脱原発と「対米従属」論、あるいは内田樹のレトリックをめぐって
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一昨年のことだったか、あるちっちゃな出版社の編集者から「内田樹批判」を書いてみないか、と勧められたことがある。しかし名前は聞いたことはあったが、そもそも私は内田樹という人の本を一冊も読んだことがなかった。またこの人に何の執着もなかったし、個人的にそれどころではなかったので、どうにも対応の仕様がなかった。
けれども、お題を頂戴したこともあり、「ふ~ん」とか思いながら、とりあえず図書館から借りたり人に頼んだりして、5、6冊主だったこの人の本を取り寄せ、去年、読んでみた。これが私にとっての内田樹との出会いの始まりである。
で、その内田樹がブログに書いた「脱原発の理路」という文章がメールで回覧されていたらしく、三日ほど前ある人がそれをわざわざ私に送ってくれた。はからずも、私は他者を通じて内田との「再会」を果たすことになった。
20年ほど前に死んだ広松渉の「マルクス主義の理路」ならぬ、「脱原発の理路」。かなり「硬派」のタイトルだが、どのような「理路」が示されているか、時節柄、関心のある人は読んでみてはどうだろう。
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内田は文章がうまい。読み易い。小難しい問題を、人に小難しさを感じさせることなくサクサク論じ、サクサク読ませる。小難しい問題を、余計に小難しくしてしまうような、私のような人間は内田の「文章作法」をもっと見習わなければいけない。この人の文章家としての才能は唸らせるものがある。スゴイと思う。
ちっちゃな出版社の編集者は、こんなことを言っていた。「内田の文章に違和感を感じながら、最後まで読んでしまう」と。つまり、サクサク内田が論じる行間に「違和感」を覚えながら、それを本のアチラコチラに残しながら、「最後まで読まされてしまう」ということだ。全体としてどこか納得できないものが強く残りはする。しかしそれが何かを論理的に特定できぬまま、「ごもっとも」と思わせるポイントとサクサク感に引っ張られ、読破してしまう/させられる。編集者は自分が覚えた違和感にこだわったからこそ、批判本を書いてみないかと私にオファーをくれたのだった。
読んで違和感を感じる読者も本を手にし、サクサク読んでしまう。だから、違和感を感じない読者にとっては、読書のこの上ない快楽を内田の本が提供することは間違いない。これが出版社にはたまらなくオイシイ、「売れる作家」の必要不可欠な能力であり、資質である。
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「内田ワールド」を生理的に受け付けつけない人はともかく、内田の本が広く読まれているのは、違和感を覚える人でも読めてしまう/読まされてしまうからだ。それは内田が「自我」を隠すレトリックを駆使することによって可能になる。内田はきわめて論争的なテーマを、「yes, but...」の論法ではなく、「I'm with you, by the way...」の「技法」を選択し、論じる。(これが、「yes, and...」の論法ではないことに注意。)
たとえば、「脱原発の理路」ではこのような意匠が凝らされている。
「私は主観的には脱原発に賛成である。そして、たぶん日本はこれから脱原発以外に選択肢がないだろうという客観的な見通しを持っている。けれども、その「適切な政治的選択」を私たち日本国民は主体的に決定したわけではない。
このような決定的な国策の転換でさえも、アメリカの指示がなければ実行できない、私たちはそういう国の国民なのではないかという「疑い」を持ち続けることが重要ではないかと申し上げているのである」。
「主観的には」「客観的な見通し」という内田の言葉の選択に注意しなければならない。
つまり、内田は関西の女子大の教員として、あるいは評論家として、「政治的・社会的には」脱原発の立場を表明しないという立場をここでとっている。しかし「脱原発に賛成」なのだと。
立場をとらないからこそ、内田は「客観的な見通し」という表現を使う。自分の文章を通じて、脱原発を現実のものとするための素材を提供するのではなく、「決定的な国策の転換でさえも、アメリカの指示がなければ実行できない」と言うことによって、脱原発に「「疑い」を持ち続けることが重要」だと言うのである。
原発支持/脱原発いずれの立場に立つ読者も、何となく、どことなく「違和感」を覚えながらも、サクサク論じる内田の文章を、サクサク読んでしまう・・・。内田ファンとは、こういう「技法」の虜(とりこ)になってしまった人のことを言う。
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「脱原発対米従属」論?
「脱原発の理路」は「アメリカの指示」論が崩れてしまうと、「路」がグチャグチャになり、「理路整然」のサクサク感がなくなってしまう。果たして、菅政権の方針転換は「アメリカの指示」によって決定されたと言えるのだろうか?
内田は言う。
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「日本が脱原発に舵を切り替えることで、アメリカはきわめて大きな利益を得る見通しがある。
(1) 第七艦隊の司令部である、横須賀基地の軍事的安定性が保証される。
(2) 原発から暫定的に火力に戻す過程で、日本列島に巨大な「石油・天然ガス」需要が発生する。石油需要の減少に悩んでいるアメリカの石油資本にとってはビッグなビジネスチャンスである。
(3) 日本が原発から代替エネルギーに切り替える過程で、日本列島に巨大な「代替エネルギー技術」需要が発生する。代替エネルギー開発に巨額を投じたが、まだ経済的リターンが発生していないアメリカの「代替エネルギー産業」にとってはビッグなビジネスチャンスである。
(4) スリーマイル島事件以来30年間原発の新規開設をしていないせいで、原発技術において日本とフランスに大きなビハインドを負ったアメリカの「原発企業」は最大の競争相手をひとりアリーナから退場させることができる。
(5) 54基の原発を順次廃炉にしてゆく過程で、日本列島に巨大な「廃炉ビジネス」需要が発生する。廃炉技術において国際競争力をもつアメリカの「原発企業」にとってビッグなビジネスチャンスである。
とりあえず思いついたことを並べてみたが、日本列島の「脱原発」化は、軍事的にOKで、石油資本的にOKで、原発企業的にOKで、クリーンエネルギー開発企業的にOKなのである。」
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内田は、上の5点を「決定的な国策の転換でさえも、アメリカの指示がなければ実行できない」という論点の根拠として示すわけだが、分析は結論を論理的に支えていると言えるだろうか?
実に小難しい問題で恐縮だけれど、内田ファンの人もそうでない人も、内田樹に「疑い」を持ち続けながら考えてみることが重要ではないか、と私は申し上げているのである。
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・3号機地下連絡通路に深さ2メートル汚染水
東京電力は26日、福島第1原発3号機のタービン建屋から移送した汚染水の受け入れ施設で水位の低下が見つかった問題で、同施設と別の建物をつなぐ地下の連絡通路に汚染水が流れ出し、深さ約2メートルの水がたまっていたと発表した。東電は「地下水への漏えいはないと思っている。水位が釣り合うところまで移動した後、水位低下は収まるのではないか」と説明している。
汚染水が流出したのは、2号機の汚染水の受け入れ施設にもつながる連絡通路。汚染水の表面付近の放射線量は毎時70ミリシーベルトだった。 また、汚染水の低下は、25日午前11時から26日午前11時までの間に1時間当たり2~3ミリ、計59ミリになった。水量は約70立方メートルに相当するとみられる。 一方東電は26日、2号機の汚染水の受け入れ先施設が満杯近くになったとして、移送作業を停止したことを明らかにした。【毎日・関雄輔、岡田英】
・福井・原発周辺、文献に大津波の記録も
福島第一原発の事故を受け、関西電力が進める原発の安全対策の見直しについて、原発がある福井県・若狭湾周辺の住民らから、過去の文献も参考とするよう望む声が上がっている。 同湾では16世紀に大津波が起きたとの記録が文献にあるが、関電は同湾周辺で大津波の記録はないと自治体などに説明している。
若狭湾岸では14基の原発が稼働し、関電はこのうち11基を運転。関電は、若狭湾の津波想定を0・74メートル~1・86メートルとし、今回、この見直しを含めた安全対策のための調査を計画している。 ただ、福島第一原発事故後の3月18日に、関電美浜原発がある福井県美浜町議会に配った資料では「日本海側には巨大な津波の原因となる海溝型プレート境界はなく、文献では過去に若狭湾周辺で津波による大きな被害記録はない」などとしている。 外岡慎一郎・敦賀短大教授(日本中世史)によると、1586年の天正地震で若狭湾岸で大津波が起きたとされ、京都・吉田神社の神主が著した文献には丹後、若狭、越前の海岸沿いで多数の死者が出たとの記述がある。(読売)
・日本で原子力国際会議を開催…首相が表明
主要8か国(G8)首脳会議(サミット)がドービルで26日午後(日本時間26日夜)に開幕した。菅首相は昼食会の冒頭、東日本大震災や東京電力福島第一原子力発電所の事故に関する日本の対応を約10分間説明し、原子力安全に関する国際会議を来年後半、国際原子力機関(IAEA)とともに日本で開催する考えを明らかにした。原発事故を早期に収束させると同時に、国際社会に情報を公開して各国の原子力発電の安全性向上に寄与する意向も表明した。 首相が提案した国際会議は、事故の教訓を国際社会と共有するのが目的で、各国の閣僚や専門家の参加を想定している。
首相は日本のエネルギー政策に関し、「最高水準の原子力安全に取り組む」とし、原子力を引き続き利用する考えを示した。一方で、省エネルギーの推進とともに再生可能エネルギーの利用を拡大するとし、〈1〉太陽光発電のコストの大幅削減〈2〉大型の洋上風力発電装置の建設〈3〉1000万戸の屋根に太陽光パネルの設置拡大――などの具体策を説明した。原発事故については「最大限の透明性を持って、すべての情報を国際社会に提供する」と明言した。【読売・ドービル(仏北部)=遠藤剛、小野田徹史】
・「佐賀県に原子力撤退申し入れ テント生活でアピール」(佐賀新聞)