2011年2月17日木曜日

米国経済がなぜ破綻するのか

米国経済がなぜ破綻するのか

⇒「ドル経済の終焉・米国の崩落・壊れる米国の大学」より

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 三日前だったか、2011年度の米国の「予算教書」が公表され、一昨日新聞各紙が一斉に報道した。この問題を先に書こうと考えていたのだが、鳩山前首相の「在沖米軍・海兵隊=抑止力発言は方便」をめぐる「茶番の連鎖」があって書けなかった。
 
 たとえば、ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版の記事をみてみよう。この記事のどこに嘘があるのか?
 末尾の「今回の予算教書では、11年度に国内総生産(GDP)比10.9%に達している財政赤字は、18年度までには同2.9%に縮小するとの見方が示された。エコノミストの多くは、GDP比3%以下の財政赤字は持続可能との見方で一致している」という表現である。

 「11年度に国内総生産(GDP)比10.9%に達している財政赤字」が「18年度までには同2.9%に縮小」するとの「見方」に何の根拠もない。また、「GDP比3%以下の財政赤字」が「持続可能」という「見方」も嘘である。ウォール・ストリート・ジャーナルが「米国は破綻する!」と言えば、すぐにでも世界恐慌が起こってしまうから、米国金融資本を支えるジャーナルは世界に嘘の情報を発信し続けるのである。

 これに対して、ワシントンポストはまだマトモな記事を書いている。
 Obama budget plan shows interest owed on national debt quadrupling in next decade(「国の債務の利子支払い額が向こう10年間で4倍に」)という記事である。これは「予算教書」が公表されてすぐに書かれたGeithner Tells Obama Debt Expense to Rise to Record(「ガイトナーがオバマに「史上空前の債務償還負担が米国経済を襲う」と警告)をベースにしたものである。資料としての「膨張する利子返済」も見ておきたい。

 踏まえておくべきポイントは、次のような記事の内容だ。
First, the nation's debt is growing faster than the economy. Second, interest rates are rising. Over the next decade, net interest payments will amount to nearly 80 percent of the debt added, an indication of how past borrowing is forcing the country deeper into debt.
・The phenomenon is a bit like running up the down escalator.

・"The scary scenario ---- is an incident of capital flight, where investors lose confidence in the U.S., causing interest rates to rise precipitously and pushing the budget deficit even further into the red,"
・"We are in a self-reinforcing, vicious cycle," "There's no sugar daddy out there for us."

 国の借金が経済よりも成長しており、利率が上がっている。借金の利子返済額が借りた借金総額の八割を占め、国をさらなる借金地獄に叩き込んでゆく。それは下りてくるエスカレーターを駆け上ろうとするようなもの。しかし、上の階(財政均衡)には上れない。ずっとエスカレータを下から上に、車輪の中に置かれたコマネズミのように走り続けるしかない。そしていつか息絶えてしまう・・・。
 恐ろしいシナリオは、その間に起こるかもしれない、海外から米国に投資された「資本逃亡(引き上げ)」だ。投資家が米国経済の回復やドルへの信用を落とせばそうなるし、そうなるとそれを回避するための金利の上昇を招き、さらにそれが財政崩壊の決壊点、デフォルト寸前にまで追い詰めてゆく。見かけの上では、今はまだ大丈夫そうにみえる。しかしこの現象が水面下ではすでに始まっているのである。

 もちろん「ドル経済の終焉、米国の崩落」と言っても、ドルが消滅したり米国経済が完璧に崩壊するわけではない。その影響をモロに受けるのは、米国国内ではせいぜい1億人くらい、総人口の3割「程度」のものだろうか。大恐慌のときでさえ、失業に追いやられたのは全労働者の3割あったかなかったか、「その程度」のことだった。むしろ問題は、すでに失業率が4割、5割を超えるような「低開発国」や「重債務国」、軍事独裁国家に生きる人々への影響、グローバルな民衆の生活への影響である(これについては、機会をみつけてまた書くことにしたい)。

 いずれにせよ、「悪(魔の)循環」vicious cycleに米国は叩き込まれている。それと同じ構造にEUも日本が置かれ、どの国も米国の破綻の救世主sugar daddyにはなれない。「財政緊縮」で増税と「受益者負担」を強化し、互いに「協調介入」しながら「壊れる国」のドミノ化を未然に防止することくらいしかできないのだから。そのためにEUはIMFのEU版も創設した。

 で、それで「壊れる国」のドミノ化を防ぐことができるのか? 米国発の再度の大地震を防ぐことができるのか?
 政治家や財務・日銀官僚、メディアの嘘に騙されてはいけない。貧しき者は「戦略的防衛体制」に入りながら、たたかうしかないのである。

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4月
米大統領、330兆円の赤字削減表明 今後12年で
 オバマ米大統領は13日、米ワシントン市内で演説し、今後12年で財政赤字を4兆ドル(約330兆円)削減すると表明した。国防費の節減や高額所得者への増税などをして、大規模な財政赤字削減に取り組む。  オバマ大統領は演説で、「我々は歳入の範囲内で生活し、財政赤字を削減し、債務残高を減らしていく道に戻らなければならない」と強調した。  具体的には、今後12年で、
(1)国防費のさらなる節約や社会保障費の削減など大幅な歳出削減で2兆ドル
(2)債務の利払い費の節減で1兆ドル
(3)富裕層の所得税減税の廃止などの税制改革で1兆ドル、を削るとした。
 米国の財政赤字は今の2011会計年度に史上最悪の1.6兆ドル(今年2月時点の予測)に達する見通し。その場合、対国内総生産(GDP)の比率は10.9%になる。オバマ大統領は今回の削減計画で、対GDP比を15年に2.5%に下げ、10年後には2%近くまで引き下げたいという。  これから12会計年度(11年10月~12年9月)予算の策定に向けた議論が始まる。野党・共和党との間で本格的な財政再建論議が交わされそうだ。(朝日・ワシントン=尾形聡彦)

米の財政赤字69兆円 11会計年度、上半期
 米財務省が十二日発表した二〇一一会計年度(一〇年十月~一一年九月)の上半期の財政収支は、赤字額が前年同期比15・7%増の八千二百九十四億一千万ドル(約六十九兆円)だった。 上半期の赤字額として過去最悪の高水準となった。
 歳出は国防費、社会保障費、国債の利払いなどがかさみ前年同期比10・7%増の一兆八千四百九十三億六百万ドルだった。歳入は所得税が増えた一方、法人税の税収が減少し6・9%増の一兆百九十八億九千六百万ドル。歳出の伸びを下回った。 同時に発表した三月の財政収支は、前年同月比187・8%増の千八百八十一億五千三百万ドルの赤字。単月の赤字は三十カ月連続で、過去最長を更新した。 オバマ大統領は十三日、財政赤字縮小に向けた歳出削減方針について演説する予定だ。【ワシントン=共同】

米、政府閉鎖を回避 大幅な歳出削減で合意
 米国で、4月9日午前0時(日本時間同日午後1時)に予算措置の期限が切れて「政府閉鎖」となる可能性があった問題で、与野党は、大幅な歳出削減と歳出削減法案をまとめあげる数日間はつなぎの予算措置を講じることで合意した。オバマ大統領も合意を歓迎した。 米オバマ政権・民主党と野党・共和党の間では、期限切れを数時間後に控えた8日夜、大詰めの折衝が続いた。米ホワイトハウス高官は8日夜、朝日新聞に対し、「(政府閉鎖を回避するための)合意ができることに希望を持っている。合意は近いがまだそこに至っていない」と語っていた。
 オバマ米大統領は当初、2011会計年度の政策経費として1兆1283億ドルを提案。米議会は昨年末、それより約410億ドル少ない水準で暫定予算を設定した。この暫定予算の水準から、さらにどこまで歳出を削減するかが与野党間で攻防になっていた。  与野党は7日夜から8日早朝にかけての交渉で、さらなる削減幅を380億ドルとすることで合意しかけたが、女性のがん検診向け助成3億ドルの扱いを巡って意見が対立し、合意に至らなかった。共和党側は助成費の一部が中絶費用にも転用されているとして、予算自体の削減を要求。民主党側は「がん検診を巡って政府閉鎖に陥れば、脆弱(ぜいじゃく)な米経済は勢いを失うことになる」と批判していた。
 仮に政府閉鎖の事態となれば、米国の国立公園やスミソニアン博物館は閉鎖される。連邦職員は、緊急対応など一部の機能を除いて勤務できなくなる。ただ、米原子力規制委員会(NRC)職員による日本の原発問題対処への支援や、米軍による復興支援は継続する予定。一方、日本での米国大使館によるビザ発給は緊急対応のものに限られ、通常のパスポートやビザ発給の手続きは行われない。 (朝日)