2012年7月18日水曜日

「いじめ」について

「いじめ」について


 「いじめ」は、法廷に持ち込まれたその瞬間から政治問題化する。

 「訴訟社会」は、本来、司法・行政・警察権力の介入によらず、「現場」における「当事者」間の対話によって解決されてしかるべきものを裁判「闘争」化してしまう。
 その結果、「原告」と「被告」に分かれた「いじめられた側」(子ども、親)と「いじめた側」(子ども、親)、「いじめを見過ごした側」(学校、教師、行政)は、ただ裁判の勝ち・負けを基準に何を語る/語らないかを判断するようになる。
 「いじめ」はあった/なかった。「けんか」だと思った、「家庭の問題もある」。「いじめ」が自殺の原因/自殺の「因果関係」を「立証」するものではない・・・。 これらはすべて真相を究明するためではなく、裁判闘争に勝つ/負けないための言葉となる。
 どちらが勝つ/負けるにせよ、「子どもの世界」に対する「大人の世界」の介入、管理(ケア?)と統制(しつけ?)が強化される、という意味では何も変わらない。 「いじめ」は、「無くなりようが、無くなる」。

 「世間」/メディアはと言えば、どんな時でも常に「正義の味方」だ。 徹底的に「悪人探し」をやり、身元を暴き、「ここぞ」とばかりにコキ下ろす。 「悪いヤツら」は社会的に抹殺、葬り去ることさえ厭わない。 強烈だ。「子どもは社会を映す鏡」とはよく言ったものだと感心する。
 すさまじいエネルギー、時間、カネが、そのために消費/消耗される。
 いったい誰のために? それによって何を変えるために?


 大津の「いじめ事件」の場合、どの角度から、誰が判断しても明らかに「いじめ」と考えられたにもかかわらず、学校・校長、教育委員会が賠償金と行政責任を問われることを恐れ、当初「いじめ」を否定したことが「世論」の猛反発、一斉攻撃に火をつけた。 そしてそのことが滋賀県警による、これも責任追求から逃れることだけを目的にしたとしか思えない、パフォーマンスめいた、仰々しい、教育現場への過剰介入=学校と教育委員会への強制捜査⇒約300人にのぼる生徒たちへの「事情聴取」を、「当然のこと」と思わせる社会的空気をつくってしまったのだと思う。

 そこでは「いじめ」を「暴行・脅迫・ゆすり・窃盗」などの「一般犯罪」と等値する観念や言説が支配的になる。そしてより早期の段階における警察・司法・行政権力の介入を求める「世論の声」が幅をきかすようになる。日本で「いじめ」問題を議論するときの「落とし穴」の一つがここにある。私にはそう思えるのだが、どうだろう。

 「少年犯罪」は「一般犯罪」と法的に違うし、さらに「いじめ」は「少年犯罪」でもない。問題の根っこにあるのは、「いじめ」が起こったときに、被害にあう子どもを救済する場、機関が学校の中にも外にも存在しないことだ。警察はもとより、「人権擁護委員会」も「いじめからの自由」という「子どもの権利」を守らないし、守れない。家にさえ、「居場所」のない子どもも多い。
 「いじめ」を一般犯罪視し、一般犯罪のように扱うこと、つまり司法・警察権力の介入をさらに拡大するような「いじめ対策」の「強化」は、問題の根っこをみえなくさせるだけである。 少なくとも、「大人の世界」はそのことを十分自覚しておいた方がよい。


 下に紹介している、「いじめ」に関するデータを見ていて、「不意をつかれた」ような気がした。 私が想像していたよりはるかに、学校内外での子どもに対する、また子ども自身による暴力や「いじめ」の現実が、相当深刻に思えたからである。

 そもそも、あの統計は各学校や教育委員会が集約したものをベースとしているのであるから、子どもをとりまく暴力や「いじめ」の実態は、もっとひどいはずだ。たとえば、「いじめ」が原因とみられる子どもの自殺の数にしても、120人とかのレベルではなく500人とか600人という話も現にある。

 日本では「いじめられる方にも原因がある」論が、いまでもかなり強烈に存在し、「いじめられる自分が悪い」という意識を内面化し、通告する子どもたちより、親や教師はもちろんのこと、誰にも言わず/言えず、「自分の胸にしまっておく」子どもたちの方がはるかに多いのではないか。文部科学省の統計は、たしかに一つの「資料」ではあるが、「氷山の一角」を示しているに過ぎないのかもしれない。
 だからこそ、この数はかなり深刻である。
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① いじめの認知件数。小学校36,909 件(前年度より2,143 件増加)、中学校33,323 件(前年度より1,212 件増加)、高等学校7,018 件(前年度より1,376 件増加)、特別支援学校380 件(前年度より121 件増加)の合計77,630 件(前年度より4,852 件増加)。
② いじめを認知した学校数。16,335 校(前年度より1,209 校増加)、全学校数に占める割合は41.3%(前年度より3.4 ポイント増加)。
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 統計の中の、「いじめの現在の状況で「解消しているもの」の件数の割合」が79.0%という数字に着目したい。
 要するに、「いじめ」の解消に学校も教師も教育委員会も日々努力しており、8割は「解決済み」と言いたいのだと推察するが、この認識が現実とは違う、そのことが「いじめ」の増加要因の一つになっている、ということだろう。そもそも「解消」の根拠や判断基準が不明だし、これはただ単に学校と教師の主観的願望を表現したものとしか思えない。

 いじめられた者も、いじめた者も、そして傍観し続けた者も、子ども時代の未解決の「いじめ」問題が、そのまま大学から一般社会の末端にまで浸透し、持ち込まれてしまっているようにみえる。 もしかしたら、「日本人」や「日本文化」、現代社会の解剖学は、「いじめ」をどう捉え、位置付けるかを離れては、成り立たないのかもしれない。

「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「「学校に行かなくてもいい社会」のために

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【参考資料】
文部科学省の「いじめ」のサイト
いじめの新定義】(平成18年度間の調査より)
 本調査において、個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする

 「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」とする。なお、起こった場所は学校の内外を問わない

(注1) 「いじめられた児童生徒の立場に立って」とは、いじめられたとする児童生徒の気持ちを重視することである。
(注2) 「一定の人間関係のある者」とは、学校の内外を問わず、例えば、同じ学校・学級や部活動の者、当該児童生徒が関わっている仲間や集団(グループ)など、当該児童生徒と何らかの人間関係のある者を指す。
(注3) 「攻撃」とは、「仲間はずれ」や「集団による無視」など直接的にかかわるものではないが、心理的な圧迫などで相手に苦痛を与えるものも含む。
(注4) 「物理的な攻撃」とは、身体的な攻撃のほか、金品をたかられたり、隠されたりすることなどを意味する。
(注5) けんか等を除く

文部科学省「いじめの問題への取組状況に関する緊急調査」結果について(通知) 2011/1/20
1.学校の取組について
1. 各学校は、いじめの問題への取組について、それぞれの実情に応じた適切な点検項目に基づく定期的な点検を行い、点検結果を踏まえて取組の充実を図る必要がある。
2. 点検は基本的に全教職員で行い、点検結果やこれに基づく課題について全教職員で共有する必要がある。
3. 各学校は、定期的に児童生徒から直接状況を聞く手法として、「アンケート調査」を実施した上で、これに加えて、各学校の実情に応じて、個別面談、個人ノートや生活ノートの活用など、更に必要な取組を推進する必要がある。
4. 各学校は、いじめの問題に関する校内研修等を通じて、いじめの問題の重大性を全教職員が認識し、指導上の留意点等について教職員間の共通理解を図り、校長を中心に一致協力体制を確立して実践に当たる必要がある。

2.教育委員会の取組について
1. 各教育委員会は、管下の学校に対して、いじめの問題への取組について、それぞれの実情に応じた点検項目に基づく定期的な点検を求め、取組の充実を促す必要がある。
2. 各教育委員会は、管下の学校におけるいじめの実態把握の取組状況を点検し、全ての学校に対して「アンケート調査」の確実な実施を求めるとともに、更なる取組を行うよう必要な指導・助言に努める必要がある。
3. 各教育委員会は、いじめの問題への自らの取組について、それぞれの実情に応じた適切な点検項目を作成し、定期的に点検を行う必要がある。
4. 各教育委員会は、管下の学校等に対し、いじめの問題に関する指導の方針を明らかにし、積極的な指導を行う必要がある。

5. 各教育委員会は、管下の学校におけるいじめの問題の状況について、実態の的確な把握に努め、各学校のニーズに応じて、適切な支援を行う必要がある。
6. 各市区町村教育委員会は、出席停止の手続きに関する教育委員会規則を定める必要がある。
7. 各市区町村教育委員会は、いじめを原因とする就学校の指定の変更や区域外就学を認められるようにする必要がある。
8. 各教育委員会は、関連の通知などの資料の活用や、その趣旨の周知・徹底について、学校の取組状況を点検し、必要な指導、助言を行う必要がある。
9. 各教育委員会は、いじめの問題について、研修の実施や教師用手引書等の作成により、教職員一人一人や学校の取組の充実を促す必要がある。
10. 各教育委員会は、いじめの問題に関して、学校のみならず、保護者からの相談も直接受け止められるよう教育相談体制を整えるとともに、相談窓口について広く周知徹底を図る必要がある。また、教育相談の内容に応じ、学校と協力した継続的な事後指導や医療機関など専門機関との連携が求められる。
11. 各教育委員会は、いじめの問題の解決のために、家庭や地域、関係機関と適切な連携協力を図る必要がある。

「平成22年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」について(2012,2/26)
(2)調査結果の主な特徴
1)小・中・高等学校における、暴力行為の発生件数は約6万件と、前年度(約6万1千件)より約1千件減少し、児童生徒1千人当たりの発生件数は4.3件(前年度4.3件)である。
2)小・中・高・特別支援学校における、いじめの認知件数は約7万8千件と、前年度(約7万3千件)より約5千件増加し、児童生徒1千人当たりの認知件数は5.5件(前年度5.1件)である。
3)小・中学校における、不登校児童生徒数は約12万人で、前年度(約12万2千人)より約3千人減少し、不登校児童生徒の割合は1.13%(前年度1.15%)である。
4)高等学校における、不登校生徒数は約5万6千人で、前年度(約5万2千人)より約4千人増加し、不登校生徒の割合は1.66%(前年度1.55%)である。
5)高等学校における、中途退学者数は約5万5千人で、前年度(約5万7千人)より約2千人減少し、中途退学者の割合は1.6%(前年度1.7%)である。
)小・中・高等学校から報告のあった自殺した児童生徒数は156人(前年度165人)である。

(3)調査結果の要旨
1.暴力行為の状況
小・中・高等学校における、暴力行為の発生件数は約6万件と、前年度(約6万1千件)より約1千件減少し、児童生徒1千人当たりの発生件数は4.3件(前年度4.3件)である。
① 暴力行為の発生件数は、小学校7,092 件(前年度より23 件減少)、中学校42,987 件(前年度より728 件減少)、高等学校10,226 件(前年度より141 件増加)の合計60,305 件(前年度より610 件減少)。
・「対教師暴力」は8,967 件(前年度より663 件増加)。
・「生徒間暴力」は34,439 件(前年度より160 件増加)。
・「対人暴力」は1,909 件(前年度より181 件増加)。
・「器物損壊」は14,990 件(前年度より1,614 件減少)。
③暴力行為が学校内で発生した学校数は9,298 校(前年度より190 校増加)、全学校数に占める割合は24.5%(前年度より0.8 ポイント増加)。

2.いじめの状況
 小・中・高・特別支援学校における、いじめの認知件数は約7万8千件と、前年度(約7万3千件)より約5千件増加し、児童生徒1千人当たりの認知件数は5.5件(前年度5.1件)である。
① いじめの認知件数は、小学校36,909 件(前年度より2,143 件増加)、中学校33,323 件(前年
度より1,212 件増加)、高等学校7,018 件(前年度より1,376 件増加)、特別支援学校380 件(前年度より121 件増加)の合計77,630 件(前年度より4,852 件増加)。
② いじめを認知した学校数は16,335 校(前年度より1,209 校増加)、全学校数に占める割合は41.3%(前年度より3.4 ポイント増加)。
いじめの現在の状況で「解消しているもの」の件数の割合は79.0%(前年度より0.5 ポイント減少)。⇒???
④ いじめの発見のきっかけは、
・「アンケート調査など学校の取組により発見」は26.3%(前年度より2.4 ポイント増加)で最も多い。
・「本人からの訴え」は23.0%(前年度より1.3 ポイント減少)。
・「学級担任が発見」は19.8%(前年度より0.3 ポイント増加)。


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大津いじめ自殺:生徒遺族 同級生らを告訴へ
 大津市で昨年10月、いじめを受けていた市立中学2年の男子生徒(当時13歳)が自殺した問題で、生徒の父親(47)が18日夕、加害者とされる同級生らを滋賀県警大津署に告訴する。県警は今月11日、同級生3人の暴行容疑で学校と市教委を家宅捜索したが、父親は容疑を暴行に絞らず、県警に被害の内容を訴える。捜査中にもかかわらず異例の告訴に踏み切ることついて、父親は「『いじめは犯罪。許してはいけない』という意思を示したい」と話している。
 亡くなった男子生徒がいじめを受けていたことを知った父親は、昨年10月と12月に計3回、大津署を訪ねて被害届の提出について相談したが、同署は男子生徒が亡くなっていることなどを理由に受理しなかった
 県警の家宅捜索の後、父親は代理人弁護士に「捜査は始まったが、息子のために父親としてできることをしたい」と相談。処罰への強い要望を示すため、被害届ではなく告訴することを決めた。大津署に口頭で被害の内容を伝え、「告訴調書」を作成してもらう。(毎日)

中2自殺訴訟 「家庭内問題も言及」 大津市教育長 資料提出意向
 大津市で昨年10月、中学2年の男子生徒=当時(13)=が飛び降り自殺した問題で、17日に大津地裁で開かれた損害賠償訴訟の第2回口頭弁論後、市教委の澤村憲次教育長が取材に応じた。「いじめが自殺の因果関係の一つになった可能性が高い」と明言する一方で、生徒の家庭内の問題についても言及していく考えを示した。
 澤村教育長は、和解協議を呼び掛けた大津市の姿勢について、「主張を取り下げたのではなく、外部調査委の結果が出てから主張していくと思う」と説明。また、「家庭内で男子生徒がどんな環境にあり、何が起こったか学校から聞き、把握している」とした上で、裁判への資料提出を市側代理人と相談していくとした。一方で、市教委内に、いじめ対応についての検討チームを可能な限り早期に設ける意向も示した。学校教育課を中心に人選し、いじめ防止や発見した際の対応、さらに今回ずさんさが指摘されたアンケートの在り方を検討していくという。(京都新聞)

自殺防止で警察庁に協議要請 文科省、いじめ情報共有
 大津市の中2自殺を受け、文部科学省が、子どものいじめ自殺防止に向けて警察庁と連携を強めようと、実務者同士で定期的に協議し、情報交換する場を設けるよう求めたことが17日、文科省関係者への取材で分かった。
 平野博文文科相が同日夕、警察庁で松原仁国家公安委員長と会い要請。松原委員長も「大事なことだ」と受け入れる考えを示したという。
 いじめ問題を担当する文科省児童生徒課と警察庁少年課が協議する見通し。連絡体制を見直し、子どもの命に関わる事態があれば、文科省から警察庁に情報を提供して悪化を防ぐことも想定している。(河北新報)

いじめた生徒の親族?ネットに偽情報で被害深刻(読売)
女子児童いじめ対応の小学校長、首つり自殺 因果関係不明と教委「遺書なし」(産経)