軍事化を深める日本の「国際協力」とODA
安倍政権の下で、憲法9条の下での集団的自衛権の行使容認の動きと相まって、日本の「国際協力」、政府開発援助(ODA)の軍事化が急速に進んでいる。 以下は、先月の報道であるが、この機会に紹介しておこう。
とりわけ、「ODA有識者懇」が、「軍事」と「民生」・「災害援助」を意図的に区別し、外務・防衛を中心に、官・政・財一体となって他国の軍隊への軍事支援を正当化する様子、つまりは「戦後」ODAの基本理念(それ自体にも、様々問題はあったにせよ)の抜本的転換のロジックをしっかり見抜いておきたいと思う。
・ODA有識者懇: 他国軍支援拡大を提言「非軍事目的なら」
政府開発援助(ODA)大綱の見直しに向けた外務省の有識者懇談会(座長、薬師寺泰蔵・慶応大名誉教 授)は(6月)26日、報告書をまとめ、岸田文雄外相に提出した。
現大綱で原則として禁止している他国の軍隊への支援について「民生目的、災害援助など非軍事目的 の支援であれば、一律に排除すべきではない」と明記。
国連平和維持活動(PKO)との連携の重要性も指摘し、支援対象の拡大を求めた。同省は報告書を踏ま え、年内に2003年以来となるODA大綱の改定を行う。
安倍晋三首相は「積極的平和主義」の一環として「ODAの積極的・戦略的活用」を掲げている。報告書は 新大綱の基本理念を「国際社会の平和、安定、繁栄の確保に積極的に貢献する」とするよう提案。中国の海洋進出なども念頭に、重点課題として「民主化」や 「法の支配の確保」の明記も求めた。
そのうえで、従来掲げてきた「平和の構築」の拡大を求め、「海上保安能力強化」などを例示して「国際社会の安定・安全 に関する課題への対処を広く扱う」と提起。安全保障面での貢献を強める方向性を打ち出した。
基本方針には「非軍事的手段による平和の希求」を掲げた。一方で「現代では軍隊の非戦闘分野での活動も広がっている」とも指摘。非軍事目的での他国軍への支援について「十分慎重に検討を行い、実施を判断すべきだ」とした。
またODAの2.5倍の民間資金が途上国に流れている現状を踏まえ、民間資金・活動との連携強化の必要性も指摘した。ODAの対象外としてきた「中高所得国」や、供与対象から外れた「卒業国」への支援の検討も盛り込んだ。【毎日 鈴木美穂】
【ことば】ODA大綱
日本の対外援助政策の基本原則となっている大綱で、1992年6月に策定され、2003年8月に改定し た。現大綱は「平和の構築」を掲げて「軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する」と明記し、他国軍への支援を原則禁じている。政府のODA予算は、 ピーク時の97年度一般会計当初予算で1兆1687億円を計上しピークを迎えたが、財政悪化の影響で減少傾向となり、14年度は5502億円。
◆ODA大綱見直しに向けた外務省・有識者懇談会の報告書骨子
・「民主化の定着」や「法の支配」など発展の前提となる基盤強化を重視。海上保安能力など国際社会の安定・安全に関する課題の対処を広く扱う
・血塗られた援助 (愛媛新聞 2014年06月28日)
大洪水の後のような惨状を目の当たりにしたのは、もう20年も前。フィリピンのルソン島南部、バタンガス州サンタクララの漁村だった。家はなぎ払われ、住民は仮設住宅で不便な生活を強いられていた▲
ただし、原因は洪水ではない。「政府軍や警官隊がやって来て強制退去させられた」。住民の悲惨な声がよみがえる。企業誘致のための港湾拡張工事の強行による村つぶしでは、死者も出た。後ろ盾は、日本による政府開発援助(ODA)▲
途上国の発展に寄与する、というODAの理念に異議はない。ただ、日本企業進出を前提にした「ひも付き援助」との指摘や、利権をめぐる贈賄事件などもあって、制度の見直しも進んできた。しかし、被援助国の要望と落差は縮まらない▲
援助の対象は相手国政府。住民を置き去りに森は伐採され、巨大ダムは川を汚染し、道路や港の建設は生態系を破壊する。格差も増大、追い詰められた先住民が訴訟で援助の中止を訴えたこともある▲
ODAの見直しに向け、外務省の有識者懇談会が報告書を出した。その提言にがくぜんとする。国際平和協力などのための「積極的・戦略的活用」「平和維持活動(PKO)との連携」。非軍事分野で、外国軍への支援も可能とする内容だ▲
援助の結果が読めない危うさは、流血の協力となったフィリピンの例を引くまでもない。姿勢をただせないまま「開発援助」の歴史が終わろうとしている。
〈再掲〉
『脱「国際協力」 ~開発と平和構築を超えて~』のご案内
安倍政権の下で、憲法9条の下での集団的自衛権の行使容認の動きと相まって、日本の「国際協力」、政府開発援助(ODA)の軍事化が急速に進んでいる。 以下は、先月の報道であるが、この機会に紹介しておこう。
とりわけ、「ODA有識者懇」が、「軍事」と「民生」・「災害援助」を意図的に区別し、外務・防衛を中心に、官・政・財一体となって他国の軍隊への軍事支援を正当化する様子、つまりは「戦後」ODAの基本理念(それ自体にも、様々問題はあったにせよ)の抜本的転換のロジックをしっかり見抜いておきたいと思う。
・ODA有識者懇: 他国軍支援拡大を提言「非軍事目的なら」
政府開発援助(ODA)大綱の見直しに向けた外務省の有識者懇談会(座長、薬師寺泰蔵・慶応大名誉教 授)は(6月)26日、報告書をまとめ、岸田文雄外相に提出した。
現大綱で原則として禁止している他国の軍隊への支援について「民生目的、災害援助など非軍事目的 の支援であれば、一律に排除すべきではない」と明記。
国連平和維持活動(PKO)との連携の重要性も指摘し、支援対象の拡大を求めた。同省は報告書を踏ま え、年内に2003年以来となるODA大綱の改定を行う。
安倍晋三首相は「積極的平和主義」の一環として「ODAの積極的・戦略的活用」を掲げている。報告書は 新大綱の基本理念を「国際社会の平和、安定、繁栄の確保に積極的に貢献する」とするよう提案。中国の海洋進出なども念頭に、重点課題として「民主化」や 「法の支配の確保」の明記も求めた。
そのうえで、従来掲げてきた「平和の構築」の拡大を求め、「海上保安能力強化」などを例示して「国際社会の安定・安全 に関する課題への対処を広く扱う」と提起。安全保障面での貢献を強める方向性を打ち出した。
基本方針には「非軍事的手段による平和の希求」を掲げた。一方で「現代では軍隊の非戦闘分野での活動も広がっている」とも指摘。非軍事目的での他国軍への支援について「十分慎重に検討を行い、実施を判断すべきだ」とした。
またODAの2.5倍の民間資金が途上国に流れている現状を踏まえ、民間資金・活動との連携強化の必要性も指摘した。ODAの対象外としてきた「中高所得国」や、供与対象から外れた「卒業国」への支援の検討も盛り込んだ。【毎日 鈴木美穂】
【ことば】ODA大綱
日本の対外援助政策の基本原則となっている大綱で、1992年6月に策定され、2003年8月に改定し た。現大綱は「平和の構築」を掲げて「軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する」と明記し、他国軍への支援を原則禁じている。政府のODA予算は、 ピーク時の97年度一般会計当初予算で1兆1687億円を計上しピークを迎えたが、財政悪化の影響で減少傾向となり、14年度は5502億円。
◆ODA大綱見直しに向けた外務省・有識者懇談会の報告書骨子
・「民主化の定着」や「法の支配」など発展の前提となる基盤強化を重視。海上保安能力など国際社会の安定・安全に関する課題の対処を広く扱う
・血塗られた援助 (愛媛新聞 2014年06月28日)
大洪水の後のような惨状を目の当たりにしたのは、もう20年も前。フィリピンのルソン島南部、バタンガス州サンタクララの漁村だった。家はなぎ払われ、住民は仮設住宅で不便な生活を強いられていた▲
ただし、原因は洪水ではない。「政府軍や警官隊がやって来て強制退去させられた」。住民の悲惨な声がよみがえる。企業誘致のための港湾拡張工事の強行による村つぶしでは、死者も出た。後ろ盾は、日本による政府開発援助(ODA)▲
途上国の発展に寄与する、というODAの理念に異議はない。ただ、日本企業進出を前提にした「ひも付き援助」との指摘や、利権をめぐる贈賄事件などもあって、制度の見直しも進んできた。しかし、被援助国の要望と落差は縮まらない▲
援助の対象は相手国政府。住民を置き去りに森は伐採され、巨大ダムは川を汚染し、道路や港の建設は生態系を破壊する。格差も増大、追い詰められた先住民が訴訟で援助の中止を訴えたこともある▲
ODAの見直しに向け、外務省の有識者懇談会が報告書を出した。その提言にがくぜんとする。国際平和協力などのための「積極的・戦略的活用」「平和維持活動(PKO)との連携」。非軍事分野で、外国軍への支援も可能とする内容だ▲
援助の結果が読めない危うさは、流血の協力となったフィリピンの例を引くまでもない。姿勢をただせないまま「開発援助」の歴史が終わろうとしている。
〈再掲〉
『脱「国際協力」 ~開発と平和構築を超えて~』のご案内
NGOは誰のために活動するのか。
「開発援助」による貧困と、「平和構築」による暴力から脱け出すために。
『脱「国際協力」 ~開発と平和構築を超えて~』の序章から
NGOは政府とのパートナーシップを追求するあまりに独立性を失ってはいまいか、そして社会変革への志向も薄らぎつつあるのではないか。
本書の編者らが『国家・社会変革・NGO-政治への視線/NGO運動はどこへ向かうべきか』(新評論、2006年)を出版したのはそんな危機意識からであった。
国際協力の分野においてその危機は今、さらに深まりつつある。国益実現のツールとしての政府開発援助(ODA)の戦略的活用路線がますます明確になり、対テロ戦争と並行共存する平和構築が日本の国際協力政策の中核の一つに位置づけられるようになっているからだ。
本書はこの危機の深まりを捉えるために、国際協力政策の背景やその依拠する考え方、そして国際協力という言説そのものの見直しに主眼をおいている。
本書の第一の特色は、非国家の視点から国際協力を論じている点にある。例えばODAを“援助する側”の論理ではなく“援助を受ける側”の視点で見れば、「開発援助」の思想と実態の“貧しさ”が見えてくる。
本書のもう一つの特色は、問題提起と批判的省察の姿勢をもって主流の国際協力のあり方を検討している点にある。「平和構築」と呼ばれる一連の活動も、アフガニスタンなどの現場で起きていることを直視すれば、それが本当に平和を創出しているのか疑問に思わない方が難しい。むしろ“人道的帝国主義”と呼べるような事態が進行しつつあるといえる。
福島第一原発事故によって原発推進における産官学政一体の癒着構造が明らかになった今、主流から外れることを恐れず、国家におもねることなく、被害に遭い切り捨てられる人々の立場に立って物を考え行動し続けることの重要性を、今ほど痛感することはない。
NGOの出発点もそこにおくべきではないか。(編者 藤岡恵美子)
/////////
【目次】
序章
第一章 政官財ODAから地球市民による民際協力へ(村井吉敬)
Essay1 「国際協力」誕生の背景とその意味(北野 収)
第二章 日本の軍事援助(越田清和)
Essay2 差別を強化する琉球の開発(松島泰勝)
第三章 イスラエル占領下の「開発援助」は公正な平和に貢献するか?――パレスチナ・ヨルダン渓谷における民族浄化と「平和と繁栄の回廊」構想(役重善洋)
第四章 人道支援における「オール・ジャパン」とNGOの独立(藤岡美恵子)
Essay3 アフガニスタンにおける民軍連携とNGO(長谷部貴俊)
第 五章 日本の国際協力NGOは持続可能な社会を夢見るか?――自発性からの考察(高橋清貴)
Essay4 NGOによる平和促進活動とは?――バングラデシュ、チッタゴン丘陵の事例から(下澤 嶽)
Essay5 先住民族と「平和構築・開発」(木村真希子)
第六章 「保護する責任」にNO!という責任――21世紀の新世界秩序と国際人権・開発NGOの役割の再考(中野憲志)
【著者紹介】
-北野収-獨協大教員
-木村真希子-立教大非常勤講師
-越田清和-ほっかいどうピーストレード事務局長
-下澤嶽-ジュマ・ネット代表
-高橋清貴-日本国際ボランティアセンター(JVC)調査研究員
-中野憲志-先住民族・第四世界研究
-長谷部貴俊-JVCアフガニスタン現地代表
-藤岡美恵子-法政大他講師
-松島泰勝-龍谷大教員
-村井吉敬-早稲田大教員
-役重善洋-パレスチナの平和を考える会メンバー
★お問い合わせ sales@shinhyoron.co.jp
★カバー写真(表):アッサム(インド)の先住民族(ボド民族)の親子/ナガランド(インド・ビルマ国境)の女性たち。村への歓迎の歌を歌うため集まった/沖縄を象徴する熱帯植物ハイビスカス/アフガニスタン・ナンガルハル県の子どもたち(提供:JVC)/チャモロネーション(グアム)の自決を訴えるバナー(提供:山口響)
・・・
「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「ポスト「3・11」の世界と平和構築」(6/19)
「保護する責任」関連
⇒「「保護する責任」にNO!という責任--人道的介入と「人道的帝国主義」」(2010, 10/28)
⇒「人道的帝国主義とは何か---「保護する責任」と二一世紀の新世界秩序」(2/11)
⇒「「保護する責任」を推進するNGOの何が問題なのか?」(3/4)
⇒「ヒューマンライツ・ウォッチ(HRW)とオクスファム(Oxfam)が理解できていないこと」(2/24)
「開発援助」による貧困と、「平和構築」による暴力から脱け出すために。
『脱「国際協力」 ~開発と平和構築を超えて~』の序章から
NGOは政府とのパートナーシップを追求するあまりに独立性を失ってはいまいか、そして社会変革への志向も薄らぎつつあるのではないか。
本書の編者らが『国家・社会変革・NGO-政治への視線/NGO運動はどこへ向かうべきか』(新評論、2006年)を出版したのはそんな危機意識からであった。
国際協力の分野においてその危機は今、さらに深まりつつある。国益実現のツールとしての政府開発援助(ODA)の戦略的活用路線がますます明確になり、対テロ戦争と並行共存する平和構築が日本の国際協力政策の中核の一つに位置づけられるようになっているからだ。
本書はこの危機の深まりを捉えるために、国際協力政策の背景やその依拠する考え方、そして国際協力という言説そのものの見直しに主眼をおいている。
本書の第一の特色は、非国家の視点から国際協力を論じている点にある。例えばODAを“援助する側”の論理ではなく“援助を受ける側”の視点で見れば、「開発援助」の思想と実態の“貧しさ”が見えてくる。
本書のもう一つの特色は、問題提起と批判的省察の姿勢をもって主流の国際協力のあり方を検討している点にある。「平和構築」と呼ばれる一連の活動も、アフガニスタンなどの現場で起きていることを直視すれば、それが本当に平和を創出しているのか疑問に思わない方が難しい。むしろ“人道的帝国主義”と呼べるような事態が進行しつつあるといえる。
福島第一原発事故によって原発推進における産官学政一体の癒着構造が明らかになった今、主流から外れることを恐れず、国家におもねることなく、被害に遭い切り捨てられる人々の立場に立って物を考え行動し続けることの重要性を、今ほど痛感することはない。
NGOの出発点もそこにおくべきではないか。(編者 藤岡恵美子)
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【目次】
序章
第一章 政官財ODAから地球市民による民際協力へ(村井吉敬)
Essay1 「国際協力」誕生の背景とその意味(北野 収)
第二章 日本の軍事援助(越田清和)
Essay2 差別を強化する琉球の開発(松島泰勝)
第三章 イスラエル占領下の「開発援助」は公正な平和に貢献するか?――パレスチナ・ヨルダン渓谷における民族浄化と「平和と繁栄の回廊」構想(役重善洋)
第四章 人道支援における「オール・ジャパン」とNGOの独立(藤岡美恵子)
Essay3 アフガニスタンにおける民軍連携とNGO(長谷部貴俊)
第 五章 日本の国際協力NGOは持続可能な社会を夢見るか?――自発性からの考察(高橋清貴)
Essay4 NGOによる平和促進活動とは?――バングラデシュ、チッタゴン丘陵の事例から(下澤 嶽)
Essay5 先住民族と「平和構築・開発」(木村真希子)
第六章 「保護する責任」にNO!という責任――21世紀の新世界秩序と国際人権・開発NGOの役割の再考(中野憲志)
【著者紹介】
-北野収-獨協大教員
-木村真希子-立教大非常勤講師
-越田清和-ほっかいどうピーストレード事務局長
-下澤嶽-ジュマ・ネット代表
-高橋清貴-日本国際ボランティアセンター(JVC)調査研究員
-中野憲志-先住民族・第四世界研究
-長谷部貴俊-JVCアフガニスタン現地代表
-藤岡美恵子-法政大他講師
-松島泰勝-龍谷大教員
-村井吉敬-早稲田大教員
-役重善洋-パレスチナの平和を考える会メンバー
★お問い合わせ sales@shinhyoron.co.jp
★カバー写真(表):アッサム(インド)の先住民族(ボド民族)の親子/ナガランド(インド・ビルマ国境)の女性たち。村への歓迎の歌を歌うため集まった/沖縄を象徴する熱帯植物ハイビスカス/アフガニスタン・ナンガルハル県の子どもたち(提供:JVC)/チャモロネーション(グアム)の自決を訴えるバナー(提供:山口響)
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「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「ポスト「3・11」の世界と平和構築」(6/19)
「保護する責任」関連
⇒「「保護する責任」にNO!という責任--人道的介入と「人道的帝国主義」」(2010, 10/28)
⇒「人道的帝国主義とは何か---「保護する責任」と二一世紀の新世界秩序」(2/11)
⇒「「保護する責任」を推進するNGOの何が問題なのか?」(3/4)
⇒「ヒューマンライツ・ウォッチ(HRW)とオクスファム(Oxfam)が理解できていないこと」(2/24)