2009年4月17日金曜日

マスコミはなぜ野党に対してフェアーな報道をしないのか

マスコミはなぜ野党に対してフェアーな報道をしないのか

 最近、どうしても見逃せない新聞記事があった。民主党に関する読売新聞の社説である。
 その社説とは、四月十六日の「海兵隊移転協定 民主党は「反米」志向なのか」である。この社説は、
①「在沖縄米海兵隊のグアム移転に関する日米協定承認案の衆院採決で民主党が反対した」こと、
②「インド洋での海上自衛隊の給油活動の中止や、在日米軍の思いやり予算の見直しも唱えている」こと、そして
③小沢代表が「在日米軍は第7艦隊で十分」と発言したことなどを指摘しながら、次のようにいう。

「これでは、日米同盟を重視するどころか、「反米」志向と受け止められても仕方あるまい。米国に注文すること自体は悪くない。だが、民主党の重大な欠陥は、要求するだけで、同盟強化のため自らどんな負担をするのか、何も具体的に語らないことだ。」

 ぼくは無党派で、民主党の支持者ではないばかりか、民主党の安保・外交政策に対して少なからず疑念を持っている人間であるが、そういう立場からみたとしてもこの社説は「議会制民主主義」の基本原則をわきまえない、あるいはその原則を意図的に歪曲して論じているという意味において、大きな問題をはらんでいる。

 読売新聞が社としてブッシュ・小泉政権が打ち出した「世界の中の日米同盟」路線を支持し、その実効的な推進のために憲法九条第二項が障害になっていると判断し、改憲=九条改廃を主張することは、自由である。
 しかし、そうした社としての方針に基づきながら、民主党が自公政権の安保・外交政策の見直しをはからんとしていることに対し、「反米」志向というレッテルを貼ることは、第一に政治的に偏向しすぎているし、第二に政権政党の政策を批判する立場にある野党の正当な役割を踏まえていない愚挙である。むしろ、読売新聞が社説を通じて与党の立場にたった「世論形成」をはかろうとする意図が透けてみえてしまう。要するに、読売新聞は社説を政治的プロパガンダ機関に自ら堕落せしめているのである。

 なぜ、読売新聞はそこまで「親米」志向になるのか? なぜ、日米「同盟強化」が既定の方針になり、そのために自社の論陣を張ろうとするのか? 問いは、読売新聞に対してこそ向けられるべきではないか。

 もしも政権交代が実現されるなら、新政権が旧政権が行ってきた安保・外交政策全般の見直しをはかり、それによって予算配分をも見直すことは、当然のことである。民主党は、無前提的に日米「同盟」を「強化」するとはいってはいないのである。この点において、読売の社説は明らかに客観性を喪失しており、フェアーではない。

 また、民主党に限らず、野党は一般的に選挙前に「包括的な政策をきちんと明示すべき」といえないし、それが「政権交代を目指す政党として最低限の責任」でもない。むしろ、「ネジレ国会」の出現によって、上の①から③のような、自公政権の安保政策に代わる個々の対案が野党サイドから出るようになってきたことが、大局的には日本の「議会制民主主義」の一歩前進とみるべきなのである。少なくとも、公的言論機関としての新聞ジャーナリズムがそこを評価せずして「ネジレ国会」の何を評価するというのだろうか。

 ぼく自身は、安保条約に基づく日米関係は「同盟」関係とはいえないこと、にもかかわらず日米首脳会談、安保協議(2+2)などで、主権者を意思を無視した恣意的な「同盟」宣言がなされ、そのことが米国の対テロ戦争に日本政府が「主体的に」引きずり込まれる状況を生み出してきたと考えている。米国の世界戦略を「後方支援」したり、あるいは側面から補完したりする形での外交・ODAの「バラまき政治」が行われてきた根拠もそこにある、と。

 いまぼくたちが直面しているのは、ブッシュ政権八年のアフガニスタン・イラク戦争を中心とした対テロ戦争を抜本的な見直し、再検討抜きに、アフガニスタン、イラクからさらに戦場をパキスタン、ソマリアへと拡大してよいのか、対テロ戦争をこのまま継続してよいのか、という問いである。それが日本や「国際の平和と安定」を本当にもたらすのか、という問いである。

 読売新聞をはじめとした新聞ジャーナリズムの社説にも、同じことが問われている。各紙はまず、この八年間、アフガニスタンやイラク戦争に対して、破産したブッシュ政権の対テロ戦争に対して自社がどのような論陣を張ってきたのか、その内省をすべきだろう。そしてそうした主体的な内省に基づき、これからもアフガニスタンやパキスタンにおいて対テロ戦争を激化させようとしているオバマ路線とこれに追随する麻生政権に対して、ジャーナリズムがジャーナリズムとして、いかに自律的な立場に立った論陣を張れるか、論説委員と記者ひとりひとりが考え直してみるべきだと思うのである。

(⇒参考ブログ。「「日米同盟」の呪縛――「日米同盟」とマスコミ」