東電が福島第一原発2、3号機のメルトダウンを認めた日
東電が福島第一原発2、3号機のメルトダウンを、初めて認めた。事故時の原子炉データを解析した結果、分かったのだという。2号機は地震発生から約101時間後、3号機については約60時間後だという。
しかし、注意しなければならないのは、いまだに東電は、「メルトダウンが起きた」とは言っていない。核燃料の大部分が溶けて圧力容器の底に落下するメルトダウンが起きていた「可能性がある」としか言っていないのだ。また、圧力容器については2、3号機両方とも「大きくは壊れていない」という表現を使っている。翻訳すると、「小さく壊れている」ことはメルトダウンとともに正式に認めた、ということだ。
1号機についても言えることだが、私は原発のメルトダウンの公表は、東電や電力企業任せにするのでなく、報告を受けた上で政府が政府として、つまり「対策本部」本部長たる内閣総理大臣が記者会見を開き、国内外に向けて公表すべき性格のことだと考えている。
大震災以降、原発事故をめぐる政府・東電の情報隠蔽・操作が問題になり、私もそのことを何度も指摘してきたが、原発のメルトダウンという国家的/国際的重大・非常事態の公表を民間企業に行わせるという日本の「原子力行政」の在りかた、その無責任さ加減を私たちは改めて深刻に受け止める必要があると思うのだ。この間の国・東電の記者会見をみていると、自国の原発がメルトダウンするという事態を、国も東電も何か他人事のように、またそんなに大した事でないかのように捉えている、そう思えてならないのである。「怒り」や「憤激」というより、凍りつくような恐怖を覚えてしまうのだ。
ともあれ、2011年5月24日は、稼働中原発の原子炉3つのメルトダウンを日本が世界に向けて認めた、原発史上最低最悪の日として歴史に記憶される日になるだろう。
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・2、3号機も大半溶融 損傷3月13日から
東京電力は24日、東日本大震災に伴い原子炉が緊急停止した後の福島第1原発2、3号機の状態を解析した結果を報告書にまとめ、公表した。1号機同様、核燃料の大半が溶けて原子炉圧力容器の底に落下する「メルトダウン(炉心溶融)」の状態になったと分析。一方で「圧力容器の損傷は限定的」とした。
東電の分析によると、非常時に原子炉を冷却する原子炉隔離時冷却系(RCIC)などが停止し、水位がいったん燃料下部まで低下。2号機では3月14日午後8時ごろ、3号機では13日午前9時ごろからそれぞれ炉心の損傷が始まったと推定した。現在、原子炉圧力容器内の水位計が不正確な可能性があるため
(1)その後の注水で水位が燃料頂部から3メートル程度低い位置で維持された場合
(2)水位が回復せず、燃料が露出し続けた場合--の2通りを想定し、シミュレーションした。
その結果、2、3号機とも、(1)の場合は燃料が損傷、半分程度が圧力容器の底に落下し、残り半分は本来の位置にとどまった(2)の場合は大部分の燃料が落下した--と結論付けた。一方、現在の圧力容器の温度などから「容器の損傷は限定的で、冷却を続ければ大規模な放射性物質放出につながるような事態の進展はないと考えられる」との見方を示した。
会見した松本純一・東電原子力・立地本部長代理は「断定的には言えないが、(計測値よりも実際の水位が大幅に低かった)1号機の状況を踏まえると、(現実の状況は(2)のような)計測値より水位が低いケースに近いと思われる」と話した。
報告書は経済産業省原子力安全・保安院の指示を受け作成、23日夜に提出した。1号機の非常用冷却装置が津波到達前に手動で停止された点については「手順書に従った妥当な操作だった」と報告。地震の揺れによる機器の損傷については「主要な設備では起きなかった」との従来の見解を踏襲した。 各号機で高濃度汚染水が見つかっていることから、格納容器が損傷している可能性もあるが、東電は水漏れの原因を「温度が設計値以上に上昇し、接続部のパッキンが損傷した可能性がある」と説明、大規模な損傷を否定した。
報告書について保安院は24日「多量の汚染水が残っているため現場確認が難しいが、一定の妥当性がある」とする一方、2、3号機の炉心の大半が溶融したとの分析については「保安院としての解析結果は近い将来示す」と述べ、見解は示さなかった。【毎日・河内敏康、平野光芳、岡田英、中西拓司】
◇東京電力が経済産業省原子力安全・保安院に提出した報告書の骨子
・地震発生初期の設備状況や運転操作の情報を使い、事故解析プログラムで1~3号機の炉心の状態を推定した
・1号機は津波到達の約4時間後に炉心損傷が始まり、原子炉圧力容器の破損に至る
・水位計のデータが正しいとすると、2号機は3月14日午後8時ごろ、3号機は同13日午前9時ごろに炉心損傷が始まり、圧力容器損傷には至らない
・実際の水位がさらに低い場合、2、3号機は圧力容器損傷に至る
・1~3号機では相当量の燃料の溶融が進み、炉心の形状・位置は大幅に変化
・現在の圧力容器底部の実測温度は100~170度で、安定的に冷却されている。注水継続により、今後大規模な放射性物質の放出はないと考えられる
・ほとんどの重要設備は津波の到達までは健全に機能した
・容器損傷、分析以上か トリプル溶融
福島第1原発1号機に続き、2、3号機でも燃料の大半が溶融していることを東京電力が24日認めた。ただし、東電は注水停止後に全燃料が露出した、という最も過酷なケースを想定しても、「大部分の燃料は圧力容器内にとどまっており、圧力容器の損傷は限定的」と説明し、1号機に比べ損傷は軽いとの見方を強調。その原因について松本純一・原子力・立地本部長代理は「2、3号機では津波後に非常用の冷却装置(RCIC)が早期に起動し、原子炉に給水できていたことが大きい」と述べた。
◇炉圧低下、密閉失い 東電は「限定的」強調
だが、2、3号機では圧力容器や格納容器の圧力がほぼ1気圧になっており、格納容器がある程度健全な1号機より、両容器の密閉性が失われていることが推定される。また、1号機よりも高濃度の放射性物質を含む汚染水がタービン建屋地下に大量に漏れ出すなど、状況は1号機よりも深刻だ。こうした点から、東電の分析とは裏腹に、圧力容器と格納容器は大きく損傷している可能性がある。 今回東電が示した分析は、原子炉の冷却作業や汚染水の処理など事故の収束作業にどのような影響を与えるのだろうか。
沢田隆・日本原子力学会副会長は「程度の差はあるとしても、1号機と同様に燃料のかなりの部分が溶融していることは予想がついていた。初期に燃料は溶けてはいても、現在は圧力容器底部で燃料が冷やされていると考えられる。炉心を冷却安定させて、放射性物質の放出を抑えるという工程には、特に問題はないだろう」と話す。
一方、小出裕章・京都大原子炉実験所助教(原子核工学)は「圧力容器の底に穴が開いていれば、注入した水と一緒に燃料も流れ落ちており、格納容器の損傷もありうる。そうなると水をためられず冠水(水棺)だけでなく循環式冷却も難しくなり、工程表どおりには行かないのではないか。水位の維持と低下で2種類のデータを出してきたということは、東電自身も何が起きているのか不明だという状況だ。政府側からも『収束に向かっている』などの見通しが聞こえてくるが、実際はそうではないことを表している」と話す。【毎日・酒造唯、藤野基文、久野華代】
・2・3号機の汚染水移送、月内にも中断
東京電力は23日、東京電力福島第1原子力発電所2、3号機から出る高濃度の放射性物質を含む汚染水の移送を月内にも中断するとの見通しを明らかにした。移送先の施設が数日で満杯になるため、当面はタービン建屋などに残す。汚染水を浄化して再利用する装置の稼働は当初予定よりも約半月遅れて6月中旬になる見通しで、海や地下水の汚染が懸念される。
高濃度汚染水は2号機のトレンチ(坑道)から毎日288トン、3号機のタービン建屋から同480トンを集中廃棄物処理施設に移送中。計1万4000トンを移す計画だが、現在のペースだと今後3~4日で満杯になり、中断を迫られる。移送量を減らして満杯の時期を遅らせることも検討中だ。
高濃度汚染水はフランスのアレバ社の除染装置などで浄化し、冷却水として再び原子炉に戻す計画。しかし装置の建設は遅れており、取り除いた汚染物質の最終的な処理法も決着していない。 1~3号機の原子炉には毎日、計約670トンを注水している。蒸発量を引いた約530トンが高濃度汚染水として漏出、タービン建屋地下やトレンチにたまっているとみられる。1万トンの保管容量があるタンクも計画しているが、設置は7月の予定。汚染水対策は綱渡りの状態が続く。(日経電子版)