年間被曝線量の「緩和」に、なぜ反対しなければならないか
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国連で自分が演説した言葉に責任を取ろうとせず、早くもブレ始めた野田政権から、またしても原発災害の被害者を愚弄する動きが出始めている。 政府・文科省の放射線審議会が、 「一般住民の年間被ばく線量の限度について、原発事故などからの復旧期は、年1~20ミリシーベルトの間に設定することを許容する考え方を提言する方針」だというのである。
毎日新聞によると、その理由はこういうことらしい。「放射性物質の汚染が広がる現段階では、年1ミリシーベルトを目指すと必ずしも経済性や社会的側面から合理的な対応が取れない」・・・。
「原子力緊急事態宣言」も解除されず、政府が言う意味不明の「冷温停止」がいつになるのかさえも覚束ない状況の中で、「国民」を放射能汚染と被曝から守る観点から、むしろ規制を強化すべき立場にある(はず)の「放射線審議会」が、原発災害被害者の声を無視し、国と東電、そして自治体の都合に合わせて規制を緩和するという。
まず、事実関係を押さえておこう。
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・被ばく限度:原発復旧期「年1~20ミリシーベルト」
国内の被ばく線量基準を検討する文部科学省の放射線審議会(会長・丹羽太貫京都大名誉教授)の基本部会は、東京電力福島第1原発事故を受け、一般住民の年間被ばく線量の限度について、原発事故などからの復旧期は、年1~20ミリシーベルトの間に設定することを許容する考え方を提言する方針であることが明らかになった。平常時の一般住民の限度は、国の告示などで年1ミリシーベルトと定められている。6日に開く部会で議論する。
国際放射線防護委員会(ICRP)は、原発事故などの緊急時は年20~100ミリシーベルトの被ばくに抑えることを目指し、緊急事態からの復旧期は、「現存被ばく状況」と位置づけ、地域住民の健康などを考慮して年1~20ミリシーベルトの間のできるだけ低い値を目指すべきだと勧告している。
同部会は、放射性物質の汚染が広がる現段階では、年1ミリシーベルトを目指すと必ずしも経済性や社会的側面から合理的な対応が取れない可能性がある(?)ため、ICRPが示す「現存被ばく状況(年1~20ミリシーベルト)」の国内制度への適用を検討することにした。
内閣府原子力安全委員会は7月、原発事故で政府が出した避難指示の解除に向け、ICRPの勧告に従い、住民などの年間被ばく量を1~20ミリシーベルトの範囲で決めることを暫定的に認めていた。
基本部会は、緊急時が収束した後も長期間汚染が続く現状を受け、年1ミリシーベルトを長期的な目標に据えつつ、当面の目標(参考レベル)を設定することについても議論する。その際、子どもや妊婦ら放射線の影響を受けやすい人については、特別な配慮を求めるとみられる。
ICRPは「参考レベルは安全と危険の境界を表すものではなく、1~20ミリシーベルトの低い値を選ぶべきだ」との考え方を示している。【毎日・久野華代】
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規制緩和に反対する5つの理由
ポイントのみ、記しておこう。
① 大前提として、市民の生命・健康、生活と労働の安全・安心の向上に背反する、いかなる規制緩和に対しても反対すべきであること。これは被曝線量の規制緩和にとどまらない。
② 「復旧期」とは何年間のことか。10年、20年、それとも30年? 一度規制緩和されたなら、それが「前例」となり、永久化すること必死。
③ これから行われる除染活動の規制緩和(除染達成の基準値の緩和)になること。それによって福島県内における国・東電、そして自治体の行政責任と補償責任をも軽減することを意図したものであること。
これと同様に、福島県外の「ホットスポット」地域の除染活動の国・東電、自治体の行政責任と補償責任の軽減にもつながること。
④ 今後も起こりえる原発災害に対する悪しき前例となること。
⑤ 今となっては、原発推進国家連合によって定められた過去の遺物、ICRP基準を元に発想し、議論することから脱却する必要があること。
レヴェル7の原発事故を起こした当事国として、日本は原発災害において市民救済・補償の観点に立った国際的規範となる使命を負っていること。少なくとも、国際的な悪しき見本とならないこと。
もちろん、上に挙げた理由以外にも、まだまだ指摘できることはあるかもしれない。いずれにしても、結論的に言えば、どの角度から見ても、年間被ばく線量の規制緩和は、「粉砕の対象」でしかありえない、と私は思う。
読者はどう考えるだろうか。
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それにしても、「原子力ムラ」の住人たる「放射線審議会」の面々は、放射能汚染や被曝に対する一般的恐怖というものを理解できない人たちなのだと、つくづく感じさせられる。そして、福島県民全般、立地自治体の住民が、何に怒り、嘆き、声をからして国や東電に抗議してきたのかも、基本的にこれら「科学者」や「専門家」と呼ばれている人々は理解できない人たちなのだと。文部官僚は言わずもがな、のこと。 そのことは原子力安全委員会が、「7月、原発事故で政府が出した避難指示の解除に向け、ICRPの勧告に従い、住民などの年間被ばく量を1~20ミリシーベルトの範囲で決めることを暫定的に認めていた」にも、はっきり示されている。
どういう言葉、表現が適切なのかも分からないが、とにかくこれらの人々は、ダメ、何を言っても通じない、そのことがはっきりしたように思う。この人たちは国と自分の「専門」を背負いながら、生きた、具体的な人間、たとえばあなたや私を、切り捨てる人々である。本質的なところで「内省に欠ける人々」とでも言えばよいだろうか。このことは肝に銘じておいたほうがよい。
ただ、以下に書こうと思うのは、原子力ムラの「科学者」や「専門家」のことではない。この間、個人的にずっと引っかかったままの状態にある「自治体の責任」についてである。
〈原発災害における自治体と市民の関係〉
たとえば、上の年間被曝量規制緩和問題に関して言えば、福島県や県内市町村の首長や議会が、国に対して「NO!」を突きつけるなら、市民が動くまでもなく、この問題はケリがつくはずである。それが市民の生命・健康、生活と労働の安全と安心を守るべき「自治体の責任」だと私は思う。
これと同じことが、「原子力緊急事態宣言」解除以前の、政府が言う「冷温停止」以前の、避難準備区域の解除問題にも言える。しかし福島県は、関係自治体は「NO!」と言わなかった。なぜなのか?
原発災害においては、地元自治体自体が被害者となる。だから事故後において、国と東電の責任を不明確にしたまま「自治体の責任」を問うことはアンフェアである。しかし、もしも自治体が、自治体機能や財政の復元、行政活動の復活を第一義的に発想するのだとしたら、それは明らかに誤っている。なぜなら、私たちにとっての「コミュニティ」とは、今そこで生活している自然的環境であったり、職場や学校を含めた人間的関係であったとしても、行政機関としての自治体、「地方公共団体」ではないからだ。
私たちが一般的に呼んでいる「自治体」と私たち市民、住民との間には、実際にはきわめてシリアスな緊張関係がある。どこか、そして常に、この点が曖昧にされているのではないだろうか?
福島第一原発大災害を通して明らかになったことは、立地自治体はもとより、道府県レベルで完全に財政が破綻してしまうことである。その責任は国と東電が負うべきであり、市民・住民が負わされるべきいわれはない。まして、今以上の被曝の危険を冒してまで。少なくとも、私はそう思うのである。
問題の根っこには、国の原子力行政なるもの、それを受け入れてきた自治体のあり方、そして机上の空論で構築されてきた「防災対策」なるもの、これらすべてのデタラメさがあるだろう。だから、根はとても深い。立地自治体に関しては、首長、職員、議員も被災・被曝しているので、とてもデリケートな問題でもある。だからこそ、もっと議論すべきだと思うのである。
原発災害時において、市民にとって自治体とは何か?
誰もが一度、じっくり考えてみることが必要だと思う。
当事者として。
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.原発汚染廃棄物は発生地で処理 事故で政府が基本方針案
東京電力福島第1原発から放出された放射性物質で高濃度に汚染された土壌やがれきなどの廃棄物は、原則として排出された都道府県内で処理することなどを定める政府の基本方針案が6日、判明した除染は2年以内に放射線量の半減を目指すとした。汚染廃棄物の移動を最小限に抑えて処理を円滑に進めるのが狙い。住民の不安を背景に行き場のない廃棄物が増えており、安全性に対する説明責任を国が果たすよう求められる。
来年1月に全面施行する放射性物質汚染対処特別措置法に基づき策定。政府のこれまでの処理方針をほぼ引き継ぐ内容で、政府内や地元との調整を経て、11月上旬にも閣議決定する。(共同)
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2年以内に放射線量の半減を「目指す」という表現は、達成できなかったとしても国は責任を取りませんよ、という霞ヶ関文学特有の表現の一つ。そのこともさることながら、問題は、高濃度汚染物質の放射線量が「半減」できたとして、それによって核廃棄物のいかなる「安全性」が担保できるのか、というところにある。国に「説明責任」など果たせるのだろうか、国はその意思を本当に持っているだろうか?
そして、福島県は、この「原則」から、どの程度「例外」が適用されることになるか・・・。
⇒「福島の除染土、進まぬ仮置き場確保 2町村どまり」(朝日新聞)
この、あらゆることが異様で異常な季節は、いったいいつまで続くのだろう?
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「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「子どもと妊婦に「バッジ式線量計」を配布するのは正しいか?」
⇒「子どもたちが「積算被曝量計測器」を持たされる日」
⇒「「父母たちの要請にYesを!」~20ミリシーベルト撤回 」
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・2号機炉内、センサーで調査=作業員死亡、3人目―福島第1
東京電力福島第1原発事故で、東電は6日、2号機原子炉内の損傷状況を詳細に確認するため、通常は運転中の出力確認に使う計124個の中性子センサーに電気信号を送り、反応があるセンサーがどれだけ残っているか調べると発表した。3号機でも来週行う。
1~3号機原子炉は冷却機能喪失で炉心が溶融し、燃料の大半が底部に落下したとみられている。中性子センサーは炉内の上から下まで4カ所に設置され、1カ所につき31個。大半が燃料と一緒に落下したと考えられるが、信号に反応があれば残っている可能性がある。
また東電は3、2号機に続き、1号機でも原子炉への注水ルートを複数にして安定化させるため、圧力容器上部のヘッドスプレー系を使えるか調べる。
一方東電は、同原発で放射能汚染水の貯蔵タンク関連の作業をしていた50代の男性作業員が5日に体調不良を訴え、6日に死亡したと発表した。男性は8月から働いており、累積被ばく量は約2ミリシーベルト。東電は、被ばくと死因との因果関係は考えにくいが、死亡診断書で確認するとしている。作業員の死者は計3人となった。 (時事通信)