原発再稼動の広域的住民投票を考える前に、考えなければならないこと
停止中原発の再稼動については、すでに浜岡原発(静岡県御前崎市)の「永久停止」を決議し、廃炉を求めている牧之原市(浜岡原発から半径10キロ圏内)の西原茂樹市長が、住民投票でその賛否を問う考えを明らかにしている。
これに対し、藤村修官房長官が先月29日の記者会見で、「住民投票は地元の意思を表明する1つの指標だ。当然、十分に斟酌(しんしゃく)されないといけない」(?)と述べたことが各紙で報道された。
既存の原発の「安全性」を世界「最高水準」のものにし、その「安全性」が確認された原発から順に再稼動を承認するという政権の官房長官が語る「斟酌する」という言葉。
この何とも日本語特有の曖昧さを含んだ「斟酌」という言葉を、政治用語に翻訳すると、どういう意味になるのか。私には分からない。いや、語った本人さえ理解していないのではないだろうか。
なぜなら、浜岡原発やマークⅠ型原子炉のみならず、野田政権が原子力政策全般に関して何をどうしたいのか、私たちは何も知らないからだ。どのようにでも解釈できる「斟酌」という言葉は、そのようなどのようにでも解釈できる現政権の、政策なきまま再稼動だけは承認するという原発への姿勢をそのまま表現するものではないだろうか。 少なくとも私自身はそのように受け止めている。
だから、牧之原の人々は十分以上にこのことをふまえておいた方がよいと思う。
小さな一地方自治体の住民の意思など、「斟酌したが、国の方針としては再稼動を承認する」という一言で、簡単に、踏みにじられてしまう。この国が安保=国策の名において、県レベルの沖縄の多数派の意思さえ、簡単に、踏みにじり続けてきたことを忘れるべきではないと思うのだ。
東海村のような、文字通りの原発立地自治体ならともかく、「周辺」自治体の住民投票の「再稼動NO!」の声は、現行の住民投票制度が国策に対して法的拘束力を行使できない問題を含め、それ自体は何ら国の再稼動方針を阻むものにはならない。住民投票の結果は、住民に対して何も保障/保証するものではないのである。
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私が、みんなの党の住民投票法案提出の方針に注目する理由の一つが、ここにある。
つまり、みんな党の案とは、ある個別の事案(国策)=停止中原発の再稼動に対して、一定地域の住民(市民)の集団的意思が、一定度の法的拘束力を持ちうるようにすることを意図したものなのだ。 国会で法案化するということは、要するにそういうことなのである。
これは、実は、とても画期的なことなのだ。
というより、このブログで私自身が提起してきたことでもあり、昨年出版した『日米同盟という欺瞞、日米安保という虚構』(中野憲志、新評論)の最終章と「あとがき」の中でも提起している論点の一つである。
ある個別の事案(国策)=安保条約の無期限延長、米軍の無期限駐留に対して、、一定地域の住民(市民)の集団的意思が、一定度の法的拘束力を持ちうるようにすること、そういう議論を始めるべきだ、と私は提起してきたのである。安保と米軍基地の賛否如何にかかわらず。これを「安保の国民投票」の可能性の問題を併せて、もっと議論すべきだと。
本来であれば、このような案は民主党が政権をとった二年前から、民主党自身によって提案されるべき性格のことだった。すくなくとも、「3.11」後の現状に大きな責任を負う、菅政権期において。また、個別事案をめぐる国民投票制度の導入に関して言えば、もともとこれに最も積極的だったのが野党時代の民主党だったのであるから。
けれども、民主党は市民の総意をまったく反映しない現行の間接民主制の構造的欠陥を補完しうる、直接民生制(国民投票の導入および住民投票制度の改革)の可能性について、これだけの事態を招いてしまったというのに、党として(=個別議員レベルではなく、という意味)、完全に蓋を閉じてしまったのである。その意味でも、みんな党がまとめるであろう法案をたたき台としながら、この問題をめぐる議論を広め、深めることがとても重要だと私は考えている。
日本が「民主主義国家」という政治的概念に適合するようになる、そのための政治制度上の発展の方向性は、この間接民主制の制度的欠陥を乗り越える直接民主制の導入、その試行錯誤にしかありえないからである。
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ただ。その問題に入る前にと言うか、その前提として、実は考えなければならないことが(山のように)ある。
一つは、「一定の地域」という場合、住民投票がどこまでの地域をカバーするのか、という問題。
公表されている限りでは、みんなの党の案はこうなっている。
「住民投票を行うのは、対象となる原発を立地している道や県の住民と、周辺の県で原発から一定の範囲内にある市町村の住民」
これをどのように考えるべきか?
そしてこれを考えるためにも、私たちは以下のことを、事前に、考慮する必要がある。
順不同で列挙してみよう。 理由と説明は、追って行うことにしたい。
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① 「新潟、県境・北部に高いセシウム蓄積 汚染マップ公表」(朝日)
すでに見た人は、もう一度「汚染マップ」を見ながら、じっくり考えてほしい。
②◆廃炉に向けた作業工程◆(※は研究開発が難航すると原子力委員会が判断した項目)
<使用済み核燃料の処理>
(1)燃料の長期健全性を確保する方法の開発
(2)燃料の再処理の可否を判断する方法の開発
(3)損傷燃料の処理技術の開発
<冠水(水棺)に向けて>
(4)原子炉建屋内の遠隔除染技術の開発
(5)圧力容器・格納容器の健全性評価技術の開発
(6)放射性汚染水処理で出る廃棄物処理技術の開発
(7)格納容器の損傷部分を特定する技術開発
※(8)冠水技術の開発
※(9)格納容器の内部調査技術の開発
※(10)圧力容器の内部調査技術の開発
<溶融燃料の取り出しに向けて>
※(11)取り出し技術の工法・装置開発
(12)再臨界を防ぐための技術開発
(13)模擬燃料を使った内部の状況把握
(14)予備的な取り出し・内容分析
※(15)本格的な取り出し・専用容器への収納
(16)回収した溶融燃料の処理技術の開発
(17)溶融燃料の本格的な内容分析
<その他>
(18)放射性廃棄物の処分技術の開発
(19)原子炉内の事故解析技術の高度化
1、 「廃炉」にこれから何年かかりそうか(少なくとも私が生きている間は無理そうだ。読者はどうだろう?)、
2、そもそも「廃炉」なんてできるのかどうか(東電と原子力産業がこれから「開発」しなければならないものがあまりに多い、ということだけは鮮明になった)
3、福島第一1~4号機の「廃炉」プロセスと停止中原発の再稼動承認問題との関係、その時期の目安、
などを、上の東電が提出し、安全委が承認した「廃炉工程」(⇒課題一覧表)をじっくり見ながら、考えてほしい。
おそらく、それを考えるにあたっても「原子力工学」なるものの専門的知識など必要としないだろう。
③ 福島第一原発で防災訓練 東電が震災後初
東京電力は12日午前、福島第一原発で防災訓練を実施した。福島県沖でマグニチュード8の地震が発生してポンプが故障し、原子炉への注水が止まる事態を想定した。事故収束の条件となる原子炉を冷却するための安定した注水が、大規模な余震が起きてもできることを確認するのが目的。福島第一原発での訓練は震災後初めて。
訓練には40人が参加。発電所内に待機している消防車を配備し、約300メートルのホースをつなぎこみ、原子炉への注水に使う海水をくみ上げる訓練をした。 福島第二原発でも、13日に90人が参加して訓練する予定。
・原発:「代替電源」指針に…安全設計審査で安全委
原発の安全対策を議論している内閣府原子力安全委員会の小委員会は5日、全電源喪失時に非常用電源に代わる「代替電源」の配備を安全設計審査指針に盛り込み、義務づけることで大筋合意した。代替電源は、外部電源と非常用電源がともに失われる全電源喪失状態になった際、炉心冷却に必要な電源を供給する。具体的には、電源車やガスタービン車などの配備とみられ、詳細は今後議論する。
東京電力福島第1原発では、東日本大震災で外部電源が途絶え、非常用電源も水につかって使用不能となり、原子炉が冷却できず炉心溶融(メルトダウン)した。現行指針では、原発事故を深刻化させた長期間の全電源喪失を「考慮しなくてよい」と規定。非常用電源の設置までは定めておらず、代替電源について記載はなかった。
小委員会では、「代替電源の配備を指針に明記すべきだ」とする意見が大勢を占めた一方で、明文化への消極意見もあった。次回会合で意見をとりまとめる方針。【毎日・岡田英】
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「代替電源の配備を指針に明記」することに「消極意見」があり、結論持ち越しになる原子力安全委員会?
東電と安全委の絶望的な能天気さ加減をじっくり洞察しつつ、「ストレステスト」とは何かを思い起こしながら、ゆっくり考えてほしい。安全委の「絶望的な能天気」は未来の「安全庁」のそれを暗示しているかのようだ。
いったいどのような条件が整えば、私たちはこの人たちに自分自身、家族・子どもたち、かけがえのない人々、この国の未来を委ねることができるのか? 時間を十分かけて、じっくり考えるに値する問いだと私は思う。