2012年8月8日水曜日

オスプレイ配備擁護論の耐えられない軽さ

オスプレイ配備擁護論の耐えられない軽さ


 先月来、オスプレイの配備を擁護する「専門家」や研究者の論考のいくつかに目を通してきたが、その議論の耐えられない軽さ、浅はかさに、いささか閉口し、「食傷気味」になっている。後世の世代のために、もう少しマシな議論はできないものか。

 オスプレイ配備擁護論の論点は、おおむね次の3点に集約できる。
①「100%の安全」を求めることは間違っている。→「原発に100%の安全はありえない→原発容認・推進」と同じ論理構造。
②「尖閣諸島」を含む南西諸島の対中防衛のために海兵隊とオスプレイは「不可欠」の存在。
③「日米同盟」(という欺瞞)の「深化」のために、オスプレイ(やグローバルホーク)の配備は「死活的」に重要。

 たとえば、ここに「強まるオスプレイ配備への反発 現実離れした日本の要求」と題された、「スティムソン・センター主任研究員」の肩書を持つ女性の文章がある。まさに、この人は上の①から③を立論の前提にすると同時に結論にもしている人なのだが、私が閉口してしまうのは、次のような浅はかな主張に出くわしてしまったからである。

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 日本政府は米側の措置を受け入れ、オスプレイの搬入自体には異論を唱えていないが、国政を担う人たちの間で「オスプレイ配備延期・反対」を唱える声が散見される。その声に対してはこう聞きたい。「オスプレイ配備の延期や中止を米国に認めさせるためには、日本政府はそれなりの覚悟を示す必要がある(??)が、あなたたちはそれを認める用意はあるのですか」と。

 日本防衛や日本の周辺で起こる可能性がある有事も念頭においた上で米国が配備を計画したオスプレイを、日本の現実離れした(?)安全感覚を理由に使えないようにするのであれば、日本はその責任を負わなければならない
 すなわち、オスプレイ配備を認めないのであれば、オスプレイが飛行できないことで影響が出る海兵隊の展開能力を日本の自衛隊に肩代わりさせる用意があることを日本政府が示す必要が出てくる(??)が、日本の政治はこれを認めるのか、ということだ。

 もし本当にそこまで覚悟ができているのであれば、米国と「配備延期」「中止」をめぐって交渉するように、政府に堂々と要求すればよいだろう。それをせずにただやみくもに配備延期や反対を求めるのは、「国を守る」意識の欠如を露呈し、米国の日本に対する失望を深めるだけだということを理解するべきだろう
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 いったい、この人は何者で、何を書いているのだろう。
 こういう新世代の、米国やイギリスの「有名大学」の大学院でマスターやドクターを取り、「日米同盟ムラ」の住人となった「安全保障」「国際政治」の「専門家」「研究者」が日本の大学、民間シンクタンク、独法系「研究機関」にはたくさんいるようなのだ。目が点になる。

 なぜ、「オスプレイ配備の延期や中止を米国にみとめさせる」ために、日本側が「それなりの覚悟」を示す必要があるのか?
 この人や、日本側の「日米同盟ムラ」の住民、とりわけ民間セクターの連中は、ときどき米国や米軍になり代わって、日本政府や一般市民を恫喝したり、脅したりすることがあるが、このくだりはそういう論調の典型である。Who are you anyway?、と思わず尋ねたくなってくる。

 彼女が言う「覚悟」とは、「オスプレイが飛行できないことで影響が出る海兵隊の展開能力を日本の自衛隊に肩代わりさせる用意があることを日本政府が示す」ことらしい。誰に、また何に洗脳されたのかは知らないが、まったく理解に苦しむ思考回路から飛び出してくる、支離滅裂な主張である。

 まず、日米安保論の基礎知識として確認しておきたいのは、
①沖縄に配備されている海兵隊は、「尖閣諸島」や「南西諸島」の「防衛」のために存在するのではないということ、次に、
②海兵隊は、アフガニスタン、パキスタン、フィリピン、タイ南部、インドネシア・・・等々における、いまも続く「終わりなきグロ-バル対テロゲリラ戦」の「特殊部隊」として沖縄を拠点に、日本を訓練・保養地としているのであって、一部論者が言うように、半永久的にありえない「朝鮮有事」「台湾有事」のために駐兵しているのでさえない、ということだ。

 「朝鮮有事」「台湾有事」⇒「北朝鮮暴発」「中国暴発」の「シナリオ」や実戦訓練は、海兵隊を沖縄に駐兵させんがための、言わば「方便」にすぎない。それを理解するには、沖縄から出撃した海兵隊が、この10年、どこに向かって飛んで行ったかを調べれるだけで十分である。「北朝鮮」は、韓国軍と在韓米軍が「暴発」しない限り、「暴発」しないし、同じように「台湾」が「有事」になることもない。


 安保は日本を守らない。米国本土の「安全」を、日本列島・周辺海域を「楯」にしながら、われわれの血税を使って守る、米国が「安心」を得るための条約であり体制である。日本にとっては--一言で言えば--、米軍基地・施設・便宜を「供与」し、米軍を駐兵させる条約であり体制である。安保のこの基本性格は、1960年の「安保改定」を経ても、実は60年前に発効した旧安保条約から何も変わらない。そして日本政府は、この60年間、米軍基地・施設・便宜を「供与」し、米軍を駐兵させ、米国から兵器を買い続けることそれ自体が日本の「安全保障」になる、と置き換え/言い換えてきただけの話なのである。

 「スティムソン・センター主任研究員」や「日米同盟ムラ」の「専門家」・研究者たちは、毎日新聞の論説委員とともに、安保条約・地位協定の全文をきちんと読み、世界の他の「軍事同盟」条約と安保条約のどこが、どのように違うのか、きちんと学習すべきだろう。

 詳しくは、『日米同盟という欺瞞、日米安保という虚構』を読んでいただくしかないが、そうすれば、死文化した憲法九条を持つ出すまでもなく、①安保条約から集団的自衛権の行使は出てきようがなく、よって②安保条約は軍事同盟条約になりえず、③日米関係は「同盟」関係などと定義できないことが明らかになるはずだ。

 たとえば、先月の「外交文書」の公開によって明らかになった、下の歴史的事実は上に述べたことを裏付ける根拠の一つと言うことができる。「日米同盟ムラ」の「専門家」「研究者」は、もっとしっかり研究してもらいたい。
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日本防衛に在沖米軍不要 67年米高官が明言 外交文書で判明
【東京】沖縄統治下の最高責任者である高等弁務官の政治顧問、ジェームズ・マーティン米公使が1967年1月に会談した東郷文彦外務省北米局長に対し、在沖米軍基地の在り方をめぐり、「日本の防衛ということなら沖縄は要らない。沖縄の基地を必要とするいわれは極東の安全のためである」と述べていたことが、31日公開された外交文書で明らかになった。

 日本政府は在沖米軍を「日本防衛に必要な抑止力」と説明してきたが、米側は日本防衛より極東戦略の拠点に位置付ける姿勢を明確にしていた。 沖縄返還をめぐる日米交渉で、日本政府が負担した米資産買い取り費用(1億7500億ドル)を秘密合意した覚書の存在を示す文書も見つかった。(琉球新報、7/31)
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 2011年以降の「防衛計画の大綱」に、次のような一節がある。
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III 我が国を取り巻く安全保障環境
1 グローバルな安全保障環境のすう勢は、相互依存関係の一層の進展により、主要国間の大規模戦争の蓋然性は低下する一方(⇒「低下」と言うより、限りなくゼロに近い)、一国で生じた混乱や安全保障上の問題の影響が直ちに世界に波及するリスクが高まっている。
 また、民族・宗教対立等による地域紛争に加え、領土や主権、経済権益等をめぐり、武力紛争には至らないような対立や紛争、言わばグレーゾーンの紛争は増加する傾向にある。
 このような中、中国・インド・ロシア等の国力の増大ともあいまって、米国の影響力が相対的に変化(⇒「絶対的に低下」と読め)しつつあり、グローバルなパワーバランスに変化が生じているが、米国は引き続き世界の平和と安定に最も大きな役割を果たしている。
(中略)

4 以上を踏まえると、大規模着上陸侵攻等の我が国の存立を脅かすような本格的な侵略事態が生起する可能性は低いものの、我が国を取り巻く安全保障課題や不安定要因は、多様で複雑かつ重層的なものとなっており、我が国としては、これらに起因する様々な事態(以下「各種事態」という。)に的確に対応する必要がある。

 また、地域の安全保障課題とともに、グローバルな安全保障課題に対し、同盟国、友好国その他の関係各国と協力して積極的に取り組むことが重要になっている。
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 安保や在日米軍問題を議論する際の〈問題の中心〉は、
①「主要国間の大規模戦争の蓋然性」が限りなくゼロに近く、
②米国経済や市場の日本における影響力や、米国の国際的影響力が絶対的に低下する傾向にあり、
③「大規模着上陸侵攻等の我が国の存立を脅かすような本格的な侵略事態が生起する可能性」もまた、限りなくゼロに近いときに、
 いったいなぜ日本が、世界最大規模の米軍基地を国内にかかえ、基地周辺住民の生命と生活の「安全・安心」を脅かし続けながら、日米安保条約/体制を「日米同盟」という欺瞞の下で半永久的に維持し続けねばならないのか、という点にある。

 オスプレイ沖縄配備とグローバルホークの「日本周辺海域」への配備問題をめぐる議論を、日米安保を根源的に問い直す議論へと発展させること。少なくとも、「安全保障」の「専門家」「研究者」を自認する若い世代の人びとは、そうした私たちの政治的想像力や知性、未来の国際秩序のビジョンなどを少しでも刺激し、喚起するような〈議論〉を提示してもらいたいものである。
 過剰な要求だろうか?

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軽度事故発生率は平均超 オスプレイのデータ公表 米国防総省
 米国防総省は8日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備予定の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが、2001年10月から先月までに起こした軽度な事故のデータを公表、海兵隊が運用する9機種の平均よりMV22の事故発生率が高いことが分かった。 米軍は、事故を
(1)死者や200万ドル(約1億5700万円)以上の損害が出た「クラスA」
(2)負傷者に重い後遺症があるか損害額50万~200万ドル未満の「クラスB」
(3)軽傷者が出るか損害額5万~50万ドル未満の「クラスC」に分類。
 事故件数は「クラスB」が9件で、10万飛行時間あたりにすると9機種平均が2・07件に対しMV22は2・85件。「クラスC」は27件で、同4・58件に対しMV22は10・46件だった。「クラスA」は4件で、既に公表されていた事故率は同2・45件に対しMV22は1・93件と下回っていた。(共同)

・[オスプレイ配備反対]県民大会場所決まらず 10日に再提案(琉球新報)
「・・・開催日は9月中の日曜日」
F22配備に抗議 嘉手納町議会、国へ退去要請(琉球新報、8/7)

「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「オスプレイ配備と「動的防衛力」」(7/29)