2012年3月3日土曜日

隠喩としての被曝

隠喩としての被曝

 放射能汚染による被曝は隠喩ではない。現実である。
 だが、放射能汚染がどのような現実を、身体と社会の未来にもたらすか、誰にもわからない。
 人々が怖れるのは放射能や放射線ではない。被曝である。放射能や放射線が隠喩になると書いていた人がいるが、そうではない。 隠喩になるのは被曝である。
 被曝は、「数値に翻弄される社会」を支配する隠喩/「記号」となり、私たちの他者とモノに対する知覚/認識作用を触発する。
 私たちは、「数値」に怖れ、おののく。私たちは、「数値」に安堵し、胸をなでおろす。

 あの子/あの人/あの家族は、
 「フクシマ」の子/人/家族だ。
 だから(?!)、
 厭だ/怖い/おぞましい/可哀そう・・・。
 だから(?!)
 来ないでほしい/出て行ってほしい/・・・。
 「弱い者たちが夕暮れ、さらに弱い者を叩く」?

 この米/桃/しいたけ/車のナンバー/製品/・・・は、
 「フクシマ」のモノだ。
 だから(?!)、
 厭だ/怖い/おぞましい/・・・。
 だから(?!)
 買わない/入荷しないでほしい/ボイコット(!)せよ/・・・。

 猪苗代湖/裏磐梯/白河温泉郷/・・・は、
 「フクシマ」にある。 
 だから(?!)、
 行かない。ピリオド。
 (あれほど学生時代/家族・グループ・個人/旅行で、サマー・キャンプ・スキー合宿・温泉で楽しんだ/楽しませてもらったのに?「数値」は自分の目で見た?)

 これを私たちは「風評被害」と呼んでいる。
 ほんとうにそうだろうか?
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<風評被害>福島から避難の子供、保育園入園拒否される 人権救済申し立て/山梨
 福島県からの避難者が東京電力福島第1原発事故による風評被害を受けたとして、甲府地方法務局に救済を申し立てていたことが分かった。福島から避難してきたことを理由に、人権を侵害されていた。同法務局が2日発表した。
 同法務局によると、申し立てた避難者は、自分の子供が住宅近くの公園で遊ぶのを自粛するように、近隣住民から言われた。更に、保育園に子供の入園を希望したところ、原発に対する不安の声が他の保護者から出た場合に保育園として対応できないことなどを理由に、入園を拒否されたという。
 同法務局は、避難者が相手への接触・調査を希望せず、地域への啓発を強く希望したことから、風評に基づく偏見や差別をしないよう呼びかけるポスターを掲示。また、自治体広報紙への広告掲載や自治会でリーフレットの回覧を依頼するなどの啓発も実施した。【毎日、水脇友輔】
・・ 

 去年の4月初旬、「放射能難民」と「放射能差別」という文章を書いた。
・「放射能によってふるさとを追われた人々が、放射能によって差別される。いわゆる「原発難民」と呼ばれている人々に対する、放射能「感染」の「恐怖」に基づく社会的・個人的差別のことだ。」
・ 「ほとんど全て、と言って差し支えないと思うが、「風評被害」に関する報道は、「風評加害」を与える側/組織と人間の問題を論じない。 原発「事故」と放射能汚染に何の責任も負わない、負いようがない犠牲者に対する「放射能差別」(「風評被害」?)は、それ自体が人権侵害である。その自覚を、福島の「外側」に生きる〈私たち〉がしっかり持ち、それを身の回りで広めることが「放射能差別」を考え、なくす出発点になるだろう。」
・「誰もが自然に持つ放射能汚染に対する「一般的恐怖」と、放射能汚染および感染に関する「犯罪的無知」は区別しなければならない。また公的機関や企業体、そこで働く公務員・労働者の犯罪的無知と、個人のそれも区別しなければならないだろう。そしてそのいずれに対しても差別を受けた者は、自らと家族、他者が同じ目に合わないように行動を起こすしかない/起こすべきなのである。」
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 「あれ」から、一年が過ぎようとしている。
 「数値に翻弄される社会」の「隠喩としての被曝」。
 私たち自身の、他者とモノに対する知覚、そして行為を否応なく支配し、呪縛する「隠喩としての被曝」。
 「隠喩としての被曝」は、内省することを知らない。

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●「隠喩としての病い・エイズとその隠喩【新装版】」(スーザン・ソンタグ/訳・富山太佳夫)

 「・・・人間の体に起こる出来事としての病いはひとまず医学にまかせるとして、それと重なりあってひとを苦しめる病いの隠喩。つまり言葉の暴力からひとを解放すること・・・」(「訳者あとがき」)より。

 これに対し、私たちの置かれている状況はもっと複雑だ。
 私たちは、「自己の体に起こる出来事としての〈被曝〉を「医学」にまかせることはできず、〈受苦〉として引き受けることを強いられながら、それと同時に、他者を苦しめる〈隠喩としての被曝〉とその暴力から自己と他者とをともに「解放」すること」が問われているからだ。

 ソンタグは「英語という病」に囚われ、死んだ。これについてはひとまず批評の専門家にまかせるとして、私たちの社会がはまりこんでしまった「病」を自己診断するために、今、必読の一冊と言えるかもしれない。

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千葉・柏 焼却施設を一時的に再開へ
・ごみを燃やしたあとの焼却灰から高い濃度の放射性物質が検出され、ことし1月から運転を停止していた千葉県柏市の焼却施設で、燃やさずに保管していた草木を焼却するために、今月13日から、運転が一時的に再開されることに。
・柏市南増尾にある「南部クリーンセンター」では、去年6月以降、一般ごみを燃やしたあとの焼却灰から国の埋め立ての目安を超える高い濃度の放射性物質の検出が続き、灰の保管場所が無くなったことから、ことし1月に運転を停止。
・高い濃度の放射性物質を出すおそれのある枝や落ち葉は、燃やさずに処分場で保管してきましたが、2000トン近くに達してこれ以上置くことができなくなったため、市は今月13日に施設を再開させて焼却することを決定。
・焼却は草木を一般ごみに混ぜて少しずつ行うが、焼却灰を置くスペースに限りがあるため、運転はおよそ45日間という一時的なものになる見通し。このため、灰を保管するための鉄筋コンクリート製の建物を敷地内に設けることも検討。
・柏市では、市内で出るごみの大半を、もう1つの焼却施設だけを使って処理する状態が続き、市は、「安定したごみ処理を進めていくために、灰の保管場所の確保を急ぎたい」としている。(NHK)