2012年7月13日金曜日

『福島と生きる ~国際NGOと市民運動の新たな挑戦』

福島と生きる ~国際NGOと市民運動の新たな挑戦

 まだ校正作業中であるが、ようやく予告ができる状況までこぎつけた。9月頃の配本になる予定である。
 ネット書店でも宣伝が始まり、来週には版元の新評論よりPR誌が発行されるようなので、この怠惰なブログを覗いてくれている人たちへのお詫びとお礼をかねて、一足先に新刊本の紹介をさせて頂こうと思う。
 そのPR誌に私が書いた文章である。
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 「三・一一」から丸一年を迎えた日本社会をさして、「無関心の暗闇」が支配していると評した人がいた。
 その通りだと思った。
 「暗闇」は、ロンドン五輪の興奮を経て、本書が書店に並ぶ秋口頃には一段と深まっているにちがいない。
 私たちはそのことを十分に自覚している。それでもなお本書を世に問おうとするのは、東日本大震災と原子力大惨事に見舞われた複合惨事後の日本社会が〈福島〉に試されていると考えるからである。 
 本書は、「無関心の暗闇」に抗いながら、福島から各地へ向かい活動する市民・農民運動家と、各地から福島へと向かう国際NGOや個人の活動の記録である。
 そこに映し出されているのは、福島の市民・農民運動と国際NGOが交差する、十字路の風景である。「十字路」は南相馬、いわき、渡利(福島市)、郡山、二本松、三春にある。本書で取り上げることができなかった会津地方にも、もちろんある。

 本書の第Ⅰ部「福島の声」に耳をすませていただきたい。読者は〈福島〉の現実についてまだまだ知らない、知らされていないことがたくさんあることに息をのみ、驚くことだろう。
 第Ⅱ部の「福島と生きる」では、今回の複合惨事を通じて初めて日本での支援活動を行うことになった国際NGOの苦闘や葛藤の軌跡とともに、現場で得た貴重な教訓などが紹介されている。NGO関係者必読である。

 福島と生きることが、ある種の覚悟を強いることを私たちは知っている。
 と同時に私たちは、〈福島〉と向き合い続け、福島とどう生きるかを真剣に考える以外に選択肢がないことも知っている。
 それが「複合惨事後」社会を生きる私たちが未来世代に負ってしまった責任なのだと考えている。
 「無関心の暗闇」の中で、「十字路」は確実に日本各地、世界へと広がっている。

執筆者 
猪瀬浩平 明治学院大学教員
黒田節子 原発いらない福島の女たち
小松豊明 シャプラニール=市民による海外協力の会
菅野正寿 福島県有機農業ネットワーク
竹内俊之 国際協力NGOセンター(JANIC)
谷山博史・谷山由子 日本国際ボランティアセンター(JVC) 
橋本俊彦 自然医学放射線防護情報室
原田麻以 NPO法人インフォメーションセンター
満田夏花 FoE Japan
吉野裕之 子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク
編著者
中野憲志 先住民族・第四世界研究
藤岡美恵子 法政大学大学院非常勤講師、〈NGOと社会〉の会代表
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 他の人が書いた文章は紹介できないので、校正が反映される前の、私の文章の冒頭部分のみお見せしよう。
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境界を超え、運動と支援を未来につなげる
~複合惨事後社会とNGOの役割


 原発の「安全・安心」はもとより、エネルギー政策にせよ、三・一一クラスの地震・津波に備える防災対策から「復興」の中身にせよ、これまで通りの政策と意思決定のあり方を根本から変えなければ、きっとまた同じことが起こってしまう。今回が日本を変える最後のチャンスになるかもしれない―――。
 三・一一直後、大震災がもたらした破壊的被害の甚大さに言葉を失くしながら、私たちの多くは本気でこのように考えていたように思う。 今ではもう遠い昔のようにも思えてくるが、当時、追悼と追憶とともにこの国の未来を案じる何とも神妙な空気が日本中に漂っていた記憶がある。
 ところが、「文明論的転換」「戦後社会の抜本的見直し」までもが飛び交っていた三・一一直後の神妙な空気は、その後急速にしぼんでゆく。そしてやがて、「三・一一事態」を招いた者たちの政治・行政・法的責任を不問にし、被災・被ばく者、「自主避難」者を置き去りにしたまま、どこか「のっぺりとした空気」が日本社会を包み込むようになる。

 三・一一後しばらく続いたあの空気と、ロンドン五輪直近の今のこの空気の落差は、あまりに大きい。日本は「三・一一事態を二度とくり返さない社会」を構想するどころか、「国民主権」の否定の上に成り立ってきた三・一一以前的な官僚主権国家へと舞い戻ってしまったかのようだ。
 「こんなことは許せないし、許されてよいはずがない」と思う。 なのに、許されている。
 主権者や地域住民の多数派の意思を行政府が反映していないにもかかわらず、大震災と原発惨事の複合惨事後の市民社会が国や自治体が打ち出す個々の政策の立案・決定過程から構造的に排除され、その意思を政策に反映させることができないでいる。 行政府が、主要政党が打ち出す諸々の政策を変えるだけのパワーを私たちが持たないからである。

 この状況を変え、「戦後への回帰」ではなく、〈複合惨事後〉と呼ぶに値する社会をここから創りあげるためには、私たちにはもっとパワーが必要だ。そのために国際NGO(以下、NGO)にできること、しなければならないことを考えてみたい。
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 私たちには、もっともっと〈パワー〉が必要だ。
 「政局」や次の選挙に向けて動き出す既成政党や国会議員の動きをみるにつけ、つくづくそう思う。
 時事通信が行った最新の世論調査。野田内閣の支持率は前月比3.0ポイント減の21.3%。政権発足後最低だった4月(21.7%)を更新。不支持率も同5.5ポイント増の60.3%で、最高だった4月(55.7%)を上回った。
 民主党の政党支持率も同1.4ポイント減の6.7%(!)で、2009年の政権交代後の最低記録を3カ月連続で更新
 民主党以外の政党支持率は、自民党12.5%、公明党3.1%、共産党1.9%、みんなの党1.0%、社民党0.5%、国民新党0.2%、たちあがれ日本0.2%。支持政党なしの「無党派層」は71.4%で、過去最高

 とにかく、こんな「政治」と政界の状況で大飯原発の再稼働が強行され、その他各地の原発の再稼働が云々されるということ自体が「ありえない話」というしかない。 本当に新しいタイプの政党、市民・社会〈運動〉、NGO/NPO、研究者、諸個人のネットワークで、政治と言うのもはばかられる、今のこの「政治」を何とかしなければ、どうしようもない。
 『福島と生きる』はそういう試みの一つだと、私個人は考えている。 ご期待あれ。

「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「シンポジウム 「原発災害・復興支援・NGO~現場の活動を通してみえてきたもの、その成果と課題」(2011, 10/31)