「原子力緊急事態宣言」解除前の「緊急避難準備区域」の解除?
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思い出してほしいのだが、日本はいまでも「原子力緊急事態宣言」下にある。少なくとも私が知る限り、日本政府はこの「宣言」を未だ公式に解除していない。みんな、覚えているだろうか。
「原子力緊急事態宣言」 が解除されていないというのに、なぜ「緊急避難準備区域」が解除されるのか?
この矛盾、このデタラメさを主要メディアは問わない。なぜなのか? 国の、そして時にして自治体の行政の矛盾やデタラメ、勝手な都合に振り回されるのは、いつも私たち市民だというのに。
日本経済新聞の昨日付の記事。
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・冷温停止は早計、安定カギ 福島第1の1~3号機100度切る
東京電力福島第1原子力発電所では先週、事故後初めて1~3号機すべての原子炉圧力容器底部の温度が100度を下回った。年内を目標とする冷温停止に一歩前進したが、達成には原子炉の安定性(?)を今後どう維持していくかがカギとなる。経済産業省原子力安全・保安院は安定維持の判断基準「中期的な安全確保の考え方」をまとめ、週内にも発表する。この基準を満たすことが冷温停止とする最終条件にする考え。
政府、東電は7月、冷温停止の定義として
(1)圧力容器底部の温度が100度以下
(2)放射性物質の追加放出による原発敷地境界での放射線量が年間1ミリシーベルト以下――を挙げた。
炉心溶融(メルトダウン)した1~3号機だが、圧力容器内の温度が100度以下になれば冷却水が沸騰しなくなり、蒸気とともに外へ漏れる放射性物質の量が大幅に減ると判断したからだ。
これまで最も高温だった2号機も、燃料の上からシャワーのように注水する方法に切り替え、水の量も毎時約10トンに増やすことで温度が低下し、9月28日に初めて(!)100度を下回った。現時点で各号機の圧力容器の温度は78~99度だ。正門付近の追加放射線量も年0.4ミリシーベルトとなり、先週、数値的には冷温停止の条件を満たした。
ただ、東電の松本純一原子力・立地本部長代理は「冷温停止したと判断するには少し早い」と説明する。温度は下がったが、まだ、安定した状態とは言い切れないためだ。原子炉格納容器が損傷しているほか、冷却や水処理の装置も万全ではない。
福島県では今も規模の大きな余震が続く。29日にはいわき市で震度5強を記録した。福島第1では注水が止まるなどの影響は出なかったが、二ノ方寿・東京工業大教授は福島第1原発の現状について「自然災害への耐性が弱いと言わざるを得ない」と指摘する。
保安院は新たに定める基準で、現在の状況を安定維持していくための条件を明示する。核燃料の発熱を十分に冷やせる冷却能力を保っていることを確認したうえで、大きな地震や津波に再び見舞われても、冷却や水処理が停止しないよう、複数の装置を準備してすぐ交換できる「多重化」を整えることなどを求める。
東電は保安院が示す基準を満たすための施設運営計画を作る。津波などで注水が止まった場合、水素が大量発生する1200度に達するのは18~19時間後、燃料の再溶融は約38時間後と推定する。ただ、予備の消防車やポンプなどを高台に配備してあり、最大でも約3時間で注水を再開できるとみている。
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(ほとんど論じられていないが、問題は、「予備の消防車やポンプ」が「3・11」的事態に際し現実的に機能するのかどうか、そして「注水」を何時間、何日持続できる能力があるか、ということである。もちろん、これは数ある問題のほんのひとつに過ぎない)
保安院は東電の計画を評価し、原子力安全委員会や有識者の意見聴取会に諮る。最終的には政府の原子力災害対策本部(本部長・野田佳彦首相)が、冷温停止したかどうかを決める予定だ。
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政府が定義する「冷温停止」。何度も言わねばならないが、未だに私には理解不能の定義である。
格納容器と圧力容器が破損し、メルトスルーを起こした原子炉が「安定化」することなど、ありえないからだ。
しかし、今そのことを置いても、政府自身が「原子力緊急事態宣言」の解除の条件としていた「冷温停止」(4月26日、細野首相補佐官(当時)の記者会見)以前に、避難準備区域を解除するのは無謀であり、住民を引き回すだけだと言わねばならないだろう。
野田政権によれば、避難準備区域を解除した根拠は、「原発の状況が改善した」からだという。これは妥当な判断かどうか。原子力安全委員会の委員長に聞いてみよう。
「内閣府原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長は(9月)30日の記者会見で
「原子炉の安定、除染、インフラのめどが付き、解除の条件が満たされた」(?)と述べ、政府の解除方針を了承したことを明らかにした。 班目氏は住民の帰還に向け「除染が最大の課題」と指摘。
(1)解除後も放射線量のモニタリングと除染を適切に実施
(2)除染効果について十分に情報を共有
(3)住民の被ばく低減と安全確保--などを政府に求めた」(毎日新聞)
「住民の被ばく低減」・・・。住民は「被曝」した。これかも「被曝」する。それを「低減」するのが、「課題」なのだと原子力安全委員会の委員長が言う・・・。この表現がいかにグロテスクなものか、この人物、いや日本政府はいまだに理解することさえできないのである。
住民の「安全」はいかにして「確保」されるのか? 再度の「有事」の際には、国の指示を待たずに、住民が自主的に避難できるようにする「区域」の指定によってだろうか?
福島第一原発のメルトダウン→メルトスルーは、起こるべくして起こった災厄である。が、決して最悪のものではない。これよりももっと凄惨な結果を招く「事故」は、今後も起こりうるのである。私たちはそのことを念頭に置きながら、国と自治体、電力業界が住民の生命をどのように扱い、その安全と安心をどのように保障/補償/保証するかをしっかり見極める必要があるだろう。
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私の主張が野田政権や東電に対して批判的過ぎる、政府を信用しなさ過ぎる、と感じる人は、2ヶ月半前に東電と政府が何を言っていたかを、思い出してほしい。
6月18日の朝日新聞の記事、「原子炉冷却「予定通り7月までに」 東電工程表改訂版」。
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・東日本大震災に被災して爆発事故を起こした福島第一原子力発電所について、東京電力は(6月)17日、4月に示した事故収束に向けた工程表の2回目の改訂版を示した。復旧作業の現場の環境を改善するため、放射線管理と医療体制の充実という項目を盛り込んだほかは、微修正にとどまった。工程表の最大のカギを握る原子炉の安定的な冷却は、予定通り7月までにできるとの見通しを示した。
福島第一原発では、事故直後に国が定めた被曝(ひばく)線量を超える作業員が相次いで出たことから、今後、復旧作業現場の労働安全を徹底させながら人員を確保することにする。
具体的には、内部被曝を測る測定器を増設し、個々の作業員の被曝線量を正確かつ、迅速に把握できるようにした。さらに、5月末から福島第一原発に医師を24時間常駐させ、作業員の健康管理の徹底を図った。
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甘すぎた当時の菅政権と東電の「見通し」・・・。その「見通し」に騙され、翻弄されてきた地元住民、私たち。
あれから東電は「労働安全を徹底」させてきたか、「作業員の健康管理の徹底」を図ってきたか?
政府と東電の「見通し」がはずれ続けてきたのには根拠がある。それは、そもそも東電の「見通し」なるものに科学的根拠がなかったからだ。が、今となっては何を書いても虚しさが残るだけである。根拠のない、実現しえない「見通し」をいくら語っても、政府に東電、原子力委員会に安全委員会、誰も何も責任を取らないからである。(注。原子炉の「安定的な冷却」は「冷温停止」と同義ではないことに注意。くれぐれも誤解しないようにしよう。)
で。この6ヶ月半近くの経験から、私たちは何を教訓化すべきだろう?
まずは、東電がまとめ、政府が承認するであろう「冷温停止」から廃炉までの「安定化方針」を徹底して疑ってみることだ。
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・福島第1原発:廃炉までの安定化方針、東電に指示 保安院
経済産業省原子力安全・保安院は3日、東京電力福島第1原発事故について、収束に向け工程表の「ステップ2」終了から、廃炉を始めるまでの3年間の新たな原子炉安定化の基本方針をまとめ、東電に実施計画を提出するよう指示した。 基本方針は
(1)放射性物質放出の管理・抑制
(2)原子炉の崩壊熱の適切な除去
(3)臨界防止
(4)水素爆発防止--の4項目。
具体的には、汚染水の発生量を上回る処理能力の確立や、原子炉注水システムのバックアップ態勢の充実などを求めている。
政府と東電は、福島第1原発での「冷温停止状態」を、「原子炉温度が100度未満」「放射性物質の放出抑制」と定義し、年内の実現を目指しているが、ステップ2終了後はこの4項目が新たな安定化の指標になる。
保安院は、汚染水を浄化して冷却水に再利用する「循環注水冷却システム」については今月17日までに、それ以外については早期に報告するよう東電に指示した。 細野豪志原発事故担当相は会見で、「考え得るリスクを網羅した。今後東電が提出する回答で、国民が本当に安心できるのかどうか判断する」と述べた。【毎日新聞・中西拓司】
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「冷温停止」したとしても、
①放射性物質の「放出」を「管理・抑制」し、
②原子炉の「崩壊熱」を「適切」に「除去」しなければならず、これらによって
③「臨界」を「防止」し、
④「水素爆発」を「防止」する?
何度も何度も書いてきたが、いったい「冷温停止」とは何が「停止」することなのか?
アリバイ的な「ストレステスト」(→これも私には未だに意味不明なのだが)と、結論があらかじめ仕組まれた「公聴会」→再稼動を阻むために、もう一度私たちは一から理論武装し、態勢を整えた方がよさそうだ。
おそらくは、NHKや新聞メディアの記者たちを含めて。
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・九電の玄海原発4号機が自動停止 復水器トラブル
4日午後1時40分ごろ、佐賀県玄海町の九州電力玄海原発4号機(加圧水型軽水炉、118万キロワット)の復水器で異常が検知され、自動停止した。九電によると、外部への放射性物質の影響はないとみられ、けが人もいないという。同社が詳しい原因を調べている。 復水器は、タービンを回した後の蒸気を冷やして水に戻す2次系設備。
玄海原発は4基ある原子炉のうち、東日本大震災前に定期検査に入った2、3号機が、福島第1原発事故の影響で4月の予定だった再稼働を延期中。1、4号機も12月には定期検査入りを予定している。(共同通信)
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〈ヨルダンへの原発輸出問題〉(ミーダーン〈パレスチナ・平和のための広場〉の「提言」より抜粋)
○ヨルダンとの原子力協定の現状
8月26日、衆議院外務委員会で採決される方針だったヨルダンとの原子力協定の承認が、参考人の強い反対意見によって見送られました。これは昨年9月にすでに署名され、福島原発事故後の今年3月31日、参議院本会議で可決されていたものです。
同協定は、原子力の「平和的目的に限った利用」における協力における法的枠組みを定めたもので、IAEA(国際原子力機関)による審査等の枠組みのもとで行われること、原子力安全関連条約に基づく措置が取られること、核物質の第三国移転の規制およびヨルダンにおける核物質の濃縮・再処理の禁止、などがそこには含まれています。
ヨルダンの原発受注は、三菱重工とフランスのアレバ社の企業連合、ロシアのアトムストロイエクスポート社、カナダのAECLの三者が入札し、11月までに選定されるという予定で進んでいるため、政府は早期の承認を目指していました。衆議院での今回の通過は免れたものの、閉会中審査(継続審査)の扱いが可決されたので、今後の野田現政権の姿勢をなお注視する必要があります。
○ヨルダンにおける原発建設の問題
ヨルダンにおける原子力発電所の建設予定地アル=マジダルは、首都アンマンから北東に40キロ程度しか離れていない内陸部にあります。仮に100キロで円周を取れば、シリア南部だけでなく、パレスチナのヨルダン川西岸地区は、ほぼ全域が収まります。ヨルダン国内とはいえ、この圏内に暮らすパレスチナ人の総数は、ヨルダン国籍取得者も含め、600万人ほどにもなるはずです。(中略)
ヨルダンに対する原発輸出の問題について、8月24日の衆議院外務委員会参考人質疑のなかで田辺有輝氏(「環境・持続社会」研究センター理事)は、首都アンマンと工業地帯ザルカーに近いことによる「甚大な事故影響」のほか、立地上の問題としては冷却水確保が困難なこと、およびシリア・アフリカ断層上に位置するヨルダンの地震リスクを挙げました。
他方で服部拓也氏(日本原子力産業協会理事長)は原発輸出推進の立場から、ヨルダンが日本の耐震設計に関心を示していることを指摘し、澤昭裕氏(国際環境経済研究所所長)も同じく推進の立場から、仮に日本がヨルダンに原発を供給しなくとも他国が供給することになるので、高い安全基準をもつ日本の原発によって世界の安全に寄与した方が良い、と述べています。
また澤氏は、ヨルダンでの原発建設のリスクに対する指摘を受けてなお「途上国が原発を進めるなか、日本が安全な方法での推進策を提示しなければ、途上国は選択肢を失う」「安全対策は各国が自分で行うべきこと」だと述べています。
日本国内の原発に対し、これだけの欠陥や問題が指摘されているなかで、あたかも相手国の安全に貢献することを目的としているかのような原発輸出推進の主張の疑わしさには、十分に注意する必要があります。
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・原発輸出で日本政府に「化石賞」 環境保護団体
中米パナマで開催中の気候変動枠組み条約の特別作業部会会場で、各国の環境保護団体でつくる「気候行動ネットワーク」が3日(日本時間4日)、福島第1原発事故にもかかわらず、地球温暖化対策を理由に原発を輸出しやすい仕組みづくりを求めたとして、日本政府に、交渉で後ろ向きな発言をした国を対象とする「化石賞」を贈った。
京都議定書には、先進国側が発展途上国で行った事業に伴う温室効果ガスの削減分を、排出枠として獲得できる「クリーン開発メカニズム(CDM)」という仕組みがある。作業部会で日本は、途上国で原発を造った場合もCDMの対象とするよう求めたという。(共同)
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