福島原発大災害の賠償/補償と政府-自治体・東電の責任-- ①で、私たちは東電をどうするのか?
1
友人二人が、日曜に福島に向った。宮城でも岩手でもなく福島に向った。
どの被災地も人手を求めている。行くのはどこでもよい。しかし、いま福島に、原発災害で被災者支援や復旧に手がつけられない地域が多い福島に行くのは、とても重要だ。もちろん、行き先は北茨城であろうと、第一原発から半径30~40キロ、40~50キロの被災地であろうと同じことだ。どこに行かねばならない、ということはない。しかし福島に行くことは、いま、とても重要だ。
今日考えてみたいのは、「福島原発大災害の賠償/補償と政府-自治体・東電の責任」である。その第一弾として、この大災害を引き起こした、一義的責任を追うべき東電はどのような責任を負っているのか、そして「で、私たちは東電をどうするのか?」を考えてみたい。 3月27日、私は次のように書いた。
・・・・・
東電、5月の電気料金値上げへ=燃料高で3カ月連続 一昨日の報道だが、一般家庭では4月より約70円高の月6385円前後に設定される見込み。他の電力・ガス会社も値上げする公算。⇒国と東電には、「全執行役員の無給化・資産凍結→差し押さえ、全管理職以上の大幅減給・一切の賞与無し、全社員の最低でも給与据え置き→減給、ボーナス無し」を同時に決定してもらわねばならないだろう。これを「超法規的措置」で断行する必要がある。
これは非常に、非常に重要な問題だ。「東電ショック」は「リーマン・ショック」どころの話ではない。いずれ近いうちに、東電の破産宣言→日航に続く「公的資金投入」問題→国有化問題(東電をどうするか)が浮上するだろう。
・・・・・
あなたは今回の大災害に対し、東電はどのような法的・社会的・道義的責任を負っていると考えるだろう。そして、東電という企業をどうすべきだと考えるだろう。みんなそれを考え、議論を興す必要がある。そうでないと、被災者・被害者の補償も権利もおざなりにされ、何もかもがなし崩しになるのではないか、「慣例的」に「処理」されてしまうのでないか。そういう危惧を、私は強く、強く持っている。
例えば、枝野官房長官の3日の発言がある。枝野氏は、「事故検証」のために「第三者委員会」を発足させると言った。「独立性、客観性の高いやり方で検証する必要がある」と述べ、「政府、経済産業省原子力安全・保安院、東京電力にとどまらず、原子力安全委員会も含めて、検証を受ける側だ」と説明した。委員会設置の時期については「事故対応に支障をきたすことのないよう考えなければならない」と述べ、当面は事故対応を優先するとの見方を示した。 つまり、私たち自身が「第三者委員会」になり、〈被災者・被害者の立場から〉、①政府、②「保安院」、③原子力安全委員会、そして④東電の〈責任〉とは何か、それを考える必要がある。それを考えないと、「第三者委員会」がまとめる結論を無批判的に受け入れるだけになってしまうからだ。
①政府は、②「保安院」は、③原子力安全委員会は、そして④東電は、それぞれ今回の「原子力緊急事態」に対し、どのような〈責任〉があり、誰に対し、何を、どのように償うべきなのか?
あるいはマスコミはどうか? 「解説者」は? あなたも、じっくり考えて欲しい。
2
4/6 「原発事故の賠償責任は受益者負担」?
「被災者・被害者の補償も権利もおざなりにされ、何もかもがなし崩しになるのではないか、「慣例的」に「処理」されてしまうのでないか」という「危惧」は、たとえば「受益者負担」によって「原発事故の賠償責任」が果たされるべきだという、そのような「専門家」の主張によって増幅される。町村泰貴なる「北海道大学大学院法学研究科教授」の文章がその典型だ。
このような主張の、どこに問題があるのか、まずは各自で吟味してほしい。
・・・・・・・・・・・
・福島第1原発:東電、年2000億円負担で調整 賠償問題
原発事故の賠償金支払いの流れ 東京電力の清水正孝社長は15日の記者会見で、福島第1原発事故で避難や屋内退避をしている住民らへの賠償金仮払いを4月中に始めたい考えを明らかにした。政府も15日、「経済被害対応本部」と「原子力損害賠償紛争審査会」の初会合を開き、損害賠償の枠組み策定に向けた議論を始めた。最終的な賠償額は数兆円に上る可能性があり、政府内では、東電の今後の収益から一定額を賠償原資に充てる案が浮上。負担額を年間2000億円規模とする方向で調整する。【毎日・山本明彦、立山清也、宮崎泰宏】
「東電が損害賠償の一義的な責任を負う。政府としても、東電が事業収益を元に賠償責任を果たせるよう万全を期す」。海江田万里・経済産業相は15日の閣議後会見で、損害賠償の原資は東電の収益から捻出するとの考えを強調した。 東電には今後、損害賠償のほか、福島第1原発の廃炉や電力供給の回復に巨額の費用がのしかかる。3月に金融機関から約2兆円の緊急融資を受けたが、追加融資に対して銀行団は「財務の健全性が前提」(全国銀行協会の奥正之会長)と慎重な姿勢を見せている。信用力低下で、社債発行による資金調達も難しい。
こうした状況下で賠償負担が一度に生じると、東電が債務超過に陥り、電力の安定供給に支障が生じかねない。このため政府内では、賠償費用を東電に分割払いさせ、毎年の収益の範囲内で負担させる枠組みの検討が進んでいる。東電は例年、2000億~4000億円の連結経常利益を出しており、政府内では年間2000億円規模の負担なら対応できるとの見方がある。
一方、緊急融資に応じた金融機関からは「東電の電気事業収入は5兆円。数%のコスト増なら、電気料金に転嫁することも可能だ」(メガバンク幹部)との声が漏れる。電気料金は、かかったコストをもとに算出する「総括原価方式」で決めるため、最終的には損害賠償を含む事故費用を電気料金に上乗せすることが可能だからだ。 しかし、今回の事故は、東電の津波対策の不十分さが引き起こした。損害賠償や事故費用を丸ごと料金に上乗せすれば、利用者の猛反発は必至だ。清水社長は会見で「料金問題に言及できる段階ではない。聖域無き合理化を進める」と述べ、人員削減や余剰資産売却、原子力事業の海外展開見直しなどを先行させて進めると説明した。政府内でも「事故コストをそのまま価格転嫁すればモラルハザードに陥る」(経済官庁幹部)との指摘があり、値上げを認可する立場の経産省は東電に対するリストラ圧力を強める考えだ。
一方、損害賠償が東電単独で対応できないほど膨らんだ場合、国は補助金や低利融資、債務の政府保証などで支援するが、税金投入を避けるため、原発を保有するほかの電力会社に負担させる方式も検討する方向。ただ、自社の原発事故以外で負担を担えば株主代表訴訟のリスクにさらされかねないため、「原発リスクのための新たな保険制度創設」などを名目に負担を求めるとみられる。
◇JOC事故では決着に10年8カ月
東電は避難住民への仮払いを決める一方、農漁業や商工業向けの賠償は先送りされた。対策遅れは地域経済に打撃を与えるが、規模が大きいだけに、損害額の確定や支払いなどの作業が迅速に進むかは予断を許さない。 99年9月に茨城県東海村の核燃料加工会社ジェー・シー・オー(JOC)で起きた臨界事故では、発生数日後から住民や商工業者らの損害申請の受け付けを開始。年越しの資金繰りを支援するため、2722件の申請の半額を仮払いした。 ただ、今回は避難者だけで8万人に上り、農漁業向けは「原子力損害賠償紛争審査会の指針を受けて対応する」(清水社長)方針。企業からの損害賠償請求などについても「実務の混乱を招く」として応じない考えだ。
審査会は指針策定と個別の紛争処理にあたるが、被災者が納得しなければ訴訟に発展する。JOC事故は最終決着に10年8カ月かかったが、今回は一段の長期化も予想される。
・損害賠償紛争審査会が初会合
原子力損害賠償法に基づき、東京電力福島第1、第2原発事故の被害補償の指針を作る文部科学省の「原子力損害賠償紛争審査会」が15日、初会合を開いた。互選で会長に選出された能見善久・学習院大法務研究科教授は「7月末までくらいに、補償対象の大まかな項目を作りたい」と述べた。さらに、国の指示で避難した住民への避難費用や休業補償など、明白な被害については22日の次回会合にも補償の指針案を決める意向を示した。
同法に基づく被害補償がなされるのは、99年に茨城県東海村の核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)」で発生した臨界事故以来2回目。審査会は、身体への被害や営業損害、避難費用など補償の対象や範囲、要件を具体的に定めた指針を策定する。 初会合後、能見会長は個人的意見と断りながら「避難による精神的苦痛もある程度認める前提で指針を作るべきだ」と語り、JCO事故では原則として認めていなかった精神的苦痛への補償も盛り込みたい考えを明らかにした。
また、この日は各省庁が原発事故によるこれまでの被害を報告。農林水産省によると、野菜や原乳の出荷制限で福島、茨城など5県で生産者約8万4000戸が被害を受けている。09年度の生産実績は計671億円に上る。さらに、中小企業庁は「避難指示の出ている地域には7921社(従業員数計5万9385人)があり、事業継続が困難になっている」と報告した。 同法によると、天災による原発事故の場合、政府補償で1事業所当たり上限1200億円(今回は計2400億円)が被害賠償に充てられ、これを超える分は一義的には事業者が負担する。必要に応じて政府が援助できるが、今回の被害は政府補償額を大幅に上回ることが予想され、実際の賠償に当たっては東電と政府の負担割合なども焦点となる。
JCO事故では約半年後に補償指針が示された。約8000件の被害申し立てに対し約7000件が補償対象と認められ、計154億円が支払われた。【毎日・西川拓】
・原発事故の賠償、他電力会社も負担…原案
東京電力の福島第一原子力発電所の事故による被災者に対する賠償策の原案が12日、明らかになった。
米スリーマイル島の原発事故の賠償制度を参考に、東電以外の電力各社も加わった「共済制度」の仕組みを創設する。①各社には保有する原発1基あたり300億~500億円の負担を求める案を軸に検討する。
②東電の負担額は2兆~3.8兆円とし、
③電力各社の支払い上限を超える部分は政府が全面支援する。
賠償制度の実現に向け、政府は特別立法の制定も視野に入れる。政府と東電は近く賠償案の本格検討に入る。
原案では東電は同社の毎年の利益から1000億~2000億円を15年間払うほか、保有する原発17基分の負担金5100億~8500億円程度を支払う。
東電以外の電力各社も国内に37基の原発を保有しており、基数に応じて負担金を拠出する。電力9社の合計は1.1兆~1.8兆円程度となる。(読売)
4/12
・福島原発事故 補償対象どこまで? 難しい線引き
■東海村JCO臨界事故では訴訟も
福島第1原発事故で11日、原子力損害賠償法に基づき文部科学省に設置することで合意された「原子力損害賠償紛争審査会」。避難者や風評被害で損害を受けた企業などに対する補償指針が定められるが、同法に基づく救済措置が初めて適用された茨城県東海村のジェー・シー・オー(JCO)臨界事故では訴訟に発展し、損害賠償請求が認められなかったケースもあった。被害の範囲が桁違いに広い今回の補償交渉は、さらに難航するとみられる。 「どこまで補償対象が広がるか予想もつかない」。福島第1原発事故に伴う東京電力側の金銭補償の規模について、都内の弁護士はこう話す。
原子力損害賠償法が初めて適用された平成11年のJCO臨界事故は、専門家らの研究会で避難費用、風評による損害、休業損失などを補償対象とする指針が定められた。JCO側と被災企業などが補償額などを交渉した結果、請求のあった約8千件のうち、最終的に補償が行われたのは計約7千件と9割近くに上り、約150億円に達した。
ただ、JCO側との交渉が決裂し、風評被害の損失額をめぐって訴訟に発展したケースもあった。事故の影響で2日間の出荷停止となり、取引の回復が遅れたなどとして約15億9千万円の損害賠償を求めた納豆メーカーへの東京地裁判決では、風評による損害があったと認定されたが、損害額は慰謝料を含め約1億7900万円にとどまった。
原発事故との因果関係が認められなかったケースもある。臨界事故で心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したなどとして損害賠償を求めた住民2人は最高裁まで争ったが、事故との因果関係は認められなかった。土地価格が大幅に低下し、住宅造成販売事業で損害を受けたとして、賠償請求を行ったケースでも訴えが退けられている。 今回の原発事故に伴う損失補償がJCO臨界事故を大幅に上回るのは必至だ。避難者数150人、避難地域の半径350メートルだったJCO臨界事故に比べ、今回のそれは約8万人、20キロ。
しかも、風評被害を受けたとされる農産物や魚介類の価格は低迷したままだ。農家や漁業関係者は複数県に及び、工業製品の輸出も影響を受けるなど影響は広範囲にわたっている。 JCO臨界事故をめぐる補償問題の解決には約10年を費やした。今回はさらに長期化するとされ、金融関係者は「紛争審査会が補償範囲をどう線引きするかが今後の焦点だ」と話す。(産経)
・東電が避難指示自治体に見舞金2千万円 浪江町は拒否
東京電力が、福島原発の事故で避難指示を受けた福島県の10市町村に3月末、見舞金としてそれぞれ2千万円の提供を申し出ていたことがわかった。9市町村は受け取ったが、原発が立地していない浪江町は拒否したという。
東電福島事務所などによると、原発事故後に住民への避難指示が出た南相馬市や田村市、双葉町など10市町村に見舞金として2千万円ずつ贈ることを決め、3月31日以降に順次振り込んだという。同事務所は「行政へのお役立てという意味で支払った」としている。 浪江町の馬場有(たもつ)町長は「町民に謝罪がない段階で、どのような趣旨の金かもはっきりしないため、当座の金に困っていたとしても受け取るわけにはいかない」と話した。(朝日)
・原発から30キロの福島・浪江町で「屋内退避」基準値10ミリシーベルト超
文部科学省は4日、福島第1原発から約30キロ離れた福島県浪江町で、3月23日から11日間の積算放射線量が「屋内退避」の目安となる基準値10ミリシーベルトを超えたと発表した。 文科省は原発の北西約30キロの地点で、同23日正午すぎから放射線量の調査を開始。3日午前11時ごろの時点で、積算線量が10.34ミリシーベルトを計測、屋内退避の基準値を超えた。 国は1~数日の積算線量が10~50ミリシーベルトの場合、屋内退避を指示する指標とするが、文科省は「11日間の積算線量なので、この数値では単純に比較できない」(???)とした。(産経)
・福島第1原発:全国の立地自治体組織が国に緊急要請書
福島第1原発事故を受け、全国の原発立地自治体で作る「全国原子力発電所所在市町村協議会」(会長=河瀬一治・福井県敦賀市長)は4日、国内原発の地震・津波対策の強化などを求め、国に緊急の要請書を提出した。 河瀬会長は「原発立地自治体は国を信頼してきたが、事故に強い衝撃を受け、大きな不安が広がっている」と懸念を表明。早急な事故の収束▽正確な情報開示▽原発防災態勢の見直し--などを求めた。これに対し、松下忠洋副経済産業相は「最大の悲劇は免れているが、事故収束に全力を挙げる」と述べた。【毎日・平野光芳】
・福島原発事故の補償どうなる?どうする?
東京電力福島第一原子力発電所の事故で避難を余儀なくされた住民や、放射能汚染の風評被害を受けた農家などへの補償は、原発事故の際の賠償責任などを定めた原子力損害賠償法に基づき、国と東電が補償する。 政府は1200億~2400億円を負担するほか、東電の支払い能力を上回る負担を支援することになるが、事故収束の見通しが立っていないこともあり、補償の枠組みや補償額が確定するまでは相当の時間がかかることが予想される。
政府は当面の措置として、出荷制限や風評被害などの損害が出た農家に対し、農協系金融機関を通じて農家の被害額の50%を原則無利子で経営資金として融資する仕組みを導入した。出荷制限は今のところ福島、茨城、栃木、群馬の4県だが、枝野官房長官は「(出荷制限以外でも)原発事故が原因の部分はしっかりと補償していく」として、自主的な農作業延期などに伴う被害などについても補償対象に含める考えを示している。
今後の補償の枠組みは、同法に基づいて設置される「原子力損害賠償紛争審査会」を通じて決定する。同審査会は補償の判断基礎となる「指針」を定めるほか、和解の仲介なども行う。政府は法律、医療、原子力の専門家ら約10人の委員を人選中で、4月中にも初会合を開く予定だが、指針の完成時期のめどは「全く立たない」(文部科学省幹部)という。 政府は、茨城県の核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)」東海事業所で1999年に起きた臨界事故で行った避難住民や風評被害への補償を参考に、今回の補償の内容を詰めたい考えだ。(読売新聞)
↓
JOCの事例は、まったく「参考」にならない。
・姿見えぬ原子力安全委 事故時の助言役、果たせず
原子力安全委員会の位置づけ 原子力の安全確保の基本方針を決める原子力安全委員会の存在が、揺らいでいる。事故時には専門家の立場から政府や事業者に助言をする役割も担うことになっているが、福島第一原発の対応では本来の使命を十分に果たせていない。未曽有の大事故に、能力の限界を指摘する声も内部から上がっている。
安全委は内閣府に置かれた、省庁から独立した機関。作業員2人が死亡、住民ら約660人が被曝した核燃料施設JCOの臨界事故(1999年)の反省から、直接事業者を規制する原子力安全・保安院が経済産業省の中に設けられ、その保安院の安全規制を監視するお目付け役として、独立色を強めたはずだった。 安全委の委員は、原子力や放射線などの専門家5人。約100人の職員が事務局として支える。ふだんは安全審査や原子力防災の指針を定めるなどの仕事をしているが、今回のような事故時には、緊急に専門家集団を設けて首相に技術的助言をすることが原子力災害対策特別措置法で決まっている。
だが、安全委は当初沈黙を続けた。住民の被曝や汚染の広がりの予測に役立つ放射能拡散の試算もなかなか公表しなかった。 班目(まだらめ)春樹委員長が初めて会見したのは、地震発生から12日後の3月23日。「助言機関として黒衣に徹してきた」と釈明した。2号機の建屋外で高濃度の放射能汚染水が見つかった28日の会見では、「どんな形で処理できるか知識を持ち合わせていない。保安院で指導してほしい」と自らの役割を否定するような発言も飛び出した。
安全委は事故発生当日、専門家集団を招集するとともに、現地へ職員を派遣した。官邸や保安院、東電にも連絡係を置いて情報を集めてきた。だが、委員の一人は「今の安全委では人手が足りない」と漏らす。代谷(しろや)誠治委員は「原子炉の圧力などの重要なデータが時々刻々で入ってこない」と打ち明ける。4月1日に始まった原発敷地内での飛散防止剤散布も「漏れ伝わってきた程度」といらだちを隠さない。
JCO事故の際に陣頭指揮を執った安全委員経験者らからは「今回は安全委の顔がみえない」「技術的側面の支援をしていない」との批判まで出ている。 政府内でも存在感は薄れていくばかり。菅直人首相は3月16日から29日にかけて原子力などの専門家6人を内閣官房参与に次々と起用。4月1日には放射線医学の専門家を首相官邸に招いて意見交換した。その一方で、政府は保安院の院長や審議官の経験者を安全委事務局に送り込み、てこ入れを図り始めた。
安全委は4日に開いた定例会で、地震後初めて保安院から事故の正式な報告を受けた。報告内容はすでに入手済みの情報ばかり。班目委員長は「保安院とのコミュニケーションが足りないと思っていた。今回の報告が改善の一歩になれば、というのが本音だ」と話した。(朝日新聞)
・東電へ2兆円融資、銀行団も背水の陣 3メガ銀、年間純利益に匹敵する規模
三井住友銀行など8金融機関が、東日本大震災で原子力発電所事故などを起こした東京電力に2兆円の融資を実行した。発電所の復旧や燃料費などの運転資金に充てるためだが、3メガ銀の融資額は3000億~6000億円と年間の連結純利益に匹敵する規模。東電の賠償責任などが不透明ななか、銀行団も“背水の陣”で臨む。
金融機関が東電から2兆円の巨額融資の打診を受けたのは震災発生から1週間たった18日。3連休明けの22日には、融資にほぼ応じる方向でまとまっていた。これほどの巨額融資が短期間でまとまったのは、政府の強い働きかけがあったからだ。 「社会的責任だと思って融資に応じてくれ」。ある主要行は金融当局や与党幹部から再三の働きかけがあったと明かす。銀行側も「そもそも全面支援するしかない」(主力行首脳)と即断した。東電はこれまで、銀行融資よりも社債やコマーシャルペーパー(CP)による資金調達を優先してきた。しかし震災被害や原発事故で社債のスプレッド利回りに対する上乗せ幅)が大幅に上昇。銀行団にも「このままでは金融資本市場が決定的に傷んでしまう」という危機感があった。
融資条件も無担保で期間3~10年と破格。市場の不安を鎮めるための見せ金としても「十分効果があるはず」(メガ銀幹部)だった。各行は「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」も読み込み、同法の規定によって「異常に巨大な天災」による事故は電力会社の賠償責任にならないとも踏んでいた。 ただそんな見通しと決断はあっさり揺さぶられる。政府・与党が、被害者救済は「一義的には事業者の責任」(文部科学省原子力課)との論調に傾いたからだ。背景には東電の責任問題に敏感な世論への配慮がある。 融資日の直前には与党政治家らが「東電国有化論」を唱え、巨額融資を準備していた銀行株が大幅下落する事態にも陥った。ある大手信託銀は融資前日に予定額を半分に減額。「オールジャパン体制が崩れかねない。政治家は無邪気すぎる」と大手行幹部は嘆く。
ある主要行は会社更生手続きが終結した日本航空向けの特別チームを改組して東電チームを立ち上げた。日航は公的資金の枠組みを活用したが、借り入れや社債発行額がケタ外れに大きい東電は、極めて繊細で慎重な議論が必要になりそう。「カネ以上に知恵を出さなければならない」と主要行はスクランブル体制だ。(河浪武史、玉木淳)(日経)
・官邸サイト汚染水データ誤掲載、11時間後削除
福島第一原発2号機の取水口付近の立て坑(ピット)の亀裂から高濃度の汚染水が海に流出し続けている問題で、政府の原子力災害対策本部が3日、東電が実施した汚染水の分析の途中経過を、誤って首相官邸のウェブサイトに載せ、11時間後に削除していたことが分かった。 削除されたデータは、汚染水に含まれる放射性物質の種類と濃度。東電の汚染水の分析を巡っては、十分精査しないまま公表したデータの撤回が相次いでおり、経済産業省原子力安全・保安院は「最終的に間違っていたら、さらに信頼を失う」として同本部に削除を要請した。東電と政府のずさんな情報管理態勢が改めて問われそうだ。(読売新聞)