2012年9月21日金曜日

「領土紛争」の長期化を回避するために

「領土紛争」の長期化を回避するために


 紛争解決(conflict resolution)の大前提は、当の紛争の当事者(個人、企業、国家、国際機関・・・)が、自らを紛争の当事者として認識することにある。
 
 客観的に見れば、明らかに紛争状態に陥っているにもかかわらず、紛争の当事者が他者との間の紛争の存在を認めず、自己主張と自己正当化に終始し、もう一方の紛争当事者に対する非難と攻撃をくりかえす限り、紛争は終わらない。永続化するだけである。「テロとの戦い」然り、「竹島」/「独島」、「尖閣諸島」、「北方領土」問題然りである。

 紛争の当事者が、紛争の存在を認め、その暴力的発展を未然に防ぎ、当事者間の解決を望む場合には、まず、他方の当事者の主張に冷静に耳を傾ける必要がある。そして、その主張に同意しなくとも、少なくともそれが自己との間の紛争を引き起こしている根拠になっていること、すなわち、自分は認めなくとも、もう一方の当事者の論理に従うならその主張にもそれなりの正当性があることを、文字通り、正当に認める必要がある。
 個人がかかえる紛争であれ、大企業や国家がかかえる紛争であれ、「話し合い」や「対話」によって紛争を解決するためには、このような当事者による「紛争の認知」が不可欠になる。

 次に紛争の当事者は、当事者間で紛争の解決ができないと判断する場合には、「第三者」による調停/仲裁によって紛争の解決を追求することができる。その場合、「第三者」は、当の紛争事案の「利害関係者」でないことが必須の条件になる。日本が周辺諸国とかかえる「領土紛争」に関して言えば、米国は紛争に強烈な利害を有する国家であり、「第三者」たりえない。

 米国は、東アジアにおける「領土紛争」の当事国である。米国に「中立的立場」を取る選択肢などありえないし、それを認めてはならないだろう。これまで何度も述べてきたように、米国は、他の当事国と並び、戦後の東アジアにおける国際秩序と国際法の枠組みにおいて、それぞれの「領土紛争」に対する自国の公的な見解を国際的に明らかにすべきなのだ。

 「第三者」は、その米国の見解をも含め、各当事国の利害から中立の立場で、紛争解決に向けた提案を取りまとめる義務と責任を負う。「第三者」は、一国や複数の国家、既存の国際機関、あるいは国際的な「専門家委員会」など、さまざまな組織的形態を取ることができるだろう。


 昨日(9/20)、中国の漁業監視船が「尖閣諸島」の「接続水域」内などで中国漁船に立ち入り検査を行った。これに対し、玄葉外相は今日、「日本の漁業管轄権を侵害した」として、中国側に抗議したという。
 この事態を報じた読売新聞は、「接続水域は沿岸国が漁業資源などの独占的な権利を持つ排他的経済水域(EEZ)に含まれる。日中のEEZの境界は画定していないが、日本は日中の中間線の日本側を自国のEEZとしている」と解説している。

 まず、このような日中両政府による「対抗措置」の応酬と「国際広報合戦」の展開が、「尖閣諸島」をめぐる日中間の領土紛争をいたずらに長期化させるだけだということを、私たちは認識する必要があるだろう。
 日中両政府は、ともに「固有の領土」論を主張することに終始し、「接続水域」「排他的経済水域」の軍事化・緊張化を増幅させているだけである。米国はと言えば、これに便乗し、自国の軍産学複合体の利益のために日米安保と米軍基地の永続化をもくろんでいる。そして、米国の軍産学複合体の利害にさらに便乗する日本の「日米同盟ムラ」が、「動的防衛力」と「離島防衛」の名の下に、日本の「周辺」のいっそうの軍事化をもたらそうとしている。

 「南・東シナ海」の「領土紛争」を、「第三者」の調停/仲裁を通じ、当事国間の話し合い・対話にとって「平和的に解決」できるなら、「動的防衛力」もろとも日米安保を存続させる論理の根幹が崩れ去ってしまうことを、私たちは見抜いておかねばならないだろう。


 野田首相が 来週明けから始まる国連総会で「一般討論演説」を行い、その中で尖閣・竹島の問題を取り上げ(「北方領土」問題はどうしたのだ?)、「国際社会に向けて日本の立場を説明する」らしい。「法の支配」を強調し、日本固有の領土であることを主張」することが目的なのだという。
 読売新聞電子版によると、野田首相は、26日に予定されているその国連演説において、「国際司法裁判所(ICJ)で他国から訴えられた場合に応じる義務が生じる「義務的管轄権」の受諾を、各国に呼びかける意向」なのだという。
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 日韓の間の島根県・竹島や、中国と周辺国の間の南シナ海の領有権問題などを念頭に、国際法に基づく平和的解決の必要性を訴える。同時に、義務的管轄権を受諾していない韓国や中国と、受諾済みの日本との国際法に対する姿勢の違いを際立たせ、日本の主張の正当性を国際社会にアピールする狙いもありそうだ。

 ICJが領有権問題の裁判手続きに入るためには、紛争当事国間の同意が前提となるが、一方が提訴しても、他方が義務的管轄権を未受諾ならば応じる義務がなく、制度上の課題となっている。
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  一般論として言えば、私は「義務的管轄権」の「呼びかけ」に賛成である。しかし、外務官僚が考案したこの方針は矛盾に満ちている。
 なぜなら、まず第一に、日本と同じ論法で「独島は韓国固有の領土であり、日韓間に領土問題は存在しない」と主張する韓国が、「義務的管轄権」を受諾する謂れも、見込みも存在せず、この方針の破産は、現時点においてすでに確定していると言えること、
 そして第二に、外務省は領土問題の「国際法に基づく平和的解決」を言いながら、「北方領土」や「尖閣諸島」問題の「国際法に基づく平和的解決」をめざそうとしていないからである。
 そのことは、玄葉外相が、上に述べた21日の記者会見で、沖縄県・尖閣諸島をめぐる中国との対立を国際司法裁判所(ICJ)で争うかどうかについて、「尖閣は国際法上、歴史上疑いのないわが国固有の領土だ。現時点において必要性は考えていない」と述べていることにもはっきりと示されている。

 つまり、政府・外務省は、「北方領土」と並び「尖閣諸島」に関しても、意味不明の「国有化」宣言以降(「国際法上、歴史上疑いのないわが国固有の領土」を、なぜ「国有化」する必要があるのか?)、これだけの事態を引き起こしておきながら、いまだに「領有権問題は存在しない」という立場が国際的にまかり通ると考えているのである。(これと同様のことが中国(と台湾)政府に対しても言えることは、改めて指摘するまでもないだろう)。

 「尖閣紛争」は、たとえば孫崎亨氏などの元外務官僚の評論家が言うようには、もはや従来通りの「棚上げ・解決先送り」策では通用しないところにまできてしまった。ロシア、韓国、中国/台湾との「領土紛争」を長期化させず、できるだけ早く解決するためには、そのことの自覚を、私たち市民一人一人が持つことが先決であるだろう。
 紛争を、真剣に解決しようとしない、国家と(元)官僚の論理に惑わされ、だまされてはいけない。

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長期化懸念の声も=過去最多の中国監視船-尖閣沖でにらみ合い・海保
「・・・海保は全国から巡視船数十隻を投入し、監視船と1対1で対応。ただ、国連海洋法条約により外国公船には実力行使ができず、退去要請のほか、伴走や追跡で圧力をかけるにとどまる・・・。
 中国政府が保有する船は1000隻以上とみられ、対する海保の巡視船艇は357隻。ある海保幹部は「長期化し総力戦になれば、少ないこちらの方が状況は厳しい」と苦慮する・・・。船や乗員の交代も必要で、別の幹部は「士気を維持し、常駐数が減らないようにする。やるしかない」と語気を強めた・・・」(時事)
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「接続水域」の本質的定義は公海であって、日本の領海ではない。
どこまでを日中双方の「了解」「接続水域」「排他的経済水域」とするか、要するに「東シナ海」における日中の国境ラインをめぐる最終的な合意が存在しないことがこの問題の核心なのである。
 であるなら、まず日中の国境ラインを、そして次に相互に合意できる不確定領域を確定することが、先決になるはずではないか。
 国連安保理常任理事国たる中国と、常任理事国入りを執拗に追求する日本政府・外務省は、ともに「国際の平和と安全」を軍事に依らず守る、国際的な責任を負うという自覚の下に、「対話」による「尖閣紛争」の解決に向け、全力を傾注すべきなのだ。
 日・中・台の「市民社会」からそういう声が高まらない限り、この問題は永遠に解決しようがない。

中国税関:日本検査を強化 生産、販売へ影響懸念(毎日)
新たな脅威 台湾抗議船出現 無秩序行動の恐れも(産経)
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「領土紛争」の解決のために、すべての当事国のメディアは、扇動的報道を厳に慎むべきである。