2014年5月22日木曜日

横浜地裁: 厚木基地 夜間飛行差し止め判決 

横浜地裁: 厚木基地 夜間飛行差し止め判決 

・自衛隊機 夜間差し止め 厚木基地、米軍機は認めず
 在日米海軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地(神奈川県大和、綾瀬市)の航空機騒音に対し、住民約七千人が国に損害賠償と自衛隊機、米軍機の夜間・早朝の飛行差し止めを求めた第四次訴訟の判決で、横浜地裁(佐村浩之裁判長)は二十一日、自衛隊機の毎日午後十時~翌午前六時の飛行差し止めを命じた。

 米軍機の飛行差し止めは「国の支配の及ばない第三者の行為」(???)として退けた。
 基地の航空機の飛行差し止め判決は全国で初めて。また、一~三次訴訟の確定判決同様、騒音の違法性を認め、国に総額約七十億円の損害賠償の支払いも命じた。
 原告は大和市と綾瀬市、東京都町田市など基地周辺のうるささ指数(WECPNL=W値)七五以上の区域の住民。第四次訴訟では損害賠償などを求めた民事訴訟のほか、基地騒音訴訟では初めて行政訴訟で、国に自衛隊機と米軍機の飛行差し止め、米軍機の滑走路使用許可禁止なども求めていた。

 佐村裁判長は、自衛隊機について「運航は防衛相の権限行使に当たり、住民に騒音の受忍を義務付けている。騒音による睡眠妨害は健康被害に直接結び付く相当深刻な被害」と違法性を指摘。「毎日午後十時~翌午前六時、やむを得ないと認める場合を除き運航させてはならない」とした。
 ただ、防衛省南関東防衛局によると、厚木基地では一九七一年に日米共同使用を始めて以降、自衛隊機は海難救助などの緊急時を除き、この時間帯の飛行は自主規制している。
 過去分の損害賠償は、W値の大きさにより月四千~二万円の五段階で支払いを命じたが、将来分は一~三次訴訟同様に退けた。
 小野寺五典防衛相は「国の主張に理解が得られず残念。判決内容に受け入れがたい部分があり、慎重に精査し、適切に対処したい」とコメントした。

◆横浜地裁判決骨子
▼防衛大臣は、厚木基地で午後十時から翌日午前六時まで、自衛隊機を運航させてはならない
▼国が米国に基地使用を許可する行政処分は存在せず米軍機の飛行差し止めを国に求めることはできない
▼国は住民に対し、損害賠償として総額約七十億円を支払え
▼騒音被害は健康や生活環境に関わる重要な利益の侵害だ (東京

・クローズアップ2014:
 厚木基地、夜間飛行禁止 行政訴訟で風穴 民事は門前払い 各地、同種裁判に道
 厚木基地の周辺住民が米軍機と自衛隊機の飛行差し止めなどを求めた訴訟は21日、横浜地裁が自衛隊機の飛行差し止めを命じる初めての判決を言い渡し、基地を巡る騒音対策を国に強く迫った。
 判決は、これまで長年にわたって門前払いが続いてきた全国の同種訴訟にも訴訟を続ける一定の道筋を付けたといえる。防衛省・自衛隊内には、広がりかねない今後の影響に動揺が広がった。

 「地裁判決は、民事訴訟での飛行差し止め請求を退けた最高裁判決(1993年)が行政訴訟での差し止めの可能性に言及した意味をくみ取ってくれた」。判決後の記者会見で、原告弁護団の中野新団長(70)は指摘した。
 飛行差し止めを巡っては大阪空港騒音公害訴訟で、最高裁大法廷が81年、損害賠償を認める一方で差し止め請求を退けた。「空港利用を認めるかどうかの判断には、行政処分の側面がある」と指摘して、民事訴訟としては不適法と結論付けたこの判例が、同種訴訟では飛行差し止めの「壁」になってきた。

 だが、実は厚木基地1次訴訟の中に、住民救済に向けたヒントが隠されていた。
 93年の最高裁判決は、差し止め請求を退ける一方で「行政訴訟としてどのような請求ができるかはともかく」と指摘。裁判官の一人は「行政訴訟としては成立しうる」と補足意見を述べていた。
 このため、厚木訴訟の原告団は第4次訴訟では、行政訴訟で差し止めを請求。
 横浜地裁は93年判決を引用し、「行政処分として差し止めを請求できる」と判断した。20年前に最高裁が付けた道筋に従って、風穴を開けたといえる。

 弁護団は、第4次訴訟の提訴前の2004年に、行政事件訴訟法が大幅改正されたことも追い風になったと見る。改正前は差し止め訴訟について明文の規定がなく「行政側の裁量権の著しい逸脱」があるような場合にしか差し止めは認められないと考えられていたが、改正後は裁判所が違法状態と判断すれば差し止めが認められるようになった。今回の判決も、防衛相の裁量権の逸脱に言及しないまま、重大な被害を理由に差し止めの必要性を認めた。

 「差し止めを認める理論がこれまでなかっただけに、新しい判断が示された意義は大きい」。あるベテラン民事裁判官は、差し止めを初めて認めた判決を前向きに受け止めた。別の民事裁判官も「自衛隊機の夜間飛行については、今後は差し止めが認められる可能性が出てきた」と一定の意義を認める。
 一方で、行政訴訟でも米軍機の飛行差し止めが認められなかった点について、福田護副団長(64)は「司法では解決する方法がないことが明らかになってしまった」と指摘した。

 今年4月1〜30日の神奈川県大和、綾瀬両市の航空機騒音測定結果によると、滑走路北1キロの地点では、電話の呼び出し音と同等の70デシベル以上を計2757回計測。最高はビルの工事現場並みのうるささの118デシベルだった。米軍機の差し止めが認められない以上、騒音は続くことになる。
 福田副団長は「司法で解決しない問題の存在を許していいのか。裁判所はもっと工夫をしてほしい」と話す一方で、政治や立法での解決にも期待を寄せた。・・・・」 【毎日 酒井雅浩、高木香奈、川名壮志、山本将克】

・厚木騒音訴訟: 政府、波及懸念 控訴の方針
 「21日の横浜地裁判決を受け、菅義偉官房長官は記者会見で「国の主張に裁判所の理解が得られなかった。大変厳しい判決が出されたと受け止めている」と表明した。
 同様の行政訴訟が全国に波及すれば、自衛隊の運用に影響しかねないことから、政府は控訴して争う構えだ。

 菅氏は会見で「判決文を精査し、関係省庁と調整して適切に対応したい」と述べた。防衛省幹部は「各地で行政訴訟が行われる可能性は十分ある。今回の判決に特有の事情があるのかどうかを含めて、分析しなければならない」と語った。

 安倍晋三首相は就任以来、自衛隊の国内外での貢献をアピールしてきただけに、訴訟の多発によるイメージダウンを懸念する見方もある。今回の判決で、自衛隊が騒音の主因である米軍機の「身代わり」にされたという批判は政府内に強く、政府高官は21日夜、「判決を確定させてはいけない」と控訴方針を明言した。・・・・」 【毎日 飼手勇介、光田宗義】

・「国は重く受け止めるべき」「空母艦載機移駐の実現を」 
 厚木基地訴訟で判決
 自衛隊機の夜間飛行差し止めと約七十億円の損害賠償を認めた二十一日の厚木基地第四次訴訟判決。安全で静かな生活を求める周辺自治体の首長からは、米軍機を含む騒音の抜本的な解決を国に求める声が相次いだ。 (皆川剛、橋本誠)

 黒岩祐治知事は「国は騒音被害の深刻さについて改めて重く受け止めるべきである。県としては、(米軍の)空母艦載機の(岩国基地への)移駐実現など、騒音問題が抜本的に解決するよう、関係市と連携して国と米側に働きかけていきたい」とコメントした。

 滑走路の延長線上などに二十三万人が暮らす大和市の大木哲(さとる)市長は「一部夜間飛行差し止めが命じられるなど、空母艦載機をはじめとした騒音がいかに大きな被害をもたらしているか明らかになった」と指摘。
 綾瀬市の笠間城治郎市長は「国は市民が安全で静穏な生活を送れるよう航空機騒音の抜本的解決を図るべきだ」とした。

 座間市の遠藤三紀夫市長は「国は空母艦載機移駐や恒常的訓練施設の確保を実現するよう最大限の努力を払うとともに、それまでの間も騒音被害の軽減に努めるよう望みたい」と強調。
 相模原市の加山俊夫市長は「国は住民の苦しみを重く受け止め、激しい騒音を伴い人口密集地上空を飛行する異常な事態を、一日も早く解決すべきだ」とコメントした。
 藤沢市の鈴木恒夫市長も「国は住民の気持ちを受け止め、一日も早くその解決に向け、より積極的な対応をとるよう望む」とした。(東京)