2012年7月19日木曜日

「動的防衛力」と日米「防災」軍事訓練

「動的防衛力」と日米「防災」軍事訓練


 原発・エネルギー問題と同様に、私たちはおよそ「国策」に関するすべての事柄の意思決定権を持たない。
 今年は、「在日米軍+自衛隊」の体制、日米安保の発効(1952年4月28日)から丸60年目を迎えた年だが、国の「専管/専権事項」と言われる安保・外交分野では、他のどの分野よりもこの傾向が著しい。
 たとえば、どんなに「やらせ」が横行しようと、原発問題では、まがりなりにも「住民説明会」や「公聴会」などが開催される。しかし、沖縄がすべてを象徴し、物語っているように、安保・基地問題では、住民投票・選挙などで地元住民がどれだけ「NO!」を表明しようと、日本政府はその顔を「国民」ではなく米国政府に向けながら、ほとんど「秘密会議」で交された「密約」と呼ぶにふさわしい両政府間の「合意」なるものを最優先し、強行しようとする。

 この状況を、いつまで私たちは続けるのか?
 『日米同盟という欺瞞、日米安保という虚構』の中で、私はまさにこのことを読者に問うたのだけれども、「3・11以後」の経済・政治・社会状況を踏まえ、改めてこのことを問題提起したいと思う。 
 論点は、いたって単純である。3・11からの日本の復興・再生を論じるときに、安保問題を「聖域化」しないこと、 そして原発と同様、安保の「安全神話」を問うことである。
 何回にわたる「シリーズ」になるかは分からないが、その第一弾として、この間論じる機会を逸してきた「動的防衛力」と日米「防災」軍事訓練を取り上げてみたい。


 「自衛隊は何を守り、誰のために戦うのか?--「災後」における自衛隊の機能と役割をめぐって」の中で、以下のようなことを書いた。
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 「第2の3・11」事態に備える国と自治体の「防災対策」において、自衛隊はいかなる責任と役割をはたすべきか。
 自衛隊は、「3・11」と同レベルの津波・地震・原発惨事に際し、「国民」を守り、ガレキの山から救出し、迅速に避難させることができるように、全国の各方面・部隊を編成し直すべきか、またそのためにどのような〈装備〉を持つべきか? 

 「3・11」以後、中国・北朝鮮・ロシア脅威論と、米軍の「抑止力」論だけは盛んにキャンペーンされてきたが、およそこうした観点から自衛隊の「防災=国防戦略」を論じるものが一つとして見当たらないのはなぜだろう。
 自衛隊は、「国民の生命と財産」を守るためにこそ戦うべきではないのか。少なくとも、腐敗した南スーダンの現政権を支えるために南スーダンの武装勢力が戦うことが、今自衛隊に問われていることではないはずだ。
 自衛隊に求められているのは、海外における武器使用ではなく、国内における「防災」を担いえる装備の拡充と技術の向上なのではないか。たとえば、災害時における「膨大な医薬品」を「迅速」に運べる装備と技術。
 あるいは、「トモダチ作戦」なるもので、米軍が「朝鮮有事」を想定した軍事訓練の一環として、福島以外で行ったような「救援・支援」展開を担う装備や技術・・・。
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 ところが、野田政権、というより外務・防衛官僚をはじめ、既成政党や国会議員はこのような「議論」を一向に行おうとしない。 おそらく、今後もされることはないだろう。しかしその一方で野田政権は、
①「動的防衛力」論に基づく自衛隊の海外「派遣」・実戦訓練(南スーダン・「アフリカの角」・ペルシャ湾・フィリピン・・・)と、
②陸・海・空統合自衛隊と在日米軍の共同「防災(指揮所)訓練」なるものを在日米軍の永久駐留の理由の一つとすべく、既成事実化しようとしているのである。
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海自掃海部隊、ペルシャ湾多国籍訓練に派遣へ
「防衛省は18日、海上自衛隊の掃海部隊を、今年9月に米軍がペルシャ湾で行う機雷除去の大規模な多国籍訓練に派遣する方針を固めた。 原油輸送に重要なシーレーンの安全を守り、中東地域の船舶の航行の安全確保に貢献するのが目的だ。
 米国防総省によると、訓練は9月16~27日の日程で、米国の同盟国など二十数か国が参加する。海自は、掃海母艦と掃海艦計2隻を送る予定。海自の掃海能力に対する国際社会の評価は高く、訓練でも、重要な役割を果たすものとみられる。
 ただ、海自の公海上での掃海活動は、政府の憲法解釈が禁じる武力行使や集団的自衛権行使との関係で「遺棄機雷」に限られ、参加できる訓練も制約される・・・」(読売)

自衛隊と米軍が防災訓練 「トモダチ作戦」生かす
 自衛隊は19日、首都直下地震を想定した防災演習の一環として、地震発生時に日米調整所を置く陸上自衛隊東部方面総監部(朝霞駐屯地)で在日米軍との訓練を実施し、報道陣に公開した。米軍の参加は初
 東日本大震災での米軍の「トモダチ作戦」の経験を生かし、日米連携を強化するのが目的。東京・市谷の防衛省にも調整所を置くと仮定して合同訓練した。 朝霞駐屯地では、陸自と米陸軍の要員が首都圏の地図が置かれた大きなテーブルを囲んで協議したり、東京湾の被災状況が表示されたパソコン画面を見ながら話し合ったりした。(中日新聞)
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 けれども、上の①と②、いずれもが日米安保条約上の根拠を持たない、条約違反の軍事作戦である。 これらは、「3・11」の大惨事に「便乗」しながら、かつてより論じてきた①安保条約の恒久条約化と在日米軍の永久駐留化、そして②自衛隊のグローバルな「米軍後方支援軍」化を一歩先に進めようとするもの、とみなすことができる。

 とりわけ②について言えば、実際に想定しうる東京・首都圏の大惨事において、どれだけ在日米軍と自衛隊が、効果的・機能的な「防災・救援」活動を担いうるか、きわめて疑問が残る。その分析は後述するとして、ここでは 日米共同「防災訓練」が、実効的な「防災・救援」を目的にしているというよりは、首都圏における民間空港や自衛隊基地の「日米共同使用」を正当化し、その既成事実化を目的にしていることを指摘するにとどめておきたい。要するに、「訓練」の中身のない、国内の基地外における米軍のプレゼンスの誇示、「存在証明」のための「訓練」である。


 そもそも自衛隊にとって、「動的防衛力」と「防災を担う自衛隊」の能力・技術・装備の向上は、互いに矛盾する「戦略」である。また、非常に限られた防衛予算の中では、どちらもが中途半端なものに終わるざるをえない。
 このことを理解するために、まずは三・一一以前に登場した「動的防衛力」とは何かを押さえておこう。

「我が国の防衛力―動的防衛力」
  今日の安全保障環境のすう勢下においては、安全保障課題に対し、実効的に対処し得る防衛力を構築することが重要である。特に、軍事科学技術の飛躍的な発展に伴い、兆候が現れてから各種事態が発生するまでの時間が短縮化される傾向にあること等から、事態に迅速かつシームレスに対応するためには、即応性を始めとする総合的な部隊運用能力が重要性を増してきている。また、防衛力を単に保持することではなく、平素から情報収集・警戒監視・偵察活動を含む適時・適切な運用を行い、我が国の意思と高い防衛能力を明示しておくことが、我が国周辺の安定に寄与するとともに、抑止力の信頼性を高める重要な要素となってきている。
 このため、装備の運用水準を高め、その活動量を増大させることによって、より大きな能力を発揮することが求められており、このような防衛力の運用に着眼した動的な抑止力を重視していく必要がある。
 同時に、防衛力の役割は多様化しつつ増大しており、二国間・多国間の協力関係を強化し、国際平和協力活動を積極的に実施していくことなどが求められている。

 以上の観点から、今後の防衛力については、防衛力の存在自体による抑止効果を重視した、従来の「基盤的防衛力構想」によることなく、各種事態に対し、より実効的な抑止と対処を可能とし、アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化とグローバルな安全保障環境の改善のための活動を能動的に行い得る動的なものとしていくことが必要である。このため、即応性、機動性、柔軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力を構築する。
 一層厳しさを増す安全保障環境に対応するには、適切な規模の防衛力を着実に整備することが必要である。その際、厳しい財政事情を踏まえ、本格的な侵略事態への備えとして保持してきた装備・要員を始めとして自衛隊全体にわたる装備・人員・編成・配置等の抜本的見直しによる思い切った効率化・合理化を行った上で、真に必要な機能に資源を選択的に集中して防衛力の構造的な変革を図り、限られた資源でより多くの成果を達成する。
 また、人事制度の抜本的な見直しにより、人件費の抑制・効率化とともに若年化による精強性の向上等を推進し、人件費の比率が高く、自衛隊の活動経費を圧迫している防衛予算の構造の改善を図る。
(⇒「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」(防衛省)より)
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⇒「オスプレイ配備と「動的防衛力」」につづく

「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「惨事と軍隊(Disaster Militarism)」(2012,2/13)

【参考資料】
・「日米安全保障協議委員会(2+2) 共同発表」(2012,4/27)→「動的防衛力」に基づく最新の日米間の取り決め。こんなことを誰が承認したのか?

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将来像、防災力強化へ新国土軸 全国知事会が中間報告
 全国知事会は19日、地方の立場から国の将来像を描く「日本再生デザイン」の中間報告をまとめた。東日本大震災を踏まえた防災力強化も想定し、高速道路や新幹線など交通網の整備で日本海側と東海地方より西の太平洋側に人や産業が帯状に集積する新たな国土軸をつくる方針を明記。地方自治体が自ら行政体制や財源を決める新たな仕組みの導入も示した。今秋にも最終報告を決定して国や各党に提出、実現を求める。
 中間報告は、高松市で開催している全国知事会議で公表。人口減少、少子高齢化に加え、震災を受けた日本の現状に危機感を表明した。(共同)
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 細目はともかく、「日本の現状に危機感」という問題意識は深く共有できる。3・11後の民主党政権、官僚機構に決定的に欠けているのはこの「危機感」である。東京の「一極集中」の解体、首都機能と人口の「地方」への政策的分散と拡散。これによる霞が関の物理的解体。これが「防災」と「危機管理」上、最も必要な政策である。

減災へ地震防災戦略 中央防災会議が中間報告
 中央防災会議の南海トラフ巨大地震と首都直下地震の各作業部会は19日、地震対策の中間報告をそれぞれまとめ、「防災対策推進検討会議」(座長・藤村修官房長官)に提出した。両地震の防災から復旧・復興まで盛り込んだ「地震対策大綱」や、減災の数値目標を定めた「地震防災戦略」を新たに策定し、官民一体で対策を推進するため特別法制定の検討を求めている。
 南海トラフ巨大地震対策の中間報告は「超広域にわたる巨大な津波、強い揺れに伴い、西日本を中心に東日本大震災を超す甚大な人的・物的被害が発生する」と想定、「国難ともいえる巨大災害になる」と指摘した。

 当面の対策として、最大クラスの津波に対応した避難施設などの整備に向け、国有財産の有効活用を提言した。津波避難ビルを増やすため、建ぺい率の緩和や民間資金の活用を検討。海岸堤防を耐震化し、自治体庁舎や学校、医療施設は必要に応じて移転するとした。 南海トラフ地震の死傷者数などの詳しい被害想定は、内閣府が8月下旬に公表する予定。
 首都直下地震対策の中間報告では「わが国の存亡に関わる緊急の課題」と位置付け、被災状況に応じて政府業務を代替する拠点として札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡の5政令指定都市を列挙。事前に移転先の優先順位を定めておくべきだとした。
 東日本大震災で問題化した帰宅困難者の対策では「むやみに移動を開始しない」との原則を徹底、官民で一時滞在施設を確保する必要性を強調している。 避難所の利用を減らすため、住宅やライフラインの耐震化を促進し、自宅に早期に戻れるよう、建物の応急危険度判定の迅速化も進めるとした。(中国新聞)

北ミサイル発射に米「迎撃は本国防衛のみ」と通告(産経、7/14)
「北朝鮮が4月に長距離弾道ミサイルを発射した際の米軍の迎撃態勢と日米の情報共有の全容が13日、分かった。米海軍は7隻のイージス艦を展開させ、大半が海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載。うち1隻を北朝鮮に最も近い黄海に配置したのは日本側の要請だった。米政府は発射前の協議で日本側に「ミサイルを迎撃するのは米国の防衛目的に限る」との対処方針も通告してきていた・・・」
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 何度も強調しなければならないが、米国、米軍は日本を守らない。「防衛」などしないのだ。安保条約は、そういう条約ではないからである。後に、「日米安全保障協議委員会(2+2) 共同発表」(2012,4/27)の分析の中でも述べるが、米国にとっての日米安保とは①莫大な利益をもたらす最新鋭兵器の輸出市場、②他国の税金によっていつでも、自由に自国の軍隊の訓練および作戦展開に利用できる、海外最大の軍事拠点維持のための条約であり、体制である。
ステルス戦闘機F35、4機正式契約 1機102億円に上昇(産経)
「・・・航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)に選定した最新鋭ステルス戦闘機F35Aライトニング2(米ロッキード・マーチン社製)について、平成28年度末までに取得する最初の4機分を米政府と正式契約した。 日米両政府は1機当たりの機体価格を約102億円で合意した。選定当初は1機約99億円としていたが、約3億円上昇した。防衛省はこの価格に沿って、24年度予算に訓練用シミュレーターなどの関連経費を加え約600億円を計上しており、上昇分は関連経費の削減で予算枠内に収める
 なお、「トモダチ作戦」の実態については、「米軍は日本を守らない---「日米安保という虚構」」を参照のこと。

23日搬入、岩国に伝達へ=森本防衛相「日程変えず」―オスプレイ(WSJ)
全国知事会:オスプレイ国内配備は反対 緊急決議を採択
 全国知事会は高松市で19日開いた会議で、米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの国内配備について、「安全性がいまだ確認できていない状況で受け入れることはできない」と反対する緊急決議を採択した。
 決議では、オスプレイの墜落事故に関する「機体に機械的な不具合や設計上の欠陥はなかった」との米側の調査結果について、「政府から十分な説明がなされたとは言えない」と批判。米軍岩国基地への搬入と試験飛行を「日米の良好な関係維持への重大な影響が懸念される」と指摘し、オスプレイの安全性や事故原因、飛行訓練による住民への影響を地元自治体に詳細に説明するよう政府に求めた。【毎日、平野光芳】
「オスプレイ陸揚げ阻止へ」 3市民団体が実行委
「米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの米軍岩国基地への先行搬入に反対している岩国市の市民団体が「オスプレイ陸揚げ・配備阻止!岩国現地大行動」実行委員会を発足させた。オスプレイ12機を積んだ輸送船が岩国基地に到着する当日、海上と陸上で陸揚げ阻止行動を実施する計画。多くの市民の参加を呼びかけている・・・」(山口新聞)

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泊廃炉求め2次提訴へ 札幌の市民団体、原告千人規模目指す(北海道新聞)
 2次提訴、11月12日に。今年2月の1次訴訟第1回口頭弁論で原告側は「北海道沖を含む日本海側に大規模地震が多発し、重大事故の危険性が高い」と主張。北電側は請求棄却を求め、係争中」。

原発事故免責せずは「適法」 東京地裁
 東京電力福島第1原発事故で、原子力損害賠償法(原賠法)の規定を適用せず、政府が東電を免責しなかったことの是非が争われた訴訟の判決で、東京地裁は19日、「免責要件を極めて限定的に解釈した政府の判断にも一定の合理性がある」として適法と認めた。
 原賠法はただし書きで「異常に巨大な天災地変」による損害は原子力事業者の賠償責任を免除すると定めている。文部科学省原子力損害賠償対策室によると、免責規定の解釈をめぐる司法判断は初めて。 東電株主の男性が、政府の誤った判断で東電の株価が下落したとして150万円の国家賠償を求めたが、村上正敏裁判長は請求を棄却した。(共同)

NHKスペシャル 「メルトダウン 連鎖の真相(7月21日(土) 21:00~21:58)
 あの日「メルトダウン」していく事故の現場でいったい何が起きていたのか?
 福島第一原子力発電所の事故は、発生から1年4ヶ月がたった今なお多くの謎を残したままだ。
 番組では今回、1号機が爆発した3月12日から2号機がメルトダウンをおこした3月15日までの3日間を徹底検証する。 実は、この期間にほとんどの放射性物質が外部へ放出されていた。しかもそのほとんどは「水素爆発」によるものではなく、これまで国や電力会社が想定もしていなかったあるルートからだった可能性が浮かび上がってきた
 史上最悪レベルの事故を防ぐことは出来なかったのか?
 現場の作業を阻んだ放射線。外部からの支援も途絶え孤立していった原発の実態。独自のデータと最新のシミュレーション、現場の当事者たちの証言から事故の真相に迫る。