2011年3月2日水曜日

「人道主義+介入主義=人道的帝国主義」---なぜ、この足し算が難しいのか

「人道主義+介入主義=人道的帝国主義」---なぜ、この足し算が難しいのか


 米軍が動き出した。NATOも動こうとしている。「リビアにいる人の緊急避難や人道支援に備えるため」に。 21世紀の新たな「地球規範」として6年前の世界サミットで「全会一致で確認」された「保護する責任」を負う安保理常任理事国として。
 米国は「人道的介入」の「権利」ではなく「責任」がある。これが、1990年代に国際的に議論された「人道的介入の権利」論と「保護する責任」の決定的違いだ。同じく英国、フランス、NATOも「保護する責任」を果たすべく動く体制に入ろうとしている。

 今は、「保護する責任」(R2P)の「第二の柱」、「平和」的「介入の責任」(非軍事的強制措置)の段階である。これが「第三の柱」、武力「介入の責任」(軍事的強制措置)に移行するためには、
①米軍と少なくとも英国軍その他数カ国の有志連合軍が、
②国連安保理の武力介入決議に基づき、安保理からその決議の実行を「授権」されるかたちで、
③国連憲章で保障されているリビアの「主権」に武力介入し、
④カダフィ軍との戦争を経て、カダフィの軍事的排除⇒暫定政権樹立、という流れになる。
 その武力介入の第一段階が、カダフィ空軍の飛行禁止空域の強制⇒違反した場合の軍事基地への空爆である。

 これを「人道的帝国主義」などと批判するのはとんでもないことだ。すべては①国連憲章の規定と手続きに従い、②リビアの人々を独裁者による虐殺から解放するという、きわめて「人道的」な見地からなされる、③他の「平和」的手段が尽きた後の「最後の手段」として行われるからである。
 「保護する責任」によって派生するすべての責任は、「保護する責任」を果たせないカダフィ一党にある。「責任」の履行の過程で「文民」の犠牲が生まれることは大変「遺憾」なことだ。「文民」には前もって深い哀悼の意を表しておきたい・・・。


 「人道主義+介入主義=人道的帝国主義」という一見、簡単そうにみえる足し算ができないことがある。
①「人道主義=〇」「介入主義=×」の「〇+×」が〇になるのか×になるのか、判断停止に陥ってしまう場合と、
②介入主義は×だが、それを人道主義の〇が相殺する以上にプラスに転化し〇にする、と考える二通りの場合がある。
 どちらも〇、あるいは×だという人は、悩むことを知らない人である。

 「「保護する責任」にNO!という責任--人道的介入と「人道的帝国主義」」の下段で紹介した『人道的帝国主義』の著者、ベルギーの理論物理学者ジャン・ブリクモンは、ヨーロッパの「伝統的な左翼思想」に基づきながら、「人権」擁護の旗の下でNATOの域外介入を容認していったヨーロッパ左翼の転向を痛烈に批判している。
 つまり、ヨーロッパ左翼の多くが、上の①と②に陥り、①の人々は沈黙し、②の人々は「人道的帝国主義」を支持する側に回ったのである。ジェノサイド、民族浄化、戦争犯罪、人道に対する罪と疑われる事態に直面し、悩んだヨーロッパ左翼が総崩れしたのである。ドイツの「緑の党」を含めて。それまで反戦派リベラルであった人々とともに。

 このブリクモンの転向左翼批判は、今でもかなり有効だと思う。悩める左翼の人々にとっては。
 しかし一方で、踏まえておかねばならないのは、「アメリカ帝国主義」や「ヨーロッパ帝国主義」のやることはすべてが無条件にペケ、と主張しがちな左翼主義は、特に悩むことを知らないそれは問題解決に道を開かないことだ。

 「人道的帝国主義」の何に、なぜ反対するのか。その論理と倫理がなければ、今度は「人道的帝国主義」を批判する独裁や抑圧的な体制の側のキャンペーンに巻き込まれ、からめとられてしまう。イランはすでにそれを始めているし、カダフィもそう叫んでいる。古典的な「反帝国主義」論の延長で語るだけでは、「虐殺を見過ごすことは許されない」というそれ自体は人間として誰もが当然もつ倫理観や道理を、メディアを総動員しながら強烈に押し出してくる「人道的帝国主義」の対抗言説を創出することはできないのである。
 それを私は1990年代の最初と最後に米国で目の当たりにした。私自身もかなり危ういところまで行った。「人道的介入は必要悪ではないか?」という思いを、長い間、引きずる羽目に陥ったのである。
 だから難しい。だから、誰もが自分の頭でしっかり考える必要があると思うのだ。

 ともあれ、日本は「平和」だ。リビアで、アフリカで、パレスチナ・中東で何があろうと、この国はそんなこととは無関係にすべてが他人事顔、ユルい感じで、21世紀の新しい〈地球規範〉となった武力行使に協力し、加担することになるのだろう。リビアではなくとも、どこかで。
 少なくともこのブログを見てくれている人は、それが誰であろうと「人道的帝国主義」にNO!という論理と倫理を考え、それが何でも何かをしてほしい。できるなら、できるだけ。


 国連安保理の対リビア制裁決議の落とし穴と抜け穴

 このページの一番下のワシントン・ポストの記事。ほんの一例に過ぎないが、米国、英国、イタリアを始めとした欧米諸国が、いかにリビアの軍事独裁国家を育成し、その軍事的・経済的利権を貪ってきたかが伺える。制裁そのものが落とし穴と抜け穴だらけなのである。

 要は、すべての資産をその情報公開と共に凍結し、国連事務総長あるいは全権特使が早急にリビアに飛び、直接カダフィを説得し辞任させ、凍結した資産を平和的政権交代後のリビアの政権に戻せるようにすればよい。そういう国際的取極めを今回のような事態が他の国でくり返される前に、またリビアへの武力介入が行われる前に、行えばよい。それだけだ。独裁打倒が武装闘争に発展し、さらなる民衆の犠牲や難民を生み出すこともない。

 そういうことをやろうとしないで軍を動かし介入しようとするのが「人道的帝国主義」であり、そういうことを考え、提言しようとしないで「保護する責任」を云々するのが、「市民社会」から「人道的帝国主義」に自ら進んで共犯関係を持とうとする確信犯的な、国際人権・開発NGOなのである。

・at least in the foreseeable future, the effect on Gaddafi's regime may be limited as well, despite the freeze on Libyan assets imposed by the United States, the United Nations and Britain, and being debated by the European Union
・Gaddafi can fall back on as much as $110 billion in foreign reserve holdings to fund its operations for perhaps months to come
・The reserves managed by the Central Bank of Libya would be enough to cover the country's imports for about three years
・ENI, the Italian oil giant that produces about a third of Libya's petroleum,

U.S. firms courted Gaddafi and his family after the lifting of the earlier sanctions, which were imposed on Libya because of its involvement in the bombing of PanAm flight 103 over Lockerbie, Scotland, in 1988. The Carlyle Group, a District-based private equity firm, hosted a high-level reception for Saif al-Islam Gaddafi in 2008. Among the invitees were Frank C. Carlucci, a former U.S. defense secretary, and C. David Welch, a former assistant secretary of state for Near Eastern affairs who currently serves an executive with the engineering giant Bechtel

・the investments by the Gaddafi family or the Libyan government include Saadi Gaddafi's $100 million stake in a Hollywood production company, Natural Selection; a 7.5 percent share in Italy's UniCredit bank; part ownership of the Juventus soccer club; and about 3 percent of the stock of the United Kingdom-based Pearson media company, owners of the Financial Times and Penguin Books

・After students at the London School of Economics occupied administrative offices in protest, the university officials said they would forgo the remainder of a roughly $2 million pledge from Saif Gaddafi to the school and would set aside the about $500,000 already received into a scholarship fund for Libyan students. The younger Gaddafi received his doctorate from the school

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【3月2日 AFP】ロバート・ゲーツ(Robert Gates)米国防総省は1日、リビアにいる人の緊急避難や人道支援に備えるため、強襲揚陸艦キアサージ(USS Kearsarge)など米海軍の艦艇数隻を海兵隊員400人とともに地中海に派遣したと発表した。キアサージは「近いうちに」紅海(Red Sea)からスエズ運河(Suez Canal)を通って地中海に入るという。

 ゲーツ長官は、リビア以外の中東の国での米軍の活用についても考えなければならないとしつつ、人道支援を超える介入については、アフガニスタンで実施中の作戦におよぼす影響や、中東・北アフリカで米国の軍事行動に対する反感が強まりかねないことを考慮する必要があると述べた。(c)AFP/Dan De Luce

【ワシントン共同】ゲーツ米国防長官は1日の記者会見で、緊迫するリビア情勢を受け、米軍の強襲揚陸艦など2隻と海兵隊員約400人を地中海に派遣したと明らかにした。人道支援や避難民の救援活動が目的としつつ、オバマ大統領による最終決断のため「あらゆる選択肢を用意している」とも強調した。 ただ、リビアへの軍事介入について「介入を容認する国連安全保障理事会決議もなく、北大西洋条約機構(NATO)諸国の間でも意見が一致していない。注意深く考えないといけない」と述べ、慎重姿勢を示した。同席した米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長はリビア上空を飛行禁止区域に設定することについて「非常に複雑な作戦だ」と難しさを強調した。

 ゲーツ長官はイラクやアフガニスタンへの米軍駐留を踏まえ「新たな国に米軍を投入するには熟慮が必要だ」とも語り、軍事介入がアフガン戦略などに影響する可能性を指摘した。 ロイター通信によると、エジプト当局者は1日、米海軍の強襲揚陸艦「キアサージ」と輸送揚陸艦「ポンス」の2隻が2日朝、スエズ運河を通過して地中海に向かうと明らかにした。キアサージは海兵隊員約2千人の輸送が可能。また米駆逐艦バリーも2月28日、スエズ運河を通過して現在は地中海南西部に展開しているという。

UN urges mass Libyan evacuation BBC
Libyan Rebels Said to Debate Seeking U.N. Airstrikes NYTimes
Despite sanctions, Libya holds extensive reserves W.Post