしい、という意見もあれば、そうなれば永遠に帰還できなくなるという意見もあり、簡単には答えが見つからない問題です。
 これら住民の間でも意見の割れる問題については、まず住民同士がまず議論を重ね解決策を探っていくしかないと思いますが、そのような動きはあるのでしょうか。

黒田  除染で出た残土を詰めた袋(フレコンパック)が人の住む場所に野積みになっている光景を、福島市でも郡山市で見かけます。私の自宅近くにも、すぐ手が届くところにフレコンパックが置かれていて、外へ行くには必ずその横を通らないといけないという状態です。

 除染には多重搾取などの労働環境のひどさやその費用対効果など、多くの問題があります。ただ、除染作業は地元民にとっては日銭が稼げるという側面もあります。 作業に従事している人たちの中には避難してきた人たちもたくさんいて、その構造は複雑です。除染やオリンピックにかけるたくさんのお金を、子どもたちの保養や避難などに使って欲しいということは声を大にして言いたいところですね。

 中間貯蔵施設をめぐっては、いくつもの問題が絡み合っています。家屋敷や田畑をたくさん持っている人たちは、いくら賠償金をもらったとしても、当然、土地に愛着を持っていますから、自分の故郷に貯蔵施設ができるのは反対という人が多い。

 一方、その土地に財産を持っていない人たちは比較的あきらめやすい。そこでも住民の分断ができてしまう。 これまでは、仮置き場などを作るとき事前に打診がありましたが、それでは埒が明かないというので今後は国が指定する方向になるそうです。3町村にまたがって作られるという中間貯蔵施設が、多分、最終処分場になるのでしょう。国のやり方は巧みですね。

 私たちは、放射性廃棄物は、東電の広大な敷地に持っていくしかない、その場合でも焼却処分は絶対だめ、と以前から主張してきました。この問題は現在進行形で事態が動いているので、しっかりと見ていく必要があります。

Q  容易に答えの出ない問題ですが、まず住民の間で議論されなければならないことは確かです。

黒田  これまでの話し合いはほぼすべて、ごく一部の地権者との一方的な話し合いです。説明会も形だけ、反対意見の人や村外の人は最初からシャットアウトする、というやり方でした。日本は民主主義の「み」の字もない国だということがよく分かります。
 福島第一の敷地にもっていくしかないにしても、その決定に至る過程が問題です。いまは国が強権的にやろうとしています。

 これは福島だけの問題ではありません。核のごみをどうするかは日本全体の問題ですから、日本全体で考えていかなくてはなりません。また、放射能ごみの減容化に向けてさまざまな試みが行われていますが、焼却処分は受け入れられません。バグフィルターによって十分に除去できないことが明らかになっているからです。


IV 国の政策の背後にIAEA

黒田  現在の国の方針は「福島はちょっと除染すれば大丈夫」という路線です。人の命を何だと思っているんでしょうか。帰還させて健康が蝕まれても現状を維持したい。福島県自身がそういう方針ですが、その大本にあるのはやはり国の方針でしょう。
 さらにその背後には国際原子力機関(IAEA)の存在があると私は思います。IAEAは原子力の国際的推進の中心機関、いわゆる原子力マフィアです。そのIAEAの施設を福島県田村市に作る計画があります。その施設で小中学生に「放射能文化」を学ばせるのだそうです。

 実は、原発推進派もチェルノブイリの経験から周到に学んできたのです。
 チェルノブイリ後、いかに人々を「平定」していったかを学び、それを福島に適用しようとしています。その先頭に立つのが、国際放射線防護委員会(ICRP)主委員会副委員長のジャック・ロシャール氏率いる「エートス(ETHOS)」です(注2)。
 彼は放射能は勉強をすれば大丈夫だ、子どもたちに科学者になる道を与えるため施設を作る、と主張し、それを具体化し始めています。日本一国にとどまらず、そういう大きな国際的な流れに沿って国の方針が出てきているのだと思います。 

 いまの世界をある意味で牛耳っているとも言える原子力帝国、それを代表するIAEAの出先機関が福島に作られるなんて、大変なことです。被害の中心地にわざわざ乗り込んできて、子どもたちに「放射能の勉強をすれば大丈夫だ」という教育をしようとしている。

 施設ができる田村市では、工業団地で使い手がなくて赤字だった場所に、県が後押しする国際的な大きな施設ができるというので歓迎ムードです。住民説明会に「女たち」のメンバーが参加して、どういう施設なのか、IAEAとはどういう機関なのかを訴えたのですが、「IAEAって何?」という程度の理解です。

※注2: チェルノブイリ事故後、欧州委員会によってベラルーシで行われた住民の生活回復プロジェクト(1996-2001)。除染、農業の復活、放射線防護の取り組みが、住民が自主的に参加する形で行われた。
 2011年から福島県でも「福島のエートス」という住民有志グループが活動を行っている。「エートス」をめぐってはさまざまな議論がある。資料として以下を参照。
http://besobernow-yuima.blogspot.jp/2012/07/blog-post_14.html
Q3  そうしたことを念頭に、原発の再稼働問題にとどまらず、いまの日本のあり方そのものをどうするのかを考えると、2014年の福島県知事選は重要な節目ではないでしょうか。これについてはどうお考えですか? 

黒田  県知事がもつ力の大きさを考えると知事選は重要です。だから、多忙な「女たち」でも知事選に取り組むことができればと思っています。これまでは「選挙はちょっと・・・」と思っていたのですが、いまの福島はそんなことは言っていられない状況です。
 県知事が本当に全身全霊で福島の代弁者となってくれれば、国に対して大きな力になります。知事はそのためにいるのです。本来の役割を果たしてくれる人に知事になってほしいです。


V 多様で互いを認め合う新たな運動を「しびらっこく」続けたい

Q  国にしても県にしても、いまの政策を変えさせるには、大きな壁が立ちはだかっています。それを少しでも変えていくために、全国の人たちは何ができるでしょうか?

黒田  大前提は原発を再稼働させないことです。こんなことが再び起きたらとんでもないことになります。こんな事態になってもなお再稼働なんて、断じて許すことはできません。
 いま原発再稼動阻止全国ネットワークができています。先日、鹿児島県の川内原発再稼働反対集会に行ってきましたが、1800人が集まりました。その前の愛媛県伊方原発での集会には8000人が集まったそうです。地方ではこれはすごい参加者数なんです。そういう集会に「女たち」のメンバーが交代で参加するようにしています。

 やはりどこでも女性が頑張っていて、そういう女性たちと具体的な結びつきを作っていきたい。これまで運動を担ってきた男性たちの豊かな経験に学びつつ、新しいやり方で緩やかで暖かいネットワークを作っていきたいですね。
 運動を進めるにあたって意見の違いはあって当然です。一人ひとりがやりたいことをやり、それを互いに尊重し合う、そういうおおらかさが大事です。「女たち」は自分たちのやり方が絶対、などとまったく思っていません。それを前提に、柔らかくつながっていく運動をめざしたいと思っています。そして、この運動は長期戦なので、ちゃんと休みながらやることが大事です。

 そういう運動が各地に芽生えていますよ。たとえば、鹿児島県南大隅町が放射性廃棄物最終処分場の候補に上ったことが明らかになったとき、最初に反対の声を上げたのはごく普通の女性たちでした。自分たちが守るべきものは何かをちゃんと知っている人たちです。「女たち」はその女性たちと知り合いになり、今後も交流していこうと決めています。

 どこの原発立地地域でも女性たちが表でも陰でも頑張っています。女だけがやればいいわけではありませんが、川内原発でも玄海原発でも、いままでとはひと味違うやり方で運動を進めていて、私たちも学ぶことが多いです。
 それをどう国政の変革につなげていくか。「子ども・被災者支援法」が骨抜きにされたといっても、それで終わりではない。福島はそれであきらめるわけにはいかないのです。今後も運動に波はあるでしょうが、決してあきらめません。「しびらっこく」やっていきます。

 「しびらっこく」というのは福島の方言で、したたかに、粘り強く、あきらめないという意味です。「女たち」のスローガンは「しびらっこく、なィ」(「しびらっこく、ね」)がいいなァと私は思っています。
 この運動は、私たちが生きている間にどこまで変わっていけるかという、本当に永い闘いになります。だから、自分たちをあまり傷つけないやり方で、あまり疲れないようにやっていくことが大事です。

 その点では、男の人たちはどうも考え方が硬いですね(笑)。「自分たちのやり方が一番だ」と思っているところがある。ある人が「豊かな山とは種多様な木々や動植物をもつ山だ」と言っています。植林して一種類の木しかない山は生態系としては貧しいのです。

 人間社会もそれと同じで、異なる者同士が認め合う社会の方が絶対にいい。実際、とりくむべきテーマがこんなにたくさん出てきてしまって、正直、どうしていいか分からない状況だとも言え
ます。これだけやっていればいい、などということは現実にはあり得ないのです。

 だから、それぞれの得意分野にとりくみながら、お互いを認め合って、手を取り合ってやりましょう、というのが私たちの考え方です。いろいろなレベルで権力をもたなかった女たちは、そういう方法を自然に実践しているのだと思います。 

Q  最後に、このインタビューの読者に一言、お願いします。

黒田  「女たち」のメンバーはみな、相当無理をして活動しています。それでも「しびらっこく」、そして多様性を大事にしながらこれからもやっていきたいと思っています。
 一人ひとりが自分のできることを「しびらっこく」やっていきましょう。


(2013年12月23日のインタビューをもとに構成。
インタビュアー/文責:『福島と生きるメールマガジン』)

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※『福島と生きる』メールマガジンは、『福島と生きる--国際NGOと市民運動の新たな挑戦』の共同執筆者の団体や活動の関連情報を発信していきます。

発行人=中野憲志・藤岡美恵子(『福島と生きる--国際NGOと市民運動の新たな挑戦』共編者)