原子力ムラと「凡庸な悪」
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国会の「事故調」の第4回委員会が開かれた。班目委員長や寺坂院長の「弁明」を読み、最初に頭に浮かんだのは、一部の人々には非常に陳腐に聞こえるかもしれないが、やはり「凡庸な悪」というハンナ・アレントの言葉だった。
ただ、「凡庸な悪」は、たしかに「組織と個人」の関係一般に敷衍化することはできるが、これを国家・軍隊・官僚機構の問題として論じるときには、人間の「モラル(ハザード)」一般、「善」と「悪」の二元論解釈の循環論法の罠に陥ってしまうことは、厳に警戒する必要がある。
「3・11」直後から何度も指摘してきたように、国・自治体・事業主体の〈法的責任〉が明確になるよう、この国の原子力関連諸法(「指針」のみではない)の体系的かつ抜本的改定に「事故調」の結果がつながらなければ、例によって「誰も責任を取らない、何も変わらない」「大山鳴動し・・・」で終わってしまうことは目に見えている。
ここから話はさらに発展するのだが、今日も私の日常はdisasterだった。
つづきは後日。
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・班目委員長「指針に瑕疵」と謝罪 原発事故調で誤り認める
国会に設置された東京電力福島第1原発事故調査委員会(委員長・黒川清元日本学術会議会長)が15日、都内で開いた第4回委員会で、原子力安全委員会の班目春樹委員長は「指針にいろんな瑕疵があった。おわび申し上げる」と原発の津波対策や全電源喪失に関する指針の誤りを認め、謝罪した。
班目委員長は、全電源喪失対策を想定していなかった理由について「わが国ではやらなくていい、という言い訳、説明ばかりに時間をかけてしまった。抵抗があってもやるという意思決定ができにくいシステムになっている」と述べ、短期間で担当を交代する官僚制度に言及した。 (北海道新聞)
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「抵抗があってもやるという意思決定ができにくいシステム」のなかで「凡庸な悪」がはびこる。そして「抵抗があってもやるという意思決定ができにくい」のが「システム」なのである。
・「原発安全審査、不十分だった」 班目・寺坂両氏が謝罪
東京電力福島第一原発事故の原因を検証する国会の事故調査委員会は15日、参考人として、原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長と経済産業省原子力安全・保安院の寺坂信昭前院長から、事故時の対応や原発規制などについて聴取した。両氏は原発の安全審査が不十分だったと認め、謝罪した。
班目氏は、原発の立地基準や設計についてまとめた原子力安全委員会の安全審査指針について、津波や長時間の電源喪失に対する十分な記載がなかったことに言及。「誤りがあったと認めざるを得ない」と陳謝。寺坂氏も「安全規制担当者として、本当に申し訳ない」と語った。
事故調の黒川清委員長は聴取後の記者会見で「(現在の)審査指針は全面的な改定が必要。緊急時の備えができていない」と述べた。 (朝日)
・SPEEDI:班目氏「避難に使えぬ」…国会事故調
東京電力福島第1原発事故に関する国会の事故調査委員会(委員長、黒川清・元日本学術会議会長)は15日、東京都内で第4回委員会を開いた。会合には原子力安全委員会の班目春樹委員長と経済産業省原子力安全・保安院の寺坂信昭前院長が出席。班目氏はSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測システム)に関し、「計算には1時間必要で、計算前と風向きが変わる場合がある。SPEEDIが生きていたらうまく避難できていたというのが誤解だ」と述べ、住民避難に生かすのは困難だったとの見解を示した。
政府のマニュアルでは事故の場合、保安院が緊急時対策支援システム(ERSS)を起動して放射性物質の放出源情報を把握。SPEEDIで放射性物質がどこに拡散するか予測することになっている。しかし、今回の事故では、地震による原発の外部電源喪失により、ERSSからのデータ送付ができなくなって拡散予測はできず、避難区域設定に活用することもできなかった。
調査委員の質問に、班目氏は「(最も放射性物質の放出量が多かった昨年3月)15日は北の方に吹いていた風が、南、北西に、という風向きになり、北西になったときに雨が降って福島県飯舘村が汚染された。SPEEDIの予測結果に頼った避難計画にしていること自体が問題で、直ちに避難してもらうようなルールにしておくべきだった」と答えた。
また、安全委によると、仮にERSSからデータが届いていたとしても、今回の事故では水素爆発や炉心溶融などシステムの想定外の出来事が起きていたため、正確な計算ができず間違った予測結果になっていたという。
一方、寺坂氏は事故に関する政府の議事録が作られていなかった問題について、「事故当初に対応できていなかったのは申し訳ない。公文書管理法上も問題がある」と陳謝した。【毎日、岡田英、比嘉洋】
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「SPEEDIの予測結果に頼った避難計画にしていること自体が問題で、直ちに避難してもらうようなルールにしておくべきだった」・・・。
「浜通り」の人々、福島の人々はこの「弁明」をどのように読んだだろうか? 福島県外の「ホットスポット」で生活する人々にしても。
いずれにしても、今立地自治体で進めている「防災対策」をめぐる議論を一からやり直すことが必要である。
・原発避難計画に注文 石川県原子力防災対策部会で首長から
「なぜ石川県内にこだわるのか。富山県とも県境を越えて協力すべきだ」「寝たきりの 弱者らの受け入れをどうする」。16日に県議会で開かれた県原子力防災対策部会では、 志賀原発の重大事故を想定し、原発の半径30キロ圏内で生活する約15万人の緊急避難 先をあらかじめ決めるとした県側の提案に、周辺の市町長らから注文が相次いだ。
緊急避難先の策定は県原子力防災計画の見直しの一環。大規模な事故に備え、町会や集 落単位で避難先を事前に決めておくことで、事故時の混乱を防ぐとともに、近隣の住民同 士や家族がばらばらになるのを防ぐ狙いがある。
県側は、志賀原発の半径30キロ圏外にある県内14市町の897施設で、最大90万 4019人の収容が可能と説明。今月下旬に開く19市町との連絡会議で具体的な割り振 り作業を進める考えを示した。 これに対し、県消防長会の山田弘会長(金沢市消防局長)は「隣県の富山に収容できる 施設があるなら県境を越えて協力を求めるべきだ」と提案。小泉勝志賀町長は、原発の半 径5キロ圏内にある特別養護老人ホームの入所者らの受け入れ先を確保するよう要望した 。杉本栄蔵中能登町長も「寝たきりの弱者らの避難場所を県で仲介してほしい」と求めた 。
武元文平七尾市長は国が原発から半径30キロを目安としている「緊急防護措置区域( UPZ)」の外に放射性物質が拡散した場合の対応を質問。部会長の齊藤実原子力安全基 盤機構防災対策部審議役は「モニタリングポストの測定値に合わせて対応する。圏外の対 策を取らないわけではない」と述べ、避難計画の策定に際し、緊急時迅速放射能影響予測 ネットワークシステム(SPEEDI)のデータも加える考えを示した。 委員からはこのほか、安定ヨウ素剤の服用基準の情報提供や被ばく医療の専門家養成、 緊急時の避難道路の整備を急ぐよう求める意見も出た。(⇒SPEEDI「避難に使えぬ」)
会議では、原子力安全・保安院の渡辺剛英原子力防災課室長が国の防災指針見直しに向 けた取り組み状況を説明した。会議が開かれるのは、昨年12月に続いて2回目。県は国 が3月中にまとめる原子力防災指針の中間報告を見て、4月にも次回会合を開く。(⇒テンポが遅すぎはしないか?)
部会では、志賀原発の半径30キロ圏外への避難指示が出た場合、奥能登の住民6万人 余が孤立化するとのデータが示された。県側は自衛隊や海上保安部などが所有するヘリコ プターや船を使って住民や救援物資などを運び、孤立化を防ぐ対策案を明らかにした。
孤立化する懸念があるのは、珠洲、輪島、穴水、能登の2市2町の住民。30キロ圏外 で屋内退避などの指示が出た場合、長期間にわたって陸路が遮断される可能性がある。県 側は2市2町にある港湾・漁港、能登空港、ヘリポートを使って対応するとし、自衛隊機 や海保の巡視船艇だけでなく、民間のフェリーや漁船にも協力を求める考えを示した。
金沢海上保安部の田原研二次長は「水深が足りず、入れない港もある。受け入れ可能な 港湾を決めておいてほしい」と注文。陸上自衛隊第14普通科連隊の榎木良彦副連隊長は 東日本大震災では避難者の自家用車などでヘリポートが埋まり、着陸できなくなった事例 を紹介した。
小泉町長は30キロ圏外への避難先に珠洲市や輪島市が含まれていることについて「孤 立するところに避難させるのはおかしい。金沢や南加賀に避難させてはどうか」と見直し を求めた。(北国新聞)
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避難計画の見直しは、住民説明会を開きながら行うべきである。
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⇒「自主避難」と「風評被害」 (2011/3/26)より
・・・・・ 昨日(3/25)の報道の問題は、「避難の勧告」地域の拡大が、「異常な水準の放射線量」の「検出」が「前提」でなければならないかのように、政府が主張したことに対し、その批判的論評がなかったことだ。(⇒ここで言う「放射線量」とは、(原災法)第十五条一項が定める「主務大臣が受けた通報に係る検出された放射線量又は政令で定める放射線測定設備及び測定方法により検出された放射線量」のことをさす)
毎日新聞の記事は、次のように書いている。
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1, 20~30キロ圏内に対する自主避難要請は24日夜、首相官邸の主導で対象の9市町村に伝えられたうえで、枝野幸男官房長官が25日の記者会見で発表。
2, 原子力災害対策特別措置法(原災法)に基づく避難指示を出せば、放射性物質による汚染拡大を政府が正式に認定することになり、周辺住民の不安に拍車をかけかねない(⇒完全なる詭弁、欺瞞)。
一方、屋内退避の長期化で不自由な生活への不満が住民側に強まっていたため、超法規的な「要請」によって政府批判の緩和を狙った・・・。
3, 原発事故の対応を超えた政治判断は保安院にはできないため、25日に原子力安全委員会の臨時会を開き、放射線のモニタリング結果などを理由に、自主避難が「望ましい」と助言する形をとった・・・。
4, 原災法に基づく避難指示は「異常な水準の放射線量」の検出が前提。自主避難を自治体に要請する根拠法はなく、実際に住民を避難させるかどうかの判断は各市町村に委ねられた。避難先の確保や移動手段なども市町村が考えなければならず、野党からは「中途半端」などの批判がかえって強まっている・・・。
5, 菅直人首相は25日夜、避難指示に切り替えなかったことについて「原子力安全委員会の専門家の判断を尊重した対応」と強調、しかし保安院関係者は「先に判断したのは官邸。避難指示は放射線量が高いまま下がらない場合などに検討する」と語り、官邸指示に従った苦肉の策だと認めた・・・。
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私は、上の1~5、すべてが無茶苦茶だと思う。
おそらくこの問題、原発事故をめぐる「被害」と「避難」の問題は、「原爆訴訟」や「水俣訴訟」と同様に、今後半世紀以上をかけた対東電、国賠訴訟へと発展してゆくだろう。
(中略)
「こうした状況は、かねて指摘してきたように」と書いているが、私は毎日新聞が「自主避難」地域の撤廃→避難地域の拡大を社説で「指摘」した事実を知らない。もちろん、私が見落としているだけかもしれないが、事故発生後、朝日、読売、産経の社説でそのような主張をしたものは一つもない。日経や東京新聞の社説に関する記憶もない。
おそらくこれが、大地震による災害報道と原発による災害報道の決定的違いだろう。メディアの「眼」が、放射能汚染の拡大に焦点があてられ(首都圏への「影響拡大」など)、現場周辺地域で汚染や被曝の被害を受ける人々の存在に向わないのだ。原発事故被災者の「見捨て/見殺し」の構図である。
「放射性物質の拡散の仕方をみると、同心円状の避難対策では対応しきれない」というのも、私には意味がわからない。これは放射性物質が第一原発から同心円状=均一的に拡散しないという、当たり前の事後的調査の結果をもってそう言っているだけのことであって、避難地域を拡大しないことの正当化にはなりえない。どこにどれだけ放射能被害が現れるかを事前に予想することはできないからだ。つまり、避難区域は同心円的に拡大する以外に方法はない。それをした上で、被害が集中している地域をモニタリングによって特定し、その地域に対する重点的救援・支援を実施する責任が国にはあるのである。
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・原発政策、結論先送り 自民エネ特命委が中間報告
自民党の総合エネルギー政策特命委員会(委員長・山本一太参院議員)は15日、東京電力福島第1原発事故を受けたエネルギー政策見直しに関する中間報告をまとめた。ただ、焦点だった原発政策については結論を先送りした。
中間報告は今後10年を「原子力の未来を決める10年」と明記。その間に再生可能エネルギーの導入や省エネルギーを推進し、原子力の利用は国民的議論を喚起して「中長期的観点から結論を出す」として明確にしなかった。
定期検査で停止中の原発の再稼働は「万全な安全確保と地元住民の理解、納得を前提」として容認、必要最小限の電力量をまかなうために活用するとした。使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル開発」についても「エネルギー供給と研究開発の観点から議論を展開する必要がある」として結論を見送った。(産経)
・原発再稼働、民主が容認へ 夏の電力不足を懸念
民主党は15日、定期点検で停止中の原発の再稼働を容認する方向で調整を始めた。夏場に電力不足になるとの予想に加え、イランからの原油調達の削減などでエネルギー不足への懸念が広がる中、夏前の再稼働をめざす野田内閣を後押しする狙いがある。
党エネルギープロジェクトチーム(PT)は3月をめどに、ストレステスト(耐性評価)の厳格化や地元同意などを条件として、「原発再稼働なしには今夏、電力不足に陥る可能性がある」との趣旨の報告書をまとめる方針。前原誠司政調会長ら党幹部は再稼働を唱えており、政府が夏までに策定するエネルギー基本計画への反映を目指す。
PTは15日の会合で、原子力安全・保安院が関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)のストレステストを「妥当」とした審査書について協議。経団連など経済3団体幹部から、夏場の電力不足や原油高騰への懸念から原発の再稼働を強く要請された。 (朝日)