2012年7月29日日曜日

オスプレイ配備と「動的防衛力」

オスプレイ配備と「動的防衛力」


 オスプレイの配備は、米軍再編に伴う日米安保体制の再編に沿って行われようとしている。
 この日米安保の再編の要(カナメ)が、「専守防衛」から「動的防衛力」への転換である。
 すなわち、米軍の世界的再編の動向に応じて、
①その結果生じる「力の空隙」(と、米国が定義するもの)の穴埋めを自衛隊が担いながら(=自衛隊の米軍後方支援軍化)、
②「米国のカネの欠如」の補てんを日本の納税者が半永久的に負担していく(⇒米軍駐留経費、米軍基地・設備補修・補強経費など)という、安保・防衛族、日米軍産学複合体以外には何のメリットもない〈日本の安全を保障しない日米アンポ体制〉への再編が行われようとしているのである。

 日本政府・外務-防衛官僚は、「動的防衛力」は「専守防衛」と矛盾せず、日本はあくまでも「憲法9条を守り、専守防衛を堅持する」と主張している。しかし、下の【参考資料】に示した「日米安保協議」(2+2)の内容を見れば明らかなように、「グアム及び北マリアナ諸島連邦における自衛隊及び米軍が共同使用する施設としての訓練場」を日米共同で「整備」し、自衛隊の海外展開をいっそう進めることは、「専守防衛」からも、日本の「主権」領域内を条約の適用範囲とした安保条約の内容からも逸脱した行為である。

 「動的防衛力」の実体化は、1970年以来の自衛隊の「専守防衛」路線と自衛隊が担うべき「業務」の見直し、安保条約の条文改定とそのための「国民的議論」などが不可欠であるが、日米両政府は、それらを不問にしたまま「日米同盟の深化」という一言で「動的防衛力」を正当化しようとしてきた。要するに、「動的防衛力」=「日米安保という虚構」の無限的構築が、「日米同盟という欺瞞」をふりまきながら、また、行われようとしているのである。

 けれども、こうした日米安保や「日米同盟」なるものの実態について、たとえば読売新聞が代表するような「保守」派や朝日新聞が代表するような「リベラル保守」派の論客はもちろん、「革新」系やその他諸々の左翼勢力も、きちんと分析できないでいる。 今回のオスプレイ配備問題をめぐっても、また過去と同じ誤り、同じ失敗を犯す気配が強くなってきている。
 そこで 「「動的防衛力」と日米「防災」軍事訓練」の続編として、「動的防衛力」に基づくオスプレイ配備の軍事上の理由とされている「中国の台頭」をめぐる最近の情報を押さえておきたいと思う。

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参考資料
米国、東南アジアの基地に再注目
【APA‐Jフラッシュ No.214】
 東南アジアでの多国間合同軍事演習「コブラゴールド」には日本の自衛隊も毎年参加しているが、主要メディアは報じない。
 集団的自衛権の問題は災害援助や邦人保護訓練などという理由づけでまかり通ってしまっている。 (M) 
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米国、東南アジアの基地に再注目
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 台頭する中国に対抗してオバマ政権がアジア方面戦略を見直すのに合わせ、米軍は、この地域における最後の紛争であるベトナム戦争時に使用していた昔馴染みの基地への復帰をもくろんでいる。
 米国防総省はこの数週間、1960年代から70年代にかけて爆撃機B52の基地としてタイに建設した飛行場のいずれかに地域の災害救援センターを設置する協議をタイ政府と続けている。貿易航路や周辺の軍事動向を監視するために、タイの港への米海軍の寄港や合同偵察飛行の回数も増やしたいと米国当局者は述べている。

 今月にはレオン・E・パネッタ国防長官が、ベトナム戦争後では最高位の高官としてタイの隣国ベトナムのカム・ラン湾にある海軍と空軍の基地を訪れた。 「大きな期待の持てる場所だ」と述べ、長官は米国の艦船を再びこの水深の深い港に常駐させたいと熱く語った。
 国防総省はフィリピンでも大規模な収容基地を求めており、ベトナム戦争時にはアジア最大規模の米軍基地で、機材整備や物資供給の中心でもあったスービック湾の海軍基地や元クラーク空軍基地なども含めて検討している。

 数十年前、米軍は東南アジアの基地からの撤退や基地の返還を余儀なくされた。しかし、中国が軍事力を増し、領有権を主張して紛争が起こるなかで、慎重にではあるがタイ、ベトナム、フィリピンは再び米国を歓迎する姿勢になっている。それに応えるように、米国防総省の幹部たちが続々とこの地域を訪問し、交渉や関係強化を加速しようとしている。これまでのところは、関係改善と言っても艦船による寄港や合同演習など限定的ではあるが、オバマ政権は更に幅広く継続的な米軍の駐留へとつながることを望んでいる。(中略)

 2006年のタイ陸軍によるクーデターによってタイが混乱して以後、同国への関心を失っていた米国国防総省の高官が、再びタイに目を向けはじめた。統合参謀本部議長としては十数年ぶりになるデンプシー統合参謀本部議長による訪問をはじめ、アシュトン・カーター国防副長官も7月に訪問を予定しており、パネッタ米国防長官もタイ政府より正式に招待を受けた。パネッタ長官は6月にシンガポールで開催された会議でタイの国防相と会っている。

 現在、両国間で、この地域で頻発するサイクロンや津波などの自然災害に対応するための共同軍事センターの開設についての協議が進んでいる。同センターはバンコクから南に約145キロのウタパオにあるタイ王立海軍の飛行場に設置される見込みであ。
 米軍にはウタパオは馴染みの場所である。そこには60年代に米軍が造った約3200メートルというアジアでは最長クラスの滑走路があり、ベトナム戦争当時は物資の中継地点、燃料の給油基地として重用していたが、タイ政府の要請で1976年に引き上げた。

 80年代、米国とタイは再び段階的に軍事協力を始めた。タイ政府は米空軍がウタパオを中東に兵士を送り込む中継基地として使うことを認めた。この基地は毎年の演習「コブラゴールド」の際の拠点にもなっている。当初、米国とタイの訓練プログラムとして始まった同演習には、今では20を超える国が参加している。

 米当局者は、災害救援センターが設置された場合、ウタパオにどの程度の軍隊を送り込むのか、またどのような任務を遂行することになるのかについては、公には明らかにしていない。(後略)
クレイグ・ホイットロック
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出典:ワシントン・ポスト (2012年6月23日)
翻訳協力:四季(APA‐J翻訳チーム)
翻訳チェック:タンノワ  監修:APA‐Jデスクチーム

「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「惨事と軍隊(Disaster Militarism)」(2012,2/13)

日米安全保障協議委員会 共同発表(2012年4月)
・・・日米安全保障協議委員会(SCC)は・・・ますます不確実となっているアジア太平洋地域の安全保障環境に鑑み、閣僚は、2011年6月21日のSCC共同発表に掲げる共通の戦略目標を進展させるとのコミットメントを強調した。また、閣僚は、その共同発表に沿って二国間の安全保障及び防衛協力を強化し、アジア太平洋地域の諸国への関与を強化するための方途を明らかにするとの意図を表明した・・・。

Ⅱ.地域の平和、安定及び繁栄を促進するための新たなイニシアティブ
 [日米外務・防衛4]閣僚は、アジア太平洋地域における平和、安定及び繁栄の促進のために協力すること並びに効果的、効率的、創造的な協力を強化することが極めて重要であることを確認した。 この文脈で、米国政府は、訓練や演習を通じてこの地域の同盟国及びパートナー国がその能力を構築することを引き続き支援する考えである。

 一方、日本国政府は、例えば沿岸国への巡視船の提供といった政府開発援助(ODA)の戦略的な活用を含むこの地域の安全の増進のための様々な措置をとる考えである。
 両政府は、戦略的な拠点としてグアムを発展させ、また、米軍のプレゼンスの地元への影響を軽減するため、変化する安全保障環境についての評価に基づき、地域における二国間の動的防衛協力を促進する新たな取組を探求する考えである。
 両政府は、グアム及び北マリアナ諸島連邦における自衛隊及び米軍が共同使用する施設としての訓練場の整備につき協力する(!!)ことを検討する。両政府は、2012年末までにこの点に関する具体的な協力分野を特定する・・・。

◎「排他的経済水域(EEZ)と領海及び公海の違い」(海上保安庁)
 我が国では、海洋法に関する国際連合条約(通常「国連海洋法条約」と略称)に沿い、法律で基線から12海里(約22キロメートル)までを「領海」、200海里(約370キロメートル)までを「排他的経済水域」(ただし、領海部分を除く)と定めています。
 また、200海里を超える海域は「公海」となります。
 「領海」は、領土、領空のように、我が国の主権が及ぶ海域です。
 なお、領海においては、直線基線が採用される前の内水(瀬戸内海)を除き我が国の平和、秩序、安全を害さない範囲で外国船が通航することが認められる、という特徴があります。(これを「無害通航権」といいます。)

 「排他的経済水域」は、天然資源(漁業資源、鉱物資源等)の探査、開発、保存及び管理等、特定の事項に限定して、我が国の法令を適用することができる海域です。よって、特定の事項以外の事項については、我が国の法令の適用はなく、例えば、外国船の航行は自由ですし、他国が海底電線を敷設することも認められます。
 「公海」は、どこの国の領海、排他的経済水域等にも含まれない海域で、全ての船舶に対し航行の自由などが認められています。この海域では、各国とも自分の国の船舶に対してのみ自国の法令を適用することができます。

 しかし、日本とは400海里離れていない隣接国との間ではお互いの管轄海域を協議して決める必要があります
 また、公海とは海洋法条約第86条にによれば「いずれの国の排他的経済水域、領海若しくは内水又はいずれの群島国の群島水域にも含まれない海洋のすべての部分に適用する。」と記載されています。 なお、領海の用語につきましては海上保安庁のホームページにも掲載しておりますので、ご覧になってください。http://www1.kaiho.mlit.go.jp/JODC/ryokai/ryokai.html


 「日本とは400海里離れていない隣接国との間ではお互いの管轄海域を協議して決める必要があります」・・・。
 しかし、ロシア、韓国、中国・台湾(中華民国)いずれの「隣接国」とも、「お互いの管轄海域を協議して決める」こと、そして「管轄海域」をめぐる「紛争案件」を「協議」によって解決することができていない。日本を含むすべての「隣接国」が、「領有権」を主張し、「実効支配」を進めようとしているからである。

 これじゃ、今後何年、何十年経っても、「400海里離れていない隣接国」の「排他的経済水域」における「紛争案件」は、解決するはずもない。
 と言うより、「戦後」連綿とした日本政府・外務省による外交上の不作為・無策の歴史をみれば明らかなように、どの国家(軍・官僚組織)も「協議」によって解決する意思を持ち合わせていないことが〈問題〉なのである。
 その結果、「主権」「固有の領土」を互いに主張する、それぞれの国家、軍による、それぞれの国の納税者のカネを使っての、それぞれの地域・海域の軍事化だけが進行することになる。

 これが、「北方領土」、「竹島」、「尖閣諸島」を含む「南西諸島」をめぐる「領土問題」の歴史的経緯と現実、近未来に起こるであろう「事態」の原因であり、真相である。 ロシア、韓国、中国・台湾、日本、米国の納税者、市民は、もうそろそろ本当に目を覚めしてもよい時を迎えていると思うのだが、どうだろう。

南沙海域・諸島をめぐる「領土紛争」】
中国海洋石油がベトナム沖・南シナ海の開発で外資を募集(Searchina)
「中国海洋石油総公司の王宜林董事長(代表取締役)は(7月)18日、南シナ海の石油・天然ガスの資源探査で、米国系企業が参画する可能性があると述べた。中国海洋石油総公司は6月、南シナ海の海域9カ所の開発で外資を導入する意向を明らかにしていた。

玄葉外相「南沙は国際法で解決」 尖閣に飛び火懸念(産経、7/16)
 中国と東南アジア諸国が領有権を争う南シナ海の南沙諸島問題で、玄葉光一郎外相は11~13日にカンボジアで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の外相会議で国際法に基づく解決を繰り返し主張した。背景には、この地域で中国の強引な実効支配が既成事実化すれば、尖閣諸島(沖縄県石垣市)でも中国の行動がエスカレートしかねないとの懸念がある。
 「南シナ海の問題について国際法に基づいた解決が必要だという声が多くあった。ASEANがまとまらなかったこととは分けて考える必要がある」 政府高官は、ASEAN諸国の間で、中国牽制を求めるフィリピンなどと、中国に配慮するカンボジアとの間で足並みが乱れたとの見方にこう反論する。

 今回の外相会議で、日本は南シナ海問題の平和的解決のため、米国と連携して(???)法的拘束力をもつ「行動規範」策定に向けた働きかけを行った。 11日の日中外相会談では玄葉氏が楊潔ち(よう・けつち)外相に「国際法に従い、問題を平和的に解決することが重要だ」と主張。同日の日ASEAN外相会談では、来年後半に10年ぶりに特別首脳会議を日本で開くことで合意した。
 日本は南シナ海で領有権を争っておらず、「介入するつもりはない」(玄葉氏)というのが基本的な立場だが、外務省幹部は「南シナ海でおかしな取引をされて変な前例は作ってほしくない。中国に『ごり押しすれば勝てるんだ』と思われては困る」と語る。
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 米国は、国際的に「法的拘束力」をもつ「行動規範」のひとつ、「海洋法に関する国際連合条約」を批准していない世界でも稀な国家である。周辺諸国への覇権主義的圧力を強める中国は、そういう米国の「二重基準」(ダブルスタンダード)を批判するが、「どちらにも与することはできない」、というのが私の立場である。

 尖閣-南西諸島周辺の排他的経済水域をめぐる中国との角逐について言えば、「日本固有の領土」を念仏のように繰り返し、この地域の軍事化を進めたところで、状況は何も改善しない。日本はこの問題の「平和的解決」に向け、全力を傾注すべきである。
 日本政府・外務省は、「排他的経済水域」や国境ライン周辺における、あらゆる形態の衝突(民間レベルであれ、国家レベルであれ)を事前に回避するために、国際的に「法的拘束力」をもつ「行動規範」の策定に向け、中国との二国間交渉に乗り出すべきだろう。日中「双方は、協議及び交渉を通じて、両国間の問題を解決していくことを表明」した2008年の「日中共同声明」の基本姿勢が、この4年間のアレヤコレヤを経て形骸化してきた以上、その現実を踏まえた、新たなラウンドを開始することが問われている。そしてそのためには「国際海洋法裁判所」( International Tribunal for the Law of the Sea:ITLOS )で最終的な決着をつけるという姿勢を日本側から示すことも必要だろう。

 要するに、やれること/やるべきこと/やらねばらないことを回避し、「動的防衛力」だの「国有化」だのオスプレイ・自衛隊配備だのといくら叫んでも、何の説得力も持たない、ということだ。 「北方領土」問題についても、これとまったく同じことが言える。 政府-外務省が、ロシアとの二国間交渉において「北方領土」問題を本気で解決する意思を持っていると判断できるかどうか、この機会に(もう一度)検証してみてはどうだろう。
⇒「ロシアが、北方領土の領有権を強調 」(Iran Japanese Radio)
⇒「「領土交渉、対話継続=プーチン・玄葉氏-ロシア外相「要人訪問自粛せず」」(時事、7/29)

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尖閣購入「まずは都で」=石原自民幹事長
 自民党の石原伸晃幹事長は27日夜、北九州市で講演し、野田政権と東京都の双方が尖閣諸島(沖縄県石垣市)の購入に動いていることに関し「(都への寄付は)およそ14億円になった。これは都ではなく、国民が買うということだ。じゃあ、まず都に買わせて(はどうか)」と語った。
 伸晃氏は石原慎太郎東京都知事の長男。伸晃氏は尖閣国有化自体には理解を示しつつも、26日に政府高官が自身を訪ね、「何とか助けてもらえないか。都知事のメンツも野田佳彦首相のメンツもつぶさないで、国が何とか買う方法はないか」と相談を持ち掛けてきたことを明かした。  その上で「私にそんな話をされても困る。何もできないから息子に頼んでくるというのもひどい話だ」と、野田政権の対応を批判した。(時事)→ほとんど「意味不明」の、日本だけにしか起こりえない/日本だからこそ起こるような奇怪な政治現象である。

【特集】垂直離着陸機オスプレイ(時事通信)
「・・・オスプレイは実用配備された後にも事故を起こし、その安全性を危ぶむ声は強いものの、米軍は海兵隊や空軍での配備計画を変えようとはしていない。垂直離着陸輸送機を大量に保有すれば、米軍の緊急展開能力は格段に向上し、対テロ戦争の行き詰まりで陰りが見える米国の軍事的威信を回復できる可能性があるからだ。
 特に東アジア地域では、南方・東方海域への進出意欲を隠さない中国、核兵器やミサイルの開発を続け国際社会に脅威を与える北朝鮮をけん制する意味からも、米国はオスプレイの役割を重視している・・・」
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 世界的に言えば、「対テロ戦争の行き詰まりで陰りが見える米国の軍事的威信を回復」することは、もはや不可能である。また、オスプレイの配備は、「米国の軍事的威信の回復」とは無関係である。それはオスプレイ開発・導入の歴史的経緯からも明らかだ。
 さらに、オスプレイの配備は、「南方・東方海域への進出意欲を隠さない中国」も、「核兵器やミサイルの開発を続け国際社会に脅威を与える北朝鮮」、いずれも「けん制」しない。一言で言えば、逆効果にしかならない。むしろ米国はそのためにこそオスプレイを強行配備しようとしている、と言えるだろう。

 ともあれ、この記事は、政治的・軍事的分析が誤っているメディアの解説の典型である。 日本のメディアは、「いつ、どこで、誰が、何を、どうした/どう言った・・・」の5W1Hの、もっともっと詳細な、自ら取材・調査した情報の提供、配信にこそ尽力してほしい。

「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「オスプレイの配備を拒否する権利を日本は持たない?」(7/27)
⇒「オスプレイを飛ばさせないために知っておきたい2、3の情報」(7/24)

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ドキュメンタリー映画「ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳」劇場案内 8/4~)・