依存症治療に取り組む関係者として、安保法案に反対します
――「戦争ストレス調査研究ネットワーク」記者会見―
8 月 6 日(木)18:30~、衆議院第 2 議員会館第 7 会議室(地下1階)
趣旨
安保法案によって海外派兵される自衛隊員に PTSD、依存症、気分障害、自殺が増加し、その家族も巻き込まれて精神的に病んでいくことを私たちは強く懸念します。 日本からサマワに派遣された自衛隊員に関してのメンタルヘルスのデータは十分に作成されていませんが、今回の安保法案は「後方支援:兵站支援」によって戦闘に巻き込まれる危険性はこれまで以上に増えると考えるのが妥当です。
米国のイラク・アフガニスタンからの帰還兵のメンタルヘルスの現状は危機的であり、2012 年8月、オバマ大統領がメンタルヘルス対策は政権の最優先課題と呼んだ程です。 国会の論議を聞く限り、政府はそのような厳しい認識をしていないし、PTSD や依存症の増加という予想される事態への覚悟もあるとは思えません。 戦闘で生じた PTSD の戦後に続く苦悩は、アルコールや薬物で癒やそうとされてアルコール・薬物依存症に陥ってしまいやすいのです。
現代の戦争には、帰還隊員にこのようなメンタルヘルスの危機という「戦後」が待ち受ける可能性があるのです。 依存症治療に関係してきた我々は、これらの病の回復には本人も家族も支援者も多大な困難を乗り越えていく必要がある故に、安保法制によって依存症が増えていくことを容認することはできません。 これほどの苦悩をもたらす戦争は防止すべきです。 神戸でも東北の震災でも PTSD 防止や依存症対策に日本人は奔走しましたが、安保法案という「人災」によって PTSD が発生していくことを私たちは看過できません。
当日は、イラクやアフガニスタンからの米国帰還兵の PTSD と依存症の実情についてデータで示しつつ、我々の考え(声明文:戦争には戦後がある!自衛隊員とその家族のメンタルヘルスを憂慮し、安保法案に反対します)を提示し、安保法制の廃案を訴えます。
スピーカー
● 猪野 亜朗(かすみがうらクリニック副院長、日本依存神経精神科学会理事、全日本断酒連盟顧問:著書「アルコール依存症・回復の手引」:小学館他)
● 奥田 宏(ひろメンタルクリニック院長、金沢工業大学教授、日本アルコール関連問題学会理事:訳書「今、ここに神はいないー米海兵隊が見た硫黄島の地獄―」:悟桐書院) なお、調査研究ネットワークのメンバーが同席します。
――戦争ストレス調査研究ネットワーク(医師 31 人、その他関連職種 55 人)
////////////////////////////////////////
「戦争には戦後がある!安保法案に反対し、自衛隊員とその家族のメンタルヘルスを守ります!」
私たちは、長年、アルコール依存症を中心とした精神科医療や保健福祉に従事してきた立場から、今国会で審議されている安保法案に反対します。
戦争は戦死の悲劇だけでなく、人間に極度のストレスをもたらし、派兵される自衛隊員に
PTSD、アルコール・薬物依存症、自殺が増えていく可能性があるからです。
こ の法案では、自衛隊員の出動は「前線」でなく「後方支援」としていますが、そもそも「前線」が明確で無いのですから、「後方」と言っても戦闘に巻き込まれ る危険性が非常に高いと考えるのが妥当です。現在の戦争は、イラクやアフガニスタンの戦争のように「前線」が明確ではありません。突然の路上爆弾、自爆テ ロなどが見られ、いつ、どこで、どうなるか、予測困難で過酷な戦場のため、極度のストレスにさらされます。また、戦争においては「兵站」つまり「後方支 援」が不可欠ですから、当然、「後方」も敵から狙われることになります。
ピュリツアー賞を報道部門で受賞したデビッド・フィンケル氏は取 材を通して、「イラクとアフガニスタンからの 200 万人の帰還兵のうち、20%から30%が、PTSD(恐怖を味わうことで誘発された精神的障害)や、外傷性脳損傷(外部から強烈な衝撃を与えられた脳が頭 蓋の内側とぶつかり、心理的な障害を引き起こす)を負っている。どの戦争にも必ず“戦争の後”があり、イラクとアフガニスタンの戦争にも戦争の後がある。 それが生み出したのは、精神的な障害を負った50万人の元兵士である。」1)と述べています。
そして、自殺対策の軍の最高責任者は「アルコールへの過度の依存や、処方 薬への依存、その他のリスクの高い行動をとったときにも、必要なアクションを起こす事ができる。そのための努力を更に強化してもらいたいと思う」1)と述 べて、依存が自殺のリスクを高めることに注目して対策を立てることを求めています。さらに、帰還兵の家族が、帰還兵の PTSD の症状に巻き込まれて苦しみ、自殺の不安に怯える姿を報告しています。
PTSD の臨床症状には、「突然、つらい記憶がよみがえる, 常に神経が張りつめている,記憶を呼び起こす状況や場面を避ける, 感覚が麻痺する, いつまでも症状が続く」2)が挙げられ、「PTSD の患者はアルコールや薬物の関連障害と強い関連があり、攻撃、暴力、衝動制御困難、抑うつが生じる」3)とあります。
また、アメリカの研 究論文によると、男性兵士の自殺率は一般男性の2倍4)、女性兵士は一般女性の3倍5)、アルコールの不適切な使用については「イラクに派兵されたアメリ カ陸軍 6,527 人への 2 項目調査では 28%がアルコールの不適切な使用とされ、飲酒運転や二日酔いによる遅刻の割合も高かった。」6)と報告されています。
本法案により、自衛隊員の出動が拡大されれば、上記のような米国の戦争と戦後の数々の悲劇が、自衛隊員とその家族に生じることを恐れます。
私たちは自衛隊員とその家族の不幸を防ぐためにも、本法案を見過ごすことはできません。
戦争ストレス調査研究ネットワーク
文献
1)デイヴィッド・フィンケル:帰還兵はなぜ自殺するのか.p18,亜紀書房,東京,2015.
2)厚生労働省:PTSD.みんなのメンタルヘルス, http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_ptsd.html 2015.7.2.
3)ハロルド I カプラン:外傷後ストレス障害と急性ストレス障害.カプラン,p365-371, 臨床精神医学テキスト-DSM―Ⅳ診断基準の臨床への展開 メディカル・サイエンス・インターナショナル,1996.
4)Kaplan MS et al:Suicide among male veterans: a prospective population‐based study. J Epidemiol Community Health. 2007 Jul; 61(7): 619–624.
5)McFarland BH et al:Self-Inflicted Deaths Among Women With U.S. Military Service:
A Hidden Epidemic? . Psychiatr Serv. 2010 Dec;61(12):1177.
6)Santiago PN et al: Screening for alcohol misuse and alcohol-related behaviors among combat veterans. Psychiatr Serv. 2010;61:575-581.
=戦争ストレス調査研究ネットワーク(あいうえお順)= 精神保健福祉士・臨床心理士・作業療法士 医 師 保健師・看護師・国連大学教員・その他
浅 野 久木 菅沼 直樹 青木美智子 下司 孝之 堂本祐三子 山崎 文野 池田 朋広 杉山由加里 泉 知子 後藤見知子 友杉明日香 山下 一朗 猪野 亜朗 田村 修 磯田 勇人 菰口 陽明 豊田 秀雄 吉岡 幸子 内田 恒久 塚田勝比古 板倉 康広 近藤 千春 中村 雅代 吉川 晴子 遠藤健一郎 辻本 士郎 稲葉健太郎 斉藤 和夫 西田 美香 米山奈奈子
遠藤太久郎 土川権三郎 大嶋 栄子 佐古惠利子 野口 弘之 若林真衣子 小笠原一能 野田 哲朗 大谷 和美 崎岡 誠司 橋本 直子 和田 正子 奥田 宏 林 真彦 大野 佳枝 佐藤 嘉孝 廣中 直行 落合 正弘 藤城 聡 岡崎 直人 新藤 説子 稗田 里香 垣渕 洋一 二神 啓通 岡嶋 美代 鈴木 幸恵 深井 英喜 加藤 眞三 松浦 健伸 岡田 洋一 宗田美名子 畚野 真木 北野 陽子 森田 展彰 奥田 由子 袖浦美奈子 益山桂太郎 後藤 恵 柳澤 裕子 奥村 純子 高木 啓匡 南川久美子
問い合わせ先
猪野亜朗 aroino@za.ztv.ne.jp (国会内連絡先:阿部知子事務所 03-3508-7303、担当・宇佐美)
――「戦争ストレス調査研究ネットワーク」記者会見―
8 月 6 日(木)18:30~、衆議院第 2 議員会館第 7 会議室(地下1階)
趣旨
安保法案によって海外派兵される自衛隊員に PTSD、依存症、気分障害、自殺が増加し、その家族も巻き込まれて精神的に病んでいくことを私たちは強く懸念します。 日本からサマワに派遣された自衛隊員に関してのメンタルヘルスのデータは十分に作成されていませんが、今回の安保法案は「後方支援:兵站支援」によって戦闘に巻き込まれる危険性はこれまで以上に増えると考えるのが妥当です。
米国のイラク・アフガニスタンからの帰還兵のメンタルヘルスの現状は危機的であり、2012 年8月、オバマ大統領がメンタルヘルス対策は政権の最優先課題と呼んだ程です。 国会の論議を聞く限り、政府はそのような厳しい認識をしていないし、PTSD や依存症の増加という予想される事態への覚悟もあるとは思えません。 戦闘で生じた PTSD の戦後に続く苦悩は、アルコールや薬物で癒やそうとされてアルコール・薬物依存症に陥ってしまいやすいのです。
現代の戦争には、帰還隊員にこのようなメンタルヘルスの危機という「戦後」が待ち受ける可能性があるのです。 依存症治療に関係してきた我々は、これらの病の回復には本人も家族も支援者も多大な困難を乗り越えていく必要がある故に、安保法制によって依存症が増えていくことを容認することはできません。 これほどの苦悩をもたらす戦争は防止すべきです。 神戸でも東北の震災でも PTSD 防止や依存症対策に日本人は奔走しましたが、安保法案という「人災」によって PTSD が発生していくことを私たちは看過できません。
当日は、イラクやアフガニスタンからの米国帰還兵の PTSD と依存症の実情についてデータで示しつつ、我々の考え(声明文:戦争には戦後がある!自衛隊員とその家族のメンタルヘルスを憂慮し、安保法案に反対します)を提示し、安保法制の廃案を訴えます。
スピーカー
● 猪野 亜朗(かすみがうらクリニック副院長、日本依存神経精神科学会理事、全日本断酒連盟顧問:著書「アルコール依存症・回復の手引」:小学館他)
● 奥田 宏(ひろメンタルクリニック院長、金沢工業大学教授、日本アルコール関連問題学会理事:訳書「今、ここに神はいないー米海兵隊が見た硫黄島の地獄―」:悟桐書院) なお、調査研究ネットワークのメンバーが同席します。
――戦争ストレス調査研究ネットワーク(医師 31 人、その他関連職種 55 人)
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声明文
「戦争には戦後がある!安保法案に反対し、自衛隊員とその家族のメンタルヘルスを守ります!」
私たちは、長年、アルコール依存症を中心とした精神科医療や保健福祉に従事してきた立場から、今国会で審議されている安保法案に反対します。
戦争は戦死の悲劇だけでなく、人間に極度のストレスをもたらし、派兵される自衛隊員に
PTSD、アルコール・薬物依存症、自殺が増えていく可能性があるからです。
こ の法案では、自衛隊員の出動は「前線」でなく「後方支援」としていますが、そもそも「前線」が明確で無いのですから、「後方」と言っても戦闘に巻き込まれ る危険性が非常に高いと考えるのが妥当です。現在の戦争は、イラクやアフガニスタンの戦争のように「前線」が明確ではありません。突然の路上爆弾、自爆テ ロなどが見られ、いつ、どこで、どうなるか、予測困難で過酷な戦場のため、極度のストレスにさらされます。また、戦争においては「兵站」つまり「後方支 援」が不可欠ですから、当然、「後方」も敵から狙われることになります。
ピュリツアー賞を報道部門で受賞したデビッド・フィンケル氏は取 材を通して、「イラクとアフガニスタンからの 200 万人の帰還兵のうち、20%から30%が、PTSD(恐怖を味わうことで誘発された精神的障害)や、外傷性脳損傷(外部から強烈な衝撃を与えられた脳が頭 蓋の内側とぶつかり、心理的な障害を引き起こす)を負っている。どの戦争にも必ず“戦争の後”があり、イラクとアフガニスタンの戦争にも戦争の後がある。 それが生み出したのは、精神的な障害を負った50万人の元兵士である。」1)と述べています。
そして、自殺対策の軍の最高責任者は「アルコールへの過度の依存や、処方 薬への依存、その他のリスクの高い行動をとったときにも、必要なアクションを起こす事ができる。そのための努力を更に強化してもらいたいと思う」1)と述 べて、依存が自殺のリスクを高めることに注目して対策を立てることを求めています。さらに、帰還兵の家族が、帰還兵の PTSD の症状に巻き込まれて苦しみ、自殺の不安に怯える姿を報告しています。
PTSD の臨床症状には、「突然、つらい記憶がよみがえる, 常に神経が張りつめている,記憶を呼び起こす状況や場面を避ける, 感覚が麻痺する, いつまでも症状が続く」2)が挙げられ、「PTSD の患者はアルコールや薬物の関連障害と強い関連があり、攻撃、暴力、衝動制御困難、抑うつが生じる」3)とあります。
また、アメリカの研 究論文によると、男性兵士の自殺率は一般男性の2倍4)、女性兵士は一般女性の3倍5)、アルコールの不適切な使用については「イラクに派兵されたアメリ カ陸軍 6,527 人への 2 項目調査では 28%がアルコールの不適切な使用とされ、飲酒運転や二日酔いによる遅刻の割合も高かった。」6)と報告されています。
本法案により、自衛隊員の出動が拡大されれば、上記のような米国の戦争と戦後の数々の悲劇が、自衛隊員とその家族に生じることを恐れます。
私たちは自衛隊員とその家族の不幸を防ぐためにも、本法案を見過ごすことはできません。
戦争ストレス調査研究ネットワーク
文献
1)デイヴィッド・フィンケル:帰還兵はなぜ自殺するのか.p18,亜紀書房,東京,2015.
2)厚生労働省:PTSD.みんなのメンタルヘルス, http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_ptsd.html 2015.7.2.
3)ハロルド I カプラン:外傷後ストレス障害と急性ストレス障害.カプラン,p365-371, 臨床精神医学テキスト-DSM―Ⅳ診断基準の臨床への展開 メディカル・サイエンス・インターナショナル,1996.
4)Kaplan MS et al:Suicide among male veterans: a prospective population‐based study. J Epidemiol Community Health. 2007 Jul; 61(7): 619–624.
5)McFarland BH et al:Self-Inflicted Deaths Among Women With U.S. Military Service:
A Hidden Epidemic? . Psychiatr Serv. 2010 Dec;61(12):1177.
6)Santiago PN et al: Screening for alcohol misuse and alcohol-related behaviors among combat veterans. Psychiatr Serv. 2010;61:575-581.
=戦争ストレス調査研究ネットワーク(あいうえお順)= 精神保健福祉士・臨床心理士・作業療法士 医 師 保健師・看護師・国連大学教員・その他
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猪野亜朗 aroino@za.ztv.ne.jp (国会内連絡先:阿部知子事務所 03-3508-7303、担当・宇佐美)