2011年2月15日火曜日

「鎖に縛られたまま誕生したデモクラシー」---「エジプト革命」へのナオミ・クラインの警鐘

「鎖に縛られたまま誕生したデモクラシー」---「エジプト革命」へのナオミ・クラインの警鐘

 昨日、ナオミ・クラインが The Shock Doctrineに収録されたDEMOCRACY BORN IN CHAINS: SOUTH AFRICA’S CONSTRICTED FREEDOMを公開した。彼女は先週までダカールで開催されていた世界社会フォーラムに参加し、その間ツイッターで情報を配信しており、時折私も覗いていた。

 ナオミ・クラインがこの章を公開したのは、「エジプト革命」を担った者たちやそれに熱い視線を注いでいた者たちへの警鐘だと私は捉えている。今回の革命を祝福する。しかし課題は山積しているのだと。それをアパルトヘイトを解体し、ANCへの権力移行後10年余を経た南アのルポを転載することを通じ、彼女は伝えようとしたのだと。

 ちょっと情報は古いが、以下のような統計的資料は、アパルトヘイトを形だけは解体した南アの「革命」が、黒人の解放・生活向上には何もつながらなかった現実をとてもリアルに浮き彫りにしている。

・Since 1994, the year the ANC took power, the number of people living on less than $1 a day has doubled, from 2 million to 4 million in 2006.
・Between 1991 and 2002, the unemployment rate for black South Africans more than doubled, from 23 percent to 48 percent.
・Of South Africa’s 35 million black citizens, only five thousand earn more than $60,000 a year. The number of whites in that income bracket is twenty times higher, and many earn far more than that amount.
・The ANC government has built 1.8 million homes, but in the meantime 2 million people have lost their homes.
・Close to 1 million people have been evicted from farms in the first decade of democracy.
・Such evictions have meant that the number of shack dwellers has grown by 50 percent. In 2006, more than one in four South Africans lived in shacks located in informal shantytowns, many without running water or electricity.

 このような南アの現実は、「革命」10周年を迎えた7年前にもさまざまな媒体で流布されていた。状況は今日、さらに悪化しているだろう。政権が移行しても、経済運営の権限はいっさい移譲されなかった。しかもアパルトヘイト体制下の弾圧・拷問の犠牲者となった人々への「真相究明委員会」を通じた「和解」と補償のための財政支出により、国家財政が逼迫する。ANC政府は、国際金融資本や旧体制を牛耳っていた白人アフリカーナの権力者が言うがままの「民営化」路線を受け入れ、腐敗を深めてゆく。

 すべての背景には、南アの「デモクラシー」そのものが、奴隷制と植民地主義の遺制=鉄鎖には何も手をつけることができず、それに縛られたまま誕生せざるをえなかったという悲しい現実がある。(だとしても、ANC指導部の官僚主義・権威主義・腐敗とモラルハザードは何も免罪されないが)。

 日給2ドルで働くエジプトの労働者と、その資産総額が7、8兆円(もっと?)の独裁者(失踪?病気?)。
 南アの現在の中に映し出されているその鉄鎖を、エジプトやアフリカ大陸の未来を縛る鉄鎖にしてはならない、ナオミ・クラインはそう言いたいのである。
 軍の動きを決めるのは、その背後に存在する得体の知れない〈権力〉なのだ。おそらくそのことを指導者無き「エジプト革命」の主役たちは見据えているだろう。