2012年8月7日火曜日

オスプレイもグローバルホークもいらない--「排他的経済水域の脱軍事化」をめざして

オスプレイもグローバルホークもいらない--「排他的経済水域の脱軍事化」をめざして

 私たちがロンドン五輪の競技に興奮し、その結果に一喜一憂している間に、米国、中国、ロシアに日本、国際政治で覇権をふるい、「国際の平和と安全」を乱す国々はやりたい放題だ。 これを「オリンピック便乗型ポリティクス」と呼ぶことにしよう。
 シリア情勢と国連安保理批判--というより、核軍事5大国=安保理常任理事国(+イスラエル)の利害で左右される国連体制の機構的欠陥--については後日、改めて述べることにする。 今日は、「中国脅威論」によって強引に正当化されようとしているオスプレイとグローバルホーク配備に対する政策的オルタナティヴについて考えてみたい。
 ポイントは、①「排他的経済水域の脱軍事化」と、②「国際的合意に基づく国境ラインの確定」の二つである。

Ⅰ 排他的経済水域の脱軍事化


 一昨日の読売新聞の社説は、4日に行われた日米防衛相会談について、次のように報じている。
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 「・・・会談では、日米の「動的防衛協力」の具体策でも合意した。無人偵察機による日本周辺海域の警戒監視活動の実施を検討し、グアム周辺での共同訓練を拡大する。
 動的防衛協力は、自衛隊と米軍の部隊運用を通じた協力だ。日米共同の情報収集・偵察活動や訓練、施設使用を重ね、緊急事態への抑止力を高める狙いがある。

 警戒監視活動では、グアムを拠点とし、米軍の無人機「グローバルホーク」を活用する方向だ。様々な事態の発生前の段階から日米が情報を共有し、事態の進展に応じて共同対処する方策を検討・協議することにつながる。
 グアムや北マリアナ諸島のテニアンでは、自衛隊と米軍の共同施設を整備し、上陸訓練などを行う案がある。重要性を増す南西方面の離島防衛の強化に役立とう・・・」
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 グローバルホークについては、 「防衛計画の大綱」に基づく中期防衛力整備計画(中期防、2011~15年度)において3機の導入がすでに検討されてきた。
 グローバルホークは、搭載装備を含めて1機約5千万ドル(約40億円)で、合計120億円超に上る。税金をむさぼる、非常に高い「買い物」である。司令部機能を持つ地上施設の整備にはさらに数百億円かかると言われているが、「性能とコスト」両面から国産無人機の開発よりも優位に立つとして、自公政権期に検討が始まり、民主党政権がゴーサインを出した格好である。

 日本には安保廃棄→「自主防衛」論者が多くいるはずなのだが、日本の歴代政権は、なぜいとも簡単に国産開発の断念をくり返すのか、また断念の背後には、いったいどのような「密約」が存在するのだろう。
 主要メディア、ジャーナリズムはもっとそちらに関心を向けた方がよいと思うのだが、そうならないところが原子力ムラの「闇」よりも暗い、「日米同盟ムラの闇」の暗闇の所以なのかもしれない。 


 本題に入ろう。 「オスプレイ配備と「動的防衛力」」の中で、私は次のように書いた。
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 米国は、国際的に「法的拘束力」をもつ「行動規範」のひとつ、「海洋法に関する国際連合条約」を批准していない世界でも稀な国家である。周辺諸国への覇権主義的圧力を強める中国は、そういう米国の「二重基準」(ダブルスタンダード)を批判するが、「どちらにも与することはできない」、というのが私の立場である。

 尖閣-南西諸島周辺の排他的経済水域をめぐる中国との角逐について言えば、「日本固有の領土」を念仏のように繰り返し、この地域の軍事化を進めたところで、状況は何も改善しない。日本はこの問題の「平和的解決」に向け、全力を傾注すべきである。
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 「戦後」歴代自民党政権や民主党政権が、日露、日韓、日中-日台(中華民国)関係に「領土問題は存在しない」、「「北方領土」「竹島」「尖閣諸島」は日本固有の領土」と「念仏のようにくり返し」てきた間に、ロシアは北方四島の「実効支配」を進め、韓国は「竹島」の領有権を主張し、「実効支配」の動きを加速し、中国・台湾も「尖閣諸島」や南西諸島周辺の排他的経済水域をめぐって、ロシア・韓国と同様の動きをみせてきた。
 つまり、ロシア、韓国、中国・台湾との二国間関係において、日本がどれだけ「固有の領土」論を主張しようが、相手政府がそれを認めず、日本と同じように「固有の領土」論を主張するに至ったのである。この現実を現実として、まず認識できるかどうか。そこから私たちは出発せざるをえない。 要するに、
①ロシア、韓国、中国・台湾に対して「民族主義反感」を抱き、民族差別丸出しで責めなじり、日本側の「実効支配」を進めるだけでは、事態は何も改善せず悪化するだけだということ、そして、
②「領土問題の紛争化を回避する」という外務省の業務上の責任から言えば、日本政府の側にも重大な非があることを、きとんと認めることができるかどうか、このことが私たち日本の主権者、市民に問われているのである。

 もちろん、これとまったく同じことが、ロシア、韓国、中国・台湾の一般市民にとっても問われている。関係国すべての政府が、「領土問題の紛争化を回避する」ために、やれること/やるべきこと/やらねばならないことをやろうとせず、自国のナショナリズム/民族主義を煽り、相手国のナショナリズム/民族主義を逆なでしながら、「領土問題」を口実とした自国の軍拡を進めているからだ。

 米国および日本の中の「日米同盟ムラ」は、中国との角逐・緊張を、日米安保の永久条約化と在日米軍の永久駐留、米国製兵器の売り込み・導入、米国の軍産学複合体への日本のそれの組み込みなど、まさに自らの「死活的利害」にかけて利用しようとしてきたし、これからもそうするだろう。オスプレイ、グローバルホークの配備・導入問題は、単なるその一例に過ぎない。「日米同盟」主義者にとっては、中国は「脅威」であってもらなければ困るのである。

 これと同様に、中国も人民解放軍の「近代化」と中国版「軍事における革命」を正当化するために、米軍と安保の「脅威」を喧伝し、利用するのは言うまでもない。「仮想敵国」や「外国のテロリスト」による「主権侵犯」キャンペーンは、武力による国家間の紛争を禁じた国連憲章の下で、安保理常任理事国自らが自国の核軍拡のために、くり返し使ってきた常とう手段なのである。


 では、悪無限的軍拡と周辺海域の軍事化に対して、どのようなオルタナティブがあるのか。
 第一に、二国間/多国間での「領土問題を紛争化しない合意」の文書による再確認と、係争領域における国境ラインの再確定に関する国際的な「第三者委員会」の設立である。この国際的「委員会」は、関係諸国の承認と信任を前提として、国連の下で組織されてもよいし、領土問題に関する完全中立が保証できる複数の第三国が仲介・調停するという形式をとってもよいだろう。何よりも重要なのは、日本が「主体的」な「平和外交」を駆使し、そのためのイニシアティブをとることである。

 第二に、水産・天然資源開発をめぐる具体的案件については、前回も述べたように「国際海洋法条約」をツールとして活用することができる。条約の条文・条項を精読してみよう
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国連海洋法条約(第5部 排他的経済水域)
第56条【排他的経済水域における沿岸国の権利、管轄権及び義務】
2 沿岸国は、排他的経済水域においてこの条約により自国の権利を行使し及び自国の義務を履行するに当たり、他の国の権利及び義務に妥当な考慮を払うものとし、また、この条約と両立するように行動する。

第58 条【排他的経済水域における他の国の権利及び義務】
3 いずれの国も、排他的経済水域においてこの条約により自国の権利を行使し及び自国の義務を履行するに当たり、沿岸国の権利及び義務に妥当な考慮を払うものとし、また、この部の規定に反しない限り、この条約及び国際法の他の規則に従って沿岸国が制定する法令を遵守する。

第59 条【排他的経済水域における権利及び管轄権の帰属に関する紛争の解決のための基礎】
この条約により排他的経済水域における権利又は管轄権が沿岸国又はその他の国に帰せられていない場合において、沿岸国とその他の国との間に利害の対立が生じたときは、その対立は、当事国及び国際社会全体にとっての利益の重要性を考慮して、衡平の原則に基づき、かつ、すべての関連する事情に照らして解決する。

第7部 公海
第88条【平和的目的のための公海の利用】

公海は、平和的目的のために利用されるものとする。

第13部 海洋の科学的調査
第240条【海洋の科学的調査の実施のための一般原則】

海洋の科学的調査の実施に当たっては、次の原則を適用する。
a.海洋の科学的調査は、専ら平和的目的のために実施する。

第16部 一般規定
第301条【海洋の平和的利用

締約国は、この条約に基づく権利を行使し及び義務を履行するに当たり、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合憲章に規定する国際法の諸原則と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない
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 ただし、ここで海洋法条約に関する基礎知識として確認しておきたいことがある。それは、「海洋」や排他的経済水域をめぐる国際紛争を解決するにあたり、海洋法条約に限界や問題点がないわけではない、との理解が海洋法や国際法の専門家・研究者の間では一般的であることである。それは、上に引用した海洋法条約の条項をみれば明らかなように、この条約には、公海や排他的経済水域における国家や国家連合の軍事行動に関する、明確な規定が存在しないことに起因するものである。

 わかりやすく言えば、こういうことである。海洋法条約は、国連安保理常任理事国やその「同盟国」が公海や排他的経済水域で行うあらゆる形態の軍事行動を、国連憲章の諸原則と両立するという前提の下で許容するという解釈の余地を残しており、実際に米国、旧ソ連→ロシアを始め安保理常任理事国や日本は、そのようなものとして、複数の国家が領有権を主張する海域における軍事行動・演習などを行ってきた、という経緯がある。

 この問題については、海洋法条約の条文・条項や国連憲章その他の国際条約を引きながら、さらに詳しく論じることができるが、ここではその余裕がない。要は、拒否権を発動し、国連加盟国の多数派の意思を踏みにじってきた常任理事国や日本が、世界の70カ国以上が支持する「公海・海洋の平和=非軍事化」の大きな壁となり、これを実現する障害物になってきた/いまでもそうなっている、というところにある。
 たとえば、「海洋国家」たる米国、イギリス、ロシアなどは、「公海において伝統的に認められた海洋の自由利用原則の一つ」として、「平和的目的」であれば、「軍事行動」も許されると言う。つまり「仮想敵国」や「テロリスト」から自国や「同盟国」の権益や「主権」が侵犯された場合には、「国際の平和と安全/安定」を「維持」するための軍事行動は、「平和のための行動」であり、それは国連憲章の精神と矛盾しない、という解釈が成り立ってしまうのである。

 これに対し、たとえばブラジルなどは、国連海洋法条約への署名に際し、軍事演習は沿岸国の同意なしには認められないと理解するとの解釈宣言を行ったことがあるし、数多くの途上国は、軍事調査を含む全ての海洋調査活動に対して同意申請を義務付ける国内法を設けている。
 (中国に関して言えば、米国が行う「軍事調査」に対しては、沿岸国の領土保全と政治的独立を侵害し、自国の安全保障上の利益を害すると主張しながら、自国は他国に対して米国と同様のことをするという、行動上の二重基準の矛盾を犯している、と言えるだろう)。

 その意味で、この問題は、「国際の平和と安全」をめぐるあらゆる問題がそうであるように、「武器貿易」をめぐる国際論争の構図ととてもよく似ている。武器輸出大国たる米国を筆頭する安保理常任理事国の存在が、核も紛争も武器もない〈平和〉な国際社会の最大の阻害物になっているのだから。

〈結論〉
① 「南シナ海」や「東シナ海」で起こっていることは、海洋法条約の枠組みの中で処理し、解決することができるし、そうすべきである。
② 現行の条約に限界があるなら、国際的な議論を積み上げ、改正すればよいだけの話である。
③ 「平和国家日本」は、そこにおいてこそパワーを発揮すべきである。
④ 「日米同盟ムラ」がまきちらす嘘とペテン、デマゴギーに、くれぐれもこれ以上だまされないようにしよう。

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【オスプレイ配備】
「オスプレイNO」全国で 配備反対(沖縄タイムス)
オスプレイ配備 米方針追認なら無意味(東京新聞)
・オスプレイ、29日討論会=沖縄配備に理解促す-防衛省
 野田政権は、「日米同盟とオスプレイの沖縄配備」と題したシンポジウムを29日に都内で開くと発表。森本大臣。「政府が説明するだけでは十分とは言えない。できるだけ客観的に、専門家の目から見て、広い視点から議論していただく・・・」。