自衛隊は何を守り、誰のために戦うのか?--「災後」における自衛隊の機能と役割をめぐって
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野田政権は、今通常国会に「国連平和維持活動(PKO)協力法」の「改正」案提出に向けて準備を進めている。その焦点になるのが、自衛隊の「武器使用権限」の解釈の拡大である。 しかし、この問題をめぐっては、賛否両論双方に混乱がみられる(と私には思える)ので、国会での審議が始まる前に論点を整理しておきたい。今回は、解釈拡大に賛成の立場を取る、今日付の読売新聞の社説(「PKO法改正案 「駆けつけ警護」を可能にせよ」)を取り上げてみよう。
改憲派の読売新聞の主張は以下のようなものだ。
A、自衛隊は、「基本的に正当防衛目的の武器使用しか認められていない」。これを超える武器使用は、「憲法の禁じる他国への武力行使に当たる恐れがある」、という内閣法制局の憲法解釈が政府統一見解になっているからだ。
B、しかし、「国連決議に基づくPKOの武器使用に、武力行使の概念を適用する」政府見解には「重大な疑義」がある。というのも、読売新聞の解釈によれば、
C、仮に、政府の憲法解釈を「尊重」するとしても、内閣法制局が「グレーゾーン」とする部分には、武力行使に相当せず、違憲でない武器使用の事例が多数あるはず」だからである。
(⇒このBからCへと移行する憲法解釈論は、実はアフガニスタンの「国際治安支援部隊(ISAF)」への自衛隊の「派遣」を主張した民主党および小沢一郎氏の憲法解釈論と同じである。)
D、Cの具体例として、読売は次の4つの類型をあげる。
①離れた場所にいる民間人への「駆けつけ警護」、
②他国の軍隊との宿営地の共同防衛を可能にする武器使用、
③他国軍への駆けつけ警護、
④任務遂行目的の武器使用。 読売は、
E、これらを可能にする法「改正」を推進しているのは外務省であるが、防衛省は「消極的」とした上で、「改正」賛成の立場から野田政権に「提言」する。
F、「大切なのは、政治家が官僚任せにしないこと」。
「改正案作りや国会審議を通じて、政治の意思をきちんと示すべき」・・・。
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歴代の内閣法制局は、「外部」からの「計画的・組織的」な「侵略」行為や武力攻撃事態に際し、自衛隊が「敵」を撃退する=「自衛」のための「必要最小限」の実力行使(事実上の武力行使)をすることは憲法上違憲ではない、という九条解釈を行ってきた。
問題は、「国防」=「自衛」の範囲を超える海外における自衛隊の武力行使/武器使用の基準をどうするか、にある。国連PKO法(=自衛隊の国連PKOへの参加に関する根拠法)が制定された20年前より、これをめぐり国会内外で、実に不毛な論争が展開されてきた。 ここで「不毛」と言うのは、日米安保条約に基づく安保体制が無期限に存続する限り、自衛隊の海外における部隊展開は、半永久的に米軍の後方支援を担わされるか、それとも自衛隊員が「国際の平和と安全/安定」という「大義」の下で、米軍とNATO軍を中心とした多国籍軍の「戦略的捨て石」になるか、そのいずれかでしかないからである。 国=外務省は、その真実、自衛隊の海外「派遣」の矛盾を「国益」という言葉で覆い隠してきたのである。
武力紛争=内戦状態にある国や地域に「派遣」された自衛隊が、現在よりも「武器使用」規制が緩和され武装を強化するということは、言葉を換えれば、それだけ武装勢力との攻防局面に自衛隊がさらされ、殺される可能性が高くなるということだ。さらに、「派遣」隊員の「危険手当」の増額、装備品の増加、輸送コストの増大等々、「武器使用」緩和は、単年度ベースの防衛予算そのものも膨張させることになる。だから防衛省は、当然にも、消極的にならざるをえない。
もっと言えば、「戦争をたたわない自衛隊」が自衛隊の「本分」であり、だからこそ入隊したという自衛隊員の比率は圧倒的に高い。子どもを自衛隊に預けた親や家族が安心できたのもそのせいである。
さらに、少子高齢化で、一般社会の人口構成よりも「逆三角形」状態になり、それでなくとも自衛隊の存亡が危ぶまれている現下の状況にあって、防衛省としては、続発する隊内の「いじめ」や「綱紀」の緩み、「不祥事件」、一般社会よりも高い自殺者率などはともかくとしても、戦闘で死者を出す、などということは絶対に避けたいことなのだ。「自衛隊=死ぬかもしれない」という恐いイメージが流布されてしまえば、志願者の減少につながるからである。
読売の社説は、社としての従来の主張の単なる焼き直しであり、内容的に何も新しいものはないのだが、要するに読売は、野田民主党に対し、こうした防衛省の防衛官僚的懸念を、「政治主導」によってねじ伏せる「政治の意思」を示せと、外野席から騒いでいるような主張の典型である。南スーダンであれどこであれ、「派遣」された自衛隊員に、事実上の戦闘行為ができるように法「改正」をしろ、と言っているに過ぎないのである。何のために? 「日米同盟」なるものの「深化」のために? 日本の「国際貢献」なるものの人柱となるために?
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〈3・11級の複合惨事と自衛隊〉
政治家や官僚、マスコミや学者、財界は、末端の自衛隊員が、仮に対テロ戦争や「軍民一体の平和構築」の任務途中の戦闘行為で死んだところで何の責任も負わず、犠牲も払わない。彼/彼女らは、自分が武器を持ち戦い、負傷したり死んだりするわけではないので好きなことを言い放題だ。さらに、自衛隊を外交の駒としか考えない、好き勝手に自衛隊員を引きまわそうとうする外務省もいる。 こうした安保・防衛利権や既得権が磁場となり、様々なアクターによる自衛隊をめぐる様々な言説が飛び交うことになる。
『日米同盟という欺瞞、日米安保という虚構』の中で、私は〈憲法九条の死文化〉論者の立場から、こうした内閣法制局および改憲・護憲論双方の憲法解釈の盲点と、それぞれの政治主張の無責任さについて述べている。ここでそれを繰り返すつもりはない。以下では〈ポスト3・11状況における自衛隊の役割とは何か?〉という観点から、少し考えてみたい。
「3・11以後」を「3・11以前」と分かつ象徴的言説として、「戦後から災後へ」ということが語られてきた。しかし、すべての事柄と同様に、自衛隊についても「3・11以前」の「既定の方針」を抜本的に見直すことなく、「既定の方針」の上に継ぎ足す形で「防災」における自衛隊の役割が云々されてきたのである。ここに根本的な問題と矛盾がある。 たとえば、昨日付の産経電子版の記事(「医薬品輸送、女性医師が米軍を動かした」)の冒頭は、こんなくだりになっている。
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東日本大震災では米軍による支援活動「トモダチ作戦」が大きな成果を上げたが、その先駆けが被災地への医薬品の輸送だったことはあまり知られていない。東京・本駒込の日本医師会(日医)に医薬品が集まるめどが立ったのに、輸送手段が見つからない。厳しい局面で機転を利かし、米軍に直接交渉したのは、米ハーバード大学の人道支援組織の一員として派遣された有井麻矢(ありい・まや)医師(31)だった。
震災発生から1週間もたたない昨年3月16日。被災地から「医薬品が足りない」との声が日医に相次いでいた。製薬各社の協力で確保できたが、問題は膨大な量をどう迅速に運ぶかだった。期待した航空自衛隊から色よい回答を得られず、落胆が広がった。
「米軍に協力要請できるかもしれません」。声を上げたのは、たまたま居合わせた有井だった・・・・。
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以下、この記事は、有井医師の奮闘を描写するのだが、しかし産経新聞は、なぜ「期待した航空自衛隊から色よい回答」が得られなかったのかを問おうとしない。なぜなのか?
「第2の3・11」事態に備える国と自治体の「防災対策」において、自衛隊はいかなる責任と役割をはたすべきか。自衛隊は、「3・11」と同レベルの津波・地震・原発惨事に際し、「国民」を守り、ガレキの山から救出し、迅速に避難させることができるように、全国の各方面・部隊を編成し直すべきか、またそのためにどのような〈装備〉を持つべきか?
「3・11」以後、中国・北朝鮮・ロシア脅威論と、米軍の「抑止力」論だけは盛んにキャンペーンされてきたが、、およそこうした観点から自衛隊の「防災=国防戦略」を論じるものが一つとして見当たらないのはなぜだろう。
自衛隊は、「国民の生命と財産」を守るためにこそ戦うべきではないのか。少なくとも、腐敗した南スーダンの現政権を支えるために南スーダンの武装勢力が戦うことが、今自衛隊に問われていることではないはずだ。自衛隊に求められているのは、海外における武器使用ではなく、国内における「防災」を担いえる装備の拡充と技術の向上なのではないか。
たとえば、災害時における「膨大な医薬品」を「迅速」に運べる装備と技術。
あるいは、「トモダチ作戦」なるもので、米軍が「朝鮮有事」を想定した軍事訓練の一環として、福島以外で行ったような「救援・支援」展開を担う装備や技術・・・。
いかにすれば自衛隊は、「第2の3・11」事態において、他の誰でもない、まず私たちの生命と財産を守る「実力部隊」たりえるのか? 2月からこの間、東京、福島、福井、茨城、鹿児島等々で、自衛隊が参加した「防災訓練」が行われてきた。「武器使用」規制緩和云々以前に、私たちはこれら個々の訓練の具体的分析や検証を通じて、そういう議論を始める/やり直す必要があるのではないか。次回はそういう議論を試みたいと思う。
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3/31
・米軍へ役務提供検討=司令官派遣は見送り―PKO法改正
政府が今国会提出を目指す国連平和維持活動(PKO)協力法改正案をめぐり、自衛隊の任務に、米軍への物品・役務の提供を加える方向で調整していることが31日、分かった。米側からの要請によるもので、日米同盟強化の一環。具体的には、PKOに従事する自衛隊ヘリで、PKO以外の作戦を遂行する米兵の輸送などが可能になる。 (時事)
3/27
・南北スーダンが交戦 国境地帯、首脳会談を延期
ロイター通信によると、南スーダン政府は同国北部ユニティ州の油田で27日、スーダン軍による空爆があったと非難した。26日には南スーダン側がスーダン南部の油田地帯ヘグリグを攻撃、これを受けてスーダン政府は、来月に予定されていた南北首脳会談を延期すると発表した。 双方とも、相手の攻撃に対する反撃と主張しており、報復合戦が激化する恐れもある。フランス通信(AFP)によれば南スーダンのキール大統領は26日、「これは戦争だ」と語った。
戦闘があったのは主に国境付近で、国連平和維持活動(PKO)で日本の陸上自衛隊が派遣されている南スーダンの首都ジュバからは約500キロ離れている。 南スーダンは昨年7月にスーダンから独立。両国間ではその後、原油収入の配分などをめぐる協議が難航し緊張が高まっていた。 一方、スーダン軍報道官は26日、同国西部ダルフール地方の反政府武装勢力「正義と平等運動(JEM)」が、今回の衝突を利用し、スーダン軍に攻撃を仕掛けていると非難、JEM側はヘグリグ周辺に部隊を配置していることは認めつつも交戦は否定している。【産経、カイロ=大内清】
3/18
・北朝鮮、中国の動向「不透明」=首相、防大卒業式で訓示
野田佳彦首相は18日午前、防衛大学校(神奈川県横須賀市)の卒業式で訓示し、「核・ミサイル問題を含む北朝鮮の動き、軍事力を増強し周辺海域で活発な活動を続ける中国の動向など、わが国の周辺環境は厳しさを増すと同時に、複雑さを呈し、不透明感が漂っている」と指摘した。「このような新たな事態の中においても、(自衛隊は)しっかりとこの国と国民を守らないといけない」と述べた。
首相は、東日本大震災での自衛隊の活動に触れ、「被災地のみならず、国民の高い評価を得ることができた。長く歴史に刻まれる1年になると思う」と強調。最後に「この国を守ることの責任を自覚し、世界に羽ばたく気概(???)を持ち、常に国民とともにある姿勢を堅持して幾多の困難を乗り越えていただきたい(???)。皆さんならば、それが必ずできると確信している」と語った。 (時事)
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このような野田首相の「訓示」が、どのような「立ち位置」から発せられているか、私たちは末端の自衛隊員とともに、よく吟味してみるべきだろう。「戦争を知らない子どもたち」、この国の政治家、「防衛オタク」連中による、「戦争と軍隊のリアリズム」を弁えない観念的論議の典型ではないか。政治家自身が担いきれず、現在の自衛隊の在り方では担いようがないこんなことが「現場を知らない連中」によって上意下達的に強制されるから自衛隊内で精神の疾病が蔓延するのである。
・沖縄米軍基地に陸自司令部機能 抑止力を維持 (日経)
●沖縄の米軍基地を自衛隊と米海兵隊で共同使用する検討が開始。
●在沖縄海兵隊の主力戦闘部隊・第31海兵遠征部隊(31MEU)の司令部があるキャンプ・ハンセンに陸自の司令部機能を置く。
⇒「指揮通信機能の統合運用」。「米軍再編計画の見直しにより、沖縄の海兵隊がグアムやハワイなどに移転した後、有事への対応能力が低下しないように備える」というのがその論理。
●在日米陸軍司令部があるキャンプ座間(神奈川県)には、12年度末までに陸自中央即応集団司令部が移転。在日米軍司令部などがある横田基地(東京都)には、今月下旬に府中基地(同)の空自航空総隊司令部や関連部隊が移転。
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日米両政府は、これらが「自衛隊の[有事]対処能力」を高め、「将来的に基地管理権の移管につなげる狙い」もあるとしているが、逆に言えばそれは、全国の自衛隊基地が米軍の戦略と思惑次第でいつでも「共同使用」できるようになることを意味している。「共同使用」は在日米軍の永久駐留を誤魔化すためのトリックに過ぎない。
・普天間補修費は日本負担の明記を 中間報告で米側要求
在日米軍再編見直しをめぐる日米協議で、4月中に取りまとめる予定の中間報告に米側が米軍普天間飛行場の大規模な補修に着手する方針と日本の経費負担を明記するよう要求していることが17日、分かった。日本側は普天間固定化を印象付けかねないとして難色を示した。複数の日米関係筋が明らかにした。
中間報告で本格的な補修の着手が明示されれば、沖縄側の反発がさらに強まるのは確実。オバマ政権は普天間継続使用の方針を米議会に示すためにも中間報告への盛り込みが必要との姿勢だ。 日本側は中間報告への盛り込みに慎重な考えを伝え、今月下旬の協議であらためて調整する。(共同)
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・大阪府・市、全原発廃止提案へ 関電に、送電は別会社化
大阪府と大阪市でつくる府市統合本部は18日、エネルギー戦略会議を市役所で開き、関西電力の全ての原発を可能な限り速やかに廃止することや発送電分離に向けた送電部門の別会社化などを柱とした株主提案の骨子を固めた。役員と従業員の削減も求める。
市は関電株式の約8・9%を持つ筆頭株主。6月に予定される同社の株主総会で、初めてとなる株主提案権の行使に踏み切り、可決を目指す。 だが株主提案で関電の事業などを定めた定款を変更する場合、議決権のある株式総数の3分の2以上の賛同を得ることが必要。他の株主の支持をどこまで広げられるかが焦点となる。(共同)