オスプレイの配備を拒否する権利を日本は持たない?
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安保問題に関わる主要メディアの記事を読んでいると、ときどき「この人は安保条約の条文を、きちんと読んだことがあるのだろうか?」とか、「政治とか外交の「イロハ」を、きちんと理解しているのだろうか?」と思うことがある。
最近では、毎日新聞の二つの記事を読んでそう思った。
一つは、「クローズアップ2012:オスプレイ日本配備 安全性、未確認のまま 政府、拒否権なく板挟み」(7/14)。
もう一つは、「オスプレイ:低空飛行訓練 日本に拒否権限なし 配慮要請」(7/26)である。タイトルから分かるように、この二つの記事に共通するのは、オスプレイの日本配備を日本政府が「拒否」できないと論じていること、そしてその「根拠」が安保条約そのものにあるとしている点である。曰く、
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・「アジア太平洋重視」の新国防戦略を掲げ配備を急ぐ米国に対し、日本政府は法的な拒否権限を持たず、地元との板挟みにあって有効な解決策を見いだせない」
・「政府が配備計画を拒否できないのは、日米安全保障条約で米軍の駐留を認め、必要な装備品の配備が同条約の前提となっているからだ。核兵器配備など装備の「重要な変更」は日米安保条約に基づく事前協議の対象だが、オスプレイは事前協議の対象外。米側が全国6ルートで計画する低空飛行訓練も日本側に拒否する権限はない」
・「事故が相次ぐオスプレイの低空飛行訓練には関係する自治体から強い反発が出ているが、日本政府に低空飛行訓練自体を拒否する権限はなく、米側に配慮を要請するしかないのが実情だ」
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引用した上の内容は、いずれも日本政府・外務省がそのように安保条約を解釈してきただけの話であって、条約上の「根拠」があるわけではない。安保条約および地位協定のどこを探しても、米国側が配備すると主張する「装備品」を、日本側が「拒否」できないなどと明記している条文・条項など存在しない。
そもそも日本政府は、現在の安保条約を締結した1960年以降、米国の安保政策に異を唱えたり、「拒否」する姿勢を示したことなど、一度としてない。自民党政権時代から、民主党政権に至るまで、ずっとそうなのだ。
なぜか? 拒否する「法的権限」を日本が持たないからではない。拒否するという意思を、一度として日本側(外務省)が持ったことがない、ただそれだけのことなのだ。 メディア全般がそうだと言えるが、このことを日本人の多くはいまだに理解できないでいる。
もちろん、日本が拒否の意思を示した場合に、米国側がそれを受け入れるどうかは分からない。
受け入れるかもしれないし、受け入れないかもしれない。
どちらになるかは、日本側の「外交交渉力」と、個々の問題に関する米国側の「こだわり」の度合いに大きく規定されることになる。
ただ、確実に言えることは、「やってみなければわからない」ということ。これはまさに、安保条約の条文そのものとは別の次元の、政治力や外交力の問題である。
通常、私たちはこのことを「政治のイロハ」「外交のイロハ」の問題として理解している。 しかし、東京に本拠を置く主要メディアは、このことを理解しない/できないようなのだ。いったいなぜなのか?
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私の主張が間違っていると思う人は、琉球新報が次のように書く/書かざるをえない理由を考えてみてほしい。
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日本政府は「米側に口出しする権利がない」とするが、これは統治能力を放棄するにも等しい。日米安全保障条約の事前協議制度は日本側の発言権を確保するためにあるが、事前協議の対象となる「装備の重要な変更」と主張できない根拠は何なのか、明確に説明すべきだ。
仮に事前協議の対象でないとするならば、日米安保そのものに欠陥があるのであり、改定を米側に提起するのが筋だろう。
米国の顔色をうかがい、国民の意向を無視して配備計画に唯々諾々と従うだけならば、主権国家とも民主主義国家とも言えない。
野田政権は配備強行で自らが日米関係の破壊者たらんとしていることを強く認識すべきだ。
(「オスプレイ陸揚げ/国民を脅かし安保か 日米関係破壊する愚行」(7/24))
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私には琉球新報の方が正論を述べているように思えるが、読者はどう考えるだろう。
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・新山口知事に直接理解求める オスプレイ配備で防衛相 (日経)
「森本敏防衛相は30日午前、山口県知事選(29日投開票)で山本繁太郎氏が当選したことを受け、米軍岩国基地(山口県)で実施する予定の垂直離着陸輸送機オスプレイの試験飛行について直接会って理解を求める考えを示した・・・。両政府は安全性を確認した後、早ければ8月下旬にも岩国基地で試験飛行をする考え」
・オスプレイ配備 森本防衛相「米の言いなりになってはならない」(FNN)
森本防衛相(29日朝のフジテレビ「新報道2001」にて)。「アメリカの言いなりになるということであってもいけない。日本が飛行の安全について責任を持つという姿勢は、国民にきちっと示さないといけない」と述べ、25日に立ち上げた調査チームなどで、安全性の確認を独自に行う姿勢を強調。
さらに、オスプレイの配備が日本周辺での抑止力の向上につながるとの認識を示したうえで、「飛行の安全性を確保しながら、アメリカ軍に能力向上のためのシステムを根づかせていくかが、これからの課題」と述べた。また、8月のアメリカ訪問の際に検討されているオスプレイの試乗について、固定翼から回転翼への「転換が行われるときに、どのように安定的に飛行するのかを自分で体験したい」と、強い意欲を示した。
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当然のことだが、「調査チーム」による「事故調査」の結果は、すでに結論が出ている米国側の調査結果の追認に終わる、なんてことはありえないはずだ。「調査」をどのように行うのか、つまり米国が発表する事故調査報告の分析・検証を日本の「チーム」がどのような調査活動によって行うのかは不明だが、米国の調査報告から「独立」した、日本の「主体的」な事故の分析結果を、私個人は非常に楽しみにしている。東大名誉教授の「助言」についても、その内容が公表される日をわくわくしながら待っている。「チーム」の今後の活動に注目したい。
・オスプレイ:「操縦士ミス」と結論(沖縄タイムス)
「米軍当局がモロッコで起きた米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの墜落事故についてまとめた調査報告書で、原因を飛行経験の浅い副操縦士の判断ミスによるものと結論付けていたことが27日までに分かった。内容は近く日本政府に通達される見通し・・・。米側は6月に「機体に問題はなかった」と正式に発表。人為的ミスが原因との見解を日本側に非公式に伝えている・・・」
・オスプレイ:米、低空飛行訓練は計画通り
「米国防総省のリトル報道官は26日の記者会見で、・・・オスプレイの低空飛行訓練について「変更があったとは聞いていない」と述べ、計画通り実施する考えを示した・・・。」
「報道官はオスプレイの安全性について「良好な飛行記録を持つ」と重ねて表明。「海兵隊の部隊で重要な役割を担っている」と強調し、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)配備の必要性を指摘」(共同)
・配備中止 連帯訴え 全国都道府県議長会(沖縄タイムス)
【東京】県議会の喜納昌春議長は25日、都内で開かれた全国都道府県議会議長会(会長・山本教和三重県議会議長)の定例総会に出席し、沖縄に配備予定の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイについて、日本全国の問題としてとらえ、配備反対の意見書を各議会で決議するなどの協力を呼び掛けた。
これを受け、徳島県議会の樫本孝議長は、同機の低空飛行訓練に懸念を示し、同議長会として緊急決議を行うことを提案した。
喜納氏は、相次ぐオスプレイの事故の原因究明や説明もなく県民の頭越しの配備は、県民の生命や生活環境を守る立場から断じて許すことはできないと訴えた。配備後の低空飛行訓練が全国に及ぶことから「沖縄県だけの問題ではなく、日本全国でしっかり受け止める問題と考える」と述べ、各議会の支援を求めた。
樫本氏は、徳島県議会では低空飛行の中止を求める意見書を可決したと述べ、「住民の事故に対する危機感や生活被害の懸念はこれまで以上に非常に強くなってきている」と緊急決議を提案。8月7日開催予定の四国ブロックの正副議長会でも、低空飛行訓練の中止を求めて緊急アピールを提案するとして、各議会にも積極的な取り組みを求めた。
議長会事務局によると、各ブロック議長会の動きに応じて、役員会の開催が検討されるという。