2009年7月30日木曜日

戦争のテロルと平和のテロル---アフガニスタン「復興支援」の欺瞞2

戦争のテロルと平和のテロル---アフガニスタン「復興支援」の欺瞞2

 10月に、アフガニスタンの「復興支援」と和平をもう一度考える、小さなシンポジウムを、今、準備している。ペシャワール会、日本国際ボランティアセンター(JVC)の人、そしてぼくが発言する予定になっている。そのシンポジウムに向けて、〈NGOと社会の会〉のニューズレター第5号の発刊も構想中である。

 これから、大統領選に向けた残り三週間、アフガニスタンではタリバーン掃討戦が強化され、それにともない、非戦闘員たる一般市民の犠牲がさらに広がることになるだろう。タリバーン=絶対悪=殲滅の等式が国際的に正当化され、対テロ戦争と共存した「復興支援」が、何の矛盾もないかのように行われていく。

 アフガニスタンの和平をどうするのか。「復興支援」をこのまま続けてよいのか。
 問題を整理するために、短い文章を書いた。

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戦争のテロルと平和のテロル

撞着語法としての平和構築

 対テロ戦争時代の平和構築は撞着語法である。戦争をしながら平和を構築することなどありえないからである。国連や日本政府がいう人間の安全保障も同じである。殺戮を容認、黙過しながら、人間の安全を保障するなんてできるはずがない。何という偽善、何という欺瞞が、平和の仮面をかむって世界を席巻していることか。

 ところが、国際法の迷宮と国際政治のアリーナに足を踏み入れると、なかなかそう正直(ナイーブ)には語れなくなる。なぜなら、国連憲章が謳う「国際の平和と安全」という大義名分があれば、国家の自衛権を発動した武力行使も、その国家を中心とした有志連合による集団的自衛権の行使も違法ではなくなってしまうからである。後になって、実は自衛権の行使が政権転覆(レジームチェンジ)を目的にしたものであったことが判明しても、それこそ後の祭りである。

 連合国の勝利宣言の場に国際社会が集い、和平が成立したということにして(誰と誰の?)、どこからか連れてきた人物に暫定政権をつくらせる。そして国際社会は、国家再建(復興)と銘打ち、対テロ戦争と一体化したその後の政治プロセスに平和構築や人間の安全保障を語りながら関与しはじめる。「国際の平和と安全」のために。それが自国の国益と安全保障にも適う、ということにして。

平和のテロル

 そこでは対テロ戦争は平和と対立するのではなく、その手段とされる。平和は多国籍軍によって強制され、維持されるものとなる。テロルを無化する何かではなく、平和そのものがテロルと化すのである。その瞬間に、国際政治の言語学では偽善や欺瞞は姿を消し、慈愛や誠実がとって代わる。世界の政治エリートが対テロ戦争を正当化、容認、黙過しながら、アフガニスタンの人々への慈愛を込め、誠実かつ真顔で平和を語りだす。その言葉に撞着語法、偽善、欺瞞はない、ということにして・・・。

 けれどもそこに生き、殺された人々、その家族にとって、テロルと化した平和ほど絶望的なものはない。たまったもんじゃない。だから、アフガニスタンに始まった対テロ戦争の勃発から丸八年目を迎えた今、戦争と同じくらい長く続いてきた平和構築・復興支援の歴史を、これからもそう呼び続けることがほんとうに妥当かどうかをも含め、検証し直したいと思うのである。

内戦から和平へ

 そのための導きの糸となる言葉は内戦である。なぜなら、もしも国際社会がアフガニスタンを内戦下の国であることを、ありのままの現実をみつめ認めたとしたら、「国家再建から経済発展へ」を合言葉にしたこれまでのいっさいの前提が崩れ、その抜本的な総括が余儀なくされるからである。そうすれば対テロ戦争と平和構築が撞着語法であるように、内戦と経済発展もそうであることがはっきりするように思えるのである。

 優先すべきは経済発展ではない。外国軍、国軍、すべての武装勢力間の戦闘行為の中止、外国軍の撤退である。そして現政権と武装勢力間の恒久的和平合意の実現、権力構造の再編、武装勢力の武装解除である。体裁を取り繕い、手続きを無理に整えるために過去に行ったことのすべてが失敗に終わったことを国際社会が実直に認める以外に、虐殺や抑圧と同時進行する平和のテロルからアフガニスタンの人々を解放する手立ては、少なくともぼくには見つけられそうにない。

 額に脂汗を滲ませながら、もう一度、一から議論し直すべき時を、今、ぼくらは迎えている。


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アフガニスタン:カルザイ政権、タリバンと戦闘激化
【マイダンシャー(アフガニスタン中部)栗田慎一】

アフガニスタンの武装勢力タリバンと米軍が激しくぶつかり合う中部マイダンワルダック州。8月20日のアフガン大統領選の妨害を宣言しているタリバンは、首都カブールの包囲網を急速に狭め、南接する同州の大半を掌握しつつある。カルザイ政権の「要所」として、戦闘を強化しながら対話による和解を探るという矛盾に直面している現場を見た。

 カブール市街から南西へ35キロの州都マイダンシャー。樹木のない丘陵地帯を武装ヘリが低空で飛び回り、地上では政府軍が通行車両を1台ずつ検査する。検査役の兵士は「タリバンの攻撃を防ぐためだ」と言った。

 タリバンは連日、州内で米軍や警察の車列を攻撃している。州警察幹部は「携帯電話を使った路上爆弾の遠隔爆破を防ぐため、外国軍は車両に電波妨害装置を備えた。するとタリバンは、地雷や有線爆破に変えた」と説明する。爆薬のほか、市販の液化ガスやガソリンも使われるという。

 州議会議員のガニ氏(54)は「2年前まで州内は平穏だったが、戦闘の激化で治安は悪化し貧困が拡大、タリバンの勢力拡大を支えた」と言う。拉致事件も増え、政府幹部の父親が拉致された事件では、幹部が高額な身代金を拒否すると切り取られた鼻や耳が送りつけられ、父親は殺された。「タリバンの狙いは恐怖支配。停戦と対話開始しか治安回復の道はない」と言い切る。

 米国は増派米兵約2000人を同州に追加配置し、住民に軍事訓練を施しタリバンと対峙(たいじ)させる民兵496人の育成を終えるなど戦闘強化を進めている。一方でフェダイ州知事(38)によると、州政府は和解担当局を新設し、宗教指導者らを通じてタリバン幹部らとの交渉に着手。選挙後の「本格対話」(カルザイ大統領)に備えている。

 知事は「二つの政策は矛盾しない。治安を乱す暴力をまず封じ込める必要がある」と強調しつつ、「州内の米軍指揮官には対話が必要だと説得し続けている」と打ち明けた。失業生活から脱するため民兵を志願したという男性(37)は、「本当は殺し合いなんかしたくない」と語り、「対話を求める候補者が当選したら、米国はどうするのだろうか」と問いかけていた。毎日新聞 2009年7月25日