で、私たちは東電をどうするのか?(2)
5/19
報道によると、福島第1原発事故で「極度の不安や恐怖」を感じたとして、東京都内の男性(46)が東京電力を相手に慰謝料10万円を請求する訴訟を東京簡裁に起こしたという。
今日(5/19)開かれた第1回口頭弁論。東電側は「想像をはるかに超えた地震と津波が原因となった。対応できるような対策を講じる義務があったとまでは言えない」(???)と反論。「原発建設は、法令に基づいて適切に行われてきた」「不安や恐怖を感じたとしても、それは個人の考え方、性格などに基づく特異な事象だ」などと主張しているという。この東電の主張を私たちはどのように受け止めればよいのか?
「もういい加減にしてくれ」。これが私個人の率直な感想だ。この間、東電の「当事者意識のなさ」が批判されてきたが、この裁判を通じた今後の東電の居直り・「逆切れ」主張にも注目し続ける必要があるだろう。(「慰謝料10万円」とは何とも中途半端な額である。もしも東電に怒りを覚え、事故に対する東電の社会的責任を追及する「シンボル的訴訟」であるなら、額はもっと低額にすべきだったのではないか。「極度の不安や恐怖」を感じてきた者の一人として、そう思うがどうだろう。)
5/17
昨日、政府・民主党は、東電の賠償支援法案の今国会提出を見送り、提出を8月の臨時国会に先送りすることを打ち出した。法案先送りの被害を受けるのは被災者と納税者だということは下に書いているが、ここでは先送り方針の理屈とされている「東電の負担額に上限を設け国の責任を明確にすべき」論の問題点を整理しておきたい。
「原発賠償機構」(仮称)設置の前提と目的は、次のようなものだ。
①東電を原発事故の一義的・法的責任主体とし、東電が原発被災者・被害者賠償の責任を負う。
②しかし、額が巨大になるため東電に「支払能力」がないことは歴然としており、そのため東電を「公的管理」下に置く。
③と同時に、官民で資金拠出する「機構」を通じ東電の賠償支払いを「支援」する。
④その際、東電が支払う損害賠償額に上限は設けない。
⑤が一方で、「電力の安定供給に支障が生じるなど例外的な場合」には、政府が補助する(→国が補償を肩代わりする→納税者一般が「国の責任」の肩代わりをする)。
⑥以上によって、東電の経営破綻を回避しながら、被害者救済を「確実にする」。
⑦「経営破綻回避」が前提であると同時に目的でもあるので、賠償コストの一部は電気代に上乗せされる可能性が強くなる(→東電の責任の一端を電力「受益者」「消費者」が負う)
「東電の経営破綻を回避しつつ、公的管理下に置く」とはどういうことか。
①東電は上場を維持する。②しかし財務実態やリストラ状況を政府設置の「第三者委員会」が「監視」し、事業計画を国の認可制とする、ということだ。海江田経産相は、これを「東電を救済するためではなく、早急に被害の賠償がしっかりと行われることだ」と強調したが、果たして本当にそう言えるのかどうか。これをどのように考えるかがポンイトの一つである。
「機構」の枠組みでは、東電を含む原子力事業者10社が毎年計3000億円程度の「負担金」を拠出し(→電気代の値上げによって賄う)、政府も必要に応じ換金できる「交付国債」を交付する。投入額5兆円規模。
この計算は、東電が毎年の収益から支払う「特別負担金」額が2000億円規模という想定の下でなされている。ポイントの二つ目は、この額が妥当かどうか、それを支払い期限の上限(10年程度?)設定の妥当性如何の問題とともに、私たちがどう考えるかにある。
一応、東電は不動産や保有する有価証券の売却整理などで5000億~8000億円程度を捻出し、「機構」に一括売却し処分、また資産の証券化も検討中、ということになっている。また、株式配当を10年程度見送るというプランも出された。
これらを盛り込んだ「法案」に対し、「東電の負担額に上限を設け国の責任を明確にすべき」という論理が民主党内部から出て、「先送り」が決まろうとしている。
納税者・電力消費者の立場から言えば、「法案」そのものに問題があると私自身は考えているが、さらに東電を救済する観点から「法案」を潰そうとする勢力が民主党内外に存在することが、問題をより深刻かつ複雑にしているのである。
5/15
「東電をどうするか?」には、二つの側面がある。 一つは、会社法人としての東電の法的地位(いったん東電を「国有化」し、その後「電力自由化」し、東電を解体するか、それとも東電をそのまま存続させるか)の問題である。これには、賠償・補償問題における国・東電・全電力会社の「責任の分有」をどうするか、その具体的な割合・額の設定と、その履行問題が絡んでくる。どのような形(電気料金の値上げ・増税)であれ、一般国民に責任・負担を転嫁することが妥当なのかどうか、と言ったように。(⇒「どうなる東電料金値上げ…Q&A」(毎日新聞)。「賠償で電金料金値上げ「納得」48% 朝日新聞世論調査」→私は「納得」しない。申し訳ないが、それほど私は国・東電・電力会社に心優しくはない)
これについては、「東電存続、前提とせず」「発送電部門分離」案を玄葉戦略相が今日、公言した。時事通信によると玄葉氏は東電の事業形態について「(福島第1原発事故の賠償支払いの)スキームが固まったからと言って、(存続を)前提としていない。発電・送電部門の分離など自由な議論を妨げてはいけない」と述べ、再編の可能性に言及したという。 また、東電のリストラ策について「不十分だ」と述べ、さらなる合理化の必要性を強調する一方で、金融機関の債権放棄の必要性については「東電が自主的に協力を求めていくことが一番適切」と、枝野官房長官の発言とは矛盾することを述べている。
要するに、政府・菅内閣として「東電をどうするか?」、株主・債権・社債権者の「権利」(放棄)問題をどうするか、いまだ何も決着をみていないということだ。
政府支援の枠組みの骨子
・損害賠償は東京電力の責任。総額に原則として上限は設けず
・東電を含む電力9社が機構を新設し、負担金を拠出
・国は機構に公的資金を投入し、必要なら(???)東電に資金援助
・東電は電力安定供給を守るための設備投資はできる
・東電の社債、株式は保護(???)。当分無配など応分の負担も求める
・機構からの援助は東電と、電力各社が長期間かけて返済(→期限を予め設定させてはならない)
・電力供給に支障を来すなど「異常な場合」は国が補助
もう一つは、役員を含む東電社員の「処遇」問題である。執行役員、管理職、一般社員の給与・ボーナスをどうするか・・・。
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・東電合理化「甘すぎる」 福島の避難住民ら役員報酬に不満
東京電力が「最大努力の合理化」の結果として10日、政府に対し、原発事故をめぐる損害賠償で支援要請をした。しかし一部役員が報酬を受け取るとしたことに、福島県の避難住民らから「甘すぎる」「非常識」などと不満の声が上がった。 「計画的避難区域」に指定され、全村避難の準備が進む飯舘村。乳牛を飼い続けるのは困難として処分手続きを進める酪農家の男性は「大変な事故を起こしたという当事者意識が足りない」と言葉を荒らげた。
東電の合理化策は、代表権を持つ会長、社長、副社長の8人が報酬を返上し、常務ら残る役員の報酬は5月から削減幅を当初の50%から60%に引き上げるという内容。男性は「常務が受け取る40%の報酬がいくらか分からないが、全てを失いかけているおれらのつらさを分かっていない。事態収拾まで無給でやれ」とばっさり。(産経)
・東電幹部の年収7200万円 海江田さん暴露
海江田万里経済産業相が14日、東京電力首脳の年収が7200万円にのぼることを“暴露”した。「私も驚いたが、50%カットしても3600万円残る」と指摘した。福島第1原発事故で巨額の賠償を迫られ、一層のリストラが求められる状況の東電は、役員報酬についていったん半減を表明しながら、批判を受け全額返上に追い込まれた。この期に及んでも退職金や企業年金を“死守”する構えで、東電に残る「高給体質」には、あらためて批判が出そうだ。
海江田氏はテレビ朝日の番組に出演し、東京電力のリストラ策に言及した。「私も見て驚いたんですが、(代表権を持つ東電首脳の報酬は)50%カットしても、3600万円くらい残る。ちょっとおかしい。もっと努力してくださいと申し上げた」と述べ、常務以上は年収ベースでは約7200万円にのぼることを明らかにした。 海江田氏は、この金額を受けて、菅直人首相や自身も報酬の一部を返上することを説明し、東電側にさらなるリストラを迫ったことを明かした。その上で「電気料金の値上げにならないよう、ぎりぎりまで頑張る」とも述べ、今後も経営の合理化に向け東電に一層の努力を求める考えを示した。
東電は先月末、福島第1原発事故で生じる巨額の賠償に対応するリストラ策の一環で、いったん常務以上の役員報酬の「半減」を表明した。しかし、世論は「甘い」と判断。今月10日、清水正孝社長が海江田氏らと会談した際、勝俣恒久会長や自身ら8人の代表取締役の報酬を5月から全額返上する考えを示した。海江田氏は、この経緯について説明したとみられる。
東電首脳の報酬については、これまでも「高すぎる」の指摘がなされてきた。07年以降、役員賞与カットや役員報酬20%減を続けているが、それでも09年度の有価証券報告書によると、取締役の報酬総額は約7億円で、平均では約3700万円。昨年の株主総会では、役員報酬の個別開示を求められたが、清水社長は「個別開示の考えはない」と拒否していた。 東電の賠償をめぐっては政府が13日、支援策の枠組みを決定し、経営破綻を回避するため、公的資金も投入される。それでも清水社長は同日の参院予算委員会で、社員の退職金や企業年金を削減するか問われ、「老後の生活に直結する」として拒否した。リストラへさらなる企業努力が求められる中、役員の高給ぶりが明らかになり、さらなる批判は避けられない。(日刊スポーツ)
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何度も言わねばならないが、「国と東電には、「全執行役員の無給化・資産凍結→差し押さえ、全管理職以上の大幅減給・一切の賞与無し、全社員の最低でも給与据え置き→減給、ボーナス無し」を同時に決定してもらわねばならないだろう。これを「超法規的措置」で断行する必要がある」。⇒「福島原発大災害の賠償/補償と政府-自治体・東電の責任-- ①で、私たちは東電をどうするのか?」
当面の最重要課題は、「資産凍結」に踏み込むかどうかはともかくとしても、
①全執行役員の無給化、
②「全管理職以上の大幅減給(役員減給案に従って6割以上?)」、
③全社員(派遣を除く)の減給(3割、あるいは4割?)、
④役員を含む全社員の退職金廃止・年金減を確定することにある。各項目をめぐる具体的数字を国が示すことである。
①から④を「超法規的措置」、すなわち行政的「裁量」権の行使で断行するためには、選択肢としての東電存続はありえないことになる。 であるなら、国がまずそれを明瞭に打ち出さねば、議論は何も進まない。自衛隊員「手当て」の大増額を決定する前に、やるべき事は山積しているのだ。
(→枝野官房長官、16日午前、清水正孝社長が退職金や企業年金減額に否定的な考えを示したことについて「東電の置かれている社会的状況をあまり理解されていない、と改めて感じた」と発言。減額実施を促す考えを示唆。 また、「第三者委員会を設けて(東電の)内部の状況について政府として把握し、国民的にも情報は共有する」と語った。さらに、東電の発電・送電部門の分離など事業形態の再編可能性については「選択肢としては十分あり得る」と述べたが、そのすべてに関し、対応が遅すぎはしないか?)
国の方針決定が遅れれば遅れるほど、その犠牲になるのは、結局は被災者であり、納税者だ。
・東電の賠償支援法案も先送り
政府、民主党は16日、福島第1原発事故で東京電力による被害賠償を支援する法案の今国会提出を見送り、8月にも召集する臨時国会に先送りする方向で調整に入った。政府が決定した賠償支援策に対し民主党内の異論が強く、法案策定に手間取る恐れが出てきたためだ。 菅直人首相は今国会を6月22日の会期末で閉じたい意向で、40日を切った残り会期中に処理する法案を絞り込みたい思惑もある。本格復興のための2011年度第2次補正予算に加え、賠償支援法案の処理も先送りとなれば、野党が反発するのは必至だ。
法案は、巨額の賠償負担を負う東電の経営破綻回避のために新機構を設立するのが柱。被害住民らへの賠償に対応するもので、賠償仮払いには直接関係しない。先送り方針は岡田克也幹事長ら党幹部の16日の協議や、15日の首相と安住淳国対委員長の会談で確認した。 これに関し枝野幸男官房長官は16日の記者会見で、東電の清水正孝社長が賠償支援法案の今国会成立を求めたことに対し「まず東電が経費節減の努力を示し、責任を果たしているとの理解が得られなければ前に進めない」と不快感を表明。岡田氏も会見で「政府の準備状況がはっきりしない」として、早期提出の状況にないとの認識を示した。 菅政権は国民負担を招くことで政府批判が高まるのをできるだけ避けたい考えだが、民主党の一部には東電の負担額に上限を設け国の責任を明確にすべき(???)だとの意見が残っている。(共同)
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しかし、まずは第一原発の状態。
5/17
・「3号機の汚染水移送へ なお増加中、容量確保綱渡り」(朝日)
①タービン建屋の放射能汚染水を集中廃棄物処理施設に移す作業開始。しかし、炉心を冷やすために注入した水が壊れた核燃料に汚染されタービン建屋などに漏れている可能性。1~3号機では核燃料が原子炉圧力容器の底に崩れてたまるメルトダウンが起こり、高濃度汚染水が増え続けている「可能性」。
②1~4号機のタービン建屋には現在、総量8万7500トンの汚染水。3号機のタービン建屋地下には、原子炉からの水のほか、津波による海水や建屋周辺の地下水が流入。17日現在で、床から144センチの水位で計2万2千トン。
③5月11日に汚染水がタービン建屋から坑道をつたって海に漏れ出ているのを確認。原子炉からとみられる高濃度の汚染水がたまっている2号機でも海へと流出。このままでは、さらに海に流れ出す事態に。
④東電は流出回避に向け17日午後から、3号機タービン建屋のたまり水を2号機同様、集中廃棄物処理施設に移す計画。しかし、集中廃棄物処理施設にためられる量は1万3千トンしかない。
⑤高濃度の放射能汚染水をためられるのは今のところ、集中廃棄物処理施設のみ。タンク設置や汚染処理施設建設を計画しているが、敷地内には放射能汚染されたがれきなどが散乱し作業困難。順調にいったとしても完成は6月ごろ。2号機タービン建屋の汚染水も移しており、綱渡り状態が継続。
5/16
・「3号機の不安定さ続く 温度上昇・窒素ガス注入できず」(朝日)
①3号機の圧力容器の温度上昇、4月下旬以降、不安定な状況。東電12日に新たな場所からの注水を開始・増量。水素爆発を防ぐ窒素ガス注入遅延。15日、核反応を抑えるホウ酸を混ぜた水を注入する作業開始。
②注水用配管から水が漏れている可能性。圧力容器上部の胴フランジと呼ばれる部分では15日午前8時現在で297.5度まで上昇。16日午前5時は269度。やや下の給水ノズルの部分は15日午前5時に139.8度だったのが、一時157.7度まで上昇、16日午前5時は141.3度。
③窒素注入は、1号機で4月7日から開始、2、3号機はともに注入口が津波で損傷しており、現在も注入方法を検討中。
⇒「「原子力緊急事態」: 工程のない「工程表」のデタラメ」