2012年3月20日火曜日

原発再稼働と「ストレステスト」をめぐる混乱

原発再稼働と「ストレステスト」をめぐる混乱

 経産省の原子力安全・保安院は、昨日(3/19)、福井県の大飯原発3、4号機に続き、愛媛県の伊方原発3号機の「ストレステスト」(一次評価)の結果を「妥当」と最終判断した。しかし、「ストレステスト」の二次評価と再稼働との関係、また「ストレステスト」の二次評価と国が統一見解をまとめるとされてきた再稼働にあたっての「安全基準」との関係が明瞭でなく、混乱を招いている。混乱の原因はどこにあるのか。問題を整理しておこう。

 今年に入り、枝野経産相を始めとする関係閣僚から、保安院による「ストレステスト」一次評価の「妥当」評価を経て、原子力安全委員会がゴーサインを出せば、あとは「地元合意」が確認できさえすれば、国の「政治判断」によって再稼働に踏み切ることができるかのような発言が続いてきた。実際、1月に一部の政府関係者(官僚)が一部の外国大使館に対し、三月末までに停止中原発の再稼働を行う旨を伝えたといった「風評」が流れ、当初は4月1日に発足予定だった原子力規制庁の立ち上げを前に野田政権が再稼働に踏み込むのではないか、という憶測が飛んだのである。
 しかし、少し冷静になって思い出してみたい。そのそも政府・民主党が、「ストレステスト」をどのようなものとして位置付けていたのか、また再稼働の「政治判断」を下すにあたり、国としてまとめる(と民主党内閣が主張した)「原発の安全基準」との関係はどのようなものだったのか。
 去年の7月にさかのぼり、ポイントを整理し直した方がよさそうである。


「ストレステスト」とは何だったのか?
 すべては、「3・11」以前のこの国の「原子力行政」なるものが、あまりにもひどすぎたことに原因がある。このことをきちんと踏まえないと、菅政権から野田政権へと混乱をくり返す政府の、いわば支離滅裂としか映らない、一貫性のない、場当たり的対応に、こちらまで混乱してしまいかねない。

①「ストレステスト」をめぐる「政官不一致」と「閣内不一致」
 昨年、7月8日の「全原発耐性テスト 再稼働、突然「待った」と題された毎日新聞の記事。
 「政府は6日、全原発を対象に新たに安全性を点検するストレステスト(耐性試験)を行うと発表したが、経済産業省原子力安全・保安院は6月、定期検査中の原発は「安全」と宣言したばかり。
 方針変更の背景には、原発再稼働を急ごうとした海江田万里経産相に対し、脱原発に傾く(?)菅直人首相が待ったをかけたことがある。政府の迷走は立地自治体や国民の不信を高める。九州電力玄海原発(佐賀県)などの再稼働が遅れるのは必至で、夏場の電力不足懸念が一段と強まりそうだ。
 「原子力安全委員会に聞いたのか」。6月29日に玄海原発の地元に再稼働を要請した海江田氏を待っていたのは、首相の厳しい言葉だった。安全委員会の了解を取っていないことをなじる首相に対し、海江田氏は「安全委員会を通すという法律になっていない」と反論。首相は「それで国民が納得するのか」と再稼働に反対する姿勢を鮮明にした」

 翌9日の、「ストレステスト 2段階 再稼働判断」と題された東京新聞の記事。
 「政府は9日、原発再稼働をめぐる統一見解の概要をまとめた。ストレステスト(耐性評価)の実施を明記。
(1)玄海原発など定期検査中の原発は損傷が生じるまでの幅である「裕度」をまず確認
(2)その上で欧州連合(EU)のストレステストを参考に総合的な安全評価をする-の二段階で行う。
 再稼働の可否は第一段階で決定ただ、安全への信頼性を高めるためにより具体的なテストも行うことにした。 原子力安全委員会も安全性の判断には関与し、具体的な裕度を関係自治体に示した上で再稼働への同意を取り付ける方針だ。枝野幸男官房長官が11日に発表する」

②細野発言
 ところが、翌10日に朝日新聞が報じた細野発言で、事態は余計に混乱することになる。
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原発ストレステスト「再稼働の条件」 細野原発相が明言
 細野豪志原発担当相は10日朝のフジテレビの番組で、全国の原発を対象に新たに導入を検討している安全性評価(ストレステスト)について「再稼働の条件になってくる」と述べた。 政権はストレステストを含む原発の新たな安全確認手順について、細野氏と枝野幸男官房長官、海江田万里経済産業相で最終調整しており、11日にも政権の統一見解を公表する。
 細野氏は番組で「ストレステスト自体が明確に定義されていない。欧州でよく使われる言葉だが、先進的な事例を参考にした上で日本流のものをつくらなければならないテストの結果と再稼働が全く別ということは考えにくい。日本版の安全基準を作り、それをクリアして再稼働になる」と述べた。
 テストの対象となる原発は「稼働中のものも当然対象になり得るし、(定期点検などで停止中で)再稼働するものも対象になる」として、運転状況にかかわらず全国の原発が対象になるとの考えを示した。(朝日)
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 私は、上の各紙記事を引用した「ストレステスト」と市民の「安全・安心」(7/19,2011)の中で、この細野発言が、「(7月11日に)予定されている「政府統一見解」から明らかに逸脱した、無責任な発言である」と論評を加えているが、一言で言えば、野田政権は、菅政権時代のこの細野発言を清算し、「無かったもの」として処理し、ストレステスト一次評価→原子力安全委員会の「妥当」判断→「地元合意」→「政治判断」の流れを意図的に作り出そうとしてきたのである。マスコミ的に言えば、再稼働を煽る原発推進派の読売新聞や産経新聞の記事が、これに一役買ってきた。

 つまり、私が言わんとしたのは、細野発言は原発を所管する経産省、また内閣としての見解ともかけ離れた「踏み込みすぎた発言」(しかし、それ自体はまっとうな正論)ということであり、この細野発言が以降、再稼働の「同意」を国から要請された(しかし、法的根拠はない)立地自治体側の混乱と反発を招く結果になってしまったのである。


 だから、その意味では、たとえば福井県の原子力安全専門委員会が、大飯原発3、4号機の再稼働判断をまえに、次のように言うのは一理あると言わねばならない。
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30項の安全策中心に暫定基準を 県安全委、保安院へ反映要請
 福井県は20日、原発の安全性を技術的に検証する原子力安全専門委員会を県庁で開き、東京電力福島第1原発事故の技術的知見や地震・津波の解析、経年劣化の影響などについて経済産業省原子力安全・保安院がまとめた中間報告の説明を受けた。中川英之委員長(福井大名誉教授)は、事故分析に基づきまとめた30項目の安全対策をベースに、県が求める福島の知見を反映した暫定的な安全基準を明確に示すよう求めた
 保安院は、専門家でつくる五つの意見聴取会での検討内容を踏まえ、外部電源や使用済み燃料プール冷却・給水機能の信頼性向上など30項目の安全対策を中間報告にまとめた。この日の同委員会に保安院の山田知穂原子力発電安全審査課長ら4人が出席して説明した。
 新たな安全対策に関して委員からは、国際原子力機関(IAEA)に提出した事故報告書や日本原子力学会がまとめた教訓などを包括していると評価する(??)意見が出た。
 一方で「事業者が国の規制を守っていれば自分たちに責任がないと思っているとすると危険」「大津波が来るかもしれないという国会の議論を一蹴(いっしゅう)した。(事業者や国の)そういう風土がどうやってできたのかは総括する上で大前提」といった厳しい指摘も出た。 大飯原発3、4号機の再稼働をめぐって中川委員長は「30項目の安全対策を中心に安全のための判断基準を作り上げていただけると思っている」と述べ、各中間報告をベースに県が要請する暫定的な安全基準を策定するよう求めた。
 保安院は、再稼働の判断にはストレステスト(安全評価)の1次評価結果だけでなく、国民理解や地元の了承が必要との認識を示す一方、安全基準をいつまでにどのような形で提示するかは明言しなかった
 22日には「シビアアクシデント(過酷事故)対策規制」の意見聴取会を設置し、30項目の安全対策の重要度などを位置付ける議論を行うとしている。
【県原子力安全専門委員会】  関西電力美浜原発3号機死傷事故後の2004年8月に県が設置した。県内原発の安全性について専門的な立場で技術評価や検討を行い、助言する。電子材料、原子力工学、耐震工学、地質学などを専門とする県内外の大学教授ら委員12人(臨時委員含む)で構成している。東京電力福島第1原発事故後の会合では、日本海側で過去に起きた津波のデータを蓄積するよう提起。3電力事業者が若狭湾周辺の堆積(たいせき)物を採取するボーリング調査に着手する契機の一つとなった。
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 ここで、上の「暫定的な安全基準」が、昨年来論議されてきた「安全基準」ではないこと、また保安院が、それさえも再稼働是非の条件に入れていないことを確認する必要がある。保安院は、大飯原発3、4号機の再稼働をめぐって「30項目の安全対策を中心に安全のための判断基準を作り上げ」る意思など、最初から持っていない。
 しかし、この状態が続く限り、仮に立地自治体が再稼働にゴーサインを出したくとも、出しようがない、そういう状況が出来上がってしまった、と言えるのではないだろうか。
 問題は、野田政権にその認識、危機意識がないことだ。「原子力規制庁」なる原発推進機関の設置法の国会審議がいつ始まり、規制庁がいつ正式に発足するかもわからない。

 こうした現状を踏まえるとき、脱原発派に問われていることが、危機アジリ的に再稼働問題を論じることにあるとは私には思えない。これから夏にかけ、じっくり腰を据え、それぞれの地域において、何をもって〈脱原発〉と言うのか、その思想と行動の論理をいっそう深め、少しでも世代を超えた運動と人のネットワークを広げることが、一番重要ななことではないかと思うのである。 そこにおいて、おそらく最も重要な「アジェンダ」とは、〈「地域再生」や「村おこし」の中に脱原発をいかに位置付けるのか〉というこれまでの脱原発運動が素通りしてきた課題ではないだろうか。
 〈災後としての3・11以後〉の日本社会において、このテーマに対する明確なビジョン抜きに、もはや脱原発を語ることはできないのではないか。
 引き続き、考えて行きたい。

「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「「ストレステスト」のマヤカシ---2段階で再稼働判断?」(7/11,2011)
⇒「菅内閣は退陣すべきである」(7/12,2011)

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「拙速な再稼働反対」意見書可決 越前市会、大飯原発3、4号で
 福井県の越前市会は19日、関西電力大飯原発3、4号機の拙速な再稼働に反対する意見書を全会一致で可決した。同市議会事務局によると、今回の原発再稼働に関して否定的な意見書を可決するのは県内市町会で初めて。
 意見書は「東京電力福島第1原発事故の真相究明が終わらなければ、新たな原発事故を防ぐための改善策や解決策が見いだせない」とした上で「事故以前と同じ基準で原発の安全性を確認し、再稼働を判断することは到底、国民は納得しない」などと指摘。 政府に対し、事故原因の徹底的な解明や原発周辺の地震の可能性について科学的な根拠に基づく調査などを行い、停止中の原発の運転再開を拙速に進めないよう求めている。
 嵐等議長は報道陣に対し「原発の安全レベルをもっと高くしなければならない。意見書は近く県にも提出したい」と話した。 意見書可決を受けて奈良俊幸市長は「県は慎重に原発の安全性の確認に努めており、市会の意見書の趣旨に沿う形で対応していると認識している。市としても引き続き、原発の安全対策の推進を国などに求めていく」とコメントした。(福井新聞)

<関電筆頭株主>大阪市の「原発廃止」提案に波紋
 関西電力の筆頭株主である大阪市が株主総会で全原発の廃止を含む株主提案をする方針を決めたことに、各方面で波紋が広がっている。市は神戸、京都両市にも同調を求める意向だ。「多くの株を持つ機関投資家の賛同は得られない」という分析がある一方、「橋下徹市長率いる大阪市の提案は個人株主を動かす」と評価する声もある。総会は6月開催予定だが、3分の1に達する個人株主の動きも鍵を握りそうだ。

【大阪市】全原発廃止、関電に株主提案へ
 橋下市長は、昨秋の市長選の際から株主提案権の行使を明言しており、関電は「事業活動に理解を賜れるよう説明を尽くしたい」(八木誠社長)と対話を求めてきた。ただ、今月18日に大阪府市のエネルギー戦略会議が取りまとめた方針(骨子)には「可及的速やかに全ての原発を廃止」と、原発全廃が明記された。関電は現時点で、原発全廃には応じられないとする姿勢だ。
 これに対し橋下市長は19日、報道陣に「戦略のない原発ゼロという提案ではない。原発ゼロに至るまでの工程を考えたうえで株主提案をやる」と述べ、関電に対して今後の需給見通しなどを示すよう改めて求めた。即時の原発停止は求めていないことから、今後、データに基づく需給議論の中で両者の“歩み寄り”の可能性はある。
 大阪市が保有する関電の発行済み株式は約8.9%。神戸市は約3%、京都市も約0.5%を保有する。橋下市長は、神戸、京都両市も「一緒にやってくれると信じている。僕らは選挙で選ばれ、背後には有権者が控えている。単純な13%の株主として扱っちゃいけない」と述べた。
 ただ、関電の株主には、株式29%を保有する金融機関など機関投資家も多い。大手金融関係者は「機関投資家は経済合理性で判断する。原発事故によって原発に対する見方は変わっていない」と分析し、市の提案に賛同する可能性は低いとみる。
 一方、関電株主の約3分の1を占める個人株主。例年、市民グループらが「原発撤退」を提案してきたが、東京電力福島第1原発事故後の昨年の総会でも賛同は前年比0.1ポイント増の3.9%にとどまった。だが、NPO法人株主オンブズマン代表の森岡孝二・関西大経済学部教授(企業社会論)は「株式約1割を保有する筆頭株主の(大阪市の)提案は重みが違う。一つの大きな流れと受け止め、賛成する株主も多いのでは」と個人株主の動きを注視している。【毎日、横山三加子】

福島第二原発1号機、30年超認める 保安院
 経済産業省原子力安全・保安院は19日、4月20日に運転開始から30年を迎える東京電力福島第二原発1号機(福島県、110万キロワット)について、東電が提出した今後10年間の運転管理方針を認める審査書案を専門家会合で示した。東電は東日本大震災の津波で被災した同原発の原子炉の冷温停止を維持する管理を続ける。  ただし、今後原発を再稼働させる場合は(!!!)、改めて保安院の評価を受ける必要があるという。地元の福島県は、国や東電に対して福島第二原発全4基の廃炉を求めている。
 福島第二原発は昨年3月11日の大震災で運転中だった全4基が自動停止。非常用発電機が津波で浸水するなどして、1、2、4号機が全交流電源を喪失したが、同月15日までに復旧作業で冷温停止になった。福島第一で起きた炉心溶融や水素爆発は免れたが、国内の原発で過去になかった「レベル3」の深刻な事態に至った。 (朝日)
⇒「で、私たちは福島第一5、6号機と第二原発をどうするのか?」(12/14,2011)