2013年9月11日水曜日

憲法九条と集団的自衛権の行使が共存する時代

憲法九条と集団的自衛権の行使が共存する時代

 「集団的自衛事態法」?

 ある国が、他国の軍隊との間で「集団的自衛権」を実際に行使する/できるか否かは、その国が他国と結んでいる「安全保障」条約の規定次第である。これはその国の憲法の問題でも、一般法の問題でもない。ここをまずしっかり押さえないと、「集団的自衛権の行使」問題の本質と、これをめぐる混乱の数々の根拠も見えてこない。

 もう少し具体的に言えば、ある国が計画的かつ組織的な「外部」からの武力侵略が起こった時に(その「おそれ」ではないことに注意したい)、その国が他国と「相互防衛」条約を結んでいるか否かが、その国が「集団的自衛権」の実力行使ができるかどうかを規定するのである。

 たとえば、韓国は米国と「相互防衛条約」を結んでいるし、NATOにしても、集団的自衛を規定した第五条の解釈は一律ではないにしても、加盟国に対する侵略を全体に対する侵略と捉える規定があることによって、「集団的自衛」のための国際的安全保障条約と、一応は言うことができる。しかし、これを国連の「集団安全保障」と取り違えてはならない。

 日本の場合はどうか?
 日米安保には、米国が「外部」から武力攻撃を受けた際に、自衛隊が米軍と共同して武力行使する、つまりは「集団的自衛権」の行使に関する規定がない。ゆえに、日本は「集団的自衛権」の行使に関する、他のいかなる国とも「安全保障」条約上の規定を持たない国になる。
 歴史的に、日米安保が「片務条約」と言われてきたこと、また日米安保そのものの違憲性が議論されてきた理由がここにある。

 日本が米国との関係において「集団的自衛権」の行使できるようにするためには、日米安保条約を「相互防衛条約」とすべく、抜本的に改定しなければならない。
 その是非、またそのための「国民的議論」を興そうとせずに、「集団的自衛事態法」なる意味不明の国内一般法の導入によって、その行使に道を拓こうとするなど、まさに無茶苦茶な話だと言うべきである。

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集団自衛権容認へ決意=安倍首相、自衛隊幹部に訓示
 「安倍晋三首相は12日午前、防衛省で開かれた自衛隊高級幹部会同で訓示し、集団的自衛権の行使容認に向けた取り組みなどを念頭に「現実を直視した安全保障政策の立て直しを進めている。意志の力で必ずや実行していく」(???)と決意を表明した。  首相は
 「現実とかけ離れた建前論に終始し、現場の自衛隊員にしわ寄せを押し付けることはあってはならない(???)。
 日米安保体制の抑止力を高めるためにも、われわれはさらなる役割を果たしていかねばならない」と強調。政府の「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)などを通じ、あるべき姿を追求する考えを示した・・・。」(時事より) 

石破氏、新法整備の必要性明言 集団的自衛権で
 自民党の石破茂幹事長は10日、共同通信のインタビューに応じ、政府が憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認した場合(??)、自衛隊による行使手続きを定める新法「集団的自衛事態法」(仮称)などの整備が不可欠との認識を表明した。行使容認に慎重な公明党との協議で「一致点が見いだせないとは思わない」と述べ、説得し理解を得ることに自信を示した。
 集団的自衛権の行使をめぐって政府、自民党では、首相が対処基本方針を策定し、国会承認を義務付ける手続き法を整備する案を検討中。

山口・公明代表:集団的自衛権「国民理解まだ」 ワシントンで講演
 訪米中の公明党の山口那津男代表は10日午後(日本時間11日午前)、ワシントンのカーネギー国際平和財団で講演。
 安倍晋三首相が目指す集団的自衛権の行使容認について「まだ国民が理解できる形で議論されていない」と指摘。「なぜ変えるのか、どう変えるのか、どのような影響を及ぼすのか丁寧に議論を進め、国民の理解を得る必要がある」と述べ、行使容認に慎重な姿勢を示した。(毎日より)
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 「国民の理解」もクソもない。日米安保の存続および改定をめぐる議論を半世紀以上にわたって日米両政府が棚上げにしながら、日米安保ガイドライン(指針)を通じて実質改定を重ねてきたこと、その欺瞞性をこそ私たち「国民」は理解すべきではないか。 いうまでもなく、「平和の公明党」もその欺瞞に自ら手を染めてきた政党である。

個別自衛権で対応可能=米艦防護、公明代表が見解
 公明党の山口那津男代表は(7月)26日午後、BS朝日の番組で、政府が集団的自衛権の行使容認に向けて検討する公海上での米艦隊防護に関し、「(米艦隊と自衛 隊艦船が)並んで走っている時に、攻撃を受ければ日本の船に対する攻撃とみることもできる(??)。それに反撃するのは今の憲法解釈で認められている」と指摘し た。

 山口氏の発言は、こうしたケースではどの国にも認められている個別的自衛権で対応することが可能で、憲法解釈の変更は必要ないとの認識を示 したものだ。公明党は集団的自衛権の行使容認には反対の立場(??)。山口氏は「(憲法解釈を)なぜ変えるのか、どう変えるのか。説明も十分ではないし、国民の理解も得られていない」と強調した。 
 一方、防衛省が発表した新たな防衛計画大綱の中間報告に関し、「(敵基地攻撃)能力を持つこと自体、非常にリスクを伴う」と指摘。慎重な検討が必要だとの考えを示した。(時事、7/26)
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 公明党がここで言っているのは、「自衛権」の行使の拡大解釈によって実質的に「集団的自衛権」の行使が可能、という論理である。そして、それによってさらなる解釈改憲を行わんとするものである。
 こんな論理がまかり通るのであれば、たとえば国連PKOの任につく自衛隊が、他国の軍隊と「並んで走って時に」、他国の軍隊が「攻撃を受ければ自衛隊に対する攻撃」とみなし、「それに反撃するのは今の憲法解釈で認められている」という論理も成立することになる。
 いったい山口代表は、1980年代以降、「集団的自衛権」の行使問題をめぐり国会で何を議論してきたと考えているのか。公明党の見識を疑わざるをえない「見解」である。
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日米同盟という欺瞞、日米安保という虚構』より
第四章  憲法九条の死文化と日米安保 ――国家の自衛権をめぐって
1 憲法九条の死文化とは何か
 憲法九条の死文化と自衛権/吉田茂の国会答弁/日本国憲法と自衛権
2 吉田答弁の変節の分析
 帝国憲法改正案と自衛権/「芦田修正」と自衛権/「マッカーサー声明」と吉田茂の転向

第五章  憲法九条の死文化のメカニズム ――「普通の国家」と霞が関イリュージョン
1  霞が関イリュージョンとは何か
 交戦権と自衛権/国連憲章と国家の主権/改憲論と憲法九条二項
2  集団的自衛権をめぐる混乱
 集団的自衛権をめぐる「政府統一見解」/日米安保と集団的自衛権、ふたたび
3  自衛隊の多国籍軍への参加と集団的自衛権
 武力行使と武器使用/「武器使用の国際基準化」論/国連PKOが抱える問題

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集団的自衛権は「全面容認」明言 有識者懇の柳井座長 
 集団的自衛権の在り方を検討している「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の柳井俊二座長は(8月)23日、共同通信の電話インタビューに応じ、憲法解釈を変更し集団的自衛権の行使を原則として全面的に容認するよう政府に提言する考えを明言した。緊急事態に備え、武力攻撃に対処する自衛隊の「防衛出動」の要件を緩和すべきだと指摘。法整備の必要性を提言に盛り込む可能性に言及した。 集団的自衛権の全面容認を座長が明言したのは初めて。提言の方向性が明確になったといえる。

 柳井氏はインタビューで、集団的自衛権について「行使できるという解釈が基本的な考え方。答えは出ている」と強調。これまでの政府解釈を「今の条文でも行使できると読めるのに、制限的に解釈していた」とした。 また憲法解釈を変更する理由として、北朝鮮のミサイル開発などに触れ「日本が置かれた安全保障環境が格段に厳しくなったことは、みんな分かっている」と述べた。
 防衛出動は、首相と外相ら主要閣僚が参加する安全保障会議を経て閣議決定し、国会の事前承認を得なければならない。柳井氏は「重い手続きがある。侵害があった場合に自衛隊が動けない」と指摘。「懇談会として基本的なコンセンサスはある」と説明した。
 また2008年の提言と同様に、国連による集団安全保障への自衛隊の参加を合憲と提言に盛り込む考えも示した。

 自衛隊が国連の集団安全保障に参加した場合の武器使用基準については「国際基準に合わせるのが当然だ」と述べ、自己の防護に限った現在の日本基準を変更すべきだとした。 懇談会は9月12日に再開し、安全保障上の重要課題について意見交換し、11月~12月に最終報告書をまとめる見通しだ。
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 国連の「集団安全保障」と「集団的自衛権の行使」を混同しないよう、くれぐれも注意したい。

集団的自衛権行使の合憲解釈化を進める小松一郎・新内閣法制局長官
 小松氏は第1次安倍内閣が設置した、集団的自衛権の行使を可能にするための検討をする有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の実務に携わった。
 懇談会は日米が共同で活動する際、危険が及んだ公海上の米艦船の防護など4類型を検討し、解釈変更を求める報告書をまとめた。小松氏はこの立案にかかわった。72年一橋大法中退、外務省へ。国際法局長、11年9月フランス大使。神奈川県出身、62歳。

P3C参加「前向き検討」=海賊対策、多国籍部隊の要請に-安倍首相 
 安倍晋三首相は(8月)25日午前(日本時間同日午後)、バーレーンのマナマで、同国に司令部を置き、ソマリア沖で海賊対策に従事している多国籍部隊のミラー司令官(米海軍第5艦隊司令官)ら幹部と会談した。司令官側から、多国籍部隊が展開している海域の監視に海上自衛隊のP3C哨戒機の参加を要請する発言があり、首相は「前向きに検討したい」と応じた。
 ソマリア沖アデン湾での海賊対策活動として、政府は海賊対処法に基づき、2009年から護衛艦2隻、P3C哨戒機2機を派遣し、民間船舶を護衛している。

 しかし、近年、海賊行為は減る一方、発生海域が広がる傾向にあり、12月にも2隻の護衛艦のうち1隻を新たに多国籍部隊に振り向ける方針。自衛隊の参加について、政府は「海賊という犯罪を取り締まる警察活動」であり、集団的自衛権の行使には当たらない(??)としている。
 会談では、多国籍部隊の幹部が「海自の哨戒機の能力は高く、参加すれば大きな貢献がある」と指摘。これに対し、首相は「国際貢献で活用していくことは非常に重要だ」と述べた。また、海賊対策に関し「警戒監視とソマリアの国造りの両面で貢献したい」と強調した。(8/25, AFP=時事)


「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「叛乱鎮圧部隊化する国連PKO

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日米安保協力の変遷」(防衛省)
●旧ガイドラインの策定と拡大する日米防衛協力(75~91年)
 現安保条約調印後、両国間の協力関係は政治・経済の両面において緊密化したが、わが国有事の際の共同対処の要領を含め、両国間の運用協力についての具体的な議論は必ずしも十分には行われず、また、その運用協力のための協議機関も設けられていなかった。そのような状況の中、75(同50)年8月、三木総理(当時)とフォード米大統領(当時)との会談で、「両国の関係当局者が日米安全保障協議委員会の枠内で協議を行う」ことが合意され、76(同51)年7月、日米防衛協力小委員会の設置が合意された。
 同小委員会における検討を通じ、78(同53)年、旧「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」が策定された。同指針の下で、リムパックや日米共同方面隊指揮所演習への参加などを通じ日米共同訓練が活発化するなど、日米防衛協力はより実効的なものへと発展していった。

●冷戦の崩壊と新ガイドラインの策定(91~01年)
 91(平成3)年12月、旧ソ連は崩壊して冷戦は終結し、わが国に対する大規模侵略が生起する可能性は遠のいた一方で、93(同5)年の北朝鮮による核開発疑惑とこれに伴う朝鮮半島情勢の緊迫化などに見られるように、アジア太平洋地域には依然として不安定性と不確実性が存在していることが明らかになった。
 このような情勢を踏まえ、96(同8)年に「日米安保共同宣言」が発表され、97(同9)年にガイドラインの見直しが行われるなど日米安保体制の信頼性は一層向上した。また、日米安保体制に伴う沖縄の負担について軽減を図らなければならないとの認識から、「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」により検討が進められ、96(同8)年12月普天間飛行場の返還及び移設を含む最終報告がとりまとめられた。

●米国同時多発テロ以降の日米関係(01~04年)
 01(同13)年9月11日に発生した米国同時多発テロは、国際テロリズムや大量破壊兵器などの拡散といった、グローバルに存在する新たなかつ深刻な脅威に、国際社会が直面しているということを人々に印象づけた。現にテロとの闘いに見られるように、日米が協力してグローバルな問題に対応する場合が見られている。昨年5月の日米首脳会談において、小泉総理とブッシュ米大統領は、「世界の中の日米同盟」を強化していくことに合意したが、日米両国には、これらの新たな課題に対処するため、国際社会と協力しつつよりグローバルな協力を強化していくことが求められている。
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 現在、さらに新たな「ガイドライン」の策定計画が進行しているが、これについては折をみて取り上げることにしたい。